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第1章 トラディショナル・ゲート
吉田家の日常
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翌朝目が覚めると暗闇ではなく吉田一家の暮らす家屋の中にいた。
「お、起きたか」
「おはよう、マミくん」
「おはよう…ございます」
「なんだぁ寝ぼけてんのか?ほら、さっさと顔洗っちまえよ」
水汲み場に案内され顔を洗う。そうしてようやくすっきりと目が覚めた。
「よし、じゃあお前には仕事を教えねぇとな」
「うちは吉田家っていう商店を営んでいるの」
「なに、簡単な仕事よ。品物を仕入れてそれを客に売ってやる。それだけさ」
「仕入れはお父さんがやってくれるから私たちが頑張って売らないとね!」
「接客の経験はあるか?」
「う…ないです」
「なんだぁ?そっちの世界じゃ便利すぎてお前みたいな若さのやつは働かないのか?」
「いや、普通に働いている人の方が多いと思います。ただ僕の場合は接客業じゃなくて…なんというか特殊な仕事をしていたんです」
「なになに?興味ある!」
「物の修理や点検なんかだよ。…でもここにあるものは専門外。何の役にも立ちそうにない…」
「そう言うなよ。経験ってのは必ず活きてくるもんだ」
「ありがとうこざいます」
「あと硬っ苦しいから敬語もやめな。お前は俺が面倒見てやるんだ。親父と思って接してくれや」
「わかり……わかったよ、銀次さん」
「おう」
「よーし、それじゃあ早速品出しをやってもらおうかな!」
それから僕は吉田家の仕事を一通り教わりここで働くことになった。
「もっと声張って!がんばれ!」
「い…いらっしゃい!」
「そうそう!」
「なんだぁ?旦那んとこにゃまだ倅がいたんかい」
「いや僕は…」
「そうだ。こいつぁちっと事情があって離れてたんだ」
「ふぅんそうかい。まぁそうだよなぁ。吉田家は人を雇わないもんなぁ」
「そうなの…?」
「………」
「んじゃあぼっちゃん、大根と人参、1つずつよろしくね」
「あ、はい」
もたもたとした手つきで指定されたものを持ってきて客に渡した。
「ははっ。まぁこれからだよ。頑張んなぁ」
「ありがとうこざいましたっ!」
背を向け手を振りながら去る客をお辞儀で見送った。
「マミくん、丁寧でいいね」
「ありがとう」
「ん、お前なら大丈夫そうだな。俺はちっと仕入れに行ってくる」
そう言うと銀次さんは荷車を引いて店を離れた。
「銀次さんは人を雇わなかったの?」
「うぅん……その話はまた今度、ね」
「あ…うん」
「じゃあお父さんが帰ってくるまでにもっと仕事を覚えて驚かせちゃおう!」
「うん!」
銀次さんが帰ってくるまでに雪乃さんに仕事を教わった。
「おう、帰ったぞ」
日が暮れる頃、銀次さんが荷車いっぱいに品を積んで帰ってきた。
「夜になるから品出しは朝やる。今日はこれで終いにしよう。おつかれさん」
「もうそんな時間なんだ」
「なんだ、足りなかったか?」
「覚えることも多かったし、それに…楽しかったから」
「ははっ!そうか。そいつぁよかった」
銀次さんは嬉しそうに笑った。
「マミくんやっぱり筋がいいよ!もう仕事覚えちゃったんだから!」
「へぇそうかい。ならこの先も安心だな」
「あの…ちょっときいてもいい?」
「なんだ?」
「銀次さんはこの店に人を雇わないってきいたんだ。なんで僕は雇ってくれたの?」
「俺が人を雇わなかった理由?」
「うん…」
「……その話は後だ。夕食にしようや」
「あ、うん」
なんでみんな教えてくれないんだろう?
「さぁみんなおつかれさま。ごはんができていますよ」
あやめさんが家の中で夕食を並べて待っていた。
「もうおなかぺこぺこだよ~。さ、食べよ食べよ」
「いただきます」
みんな揃って食卓を囲んだ。
「なぁ、マミ。さっきの話だ。俺が人を雇わない理由」
「教えてくれるの?」
「店先でする話じゃないからな。今なら話してやる」
「お願い」
「この国の話は昨日したよな?貧しく質素な生活をしている。だから中には真面目に働けなくて生活できないやつや楽したいやつが出てくるんだ」
「そういう人を雇うと仕事にならないってこと?」
「それだけならまだいいんだ…。厄介なのは他の人間全てを食い物にしようとするやつだ」
銀次さんは眉間に皺を寄せた。
「……先代の吉田家はな、そういう莫迦に燃やされたんだ」
「そんな…」
「みんな、死んだ。俺の親父もお袋も…そうして全てを奪われたんだ。やったのはうちに働きに来てた男だった。…なにもうちだけじゃない。この手の話はそこらで聞くんだ。だから最初から人を雇わない。それだけだ」
「じゃあ僕は…」
「お前はそんなことしないだろ?」
銀次さんからの信頼を感じる……。
「ここはな、やっとのことで手に入れた俺の城なんだ。ちっちぇ店だけどな、ここには死んだ親父たちの想いが全部詰まってんだ。またそれを誰かに奪われるわけにはいかねぇ。だからちっと大変でも俺はもう人は雇わないことにしたのさ」
「そうだったんだ」
「だからお前は、俺の息子だ。雇ってるわけじゃねぇ。それなら問題ねぇだろ?」
「銀次さん…」
「じゃあ私はお姉ちゃんだ!」
「あら、おっきい息子ができちゃいましたね」
2人も歓迎してくれるみたいだ。
「みんなありがとう。僕もいつまでここにいられるかわからないけど…その日までは真面目に働くよ」
「帰れなかったらいつまでもここにいればいいさ。息子としてな」
「ありがとう!」
僕は吉田家の家族としてここで生きることになった。明日も頑張るぞ!
そうして疲れた体を布団に沈め深い眠りに落ちた頃、今日もまたエトロテスの声が聞こえてきた。
「マミ……マミ…聞こえるか?私だ…エトロテスだ…」
「あ、エトロテス」
「どうだ?そっちの様子は?」
「吉田家っていうお店で働かせてもらうことになったよ」
「働く?」
「うん」
「何をやってるんだお前は!ゲートはどうした!」
「いや…ゲートの問題を解決しようにも手がかりも何も無いんだから…。住む場所ができただけでも進歩でしょ」
「む…そうだな。悪かった」
「シノちゃんは?」
「ああ、あいつの方も大丈夫そうだ。だが少し距離が遠いな」
「この世界は夜になると外出できないしね…」
「おそらく生まれた場所から離れられないようにしているんだ…謀反を防ぐための策なのだろうな」
「合流は難しそうだね…」
「各々で方法を探すのだな。安心しろ。時間がかかってもお前たちの世界の時間は進まない。おまけにお前たちは歳をとらない」
「なんかすごいチートだね…」
「お前たちは精神だけでゲートに入っているからな。その世界のお前の身体はそのゲートに造られたものだ。だからお前たちの世界のゲートでのお前たちの身体はお前たちがゲートを発現させた直前にセーブされている」
「電気ショックの時?」
「そう。しかし電気ショックを受ける前の身体がセーブされているがな。そうでなければお前たちの身体はこのポータルに来る度に甚大なダメージを受けることになるからな…」
「なんて便利な…」
「まあそんなわけで存分に時間をかけてもいいが…私が退屈なんだよなぁ」
「それは我慢してよ」
「それでは引き続き頼んだぞ」
「わかった」
エトロテスの声がしなくなった。
シノちゃんは僕とは別の場所で頑張ってる。
ひとまずは明日からまた僕も仕事を頑張って手がかりを探すしかなさそうだ。
「お、起きたか」
「おはよう、マミくん」
「おはよう…ございます」
「なんだぁ寝ぼけてんのか?ほら、さっさと顔洗っちまえよ」
水汲み場に案内され顔を洗う。そうしてようやくすっきりと目が覚めた。
「よし、じゃあお前には仕事を教えねぇとな」
「うちは吉田家っていう商店を営んでいるの」
「なに、簡単な仕事よ。品物を仕入れてそれを客に売ってやる。それだけさ」
「仕入れはお父さんがやってくれるから私たちが頑張って売らないとね!」
「接客の経験はあるか?」
「う…ないです」
「なんだぁ?そっちの世界じゃ便利すぎてお前みたいな若さのやつは働かないのか?」
「いや、普通に働いている人の方が多いと思います。ただ僕の場合は接客業じゃなくて…なんというか特殊な仕事をしていたんです」
「なになに?興味ある!」
「物の修理や点検なんかだよ。…でもここにあるものは専門外。何の役にも立ちそうにない…」
「そう言うなよ。経験ってのは必ず活きてくるもんだ」
「ありがとうこざいます」
「あと硬っ苦しいから敬語もやめな。お前は俺が面倒見てやるんだ。親父と思って接してくれや」
「わかり……わかったよ、銀次さん」
「おう」
「よーし、それじゃあ早速品出しをやってもらおうかな!」
それから僕は吉田家の仕事を一通り教わりここで働くことになった。
「もっと声張って!がんばれ!」
「い…いらっしゃい!」
「そうそう!」
「なんだぁ?旦那んとこにゃまだ倅がいたんかい」
「いや僕は…」
「そうだ。こいつぁちっと事情があって離れてたんだ」
「ふぅんそうかい。まぁそうだよなぁ。吉田家は人を雇わないもんなぁ」
「そうなの…?」
「………」
「んじゃあぼっちゃん、大根と人参、1つずつよろしくね」
「あ、はい」
もたもたとした手つきで指定されたものを持ってきて客に渡した。
「ははっ。まぁこれからだよ。頑張んなぁ」
「ありがとうこざいましたっ!」
背を向け手を振りながら去る客をお辞儀で見送った。
「マミくん、丁寧でいいね」
「ありがとう」
「ん、お前なら大丈夫そうだな。俺はちっと仕入れに行ってくる」
そう言うと銀次さんは荷車を引いて店を離れた。
「銀次さんは人を雇わなかったの?」
「うぅん……その話はまた今度、ね」
「あ…うん」
「じゃあお父さんが帰ってくるまでにもっと仕事を覚えて驚かせちゃおう!」
「うん!」
銀次さんが帰ってくるまでに雪乃さんに仕事を教わった。
「おう、帰ったぞ」
日が暮れる頃、銀次さんが荷車いっぱいに品を積んで帰ってきた。
「夜になるから品出しは朝やる。今日はこれで終いにしよう。おつかれさん」
「もうそんな時間なんだ」
「なんだ、足りなかったか?」
「覚えることも多かったし、それに…楽しかったから」
「ははっ!そうか。そいつぁよかった」
銀次さんは嬉しそうに笑った。
「マミくんやっぱり筋がいいよ!もう仕事覚えちゃったんだから!」
「へぇそうかい。ならこの先も安心だな」
「あの…ちょっときいてもいい?」
「なんだ?」
「銀次さんはこの店に人を雇わないってきいたんだ。なんで僕は雇ってくれたの?」
「俺が人を雇わなかった理由?」
「うん…」
「……その話は後だ。夕食にしようや」
「あ、うん」
なんでみんな教えてくれないんだろう?
「さぁみんなおつかれさま。ごはんができていますよ」
あやめさんが家の中で夕食を並べて待っていた。
「もうおなかぺこぺこだよ~。さ、食べよ食べよ」
「いただきます」
みんな揃って食卓を囲んだ。
「なぁ、マミ。さっきの話だ。俺が人を雇わない理由」
「教えてくれるの?」
「店先でする話じゃないからな。今なら話してやる」
「お願い」
「この国の話は昨日したよな?貧しく質素な生活をしている。だから中には真面目に働けなくて生活できないやつや楽したいやつが出てくるんだ」
「そういう人を雇うと仕事にならないってこと?」
「それだけならまだいいんだ…。厄介なのは他の人間全てを食い物にしようとするやつだ」
銀次さんは眉間に皺を寄せた。
「……先代の吉田家はな、そういう莫迦に燃やされたんだ」
「そんな…」
「みんな、死んだ。俺の親父もお袋も…そうして全てを奪われたんだ。やったのはうちに働きに来てた男だった。…なにもうちだけじゃない。この手の話はそこらで聞くんだ。だから最初から人を雇わない。それだけだ」
「じゃあ僕は…」
「お前はそんなことしないだろ?」
銀次さんからの信頼を感じる……。
「ここはな、やっとのことで手に入れた俺の城なんだ。ちっちぇ店だけどな、ここには死んだ親父たちの想いが全部詰まってんだ。またそれを誰かに奪われるわけにはいかねぇ。だからちっと大変でも俺はもう人は雇わないことにしたのさ」
「そうだったんだ」
「だからお前は、俺の息子だ。雇ってるわけじゃねぇ。それなら問題ねぇだろ?」
「銀次さん…」
「じゃあ私はお姉ちゃんだ!」
「あら、おっきい息子ができちゃいましたね」
2人も歓迎してくれるみたいだ。
「みんなありがとう。僕もいつまでここにいられるかわからないけど…その日までは真面目に働くよ」
「帰れなかったらいつまでもここにいればいいさ。息子としてな」
「ありがとう!」
僕は吉田家の家族としてここで生きることになった。明日も頑張るぞ!
そうして疲れた体を布団に沈め深い眠りに落ちた頃、今日もまたエトロテスの声が聞こえてきた。
「マミ……マミ…聞こえるか?私だ…エトロテスだ…」
「あ、エトロテス」
「どうだ?そっちの様子は?」
「吉田家っていうお店で働かせてもらうことになったよ」
「働く?」
「うん」
「何をやってるんだお前は!ゲートはどうした!」
「いや…ゲートの問題を解決しようにも手がかりも何も無いんだから…。住む場所ができただけでも進歩でしょ」
「む…そうだな。悪かった」
「シノちゃんは?」
「ああ、あいつの方も大丈夫そうだ。だが少し距離が遠いな」
「この世界は夜になると外出できないしね…」
「おそらく生まれた場所から離れられないようにしているんだ…謀反を防ぐための策なのだろうな」
「合流は難しそうだね…」
「各々で方法を探すのだな。安心しろ。時間がかかってもお前たちの世界の時間は進まない。おまけにお前たちは歳をとらない」
「なんかすごいチートだね…」
「お前たちは精神だけでゲートに入っているからな。その世界のお前の身体はそのゲートに造られたものだ。だからお前たちの世界のゲートでのお前たちの身体はお前たちがゲートを発現させた直前にセーブされている」
「電気ショックの時?」
「そう。しかし電気ショックを受ける前の身体がセーブされているがな。そうでなければお前たちの身体はこのポータルに来る度に甚大なダメージを受けることになるからな…」
「なんて便利な…」
「まあそんなわけで存分に時間をかけてもいいが…私が退屈なんだよなぁ」
「それは我慢してよ」
「それでは引き続き頼んだぞ」
「わかった」
エトロテスの声がしなくなった。
シノちゃんは僕とは別の場所で頑張ってる。
ひとまずは明日からまた僕も仕事を頑張って手がかりを探すしかなさそうだ。
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