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第72話
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サキは目を覚ましたとき、見覚えのない天井に自分の身に起きたことを瞬時に思い出した。
跳ね起きようとして、ガチッと音がした。
頭の上で両手が動かない。
腕を下ろそうともがくと、手首が金具のようなもので拘束されているのがわかった。
(なんだこれ!)
ベッドに繋がれているようで、抜け出そうと足掻いていると、久我がベッドの脇に立っていた。
「意外と早い目覚めだったな」
久我は愉快そうにサキを見下ろしていた。
サキはもがくのをやめた。
「なんのつもりだ」
久我を睨むと、クックッと喉を鳴らした。
「おまえをおれの番にしようと思ってな」
サキは思い切り眉根を寄せた。
「つがい? なに言ってんだ?」
好きでもない人間を番にして、どうしようというのだ。
サキは戯言だと思った。
鼻で笑うと、久我は身体を屈め、サキのあごを掴んだ。
「本気だ」
あごの下を指先でスッと撫でられ、悪寒が走った。
「霧島が大事にしてるおまえをおれの番にしたら、面白いと思わないか?」
久我は陶酔した顔で言った。
「おまえも、おれのことを虚仮にしたから許さない。おまえは一生、おれにしか欲情しない身体にしてやる。おれを憎みながら、腰を振れ」
サキは狂気じみたその目を見て、唾を飲んだ。
久我はサキの首に巻かれたネックガードを外し、床に放った。
サキは乾いた唇を舐めた。
「レイとおれが憎いってだけで、一生を棒にふるつもりか」
サキの言葉に、久我は口元を歪めた。
「一生? おまえは一生かもしれないが、おれは違う」
久我はベッドから離れ、ソファーに腰を沈めた。
革張りの黒いソファーは見覚えがあった。
「おれは久我家の人間だ。結婚はアルファの女と決まっている。おまえを番にしたって、結婚はできるし、子供も作れる」
久我は暗い空虚な目をしていた。
「それに、ヤるならオメガが一番だ」
肩を揺らし、いかにも楽しげな口調だったが、サキは何も映していないその目を恐ろしく感じた。
(歪んでる)
久我家でどんな育てられ方をしたのかは、わからない。
はっきり言えるのは、幼稚な精神のまま大人になっており、生粋のアルファという名門の血統に微塵も誇りを感じていないことだ。
久我はしばし中空を見たあと、立ちあがった。
ソファーに置いてあった鞄を探り始めた。
サキが拘束された身体をねじって見ると、久我は注射器を取り出していた。
「これが何かわかるか?」
久我はサキの返事を待たずに下卑た笑いを見せた。
「オメガの発情誘発剤だ」
サキは戦慄した。
アルファとオメガが番になるには、お互いがヒート状態でなければならないという。
久我の本気を目の当たりにし、サキは夢中で暴れた。
ガチガチと金具の無情な音が響く。
久我が注射器を片手に近寄ってくる。
「やめろ!」
サキは叫んだ。
「大声出しても無駄だ。ここはソフィアだ。店には邪魔するなと言ってある」
サキは一瞬、動きを止めてしまった。
その隙に久我はサキの服をめくり、下腹部に針を刺した。
「!!」
注射を打たれ、薬剤が体内に入ってくる。どくっ、と心臓が鳴った。
久我はベッドから離れ、再びソファーに座った。
歪んだ笑みを浮かべたまま、サキを見ている。
サキがヒートを起こすのを待つつもりだろう。
サキは奥歯を噛んだ。
鼓動は速くなり、次第に身体が脈打つのがわかる。
久我が舌なめずりするのを見てしまい、固く目を瞑った。
サキは発情する恐ろしさに身を縮こまらせていた。
ところが、サキはヒートを起こさなかった。
むしろ速くなっていた鼓動が落ち着いてきた。
(……あれ?)
サキは首を傾げて、目を開けた。
久我もサキの様子に変化がないことに気づいたようだった。
ベッドに上がり、サキに跨った。
「何か飲んでるな」
言われて、ハッとした。
病院から処方された発情抑制剤を飲んでいたことを思い出す。
サキはレイが好きだと自覚している。
そんな状態で一晩過ごしたら、本能でレイを欲しがり、ヒートを起こすかもしれないと思った。そのため、万全を期して三日前から薬を飲んでいたのだ。
サキは、ハハと笑った。
「さすが病院の抑制剤はよく効くな」
久我は盛大に舌打ちした。
荒々しくベッドから降りていき、サキはほっと息を吐いた。
だが、安心したのも束の間だった。
「それなら発情するまでヤるだけだ」
サキは目を見張った。
「発情したおれとヤれるなんて、光栄に思えよ」
そう言って、久我は自らの腹に注射を打った。
サキはその日初めて、レイ以外のアルファの強烈なフェロモンを嗅いだ。
跳ね起きようとして、ガチッと音がした。
頭の上で両手が動かない。
腕を下ろそうともがくと、手首が金具のようなもので拘束されているのがわかった。
(なんだこれ!)
ベッドに繋がれているようで、抜け出そうと足掻いていると、久我がベッドの脇に立っていた。
「意外と早い目覚めだったな」
久我は愉快そうにサキを見下ろしていた。
サキはもがくのをやめた。
「なんのつもりだ」
久我を睨むと、クックッと喉を鳴らした。
「おまえをおれの番にしようと思ってな」
サキは思い切り眉根を寄せた。
「つがい? なに言ってんだ?」
好きでもない人間を番にして、どうしようというのだ。
サキは戯言だと思った。
鼻で笑うと、久我は身体を屈め、サキのあごを掴んだ。
「本気だ」
あごの下を指先でスッと撫でられ、悪寒が走った。
「霧島が大事にしてるおまえをおれの番にしたら、面白いと思わないか?」
久我は陶酔した顔で言った。
「おまえも、おれのことを虚仮にしたから許さない。おまえは一生、おれにしか欲情しない身体にしてやる。おれを憎みながら、腰を振れ」
サキは狂気じみたその目を見て、唾を飲んだ。
久我はサキの首に巻かれたネックガードを外し、床に放った。
サキは乾いた唇を舐めた。
「レイとおれが憎いってだけで、一生を棒にふるつもりか」
サキの言葉に、久我は口元を歪めた。
「一生? おまえは一生かもしれないが、おれは違う」
久我はベッドから離れ、ソファーに腰を沈めた。
革張りの黒いソファーは見覚えがあった。
「おれは久我家の人間だ。結婚はアルファの女と決まっている。おまえを番にしたって、結婚はできるし、子供も作れる」
久我は暗い空虚な目をしていた。
「それに、ヤるならオメガが一番だ」
肩を揺らし、いかにも楽しげな口調だったが、サキは何も映していないその目を恐ろしく感じた。
(歪んでる)
久我家でどんな育てられ方をしたのかは、わからない。
はっきり言えるのは、幼稚な精神のまま大人になっており、生粋のアルファという名門の血統に微塵も誇りを感じていないことだ。
久我はしばし中空を見たあと、立ちあがった。
ソファーに置いてあった鞄を探り始めた。
サキが拘束された身体をねじって見ると、久我は注射器を取り出していた。
「これが何かわかるか?」
久我はサキの返事を待たずに下卑た笑いを見せた。
「オメガの発情誘発剤だ」
サキは戦慄した。
アルファとオメガが番になるには、お互いがヒート状態でなければならないという。
久我の本気を目の当たりにし、サキは夢中で暴れた。
ガチガチと金具の無情な音が響く。
久我が注射器を片手に近寄ってくる。
「やめろ!」
サキは叫んだ。
「大声出しても無駄だ。ここはソフィアだ。店には邪魔するなと言ってある」
サキは一瞬、動きを止めてしまった。
その隙に久我はサキの服をめくり、下腹部に針を刺した。
「!!」
注射を打たれ、薬剤が体内に入ってくる。どくっ、と心臓が鳴った。
久我はベッドから離れ、再びソファーに座った。
歪んだ笑みを浮かべたまま、サキを見ている。
サキがヒートを起こすのを待つつもりだろう。
サキは奥歯を噛んだ。
鼓動は速くなり、次第に身体が脈打つのがわかる。
久我が舌なめずりするのを見てしまい、固く目を瞑った。
サキは発情する恐ろしさに身を縮こまらせていた。
ところが、サキはヒートを起こさなかった。
むしろ速くなっていた鼓動が落ち着いてきた。
(……あれ?)
サキは首を傾げて、目を開けた。
久我もサキの様子に変化がないことに気づいたようだった。
ベッドに上がり、サキに跨った。
「何か飲んでるな」
言われて、ハッとした。
病院から処方された発情抑制剤を飲んでいたことを思い出す。
サキはレイが好きだと自覚している。
そんな状態で一晩過ごしたら、本能でレイを欲しがり、ヒートを起こすかもしれないと思った。そのため、万全を期して三日前から薬を飲んでいたのだ。
サキは、ハハと笑った。
「さすが病院の抑制剤はよく効くな」
久我は盛大に舌打ちした。
荒々しくベッドから降りていき、サキはほっと息を吐いた。
だが、安心したのも束の間だった。
「それなら発情するまでヤるだけだ」
サキは目を見張った。
「発情したおれとヤれるなんて、光栄に思えよ」
そう言って、久我は自らの腹に注射を打った。
サキはその日初めて、レイ以外のアルファの強烈なフェロモンを嗅いだ。
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