君に春を届けたい。

ノウミ

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episode 11

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僕は、松葉杖を脇に抱える。


ここで行かなきゃ一生後悔するかもしれない。


会えないかもしれない、でも会えるかもしれない。

ここで籠っていれば何も変わらない。

後悔を、後悔のままに終わらせられない。


今まで諦めずに練習して、レギュラーを勝ち獲ったのだ。

その僕が、諦めれるはずがなかった。


そう考えた時には、家を飛び出していた。


幸いなことに、あの病院は歩いて行けない距離では無い。

歩きなれない松葉杖に、苦戦しながらも向かう。


病院に到着した頃には汗だくになっていた。

息も荒れている、運動をしていて良かったと思う。


ここまで来たのに、いざ病院を前にすると足がすくむ。

あと一歩が踏み出せないでいる。


すると、入ろうとした病院の入り口が開く。

驚くことに、中から流川さんが出てきた。


なんの運命だろう。

会いたかった、謝りたかった。

その姿を見た瞬間に、感情が飛び出す。


「流川さん、この前はすみませんでした!!」

「へ?えっ?」


周りが少しざわついていた。


僕は、周りの声に我に返る……場所を間違えたと。


「あ、いや、その……こんな場所でごめんなさい」


ついつい、声が小さくなる。


「と、とりあえず、いつものベンチに行く?」

「え?大丈夫なんですか」

「うん、今日は調子がいいし、数日ぶりだから」


そう言われると、二人でいつもの公園に向かう。


顔から火が出るほど恥ずかしい。

先ほどは盛大にやらかしてしまった。

もっと、冷静になるべきだった。
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