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第46話
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翌々週の日曜日、レイはサキに連れられて白河紙書店を訪れた。
サキは三十分後にバイトに入るという。
店は思っていたより広かった。新本と古本が大きく二つに分けられ、入口に近いのは手垢のついていない新品だ。
ずらりと整然に並んだ本をレイは見まわした。店内には客が二人いる。
サキは奥に向かっていった。その先はレジカウンターで、白髪頭の老人がいた。
ユタカさんの祖父だろう。レイも付いて行くと、サキが振り返った。
「白河さん、おれの友だちが来てくれました。ユタカさんと同じところでバイトしてるんですよ」
老人はずり落ちそうな眼鏡を直し、顔をしわしわにした。
「おお、ユタカの知り合いか。ユタカなら今、来とるよ。ちょっと呼んで来よう」
そう言ってカウンターから出ると、すぐ横にあるドアを開けて入っていった。
「あっちはバックヤードで、二階につながってるんだ。白河さんの家にもなってる」
サキが説明をしてくれると、すぐにユタカさんが顔を出した。
「レイ! 来てくれたのか」
ユタカさんが目を細めて言った。
「はい。サキの話を聞いていたら、おれも来てみたくなって」
「うれしいよ! 紙の本に興味持つ人、少ないからさ」
爽やかな笑顔を向けられ、レイは曖昧に笑った。
「おれは好きだよ。本は紙派だから」
サキが言うと、ユタカさんは目を輝かせた。
「だよな! 本は絶対、紙の方がいいよな!」
「いや、それはケースバイケースじゃないですか。紙って重いし」
「ちょっとサキくん。どっちの味方なんだよ」
「味方って。極端すぎでしょう」
サキが苦笑する。レイはふたりの打ち解けたやりとりを傍で見ながら思った。
(いつのまに仲良くなったんだろう)
軽く下唇を噛んだとき、あのお、と背後から遠慮がちな声がした。
見ると、三十代くらいの女性が本を持って立っていた。会計をしたいようだ。
「あ、すみません!」
ユタカさんが慌てて謝った。サキもレジから離れると、女性はユタカさんに話しかけた。
「アイラの写真集で『海へのいざない』はありますか?」
「アイラですか。すみません、この前、売れてしまったんですよ」
「え、でも、在庫有りってなってますが」
女性が携帯の画面をユタカさんに見せている。
「あれ、ほんとですね。えっと……」
ユタカさんが店の端末を調べようとしたとき、サキが口を開いた。
「アイラの写真集だったら入荷してますよ。まだ裏にあるんだと思います」
そう言って、サキはバックヤードに入っていった。ほどなくして、サキが本を持って出て来た。それを見た女性は「それです!」とうれしそうに言った。
「ありがと。……すみませんでした」
ユタカさんは最初の言葉はサキに、謝罪は女性客に向けていて、軽く頭を下げた。
カウンターから出て来たサキはレイに小声で言った。
「おれ、このままバイトに入るよ」
「わかった。じゃあ、適当に見てから帰るよ」
サキはうなずいて、バックヤードに入っていった。
会計を済ませた女性客が出て行くと、もうひとりいた男性客も出ていった。
レイはひとりで店内を見て回った。
サキが言っていた通り、古本といっても状態はきれいだった。小説が集められている本棚のところで立ち止まる。
なにげなく見ていたら、背表紙に『霧の魔法使い』と書かれた本が目に入った。サキが面白いと言っていた本だ。
シリーズもののようで五冊あったが、三巻だけなかった。パラパラとめくっていると、サキの声が聞こえてきた。
「このところアイラが人気ですね。よく訊かれますよ」
「アイラをモデルにしたドラマをやってるからかな。昔の写真集が売れてる」
「最近のだと『海へのいざない』ですよね。水族館をテーマにしてて、あれいいですよね。見てると行きたくなります」
「あ、じゃあ、今度行かない? 今年オープンした水族館があるんだよ」
ユタカの声が届き、レイは思わず顔を上げた。
「いいですね。場所どこですか?」
サキが尋ねている。胸がざわりとした。レイは小説を片手に二人の元へ行った。
サキは三十分後にバイトに入るという。
店は思っていたより広かった。新本と古本が大きく二つに分けられ、入口に近いのは手垢のついていない新品だ。
ずらりと整然に並んだ本をレイは見まわした。店内には客が二人いる。
サキは奥に向かっていった。その先はレジカウンターで、白髪頭の老人がいた。
ユタカさんの祖父だろう。レイも付いて行くと、サキが振り返った。
「白河さん、おれの友だちが来てくれました。ユタカさんと同じところでバイトしてるんですよ」
老人はずり落ちそうな眼鏡を直し、顔をしわしわにした。
「おお、ユタカの知り合いか。ユタカなら今、来とるよ。ちょっと呼んで来よう」
そう言ってカウンターから出ると、すぐ横にあるドアを開けて入っていった。
「あっちはバックヤードで、二階につながってるんだ。白河さんの家にもなってる」
サキが説明をしてくれると、すぐにユタカさんが顔を出した。
「レイ! 来てくれたのか」
ユタカさんが目を細めて言った。
「はい。サキの話を聞いていたら、おれも来てみたくなって」
「うれしいよ! 紙の本に興味持つ人、少ないからさ」
爽やかな笑顔を向けられ、レイは曖昧に笑った。
「おれは好きだよ。本は紙派だから」
サキが言うと、ユタカさんは目を輝かせた。
「だよな! 本は絶対、紙の方がいいよな!」
「いや、それはケースバイケースじゃないですか。紙って重いし」
「ちょっとサキくん。どっちの味方なんだよ」
「味方って。極端すぎでしょう」
サキが苦笑する。レイはふたりの打ち解けたやりとりを傍で見ながら思った。
(いつのまに仲良くなったんだろう)
軽く下唇を噛んだとき、あのお、と背後から遠慮がちな声がした。
見ると、三十代くらいの女性が本を持って立っていた。会計をしたいようだ。
「あ、すみません!」
ユタカさんが慌てて謝った。サキもレジから離れると、女性はユタカさんに話しかけた。
「アイラの写真集で『海へのいざない』はありますか?」
「アイラですか。すみません、この前、売れてしまったんですよ」
「え、でも、在庫有りってなってますが」
女性が携帯の画面をユタカさんに見せている。
「あれ、ほんとですね。えっと……」
ユタカさんが店の端末を調べようとしたとき、サキが口を開いた。
「アイラの写真集だったら入荷してますよ。まだ裏にあるんだと思います」
そう言って、サキはバックヤードに入っていった。ほどなくして、サキが本を持って出て来た。それを見た女性は「それです!」とうれしそうに言った。
「ありがと。……すみませんでした」
ユタカさんは最初の言葉はサキに、謝罪は女性客に向けていて、軽く頭を下げた。
カウンターから出て来たサキはレイに小声で言った。
「おれ、このままバイトに入るよ」
「わかった。じゃあ、適当に見てから帰るよ」
サキはうなずいて、バックヤードに入っていった。
会計を済ませた女性客が出て行くと、もうひとりいた男性客も出ていった。
レイはひとりで店内を見て回った。
サキが言っていた通り、古本といっても状態はきれいだった。小説が集められている本棚のところで立ち止まる。
なにげなく見ていたら、背表紙に『霧の魔法使い』と書かれた本が目に入った。サキが面白いと言っていた本だ。
シリーズもののようで五冊あったが、三巻だけなかった。パラパラとめくっていると、サキの声が聞こえてきた。
「このところアイラが人気ですね。よく訊かれますよ」
「アイラをモデルにしたドラマをやってるからかな。昔の写真集が売れてる」
「最近のだと『海へのいざない』ですよね。水族館をテーマにしてて、あれいいですよね。見てると行きたくなります」
「あ、じゃあ、今度行かない? 今年オープンした水族館があるんだよ」
ユタカの声が届き、レイは思わず顔を上げた。
「いいですね。場所どこですか?」
サキが尋ねている。胸がざわりとした。レイは小説を片手に二人の元へ行った。
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