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第29話 その抱き枕カバー、ウチの生徒会長の物だぜ④

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「そういえば、中村さんの妹さんっていくつなんですか?」

 俺のことなどそこに居ないかのように、こころが中村に明るく話しかける。

「……奏多かなたは、13歳の中学二年だよ」

 ふむ、中村の妹はカナタっていうのか……。
 名前まであるって事は、やはり妹は実在するってことでいいんだよな。
 もしかしたらそこまで設定してるって可能性もあるが……さすがにそれは無いと信じたい。

「えー、じゃあわたしと同い年じゃないですか。あれ、もしかして知ってる子かな……ていうか同じ学校だったり? でも、中村って友達何人かいるからなぁ……」
「いや……それは多分、違うかな……」

 何が『それ』なのか、いまいち主語が分からない答え方だった。
 学校が違うという意味なのか、こころの知り合いではないという意味なのか。
 大した意味はないのかも知れないが、いつも物事をはっきりさせたがる中村にしては煮え切らない言い方なので少し引っ掛かった。

「それにしてもこころちゃんはお兄さんと仲が良いんだな。よく一緒にアニメを観てるって聞いたよ……」
「お兄さんとか言うの止めろ。マジきめえ」
「こっちだって言いたくて言ったわけじゃない。同じ苗字で紛らわしいと思ったから仕方なくだろうが!」
「うるせえよ。まず、俺の妹を『こころちゃん』なんて、デレデレと呼ぶんじゃねえ! こころと話すときは『あのー』とか『そのー』とか言ってりゃいいんだよ!」
「は、このシスコンが。そんなに妹を独り占めしたいのか? 妹相手にストーカーとは気持ち悪いこと、この上ないな」
「ストーカー上等だよ! こんなに可愛いんだ、独り占めしたいだろうが。こころは絶対嫁にやらないもんね!」
「ちょ、お兄ちゃん。恥ずかしいよ!」

 こころが顔を真っ赤にしている……。あまり嫌そうじゃないのが、マジ天使。
 俺の妹は、パッと見は少し派手で遊んでそうに見えるが、実は純粋なんだよなぁ。
 はぁ……尊いが過ぎる。実の妹は最高だぜ。

「だがな、俺だって分かってる! こころもいつかは俺の側から巣立つことを。でもそれは絶対にお前のところじゃない! それだけは断じて許さない! このムッツリーニ・ロリコン野郎!」
「誰がムッツリーニ・ロリコンだ! 無駄に実在しそうな雰囲気の名前を作るんじゃない! 第一、魔法少女好き=ロリコンって考えが安直なんだ! 自分がそうだからって、他人まで一緒だと思うなよ!」
「俺はロリコンじゃねーよ! 俺のみくるたんへの愛は憧れだから! 尊敬だから! リスペクトだから!」
「その言い訳も聞き飽きたぞ! みくるみくるって、お前はそれしか言えないのか? そもそも前からずっと言おうと思っていたがな、絶対くろみたんの方が可愛いからな!」
「はぁ~~~? 今までもお前の暴言は散々ぱら聞いて来たけどよ、その発言だけは聞き捨てならねえな。みくるたんのどこがくろみに劣ってるって?」

 一応言っておくと、俺も別にくろみが嫌いってわけじゃない。
 良いキャラだよ。可愛いし、一生懸命だし、苦労してるからちょっと捻くれてるのも分かる。
 だけどな、みくるたんはやっぱ別格なんだよ! 異次元なんだよ! 俺の心を貫いた狙撃手スナイパーなんだよ!

「魔法少女なのに何でも肉体言語で解決するところとか、野蛮過ぎるだろう?」
「背後からこそこそと、毒物と暗器で戦う暗殺魔法少女の方が余程おかしいわ!」

 第七話でくろみが繰り出した〝マジカル毒手〟を見た時には、さすがに飲んでたコーヒーを鼻から噴いたもんだ。
 知ってるか? コーヒーって鼻から噴くと痛いんだぜ。
 あと、いい香りがしばらく続く。

「――ぷ、あはははははは。ちょっと、ふたりとも白熱し過ぎ。どんだけ『みく☆ミラ』好きなの?」

 黙って俺達のやり取りを見守っていたこころが、堰を切ったように笑い始める。

「ってか、ふたりとも仲良いんだね」
「「仲良くない!」」
「でも息ピッタリじゃん?」
「「くっ」」

 ふたたび揃う俺達のリアクションに、こころはますます愉快そうに笑う。

「あたしBLとかよく分かんないんだけど……今日なんかちょっと、コツを掴んだかも?」
「BLのコツって何!?」

 ってか、お願い止めて。実の兄で目覚めるとかホント止めて。罪の意識に耐えられないから。その十字架は俺には重すぎるから。

「あはは。わたしもよく分かんないけど。何となく楽しみ方が分かった気がしただけ~」

 そう言うと、こころは何かを思い出したようにハッとする。

「そろそろ準備しないと夕飯遅くなっちゃうね。中村さんは好き嫌いとかあります? 無ければ勝手に作っちゃいますけど? あと着替えあります? パジャマとかお父さんのなら貸せますけど?」

 ん? 夕飯にパジャマ?
 俺の妹は何を言っているんだ?

「ちょっと待て、こころ。何で中村を泊めるみたいな話になってんの?」
「お兄ちゃんこそ何言ってんの? この天気で帰らせるつもり?」
「天気?」

 その言葉に外を確認すると、さっきまで快晴だった景色がいつの間にか暴風雨に変わっていた。

「うそ、お兄ちゃん本当に知らなかったの? 五十年に一度の巨大台風が来るって何度もテレビで言ってたじゃん?」

 ウソ、まじで? 全然知らなかった。
 そんなワルプルギスの夜みたいなのが近付いて来ていたなんて……。
 急いでテレビをつけると、アナウンサーが『命を守る行動を~』なんて文言を延々と繰り返している。

「あっきれた~ こんな日に友達呼ぶって言うから、てっきり家に泊めるんだと思ってたのに」
「中村、お前は知ってたのかよ?」
「当然だ」
「だったら言えよ。つか家に来るの断れよ!」

 何なのお前? そんなに俺ん家にお泊まりしたかったの?

「とにかく、中村さんは今日泊めるから。反論は認めません。嫌だったらお兄ちゃんが出て行くように」
「こんな天気で追い出されたら、お兄ちゃん死んじゃうよ!」

 こうして中村は、我が家で一夜を過ごすことになったのだった。
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