オメガになってみたんだが

琉希

文字の大きさ
46 / 79

第46話

しおりを挟む
翌々週の日曜日、レイはサキに連れられて白河紙書店を訪れた。

サキは三十分後にバイトに入るという。

店は思っていたより広かった。新本と古本が大きく二つに分けられ、入口に近いのは手垢のついていない新品だ。

ずらりと整然に並んだ本をレイは見まわした。店内には客が二人いる。

サキは奥に向かっていった。その先はレジカウンターで、白髪頭の老人がいた。

ユタカさんの祖父だろう。レイも付いて行くと、サキが振り返った。

「白河さん、おれの友だちが来てくれました。ユタカさんと同じところでバイトしてるんですよ」

老人はずり落ちそうな眼鏡を直し、顔をしわしわにした。

「おお、ユタカの知り合いか。ユタカなら今、来とるよ。ちょっと呼んで来よう」

そう言ってカウンターから出ると、すぐ横にあるドアを開けて入っていった。

「あっちはバックヤードで、二階につながってるんだ。白河さんの家にもなってる」

サキが説明をしてくれると、すぐにユタカさんが顔を出した。

「レイ! 来てくれたのか」

ユタカさんが目を細めて言った。

「はい。サキの話を聞いていたら、おれも来てみたくなって」

「うれしいよ! 紙の本に興味持つ人、少ないからさ」

爽やかな笑顔を向けられ、レイは曖昧に笑った。

「おれは好きだよ。本は紙派だから」

サキが言うと、ユタカさんは目を輝かせた。

「だよな! 本は絶対、紙の方がいいよな!」

「いや、それはケースバイケースじゃないですか。紙って重いし」

「ちょっとサキくん。どっちの味方なんだよ」

「味方って。極端すぎでしょう」

サキが苦笑する。レイはふたりの打ち解けたやりとりを傍で見ながら思った。

(いつのまに仲良くなったんだろう)

軽く下唇を噛んだとき、あのお、と背後から遠慮がちな声がした。

見ると、三十代くらいの女性が本を持って立っていた。会計をしたいようだ。

「あ、すみません!」

ユタカさんが慌てて謝った。サキもレジから離れると、女性はユタカさんに話しかけた。

「アイラの写真集で『海へのいざない』はありますか?」

「アイラですか。すみません、この前、売れてしまったんですよ」

「え、でも、在庫有りってなってますが」

女性が携帯の画面をユタカさんに見せている。

「あれ、ほんとですね。えっと……」

ユタカさんが店の端末を調べようとしたとき、サキが口を開いた。

「アイラの写真集だったら入荷してますよ。まだ裏にあるんだと思います」

そう言って、サキはバックヤードに入っていった。ほどなくして、サキが本を持って出て来た。それを見た女性は「それです!」とうれしそうに言った。


「ありがと。……すみませんでした」

ユタカさんは最初の言葉はサキに、謝罪は女性客に向けていて、軽く頭を下げた。

カウンターから出て来たサキはレイに小声で言った。

「おれ、このままバイトに入るよ」

「わかった。じゃあ、適当に見てから帰るよ」

サキはうなずいて、バックヤードに入っていった。

会計を済ませた女性客が出て行くと、もうひとりいた男性客も出ていった。

レイはひとりで店内を見て回った。

サキが言っていた通り、古本といっても状態はきれいだった。小説が集められている本棚のところで立ち止まる。

なにげなく見ていたら、背表紙に『霧の魔法使い』と書かれた本が目に入った。サキが面白いと言っていた本だ。

シリーズもののようで五冊あったが、三巻だけなかった。パラパラとめくっていると、サキの声が聞こえてきた。

「このところアイラが人気ですね。よく訊かれますよ」

「アイラをモデルにしたドラマをやってるからかな。昔の写真集が売れてる」

「最近のだと『海へのいざない』ですよね。水族館をテーマにしてて、あれいいですよね。見てると行きたくなります」

「あ、じゃあ、今度行かない? 今年オープンした水族館があるんだよ」

ユタカの声が届き、レイは思わず顔を上げた。

「いいですね。場所どこですか?」

サキが尋ねている。胸がざわりとした。レイは小説を片手に二人の元へ行った。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

胎児の頃から執着されていたらしい

夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。 ◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。 ◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。

処理中です...