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第27話 その抱き枕カバー、ウチの生徒会長の物だぜ②

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「うっぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 昨日のこころの言葉を思い出し、俺は中村の目で地面をゴロゴロと転がる。
 この二週間何やってたんだ俺! 
 この大馬鹿! バカ。バカ。ばかーーーーー。
 汚いものを見るような蔑んだ妹の目が――超くせになりそう。じゃなくて、延々と俺を責め立てる。

「おい杉田。いい加減止めろ。見ているこっちが恥かしい」
「何だよ……居たのか中村……」
「居たのか、じゃないだろ。お前が呼び出したんだろうが! わざわざ旧校舎を指定するから、どんな重要な話かと思えば、まさか妹の話とはな――」
「重要な話だろうが! ロリキャラの超エロい抱き枕カバーを妹に見られたんだぞ! この絶望が分からないのか? お前には人の心ってのが無いのかよ!?」

 中村の心無い言葉に、俺は勢いよく立ち上がる。

「俺には関係ないだろうが」
「いや関係ある。まあ、最後まで聞けよ」

 俺は汚れた制服を叩きながら話を続ける。

「それで俺は悟ったのさ。このままじゃこころとの仲睦まじい兄妹生活が終わってしまうと……。だから、俺は言ってやったんだ――」

「『その抱き枕カバー、ウチの生徒会長の物だぜ』ってな!」

「人の心が無いのはお前の方だろうがっ!」

 痛ってえ。コイツ本気で殴りやがったぞ。

「細かいことは気にすんなよ。後は、お前がこころの前で『この抱き枕カバーはボクチンのお嫁さんだじょ♪』って言ってくれれば完璧だからさ?」
「お前殴るぞ!」

 いや、もう殴った後じゃねえか。

「ダメか? ナイスアイデアだと思ったんだけどな」
「それのどこが! 平然と人を売るんじゃない。名誉棄損で訴えるぞ!」
「名誉棄損って……キャラが違うだけで、抱き枕カバー買ってたのは事実じゃ――イタタタタタ!」

 痛い痛い! 魔法少女力を籠めたアイアンクローは洒落にならないぞ!

「分かってる。分かってるから! 無茶苦茶な頼みだってのは重々承知だ! でも、どうかこの通り。妹には……こころにだけは、カッコ悪い兄貴だと思われたくないんだ!」

 アイアンクローされながら頼み込んでいる時点で、カッコイイ兄貴かどうかは怪しいところだが、背に腹は代えられない。

「杉田……お前、何を…………」

 俺の真摯な態度(?)に気圧されたのか、中村の力が緩む。
 アイアンクローから解放された俺は、俯いたまま話を続ける。

「母さんが死んでから、親父は仕事ばかりでさ……。あの頃は、こころともずっとすれ違ってばかりだった。でも一年くらい前、急にこころが魔法少女のアニメを観たいって言い出して……。それがきっかけで、やっと普通に話せるようになったんだよ」
「杉田……」
「馬鹿ばかりやってきた俺が……俺なんかが、やっとちゃんと兄貴をやれそうなんだよ……」

 自分でも驚くほど自然に、心の内がスッと出た。
 もちろん、こんな冷酷生徒会長を信頼してとか、友情を感じてとかでは絶対にない。
 今まで自分の趣味を隠さずに話せる相手がいなかったから……。
 だから気が緩んだだけ……。
 そうに違いない……。

「……一年前…………」

 俺の話を黙って聞いていた中村がボソッと呟く。

「ん?」
「一年前、お前の妹が急に魔法少女アニメを観たいと言い出したのか……?」

 唐突な中村の真剣な表情に、今度は俺が気圧される。

「ああ、そうだけど。何だよ、それがどうかしたのかよ?」
「…………そうか、分かった……」
「?」

 何が分かったのかは見当も付かなかった。
 だが、中村は何かを納得したように一人で頷くと、無茶苦茶な俺の申し出を、何故かあっさりと了承したのだった。
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