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Bonus track

嫉妬 前編

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「や……ああ!も……だめ……んんっ!」

 わたしは、机にしがみつくようにして、何度も押し寄せてくる気持ちよさに流されないよう、必死で耐えていた。

「んぁ……こんな……とこで……んん!や……やだ……!」

 わたしがそう言っても、止めてくれる気配なんてちっともない。それどころか、後ろから腰を強くつかまれて、わたしの体の奥が突き上げられる。そのあまりの気持ちよさに、どんどん理性が削られていく。
 でも、サインを待つたくさんの書類がわたしの目の端に入り、消えかけた理性をなんとか取り戻させる。

「ここ……仕事……するところ……なのに」

 わたしがそう言った途端、止まるどころか強く突き上げられ、わたしは悲鳴のような声をあげてしまう。
 中のものは最奥まで貫いたままで止まり、笑い声が背後から聞こえる。

「だから仕事をしているだろう?世継ぎを作るのも、仕事のひとつだ」
「ううっ……そ……そんなの……へりくつ!!」
「屁理屈なものか」

 そう言って楽しそうに笑う声も、わたしを快楽の沼に引きずり込みそうなくらい甘く耳に響く。

「なあログ。いつも忙しくしていた私が、ここ最近、早く帰れているのは何故だと思う?」
「そ……そんなの……わかんないよ……っ!」

 たしかに、レミスの妃になってから彼の帰りが早くなっていた。新婚だから周りが気を遣っているんだよ、と冗談ぽく言っていたけれど、わたしはそんなものなのかと、それ以上深く考えてなかった。

「私とお前にしかできない、一番大切な仕事があるからだよ」

 レミスが言い終えると同時に、体の奥に刺激が走る。すごい勢いで、何度もわたしの中が抉られる。そのあまりの気持ちよさに、頭の中がはじけたようになって、全身が震える。わたしの理性の残りかすなんてきれいに消え去って、ここがどんな場所とか、そんなこと全てがどうでもよくなってしまう。

「あ……んん……は……はあ……」

 奥深くまで受け止めたくて、わたしの腰が自然と動いてしまう。大きな手が、そんなわたしの肩や背中を優しくなでる。

「ようやく仕事をする気になったか?」
「ん……する……仕事……だから……」

 そうだ、これは妃としての仕事なのだ。だから、ここでこんなことをしてもなんの問題もない。わたしの頭の中は、そんな勝手な理屈が作り上げられていく。

「いい子だ、ログ」

 背後から嬉しそうな声が聞こえる。大きな手はわたしの胸を包みこみ、指先が胸の先をつまむ。背筋にピリピリと快感が走る。

「あ……んん……」
「なんて楽しい仕事だろうね、ログ」
「ん……たのしい……だから……もっといっぱい……して……」

 ぐちゃぐちゃ、ぱんぱん。そういう音がいやというほど耳に届く。それだって気持ちよさのひとつになる。
 何度も何度も、この世のものと思えないくらいの快楽がわたしを襲う。楽しくて楽しくて仕方ないお仕事に、ここがどこなのか気にすることなく、嬌声をあげる。

「レミス!ああっ!きもちいいよお!」

 そして、より一層強くえぐられた瞬間、わたしの体の奥に熱いものが満ちていく。

「あ……」

 わたしは、爪の果てまで幸せに満ちて、その幸せはわたしをずぶずぶと飲み込んで、夢心地のまま、わたしはいつのまにか意識を失っていた。

 ――

 目を覚まして、全身の気だるさに思わず顔をしかめてしまう。何とか体を起こしたわたしは、自分が執務室のソファに横たわっていた事に気づく。そして、脱がされていたはずの服もきちんと着せられている。

「……レミスの、ばか」

 わたしは、机で書類仕事をしているレミスに文句を言ったものの、彼は仕事の手を止めず、こっちを見もしないままクスッと笑う。

「お前だけだよログ。私を、ただの馬鹿な男にしてしまうのは」
「む……わたしなにもしてないし……いきなりすぎてわけ分かんない。なんで急にあんなこと」

 そう。レミスは執務室に来たわたしに、急に、何も言わないで、今まで家でしかしてなかった事をしてきたのだ。気持ちよさに流されて最後までしてしまったけれど、だからといって、うやむやにはしたくない。

 レミスはようやく手を止めて顔を上げると、わたしに驚きの理由を語った。

「私の大切な妃が、他の男と楽しそうにしているのを見れば、嫉妬の一つや二つくらいして当然だろう?」
「……はい?」

 レミスが何を言ってるのか、わたしはすぐに理解できなかった。

(嫉妬?誰もが自分の思い通りになると信じ切ってる魔王様が?わたしの事で?嫉妬?)

 あまりのことに、わたしの頭は混乱でくらくらする。

「ちょっと待って……他の男と楽しそう?そんなのわたし、ちっとも心当たりない!!」
「いいや。私に見せつけるように腕を絡めていた。嫉妬させようとしてるようにしか見えなかったが?」
「見せつける!?嫉妬させようとしてる!?わ……わけわかんない!」

 思い当たる事がちっともなくて、わたしの手がワナワナと震える……が、あった。ひとつだけ。思い当たる事が。

「ねえ……もしかしてそれ……スクルでしょ!うわ……し……信じられない!スクルとは兄妹同然だって、レミスがいちばんよく知ってるじゃない!!」
「だが、本当の兄妹ではないだろう」
「んもう!血が繋がってなくてもスクルはお兄ちゃんなの!!それ以外になんにもないの!!!」

 わたしは本心でそう言ってるのに、それでもレミスの表情はどこか納得していない。わたしはほとほと困り果ててしまう。

「なによ……結婚も……子供ができるようなことも……全部……レミスとだけなんだよ?嫉妬なんてする必要……どこにもないじゃない……」

 わたしは、なんとか信じてもらいたくて、どうしたものか悩む。そして、机を挟んでレミスの前に立つと、机に体を乗り出してそっとキスをする。顔を少し離して、相変わらず怖いくらい美しいその顔を見つめて、こう言った。

「こんなことも……レミスとだけなんだよ?今までも、これからも、レミスはわたしの……最初で最後のひとなんだから」

 その直後、わたしの口はレミスによって塞がれていた。最初は驚いたわたしも、すぐに彼に応える。そして、これでもかと数えきれないくらいキスを繰り返す。

 ようやくキスを終わらせた頃には、彼の表情はすっかり晴れていた。

「ログ。家に帰ったら、ひとつ、私の話を聞いてくれるかい?」
「……いいけど。嫌な話とかじゃ、ないよね?」

 レミスがわざわざいいかと聞いてくるなんて、明らかに普通の話じゃない。訝しむわたしに、レミスは優しく微笑んで、わたしの頭をなでる。

「大丈夫さ。単なる笑い話だよ」
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