オメガになってみたんだが

琉希

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第54話

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「……えっ!?」

一瞬、時が止まったかのようだった。

と、同時に動揺した。

「いやべつに、好きというわけじゃ……」
 
両手を顔の前でふったが、白河さんはサキをじっと見つめた。

その見抜くような瞳に耐えられなくなり、サキはうつむいた。

「あ……。まあ、たしかに、かっこいい、と、思ってますけど……」
 
語尾は消え入りそうな声になったが、勢いよく顔を上げて続けた。

「あ! でも、ほんとに、好きとか、思ったことはなくて」

開けた窓の外から、下校した子どもたちの騒ぐ声が聞こえてきた。

西日が家の中に差し込み、淡いオレンジの線を作っている。
 
白河さんは首を振るサキの気持ちを汲むように言った。

「私の経験からだから、医学的な根拠はないが」
 
慎重に前置きをする白河さんに、サキは何を言われるのかと緊張した。

「オメガというのは、自覚はなくとも、身体が反応することがあってね」
 
白河さんはひじ掛けに置いた両手の指を組んだ。

「意中のアルファがそばにいると、発情することがある」

白河さんは遠い昔を思い出すかのように目を細めた。

「まるで、振り向かせようとするみたいにね」

「…………」

サキは言葉が出なかった。白河さんは、ふう、とひと息ついた。

「身体というのは不思議だね。抑制剤を飲んでいでも、それを避けるかのようにヒートをずらしてくる。特に意中のアルファがいるときは顕著でね。その人と番になりたいと本能がそうさせるのかもしれない」
 
サキはこくりと唾を飲んだ。

白河さんは口端を上げ、もう一度、繰り返した。

「根拠はないよ。ただ、私がそう思っているだけだ」
 
白河さんは穏やかに微笑んでいる。

「昨日ヒートを起こしたとき、何を考えていたか思い出してごらん」
 
サキは白河さんから目をそらした。
 
あのときはユタカに水族館に誘われた。

レイが一緒に行きたいと言って、それならダイチも誘って行くという話になった。
 
サキは瞼を閉じた。
 
ユタカはダイチにアルファの知り合いを作ってあげたいと言っていた。

オメガは大変だろうから、と。

由井浜でのユタカの言葉が甦る。

『自然な感じでアルファと知り合えたらなって。

その相手は、本音をいうと、レイも含めてた』

それはつまり、ダイチのヒートの相手になるかもしれないということ。

ユタカやダイチに頼まれたら、レイは応じるのだろうか。

自分にしてくれるみたいに、鎮めてあげるのだろうか。そんなことを考えていた。

サキはそのときの気持ちに目を向けた。

胸が苦しかった。

傾いた陽の光は瞼の裏からでもまぶしい。
 
サキがゆっくり目を開けると、皺の深い、優しい目をした白河さんがいた。

外で遊ぶ子どもたちの声はいつの間にか、聞こえなくなっていた。
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