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第三章 その娘、金の薔薇にて
Bランクへの挑戦
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その夜、ノアクルは粗末なワラのベッドで横になって天井を見つめていた。
ベッドとしては薄っぺらく、ただの敷物のようだが、ノアクルはイカダで直に寝ていたこともあるので慣れている。
落ち着いて考えごとをする余裕くらいはある。
ちなみに横のトラキアは寝心地悪そうに何度も寝返りを打っていて、ワイルドな獣人のイメージが崩れてしまう。
(闘技場のこともわかってきたし、ローズの事情も理解できた。あとは何とかして助け出すだけだが……その脱出後が難しいな……)
流れとしてはBランク→Aランクと上がっていって、実際に観戦しにきたゴルドーの隙を突いてローズを連れ出す――という感じだろう。
しかし、あまり重要そうでない、そのあとからが問題なのだ。
(樽で運ばれてきたから船までのルートがわからない……)
ここはゴルドーの島である。
もし、港まで遠い場合は予想できないレベルの追っ手が群がってくるだろう。
いくらノアクルでも、予想できないものに自信満々で対処できるとは考えない。
「うーむ……どうするか……」
つい小声で呟いてしまう。
それに答える者などいないのに――
「ほう、やはりワシがいないとダメなようじゃな」
と思いきや、近くで聞き慣れた声がした。
「……もしかして、アスピか!?」
「そう、ワシじゃよ」
丁度、鉄格子の隙間から器用に入ってくる亀――アスピがいた。
コロンと転がってから、寝ているノアクルの枕元へやってくる。
「どうやらお困りのようじゃな」
「お、お前……いきなりボッチで地下闘技場の奴隷にされる身にもなってみろよ!? アスピが来てくれた程度でも、すごく嬉しくなってしまうぞ! 戦えるムルの方がいいけど!」
「最後の一言が物凄く余計じゃが……そのくらい言えるなら、まだまだ元気そうじゃな」
「で、アスピはただ顔を見に来ただけじゃないんだろう?」
アスピにくくり付けられている小さな物が気になっていた。
「まずはお土産のゴミじゃ。これをここに捨てるから拾っておけ」
「……これは?」
「この島で調達したミスリル――の一欠片じゃ」
指先ほどのサイズでライトグリーンの金属が転がった。
それは宝石以上の価値を持つという希少金属ミスリルだ。
とても硬く、通常では加工が難しいと言われている。
ノアクルはそれを受け取った。
「このサイズか……まぁないよりはマシだろう。サンキュー」
「それとジーニャスとムルが反省しておったぞい」
「べ、別に平気だしぃ……、こっちは俺がボッチで頑張ってなんとかするからさぁ……ボッチで……」
「意外と気にしておるのぉ……」
「だが、脱出したあとはどうすればいいんだ?」
アスピは、ミスリルにくくり付けられていた紙を頭でつついた。
「それが地上の地図じゃ。そこに書かれているルートを二人が確保しておる」
「なるほど。それじゃあ、あとは俺次第ってことだな」
「そういうことじゃな。では、ワシは先に戻っておくぞい」
ノアクルは地図の内容を覚えて、スキル【リサイクル】を使ってトイレの紙へと変化させておいた。
なぜ変化させたかというと、訓練士ドクルに見つからないようにだ。
***
「何か一枚だけすげぇフワッフワのトイレの紙があったぜ……ケツが助かる……。こんなのが使い放題なら、一生そいつの家に住みたくなるな……」
「俺のところがそうだが、来るか?」
「はっ、いつか自由の身になったときには頼むぜ。ありえねぇけどな!」
早朝、部屋の中でトラキアとそんな会話をしていた。
他の獣人も『俺も俺も』と冗談か本気かわからないことを言ってきたところで、訓練士のドクルが鉄格子の向こうから話しかけてきた。
「おい、うるさいぞ獣人風情のゴミどもが! っと、ゴミの人間もいたな……テメェに朗報だ。次の対戦はBランクの〝レティアリウス〟とランクアップをかけた戦いとなる。せいぜい、無様にやられてお客様を楽しませることだな!」
ドクルはペッと唾を吐き捨てて去って行った。
「お、勝ったらもうBランクになれるのか。助かる」
ノアクルは軽く言ったが、周囲の獣人たちは顔面蒼白だ。
「れ、レティアリウスと対戦だって!?」
「知っているのか、トラキア」
「し、知っているも何も、ただでさえくせ者揃いのBランクの中でも最強の女だ……!!」
「ほう、話を聞かせてくれ」
ノアクルは相手が女性だとしても油断する気はない。
「兄弟も知っての通り、オレ様たちは素手で戦う獣人闘士だ。だが、レティアリウスは例外的に飛び道具を使う……」
「素手なのに飛び道具だと?」
「気功とかいう、杖無しで魔力を扱う技だ……。ファイアボールとか、ウィンドアローのように属性はついてないが、メチャクチャやべぇ魔力の衝撃を飛ばしてくる……」
トラキアは深刻そうな表情で眉間にシワを寄せている。
まるで自分が体験してきたかのようだ。
「やたらと詳しいな」
「めっちゃボコられてオレ様はCランクへ降格させられた……トラウマだぜ……」
どうやら本当に体験してきたようだ。
ベッドとしては薄っぺらく、ただの敷物のようだが、ノアクルはイカダで直に寝ていたこともあるので慣れている。
落ち着いて考えごとをする余裕くらいはある。
ちなみに横のトラキアは寝心地悪そうに何度も寝返りを打っていて、ワイルドな獣人のイメージが崩れてしまう。
(闘技場のこともわかってきたし、ローズの事情も理解できた。あとは何とかして助け出すだけだが……その脱出後が難しいな……)
流れとしてはBランク→Aランクと上がっていって、実際に観戦しにきたゴルドーの隙を突いてローズを連れ出す――という感じだろう。
しかし、あまり重要そうでない、そのあとからが問題なのだ。
(樽で運ばれてきたから船までのルートがわからない……)
ここはゴルドーの島である。
もし、港まで遠い場合は予想できないレベルの追っ手が群がってくるだろう。
いくらノアクルでも、予想できないものに自信満々で対処できるとは考えない。
「うーむ……どうするか……」
つい小声で呟いてしまう。
それに答える者などいないのに――
「ほう、やはりワシがいないとダメなようじゃな」
と思いきや、近くで聞き慣れた声がした。
「……もしかして、アスピか!?」
「そう、ワシじゃよ」
丁度、鉄格子の隙間から器用に入ってくる亀――アスピがいた。
コロンと転がってから、寝ているノアクルの枕元へやってくる。
「どうやらお困りのようじゃな」
「お、お前……いきなりボッチで地下闘技場の奴隷にされる身にもなってみろよ!? アスピが来てくれた程度でも、すごく嬉しくなってしまうぞ! 戦えるムルの方がいいけど!」
「最後の一言が物凄く余計じゃが……そのくらい言えるなら、まだまだ元気そうじゃな」
「で、アスピはただ顔を見に来ただけじゃないんだろう?」
アスピにくくり付けられている小さな物が気になっていた。
「まずはお土産のゴミじゃ。これをここに捨てるから拾っておけ」
「……これは?」
「この島で調達したミスリル――の一欠片じゃ」
指先ほどのサイズでライトグリーンの金属が転がった。
それは宝石以上の価値を持つという希少金属ミスリルだ。
とても硬く、通常では加工が難しいと言われている。
ノアクルはそれを受け取った。
「このサイズか……まぁないよりはマシだろう。サンキュー」
「それとジーニャスとムルが反省しておったぞい」
「べ、別に平気だしぃ……、こっちは俺がボッチで頑張ってなんとかするからさぁ……ボッチで……」
「意外と気にしておるのぉ……」
「だが、脱出したあとはどうすればいいんだ?」
アスピは、ミスリルにくくり付けられていた紙を頭でつついた。
「それが地上の地図じゃ。そこに書かれているルートを二人が確保しておる」
「なるほど。それじゃあ、あとは俺次第ってことだな」
「そういうことじゃな。では、ワシは先に戻っておくぞい」
ノアクルは地図の内容を覚えて、スキル【リサイクル】を使ってトイレの紙へと変化させておいた。
なぜ変化させたかというと、訓練士ドクルに見つからないようにだ。
***
「何か一枚だけすげぇフワッフワのトイレの紙があったぜ……ケツが助かる……。こんなのが使い放題なら、一生そいつの家に住みたくなるな……」
「俺のところがそうだが、来るか?」
「はっ、いつか自由の身になったときには頼むぜ。ありえねぇけどな!」
早朝、部屋の中でトラキアとそんな会話をしていた。
他の獣人も『俺も俺も』と冗談か本気かわからないことを言ってきたところで、訓練士のドクルが鉄格子の向こうから話しかけてきた。
「おい、うるさいぞ獣人風情のゴミどもが! っと、ゴミの人間もいたな……テメェに朗報だ。次の対戦はBランクの〝レティアリウス〟とランクアップをかけた戦いとなる。せいぜい、無様にやられてお客様を楽しませることだな!」
ドクルはペッと唾を吐き捨てて去って行った。
「お、勝ったらもうBランクになれるのか。助かる」
ノアクルは軽く言ったが、周囲の獣人たちは顔面蒼白だ。
「れ、レティアリウスと対戦だって!?」
「知っているのか、トラキア」
「し、知っているも何も、ただでさえくせ者揃いのBランクの中でも最強の女だ……!!」
「ほう、話を聞かせてくれ」
ノアクルは相手が女性だとしても油断する気はない。
「兄弟も知っての通り、オレ様たちは素手で戦う獣人闘士だ。だが、レティアリウスは例外的に飛び道具を使う……」
「素手なのに飛び道具だと?」
「気功とかいう、杖無しで魔力を扱う技だ……。ファイアボールとか、ウィンドアローのように属性はついてないが、メチャクチャやべぇ魔力の衝撃を飛ばしてくる……」
トラキアは深刻そうな表情で眉間にシワを寄せている。
まるで自分が体験してきたかのようだ。
「やたらと詳しいな」
「めっちゃボコられてオレ様はCランクへ降格させられた……トラウマだぜ……」
どうやら本当に体験してきたようだ。
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