魔法少女、杉田と中村。

間一夏《GA文庫大賞・三次選考常連》

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第37話 クズだしヒモだし、ゴミだから社会に要らないだろ?②

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「…………えっと、ダレカタスケテ」
「ちょ、ダイスケーーーっ!?」

 暴走魔法少女・下野の触手によって頭を掴まれ宙づりになっているダイスケ。
 俺と中村が話している内に、ダイスケの命は面白い感じに風前の灯火と化していたのだった。


「待て、ちょっと待て。想定と違うぞ。土下座させて指の一~二本落とす方が、まだ全然マシな展開になってきてるんだけど!? 今まさに、首が一本落とされそうになってんだけど!?」
「これはこれで良いんじゃないか? ダイスケが死ねば、暴走魔法少女の溜飲も下がって、力も下がるだろッ!」
「韻踏んで上手いこと言ってんじゃねえ! ってか中村、実はお前もテンパってんだろ!」
「テンパってなどいない。このアパートに着いてから起こり得る展開、十五通りにおいてシミュレーションは済んでいる。対処方法も完璧だ。ただ……想定していた十五通り以外の展開が発生しているだけの話だ」
「だから、それをテンパってるって言うんじゃねぇの!?」

 言い争いを始める俺たちをしり目に、焦点の定まらない目をした下野が機嫌よく笑い始める。

「うへ、うへへへ。ありがとうな、見ず知らずの魔法少女ぉぉぉぉ。お前達の協力のお陰で、コイツをぶっ殺せる。そしたらシャロちゃんも、きっと真実の愛に気付いてくれるよなぁぁ」

 ダイスケの頭を掴んでいる触手に力を籠める下野。
 その表情は、ほとんど理性の残っていない気味の悪い笑顔で一杯だった。
 
「つーか、勝手に共犯にするんじゃねえ。お前に協力とかしてねえからな!」

 と叫んでは見たものの下野を止める手立てが見つからない。
 このままじゃ、本当にダイスケは殺されてしまう。
 でも、今の俺たちにはそれを止める力は……無い。

「大丈夫だ。もう計算は済んだ……」

 拳を握り締めるしかない俺の肩に、中村が手を置く。

「計算? 何の話だよ中村」

 だが中村は俺の問いには答えず、ただ真っすぐに下野の元へと歩みを進める。
 ってかまさかコイツ、この状況から、このクズ……じゃなくてダイスケを救う手を考えたとでもいうのか?
 俺の考えを証明するかのように、落ち着いた足取りで下野の隣に立つ中村。
 そして相変わらず媚びを売るような声で、下野さんに話しかけるのだった。

「落ち着いて下さい、下野さん。このままダイスケを殺しても、きっとシャロさんは真実の愛に気付けませんよ。なぜなら、彼女はまだダイスケを信じ切っているのですから。このままでは下野さんが悪者になってしまいますよ。なので、まずはシャロさんの前でダイスケの悪辣さを証明しないといけません」

「………………うおあああ。そうだぁ……でも、どうしたら……。僕は昔からぁぁ、考えるのは苦手でぇぇぇぇ。みんなに馬鹿にされて……でもシャロちゃんだけが僕に優しくしてくれて……。だから、だから僕は……彼女に全てを捧げたのに…………」

 なんか、かわいそ過ぎるぞ、下野……いや、下野さん。
 俺もこの凶悪顔のせいで色々あったから、他人事だと思えない。出来ることなら下野さんは、何の罪も犯させずに解放してあげたい。

「そこは任せてください、下野さん。俺が……いや、この魔法少女中村が上手くやってみせますから」

 おお、さっきのテンパってた時とはえらい違うな、中村。かなり自信があるらしい。
 何をやるつもりなのかはさっぱり分からないが、ここは任せてみてもいいかもしれない。

「下野さん、ダイスケに話があるんで、少しコイツの位置下げてもらってもいいですか?」

 その声に下野さんが素直に従う。
 触手に頭を掴まれたまま床に降ろされるダイスケ。その頬を、絶対零度の眼をした中村が思い切り掴み上げる。
 
「おい、ダイスケとやら。今までの話は聞いていたか?」
「ふひぃ、ふぁに? ふぁにが起こっふぇのォォォ!?」
「落ち着け、殺すぞ」
「ふぐぅ」

 イケボの魔法少女に凄まれて、歪なひょっとこ顔にされたダイスケがえぐえぐ喘ぐ。

「いいかダイスケ、お前は今から俺の言う通りにしろ。さもなくばお前は死ぬ。今死ぬ。今日死ぬ。直ぐに死ぬ。分かったな?」

 大の大人の顔面をアイアンクローしつつ、その耳元でドスを効かせる魔法少女姿の中村。
 一部の特殊性癖を持つ紳士諸君には、どストライクしそうな絵面である。

「ふぁい、ふぁかりましたぁぁぁ!」

 中村の脅しに、声にならない声を上げながら必死に頭を縦に振るダイスケ。
 さしものダイスケも、中村の脅しが冗談ではないと理解できたのだろう。
 その様子に満足したように笑みを浮かべた中村は、シャロに聞こえないくらいの声の大きさでダイスケに命を下す。

「よしいい子だ。じゃあダイスケ――――お前今すぐここで糞を漏らせ」
「ふぇ?」
「…………は?」

 驚くダイスケと同時に俺も間抜けな声を漏らしてしまう。
 って、え? 中村は何言ってんだ? うんこ漏らせ? は? へ? え?

「分からないのか? 要は、お前がそこのメイドに嫌われれば全てが丸く収まるんだよ。メイドがお前みたいなクズにベタ惚れのせいで、こんな事態になってるんだからな。それは分かるな?」
「ふぁ、ふぁい、しょれはわかりまふ」
「だから、今ここでお前は恐怖に慄きながら糞を漏らせ。そうすればメイドはお前に幻滅する。その後は、下野さんの金をギャンブルにつぎ込んだことをきっちり謝罪する。それですべてが丸く収まるんだ、それくらいは出来るだろ?」
「しょ、しょれくらいって、ウンコもらしぇなんて……しょんな……」
「それ以外に、お前の命が助かる術はない」
「で、でも、しょれは……」
「それが嫌なら、今すぐ、俺が殺してやろうか?」

「…………………ひぐ、がんばりまふ……」

 ダイスケには泣きながら頷く以外の選択肢は残されていなかった。 

 ――そして十分後、ダイスケの尊厳の喪失とともに、事件は全て丸く収まったのだった。
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