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『愛空ーアイゾラー』前編

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俺は三藤さどう 和也かずや
彼女もいて、
青春を満喫している高校生だ。

そんな俺の彼女は、
クラスメイトの藤田ふじた みどり
ミディアムヘアで、吹奏楽部に入ってる。
真面目で勉強もちゃんとしている翠だが、
なかなか成績が上がらず、
俺が勉強を教えることもある。

そんな翠は放課後になると、
決まって『あること』を言うようになった。
「ねぇ、今日も行こうよ!
チョコリッチ!」
「嫌だよ」
翠が言うチョコリッチとは、
放課後に俺たちが寄ったチョコ専門店の名前だ。
俺がチョコ好きだからと、
近くの専門店を探したらしい。

だけど、一昨日も昨日も行った。
一昨日はパンケーキ、
昨日はパフェを食べたのだ。
俺としては、
しばらく甘いものを控えたい
というのが本音だ。

「甘いものは控えたいんだよ。
だから、しばらく行きたくない」
そう投げ捨てるように言った俺は
翠の横を通りすぎて、
珍しく独りで帰った。

俺の隣には、
いつも翠の笑い声があった。
だけど、最近は
初心の頃を忘れてしまっている。

付き合いたての頃は、
俺だってラブラブオーラを
出していた。
だけど、
この前、友達に
「お前ら、なんか変だよな。
昔のラブラブが薄くなったみたいだぜ?」
と言われ、初めて異変に気付いた。

周りが気付くほど、
俺と翠の間には壁ができている。
その理由が、俺には分からない。
まるで自然と出来てしまったようだ。

翌日の朝、
登校した俺が教室に入って
席に座ろうとしたら、
小さなメモが机に置いてあった。

何かが書いてたから拾って見てみると、
そこには
「昼休み、校舎裏に来てください」の文字。
俺はその言葉の意味を察した。
そして、大きな決断をしたのだ。

午前の授業を終えて、
昼休みになると
俺は校舎裏へと向かった。

「三藤くん、来てくれたんだ」
そこには同級生の紀美香きみかがいた。
俺とは違うクラスの女子。
翠じゃないことは、
書いてあった文字の形からもう知ってた。
だからこそ、俺は来た。

「ここ、いいでしょ?
意外と校舎裏って誰も来ないのよ?」
と笑っている紀美香を
俺は真剣な眼差しで見つめた。

すると、紀美香はついにこう言った。
「三藤くん、好きです。
私と付き合ってください」
紀美香は頭を下げて、
手を差し出してくる。
俺はその手を優しく握った。
「いいよ」

俺は翠と別れる。
そして、紀美香と付き合うんだ。
それは恋が終わって、
恋が始まる瞬間だった。


その数日後。
翠が学校に来ることは無かった。


ー後編へ続くー
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