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第27話
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シュウシュウと炊飯器から蒸れた米の匂いがしている。
レイは夕飯のおかずにハンバーグを作った。レイは料理が好きというわけではない。
食費を浮かすために自炊をしているだけだったが、記憶喪失後のサキはいつもうまいと言って食べてくれるので、作り甲斐があった。
ハンバーグの種を冷蔵庫にしまい、レイは昼間のことを思い出して憂鬱な気分になった。
久我が話しかけてきたのは二か月ぶりだった。
サキが記憶喪失になるという事態が起こり、サキとの関係について、いったん脇に置いていた。
久我が接触してきたあと、何も覚えていないサキは何度もなにか言いたげだったが、口をつぐんでいた。
レイも自分から言い出すことができなかった。
誰が聞いているかわからない食堂で話す内容ではないというのもあったが、一番の理由はそれではない。
レイが嫌なのは、過去の自分との話を聞いたことでサキの態度が変わるかもしれないことだった。
サキは誰もが一目置く生粋のアルファに対して、敢然と話していた。
それも生粋のアルファが社会的にどういう地位かわかっていないから出来たことだろう。
レイのような一般家庭のアルファはベータやオメガに比べ、多少秀でていたり、体格が良かったりはするが、それだけだ。
しかし生粋のアルファは違う。
生粋のアルファは五家あるが、いずれも名家で三家が財閥だった。
つまり、大人で久我財閥を知らない者はいない。彼は名門久我家の生まれで、逆らって得することはない。
食堂で鬱々と考えていたが、記憶を失ったサキには関係のないことだ。
それに、久我に追い払われたとき、サキが腕を掴んで引き留めてくれたのはうれしかった。
レイは自然と笑みを浮かべていた。
とりあえず、久我のことは放っておくことにしようと思った。
このまま何もなかったように流してしまいたかったが、サキは見逃してくれなかった。
バイトから帰って来たサキは、ハンバーグを喜んで食べてくれた。そして食事が終わってすぐに切り出してきた。
「訊きたいことがあるんだけど」
食べ終わった食器を片付けようと、腰を浮かしたレイは、もう一度座った。
「おれとレイはなんで別れたのか、教えてほしい」
サキはまっすぐに見てきた。ごまかせないな、と思った。レイはゆっくりと目を閉じた。
「サキが久我と寝たからだよ」
静かに告げると、サキは大きく顔を歪めた。その瞳はひどく傷ついているようだった。
レイは夕飯のおかずにハンバーグを作った。レイは料理が好きというわけではない。
食費を浮かすために自炊をしているだけだったが、記憶喪失後のサキはいつもうまいと言って食べてくれるので、作り甲斐があった。
ハンバーグの種を冷蔵庫にしまい、レイは昼間のことを思い出して憂鬱な気分になった。
久我が話しかけてきたのは二か月ぶりだった。
サキが記憶喪失になるという事態が起こり、サキとの関係について、いったん脇に置いていた。
久我が接触してきたあと、何も覚えていないサキは何度もなにか言いたげだったが、口をつぐんでいた。
レイも自分から言い出すことができなかった。
誰が聞いているかわからない食堂で話す内容ではないというのもあったが、一番の理由はそれではない。
レイが嫌なのは、過去の自分との話を聞いたことでサキの態度が変わるかもしれないことだった。
サキは誰もが一目置く生粋のアルファに対して、敢然と話していた。
それも生粋のアルファが社会的にどういう地位かわかっていないから出来たことだろう。
レイのような一般家庭のアルファはベータやオメガに比べ、多少秀でていたり、体格が良かったりはするが、それだけだ。
しかし生粋のアルファは違う。
生粋のアルファは五家あるが、いずれも名家で三家が財閥だった。
つまり、大人で久我財閥を知らない者はいない。彼は名門久我家の生まれで、逆らって得することはない。
食堂で鬱々と考えていたが、記憶を失ったサキには関係のないことだ。
それに、久我に追い払われたとき、サキが腕を掴んで引き留めてくれたのはうれしかった。
レイは自然と笑みを浮かべていた。
とりあえず、久我のことは放っておくことにしようと思った。
このまま何もなかったように流してしまいたかったが、サキは見逃してくれなかった。
バイトから帰って来たサキは、ハンバーグを喜んで食べてくれた。そして食事が終わってすぐに切り出してきた。
「訊きたいことがあるんだけど」
食べ終わった食器を片付けようと、腰を浮かしたレイは、もう一度座った。
「おれとレイはなんで別れたのか、教えてほしい」
サキはまっすぐに見てきた。ごまかせないな、と思った。レイはゆっくりと目を閉じた。
「サキが久我と寝たからだよ」
静かに告げると、サキは大きく顔を歪めた。その瞳はひどく傷ついているようだった。
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