君に春を届けたい。

ノウミ

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episode 10

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病院から帰ってきた日以降、数日経つが部活にも行ってない。


監督や、周りの友人は誘ってくれていたが、見れなかった。


僕以外の誰かが活躍する姿なんて。


あの日以降、薄汚れた感情だけが、心の中で渦巻く。


あいつが代わりにケガしていれば。

あの時に、あいつがぶつかって来なければ。

自分が出場しない以上、負ければいいんだ。


そんな事を自室にこもりながら、考えてしまう。


学校には普通に行かないといけないのに、顔も合わせたくない。

行かないと、周りに変な気を使わせてしまう。

それはそれで嫌だ。


そんな思いとは裏腹に、友人から順調に勝ち進む報告が入る。


スマホをベッドに投げつけ、うなだれる。

なんて惨めで、小さい人間なのだと。


ふと部屋の隅にバスケボールが転がっているのが目に入る。


熱心に公園のコートで練習していた日々を思い出す。


何を思ったのか、何も考えていないのか。

ボールを手に取り、シュートの構えをとる。

体に染みついている、勝手に動く。


好きなものは、そうそう忘れることはできない。


ボールの感触が、ネットに擦れるときの音が。


不思議と涙が溢れていた。

初めて感情があふれ出す。


悔しかったんだ、努力が消えた気がした。

もう運動ができないと思うほどに、絶望した。

冬の大会があるとはいえ、夏も出たかった。


「流川さんにかっこいいところ見せたかったな」


ついつい出てしまった言葉に、思わず口をふさぐ。


今、なにを言った。

なにを想った。

途端に、あの日のことを思い出し後悔する。

言い表せない感情が押し寄せる。


「謝らなきゃ」


そのことだけが、心の中に残る。
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