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第25話
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午後の講義が終わり、サキは新しく始めたバイト先に向かっていた。
春休み中にやっと決まった本屋のバイトである。大学から五駅離れたところで、家からだと七駅先だった。
通貨ですら電子となっている世界で、紙の本が存在していることに逆に驚いた。
この世界で出版される本は、九割が電子書籍のみだった。
それでも紙の本は根強い人気があり、電子書籍で売り上げのよい物が紙本〈かみぼん〉として売られていた。
しかし発行部数はそれほど多くないため、新刊本も古本も一緒くたにされ、紙の本を扱う店のことを紙本屋と言われていた。
紙本収集家は、インターネットで本を探し、紙本屋に注文する。
サキのバイト先である『白河紙書店』は実店舗を構えているが、インターネットでの注文販売が主だった。
とはいえ、店には古本を売りに来る人もいるし、実際の本を見に来る人もいる。店舗もまたそれなりに需要があるようだ。
サキのバイト内容は、店の留守番とインターネットで注文された商品を梱包し、発送することだった。
店主は年老いた男で、ひとりで店をやっていた。
たまに孫が手伝ってくれるというが、それも毎日というわけにはいかない。
近頃は重い本を扱うのが大変になったとかで、バイトを雇うことにしたらしい。
サキは面接の最後に履歴書データを携帯から店の端末に送った。携帯に登録されている個人情報の性別欄には『男・Ω』とある。
バイトを探していたときに知ったのだが、募集要項の時給には「一般」と「オメガ」と分かれていた。
一般はアルファとベータのことで、オメガは一般の時給より三割低いのだ。
レイに尋ねてみたら、オメガはヒートがあり、月に一週間は強制的に休むことになるため、低く設定されているのだそうだ。
サキはむう、と口を尖らせた。それでも働けるならと経験のある飲食店をいくつか応募してみたが、サキがオメガだとわかると不採用にされた。
オメガのフェロモンで食事がまずくなると苦言がくるらしく、オメガの採用はほとんどないということをクチコミを読んで知った。とりわけ飲食店はあからさまだという。
表向きは募集していても、オメガは採用しないという企業は多いらしい。
あきらかに差別だ。
だったら最初から募集しなければいいのにと思うが、オメガを差別してはならないことになっているので、募集欄には記載されるのだ。企業の本音と建て前はどこの世界も一緒らしい。
こうなってくるとバイト探しは数を打たねばならない。
サキは腐りかけながら、飲食店以外のバイトに目を向けたとき、白河紙書店の募集を見つけた。
そこは時給欄に一般とオメガという区別がなかった。
記載ミスかと思いながら、一応面接を受けてみた。
サキの個人情報の入った履歴書データを受け取った店主は、それを見てから「いつから来れるか」と尋ねた。
採用決定の一言だったが、サキは思わず訊いていた。
「おれはオメガなんですけど、時給はいくらですか」
すると店主は首をふりながら言った。
「時給を下げたりはしないよ。ヒートがあるから給料に差が出るというのはおかしいと思わないかい?」
問いかけるように言われたが、サキが言葉を発する前に店主は柔和な笑みを浮かべた。
「私もオメガなんだ」
店主の深い眼差しにサキの心はほぐれた。サキはここでがんばろうと思った。
春休み中にやっと決まった本屋のバイトである。大学から五駅離れたところで、家からだと七駅先だった。
通貨ですら電子となっている世界で、紙の本が存在していることに逆に驚いた。
この世界で出版される本は、九割が電子書籍のみだった。
それでも紙の本は根強い人気があり、電子書籍で売り上げのよい物が紙本〈かみぼん〉として売られていた。
しかし発行部数はそれほど多くないため、新刊本も古本も一緒くたにされ、紙の本を扱う店のことを紙本屋と言われていた。
紙本収集家は、インターネットで本を探し、紙本屋に注文する。
サキのバイト先である『白河紙書店』は実店舗を構えているが、インターネットでの注文販売が主だった。
とはいえ、店には古本を売りに来る人もいるし、実際の本を見に来る人もいる。店舗もまたそれなりに需要があるようだ。
サキのバイト内容は、店の留守番とインターネットで注文された商品を梱包し、発送することだった。
店主は年老いた男で、ひとりで店をやっていた。
たまに孫が手伝ってくれるというが、それも毎日というわけにはいかない。
近頃は重い本を扱うのが大変になったとかで、バイトを雇うことにしたらしい。
サキは面接の最後に履歴書データを携帯から店の端末に送った。携帯に登録されている個人情報の性別欄には『男・Ω』とある。
バイトを探していたときに知ったのだが、募集要項の時給には「一般」と「オメガ」と分かれていた。
一般はアルファとベータのことで、オメガは一般の時給より三割低いのだ。
レイに尋ねてみたら、オメガはヒートがあり、月に一週間は強制的に休むことになるため、低く設定されているのだそうだ。
サキはむう、と口を尖らせた。それでも働けるならと経験のある飲食店をいくつか応募してみたが、サキがオメガだとわかると不採用にされた。
オメガのフェロモンで食事がまずくなると苦言がくるらしく、オメガの採用はほとんどないということをクチコミを読んで知った。とりわけ飲食店はあからさまだという。
表向きは募集していても、オメガは採用しないという企業は多いらしい。
あきらかに差別だ。
だったら最初から募集しなければいいのにと思うが、オメガを差別してはならないことになっているので、募集欄には記載されるのだ。企業の本音と建て前はどこの世界も一緒らしい。
こうなってくるとバイト探しは数を打たねばならない。
サキは腐りかけながら、飲食店以外のバイトに目を向けたとき、白河紙書店の募集を見つけた。
そこは時給欄に一般とオメガという区別がなかった。
記載ミスかと思いながら、一応面接を受けてみた。
サキの個人情報の入った履歴書データを受け取った店主は、それを見てから「いつから来れるか」と尋ねた。
採用決定の一言だったが、サキは思わず訊いていた。
「おれはオメガなんですけど、時給はいくらですか」
すると店主は首をふりながら言った。
「時給を下げたりはしないよ。ヒートがあるから給料に差が出るというのはおかしいと思わないかい?」
問いかけるように言われたが、サキが言葉を発する前に店主は柔和な笑みを浮かべた。
「私もオメガなんだ」
店主の深い眼差しにサキの心はほぐれた。サキはここでがんばろうと思った。
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