青春がつまった!「ショートストーリー集」

如月由美

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『空にある俺のお守りは。』

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俺は、ふと目を覚ました。
スマホの時計を見ると、
五時半だった。

重い体を起こして、
小窓のカーテンのすき間から
まだ淡い空を眺めた。

やっぱ青の方がいいよな。
なんか落ち着く。

「あ、そうだ」
ふとあることを思い出して、
俺はまたスマホを手に取った。

ロックを解除してから、
ミラーアプリを開いて
画面内の自分の顔を見つめた。

「やっぱりな」
また頬が濡れていたから、
服の袖で拭った。

俺はなぜか泣くことが多い。
寝ているときですら、
泣いている。
自分でも変だと思う。

泣く理由はきっと
あの日のせいだろうな。

思い返していたら、
また泣きそうになって
思い返すのをやめた。

ベットから立ち上がり、
大きな窓のカーテンを開けた。
空は少しずつ変わっていく。
どんどん青が深まる。

「俺は、強くなれないかな」
そんなことを呟き、
机にある昔の写真を見つめていた。


「お、しゅう!おっす!」
手を上げてそう言ったら、
歩道のガードレールにもたれる
男子がこっちに振り向いた。

あの男子は幼なじみの柊だ。
小三からの付き合いになる。
そんな柊と目が合うと、
柊はいきなり絡んできた。

「おっすじゃねーよ。
かず、また告白されたのかよ」
俺の肩に手を置いて
険しい顔でそう言った。

「あちゃ。もう知ってんの?」
俺はペロリと舌を出して、
可愛い感じにそう言った。

すると、柊は
俺の頭を軽く叩いた。
「あちゃもこちゃもあるかよ。
幼なじみの俺が知らない訳ないだろ」

あ、今のこいつは天狗だ。
幼なじみだからって浮かれてる。
こいつの鼻、へし折ってやりたい…。

「どうせ相手が知りたいんだろ」
そう言った直後、柊は目を輝かせた。
「おー!よくお分かりで」

こいつバカかよ。
まぁ、昔からバカなのは
変わらねーけど。

「教えねーよ。バカ!」
そう言ったあと、俺は走り出した。
「あ、バカって言ったほうが
バカなんだぞ!」
あとから柊も走ってくる。

俺たちの言うことは
小学生みたいだけど、
それでも
柊となら楽しかった。


あれから学校に着いて、
ボンヤリと授業を受けていたら
いつの間にか
昼休みになっていた。

俺はペンケースを机にしまう時に
見つけた小さな紙を持って、
校舎裏へと訪れていた。

「よう。和さん」
そう言った男子はピアスをして
制服を着崩している。
いかにもチャラそうなこの男子は
違うクラスの新田あらただ。

確か、家がお金持ちで
ヤンキー家族だらけだと
聞いたことがある。

「新田、何だよ。
またこんなとこに呼び出して」

俺が持っていた小さな紙は
新田からの呼び出しだったのだ。
だけど、俺は少しばかり
新田に警戒していた。

なんたって、
こいつはヤンキーだ。
何をしてくるか分からねえ。

「まぁ、そう警戒すんなよ。
元ヤンキーの和さん」
「元ヤンキー?
その時代は忘れたな」

確かに、小五くらいの時
俺はヤンキーだった。
学校だってサボったし、
夜遊びだって多かった。
でも、それは昔の話だ。

「あーあ、酷い人。
でもさ、この前聞いたんだよ。
お前の親父さんは死んでるってな」
俺はそのことを聞いた瞬間、
目の奥が熱くなった。

我が家にある自分の机、
そこに置いた一つの写真立て。
そのなかには
まだ生きてた親父と幼い俺。

俺は親父を
救うことが出来たかもしれない。
それなのに……。

「親父のことを何も言うな!」
「へっ。親父さんのこと、
今でも引きずってんのかよ。
立ち直ればいいのに」
新田はニヤニヤしていた。

ムカつく。
親父のこと、
なんで新田が知ってんだよ。

「うるせー!」
そう言って、俺は殴ろうとした。
でも、すぐに誰かに手を掴まれた。

「やめとけ、和」
声がするほうを見ると
俺のすぐ隣に柊がいた。

「柊。なんで……」
「幼なじみだからだよ」
俺が聞き終わる前に、
柊はニヤリと笑って言った。

「お前、誰だよ!」
新田がそう叫ぶから、
柊は新田を見つめた。
「俺は速口はやぐち柊だ。
コイツの幼なじみってとこ」

「それにしても、
新田が仕掛けてくるとはな。
お前こそ弱いくせに、
弱いものイジメしてんじゃねーよ」

そう言われた新田が
難しい顔をしていた。

弱い……?
それはどういう意味だ…?
柊の心が見えねえ。

「新田。最近、
病気の母親を亡くしたらしいな」
「お前っ!なんでそんなこと!」

新田が自分の母親を……?
亡くした…?
新田の反応からして
間違いじゃないんだろうけど。

「そんなことっていうか、
同じ境遇の人をいじめる前に
自分が強くなりなよ。
こんなことで強くはなれないよ」

「くそっ!じゃーな!」
地面を蹴ったあと、
新田は走っていった。

振り返った柊は笑って、
「おっと。
手を掴んだままだった」
と俺の手を離した。

「おい、お前。
なんで新田の親が亡くなったって
知ってるんだよ」

それだけが疑問だった。
柊は新田と関わるような奴じゃない。
それに柊だって、
アイツを嫌ってるはずだ。

なのに、なんで……。

「俺と新田は
友達なんて関係じゃねーよ。
ただ母親同士が仲良しなんだ。
それで知ってたんだよ」

そう言い切ったあと、
柊は小さな声で俺に耳打ちして
その場を去っていった。

「暴力は無し、なんだろ?
親父さんからの言葉と約束、
忘れんなよ」と。

その言葉を聞いて、
俺は思わず空を見上げた。

あぁ、そうだ。
そうだったな、柊。
俺は昔の思い出を忘れていた。

それは、小五の俺が
暴力をしてばかりいた頃、
親父が言った言葉と、約束だ。

『暴力はダメだぞ?
大切なものを失うからな』
そう言った親父の笑顔は
今でも鮮明に覚えている。
忘れもしない。

それにしても、
小五の息子が自分の親父と
♪指切りげんまん♪
なんてするかよ。

だが、俺はそれでも
親父との約束は
大切に思っていたんだ。

思い出したら、
涙が止まらなくて
その場にうずくまった。
涙を、止められない。

今はただ
親父に会いたくて仕方ない。
親父を、守りたかった……。


その日の夜。
俺はマフラーを巻いて、
小さな公園へと訪れた。

「ちょっと寒いな」
ブランコに座ると、
体へ冷たさが伝わってきた。
少しだけ懐かしさも感じた。

そういえば、
柊とよく遊んでたな。
ブランコでくつ飛ばしやってた。
すげー懐かしい。

寒さに負けじと、
腕を組んで体を温めていたら
待ち人がやって来た。

「どうしたんだよ。
いきなりこんなとこに
呼び出すなんて」

急いでくれたんだろうか。
少しだけ柊の息が荒い。
「来てくれてサンキュ。ほらよ」
ポケットにあった
温かいホットココアを軽く投げた。

「おっと。悪いな」
柊はココアを受け取ると、
俺の隣のブランコに座った。

「それで、
なんで呼び出したんだよ」
彼は早速、ココアを開けて
一口だけ飲んでから
そう口にした。

「感謝だよ。
今日、世話になったから」
そう言うと、
柊はいきなり俺に
デコピンをしてきた。

「痛っ!!」
俺は泣きながら、
おでこを撫でた。
柊のデコピンなんて
いつ以来だろう。

「お前、変だよ?
和はそんなことしないだろ」
柊はココアを飲みながら、
整った顔を歪ませてる。

「いや、大事なこと
忘れてたからよ。
ほんと、ありがとな」

自分の足元を見ながら、
そう言ったら、いきなり
頭をくしゃりと撫でてきた。
「どういたしまして、だよ」

そう言って
ニヤリと笑った柊。
彼は昔からよくこんな顔をする。
お前は、変わんないよな。

柊がココアを飲み終わると、
「なぁ、和。
もうすぐお前のオヤジさんの
命日だよな」
と寂しげに言った。

「そう、だな」
俺が気まずそうに言うと、
「オヤジさんに会うか?」
と柊が返した。

「えっ……。それって…」
俺は気付いた。
もう居ない親父に会う。
その柊の言葉は
墓参りということだ。

親父の墓参りに関しては
苦い思い出がある。
一昨年、親父の墓参りが
すごく嫌で
行くのを拒絶したのだ。

それ以来、親父には
なんだか顔を合わせずらくて、
墓参りには行っていない。

俺が険しい顔をしていると、
「そんな顔するなよ。
立ち直れとは言わないし、
忘れろなんかも言わねえ」

「ただ……。
お前が笑ってないと、
親父さんが悲しむだろ?
お前が会わないと、
親父さんが寂しがるだろ?」

「親父さんが大切なら、
ちゃんと大切にしてやれよ」
そんな、たくさんの言葉をくれた。

俺の視界は涙で歪んでく。
俺はまだまだ弱いし、
何も分かってない。

それでも、こいつがいる。
教えてくれる。
ありがとうな。

「あれれ?
和ちゃま、泣いてるの?」
なんて柊がいきなり言うから、
俺は雑に涙を拭ってやった。

「泣いてねーよ!
和ちゃまって言うな!」
そう言ったあと、
俺も、柊も、笑った。

そのとき、俺は
コイツが幼なじみでよかった
と初めて思った。

そんな思いで握りしめた
手の中のホットココアは、
まだ温かかった。


そして、俺と柊は
俺の親父が眠るお墓に向かった。

「オヤジさん、お久しぶりです。
速口の息子、柊です」
親父の墓を見つめて
柊は挨拶をした。

柊のあとに続いて、
俺も親父の墓を見つめた。

もう昔の俺じゃない。
親父だって、きっと
これを望んでるはずだ。
意を決して告げる。

「親父、ただいま」

なんとか笑顔で言うと、
優しい風が俺たちを包んだ。


まるで、親父が
「おかえり」
と言ったかのように。
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