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第43話 わたしにとっては、世界一カッコイイお兄ちゃんなのっ!②
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「知ってた? お兄ちゃんの学校、廃校になるかも知れないって……」
「廃校って……一体何の話だよ?」
初耳だった。確かにここ数年は入学希望者が少ないという話を聞いたことはあった。
でも、まさかそこまで追い込まれていたなんて……。
「奏多かなたちゃんはね。中村さん――お兄さんの学校に通うのが夢だったんだって。年が離れてるから、一緒には登校出来ないけど、それでもおじいさんが創った、お兄さんが通ってる学校に絶対行くんだって、口癖のように言ってたって――」
「……中村は、そんなこと一言も……」
「だから中村さんは、どうしても学校を守りたかったんだよ。誰に恨まれても、どんな汚い手を使ってでも、学校の評判を良くして、奏多ちゃんが目を覚ましたときに、学校がちゃんと残っているようにって……それだけを考えて――」
…………あの馬鹿、そんなこと、一言だって……。
「本当に、今更だな……」
だから中村は、あんなに必死になって学校を変えようとしていたのか……。
いつ目覚めるかも分からない、妹のために……。
「中村さん、本当はお兄ちゃんが悪い人じゃないって知ってたんだよ。だから申し訳ないことをしたって、すまないって……」
「そういうことは直接言えっての……」
はは、本当にあいつ馬鹿だな……。不器用すぎるだろ。
人を頼りもしねえで、一人で抱え込んで……終いにゃ、遺言染みたもん残してサヨナラかよ。
――でも、一番の馬鹿は俺だ。
いや、馬鹿なんて生温い。
俺は、本当にクソ野郎だ……。
こころや奏多が魔法少女として戦ってた時、俺は何をやっていた?
中村が妹のために学校を守ろうと必死に戦っていた時、俺は何をやっていた?
何もしてねえ。
むしろ、中村に関しては足を引っ張ることしかしてねえ。
中村の、俺を憎むような眼の意味がやっと分かった。そりゃ仕方ねえよ。
母親が死んだ悲しみにかまけて、喧嘩ばかりして、強さアピールして、いい気になって……。
俺のせいで入学希望者減ったって、アイツ言ってたもんな……。
――全然周りが見えてなかった。
自分が一番辛いとか、一丁前に考えて……恥晒しもいいとこだ。
「それにしても、お兄ちゃんが魔法少女だなんて、笑っちゃうよね。マジキモい。今度変身して見せてよ。インスタに上げるから」
「それだけは勘弁してくれ」
「じゃ、それは勘弁してあげる。その代わり、一つだけわたしのわがまま聞いて欲しいな……」
「何だよ……?」
ニコっと笑うこころ。そして、
「わたしは――――今からお兄ちゃんを殴る!」
「へ? 何? ちょ、まて、ぎゃあああぁぁぁぁ!」
妹の右ストレートにワケも分からず吹っ飛ばされる俺。
そのまま、壁に後頭部を思い切りぶつける。
痛ってええ。
俺の妹、すっげえ力強いんだけど。遺伝? 遺伝ってマジ怖え。
「今のお兄ちゃん、ほんとカッコ悪い! うじうじ虫オーラが丸わかりだから!」
「うじうじ虫オーラって何だよ!?」
いや、うじ虫じゃなくて良かったけれども。
「うっさい! わたしは、お兄ちゃんが世界のために奏多ちゃんを犠牲にするって決めたんだったら、それを受け入れる!」
「こ、こころ?」
「でもね、無謀でも、世界を危険に晒してでも、奏多と中村さんを助けるって言うんだったら、それだって間違いじゃないと思う!」
「……何言ってんだよ、間違いじゃないわけあるか! 勝ち目なんかないんだ! ヤムチャがフリーザに戦い挑むみたいなもんなんだぞ! お前、ヤムチャに世界託せるのかよ!?」
「お兄ちゃんは、ヤムチャなんかじゃない! わたしのお兄ちゃんは、世界一カッコイイんだよ! 顔は怖いし、魔法少女マニアだし、魔法少女のエッチな漫画とか沢山持ってるけど――」
「ちょ、何でそれを知っている!?」
「けど、それでも! わたしにとっては、世界一カッコイイお兄ちゃんなのっ!」
「…………こころ……」
「なのに、今のお兄ちゃんは全然カッコよくない! どうせ勝てるわけがないとか、負けたら世界が終わるとか、後ろ向きなことばかり考えてる。そんなの私のお兄ちゃんじゃない!」
耳が痛い。全てこころの言う通りだ。
俺は……弱気に駆られて、大事なモノを見失っていたのかも知れない。
魔法少女は挫けない。
諦めない。
大切な誰かのためなら、宇宙の法則だって捻じ曲げる。
それが俺の目指したモノのだったはずだ。
なのに今の俺は何だ?
犠牲を覚悟で決断したんだって、それは仕方ない事なんだって、悲劇のヒーローぶって、俯いて……。
最初から決断が後ろ向きなんだよ、このヘタレ野郎。
諦めるにしても、無謀な戦いを挑むにしても、後ろ向きな決断じゃ駄目なんだ。倒れるなら前向きだ。背中の傷は魔法少女の恥だ。
自分で納得出来るくらい、俺は頑張ったか?
充分に考えたか?
恥かしくなるくらいに足掻いたか?
本当に目指したいゴールから目を背けるには、まだ早いんじゃないのか?
泥を啜すすって、這いつくばることになったとしても構わない。
諦めるには、まだ早いだろっ!
「……こころ?」
気付くと、こころが俺の顔を下からのぞき込んでいた。
「えへへ、早速わたしのお願い、叶っちゃったかも――」
こころの満面の笑顔が咲いた。
「お兄ちゃんはカッコイイままでいて。前だけを見ていてよ。お願いだからさ……」
「廃校って……一体何の話だよ?」
初耳だった。確かにここ数年は入学希望者が少ないという話を聞いたことはあった。
でも、まさかそこまで追い込まれていたなんて……。
「奏多かなたちゃんはね。中村さん――お兄さんの学校に通うのが夢だったんだって。年が離れてるから、一緒には登校出来ないけど、それでもおじいさんが創った、お兄さんが通ってる学校に絶対行くんだって、口癖のように言ってたって――」
「……中村は、そんなこと一言も……」
「だから中村さんは、どうしても学校を守りたかったんだよ。誰に恨まれても、どんな汚い手を使ってでも、学校の評判を良くして、奏多ちゃんが目を覚ましたときに、学校がちゃんと残っているようにって……それだけを考えて――」
…………あの馬鹿、そんなこと、一言だって……。
「本当に、今更だな……」
だから中村は、あんなに必死になって学校を変えようとしていたのか……。
いつ目覚めるかも分からない、妹のために……。
「中村さん、本当はお兄ちゃんが悪い人じゃないって知ってたんだよ。だから申し訳ないことをしたって、すまないって……」
「そういうことは直接言えっての……」
はは、本当にあいつ馬鹿だな……。不器用すぎるだろ。
人を頼りもしねえで、一人で抱え込んで……終いにゃ、遺言染みたもん残してサヨナラかよ。
――でも、一番の馬鹿は俺だ。
いや、馬鹿なんて生温い。
俺は、本当にクソ野郎だ……。
こころや奏多が魔法少女として戦ってた時、俺は何をやっていた?
中村が妹のために学校を守ろうと必死に戦っていた時、俺は何をやっていた?
何もしてねえ。
むしろ、中村に関しては足を引っ張ることしかしてねえ。
中村の、俺を憎むような眼の意味がやっと分かった。そりゃ仕方ねえよ。
母親が死んだ悲しみにかまけて、喧嘩ばかりして、強さアピールして、いい気になって……。
俺のせいで入学希望者減ったって、アイツ言ってたもんな……。
――全然周りが見えてなかった。
自分が一番辛いとか、一丁前に考えて……恥晒しもいいとこだ。
「それにしても、お兄ちゃんが魔法少女だなんて、笑っちゃうよね。マジキモい。今度変身して見せてよ。インスタに上げるから」
「それだけは勘弁してくれ」
「じゃ、それは勘弁してあげる。その代わり、一つだけわたしのわがまま聞いて欲しいな……」
「何だよ……?」
ニコっと笑うこころ。そして、
「わたしは――――今からお兄ちゃんを殴る!」
「へ? 何? ちょ、まて、ぎゃあああぁぁぁぁ!」
妹の右ストレートにワケも分からず吹っ飛ばされる俺。
そのまま、壁に後頭部を思い切りぶつける。
痛ってええ。
俺の妹、すっげえ力強いんだけど。遺伝? 遺伝ってマジ怖え。
「今のお兄ちゃん、ほんとカッコ悪い! うじうじ虫オーラが丸わかりだから!」
「うじうじ虫オーラって何だよ!?」
いや、うじ虫じゃなくて良かったけれども。
「うっさい! わたしは、お兄ちゃんが世界のために奏多ちゃんを犠牲にするって決めたんだったら、それを受け入れる!」
「こ、こころ?」
「でもね、無謀でも、世界を危険に晒してでも、奏多と中村さんを助けるって言うんだったら、それだって間違いじゃないと思う!」
「……何言ってんだよ、間違いじゃないわけあるか! 勝ち目なんかないんだ! ヤムチャがフリーザに戦い挑むみたいなもんなんだぞ! お前、ヤムチャに世界託せるのかよ!?」
「お兄ちゃんは、ヤムチャなんかじゃない! わたしのお兄ちゃんは、世界一カッコイイんだよ! 顔は怖いし、魔法少女マニアだし、魔法少女のエッチな漫画とか沢山持ってるけど――」
「ちょ、何でそれを知っている!?」
「けど、それでも! わたしにとっては、世界一カッコイイお兄ちゃんなのっ!」
「…………こころ……」
「なのに、今のお兄ちゃんは全然カッコよくない! どうせ勝てるわけがないとか、負けたら世界が終わるとか、後ろ向きなことばかり考えてる。そんなの私のお兄ちゃんじゃない!」
耳が痛い。全てこころの言う通りだ。
俺は……弱気に駆られて、大事なモノを見失っていたのかも知れない。
魔法少女は挫けない。
諦めない。
大切な誰かのためなら、宇宙の法則だって捻じ曲げる。
それが俺の目指したモノのだったはずだ。
なのに今の俺は何だ?
犠牲を覚悟で決断したんだって、それは仕方ない事なんだって、悲劇のヒーローぶって、俯いて……。
最初から決断が後ろ向きなんだよ、このヘタレ野郎。
諦めるにしても、無謀な戦いを挑むにしても、後ろ向きな決断じゃ駄目なんだ。倒れるなら前向きだ。背中の傷は魔法少女の恥だ。
自分で納得出来るくらい、俺は頑張ったか?
充分に考えたか?
恥かしくなるくらいに足掻いたか?
本当に目指したいゴールから目を背けるには、まだ早いんじゃないのか?
泥を啜すすって、這いつくばることになったとしても構わない。
諦めるには、まだ早いだろっ!
「……こころ?」
気付くと、こころが俺の顔を下からのぞき込んでいた。
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