青春がつまった!「ショートストーリー集」

如月由美

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『愛空ーアイゾラー』後編

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みどりが学校に来なくなった
その翌日。
俺と紀美香きみかは、
放課後の教室で自習していた。

翠、どうしたんだろ……。
何かあったのかな………。
和也かずやっ!」
「ん?どうした?」
「どうしたじゃないよ。
和也、何を考えてるの?
呼びかけてもボーッとしてるよ」
「そうか。悪い」

最近の俺は、
よく考え事をしている。
授業中、先生に
問題の答えを聞かれても、
「分かりません」と答えるのは
そのせいだろう。

俺はよく考え事をするような
タイプじゃない。
それに、授業だって
ちゃんと受けているはずだ。
それなのに、目の前のことに
集中していない。

俺はその理由を
知っているような気がしたけれど、
振り切って、机に置かれた
数学の問題集と向き合う。
書く力が強すぎたのか、
シャー芯がポキッと折れた。

それと同時に、
キーンコーン、カーンコーン
と下校のチャイムが鳴った。

「またな」
「うん!今日はありがと!」
校門の前で紀美香と別れて、
下校の道を歩いていく。

コンビニ、公園、学習塾にカフェ。
ここはド田舎まではいかないが、
生活する程度の店はある地域だ。
ビルや会社なんてないから、
ここに住むのは子連れか高齢者。

そういえば、
紀美香の家は兄弟もいて、
おばあちゃんと暮らしてるらしい。
俺は一人っ子だし、祖父母もいないから、
羨ましいと思った。

小さな電気屋の角を曲がると、
「ニャー」と猫の鳴き声がした。
足を止めて、目の前を見ると
ロシアンブルーみたいな
藍色のきれいな猫がいた。

「あれ?この猫、
翠が飼ってる猫じゃ……」
翠の家には、
ロシアンブルーの猫がいる。

気になって、
近づいてみると猫は少し歩いて
俺と距離を置いているようだった。
少し毛づくろいをしてから、
また「ニャー」と鳴いた。

猫は少し走って
角を曲がって消える直前に、
また振り返って僕を見た。
「私についてきて」
まるでそう言っているような
真剣な目をしたかと思えば、
また走って角を曲がった。

俺はその猫が気になって、
後を追うことにした。
最初は僕を待っていたりして
優しくしてくれたけど、
次第に猫は走り出して
おれも走っていた。

左に曲がったり、右に曲がったり。
人気のない道ばかりを進んでいき、
路地裏に入っていく。
猫を追い続けたけど、
百段くらいある階段の前で、
姿を消した。

「あれ?」
右は行き止まり、
左は大きな交差点が見える。
俺を追わせておいて
行き止まりには行く訳もないし、
危ないところに行く訳もない。
あの猫が行く道はただ一つだ。

百段くらいある階段を見つめてから
階段の先にある空を見る。
俺は意を決して、
階段を一気にかけ上がった。

傾く夕日が俺を照らして、
汗を赤色に染める。
眩しい。暑い。息苦しい。
それでも、階段を上がっていった。

はぁ。はぁ。
「あ、さっきの猫」
階段を上がった先にあったのは、
小さな公園だった。
さっきのロシアンブルーみたいな猫が
ベンチで休んでいた。

ふと公園を見る。
なぜか見覚えがあるのだ。
カラフルな色に染められた
ジャングルジムに、
可愛らしい小さなブランコ。
そして、あの猫が座ってるベンチ。
俺は、ここを知ってる。絶対。

ふとブランコを見てから、
ジャングルジムに近づいた。
見上げると、一番星が見える。

あ、そうだ。
俺、翠とよく遊んでたんだ。
ここで、この公園で。
それで、帰る前に
ジャングルジムに乗って、
一番星を先に見つけた方が勝ち
っていう遊びをしてた。

「そうか。ここだったんだ」
ふとジャングルジムの下を見る。
すると、何が埋まっているのが見えた。
砂をかけ分けると、
なにやら手紙らしきものがある。

誰のだ?
そう思って名前を見る。
なんと弱そうな字で
「和也」
と書いてあった。
俺はまさか!と思い、
手紙を裏返した。
そこには、この手紙を
書いたと思われる人物の名前が
また弱そうな字で書いてある。

その名は、「藤田 翠」。
驚きながら手紙を開く。
中にはメモだけが入っていた。

そのメモには
こう書かれてあった。


*****

和也へ

よくここに来たね。
きっとロシアンブルーの猫を
追いかけてきたんでしょ?

あの猫、
私の家で飼ってる猫だよ。
名前はアオっていうの。

私はもう和也とは会えないし、
この世に居ないから
アオを可愛がってあげて欲しい。

和也、ごめん。
今までありがと。
大好きだった。

隠しててごめん。
私には持病があって、
和也がこの手紙を読む頃には
私はこの世にいません。

私、死んじゃったの。
和也に会えなくなるの寂しいな。

でも、お別れだよ。
和也は私じゃない他の誰かと
幸せになってね。

バイバイ。


藤田 翠

*****


「えっ……。待てよ、うそだろ」
「死んだのかよっ…!
なぁ、翠っ!冗談だろっ!」
「翠っ!翠っ!翠ーっ!!」

俺は翠を呼び続けた。
ごめん。俺はお前を裏切った。
そう謝りながら、願った。
翠に戻ってきて欲しいと。


そのあと、
俺はアオを連れて、家に帰った。
いきなり猫を連れて帰っても、
母さんは何も言わなかった。
きっと全部、知ってたんだろう。

スマホで翠のお母さんに聞いたら、
全て教えてくれた。
持病を持っていると聞いた時に泣いたことも、
余命がわずかだと聞いたことも、
俺だけのためにチョコ専門店に連れていって
喜ぶ顔が見たかったことも。

そして、
「和也に幸せになって欲しい。笑ってて欲しい」
と毎日のように家で呟いていたことも。

全部が俺のためだったんだな。
気付いてやれなくてごめんな。

俺、やっぱり翠が好きだ。


それから五年後。

俺は二十歳、社会人になった。
俺と付き合っていた紀美香は、
他に大切な人ができたと言って
俺とは別れた。
ちなみに、来年の秋には
紀美香が結婚するらしい。

でも、俺は一生結婚なんかしない。
だって、一番の想い人がいるから。

今はもういないけれど、
きっと見守ってくれてる。
一番星のように。

翠、俺は今でも好きだぞ。
空を見上げながら思う。
翠も、空も、愛してる。



END
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