異世界転生補佐官になったけど担当女神が幼すぎる

瀬戸森羅

文字の大きさ
7 / 245
てんせい、できるかな?

きれいきれい

しおりを挟む
 ララの作ってくれたドンドンニを平らげた俺は満腹感と幸福感で満たされていた。
「ふぅ~……いや、ドンドンニまじで美味かったな」
 腹をさすりながら先程の味を反芻する。
「ララのすぺしゃるなブレンドなの」
 ララはえへんと腰に手をあてる。
「多分お前は天才だよ」
「えへへ……」
 俺の素直な賞賛を受けて照れくさそうにしている。
「さて、んじゃちょっと風呂入ってくるわ」
 もういい時間だ。明日に備えて寝るためにも風呂に入っておかなければなるまい。
「おふろ?」
「あぁ。なにか問題でも?」
 ララがなにか言いたそうだったので一応訊いてみることにした。
「ないよ?そんなの」
 ぴしり、と空間にヒビが入る音がした。
 え、問題が、ないじゃなくてお風呂が、ないの?
「な……そ、それじゃあどうやって汚れや疲れを落としたらいいんだ……?」
 わなわなと打ち震えながら風呂ロスを嘆く。
「そこのへやはいって?」
 ララが示したのは居間から出てすぐの廊下から繋がる脱衣所つきの小部屋だ。
 その小部屋の扉は木造で、俺の知る浴室とは違い中がすっかり見えなくなっている。
 だが脱衣所と仮定したその部屋は、服を収めるカゴやタオルが置いてあるため間違いなく脱衣所なのだろう。
 つまり、この先の部屋は浴室に違いないのだ。
「お、なんだかんだ言ってカレーみたいに代わりになるなんかがあるってんだな。はは、風呂なかったらダメっすよ俺ァ」
 ウキウキとしながら服を脱ぎ捨て小部屋の扉を開ける。
 しかしそこには何も無かった。
 トイレみたいな狭さで何も置かれていない。
 床はいくらか風呂らしいタイル地に排水溝のついたものではあるが、シャワーすらない。
「え、なにこれ」
「じゃ、しめるね」
「あ、おい」
 ばたりと扉が閉められる。
「きれいきれいしましょうね~」
 ララの声が外から聞こえてくる。
「なに?これ……」
 と、いきなり頭上から大量の湯が降り注いできた。
「うぉわちゃあぁぁあぁぁあっ!!」
 温度はおそらく42度……やや熱い程度の湯だが何の準備も無しに浴びせかけられた湯は実に熱いものに感じられる。
「お、おい!なんだよこれ!」
「……」
 いまだに室内には湯が降り注ぎ続ける。
 その流水音のせいでララには俺の声が聞こえていないのかもしれない。
「だ、出せぇ!出してくれぇ!」
 扉には鍵がかかっているらしく開かない。
 扉をどんどんと叩き懇願するもララには届かない。
「あれ?でもこれ……よく考えるとシャワーだよな?」
 冷静になればこれは確かにシャワーに違いなかった。受け入れて髪や身体を擦ってみると、なんと泡がたった!
「あ~!なるほどね!」
 ひとりで納得した。不思議だがこれは石鹸の役割をもったシャワーらしい。
 擦る度に泡は出てきて上からの流水ですぐに流れていく。
 解けるように汚れも落ちていくのがわかる。
「すっげ! 魔法? 魔法なのこれ?」
 テンションが上がり水流に流されない程の速さで全身を擦り泡で包み込む。
「うおおおぉおぉぉお!俺は羊だ!めぇぇぇええええぇぇええ!」
 その時、シャワーが止まりばたりと扉が開かれる。
「な……なにいってるの……」
「あ……いや……」
 しまった。外にいたの忘れてた。
 ララは気味の悪いものを見るかのような目をして呆然と立ち尽くしている。
「なに?……ひ、つじ?」
「う、うるせェ!!」
 恥ずかしくなった俺は誤魔化すように叫ぶ。
「おにいちゃんがねっ!!」
 ララが至極真っ当な正論を返す。
 それは、まぁ、確かに……。
「わ、悪い。……続けてくれ」
 ララが無言で扉を閉めると再びシャワーが降り注ぐ。
 俺は黙ってもこもこに泡立てた泡を大人しく落として部屋から出してもらった……。


「あったまった?」
 ララがにこりと笑ってタオルを差し出しながら脱衣所で俺を迎える。
「お、ありがと。うん。あったまったよ」
 色んな意味でな。
「じゃあつぎ、あたしね!」
「待ってちょっと。あのシャワーどういう仕組みなの?」
 魔法なんて使えないから俺には再現できないぞ。
「あ、ここおせばいいんだよ」
 浴室に入る扉の隣になにやらスイッチのようなものがある。
「押すとどうなる?」
「すきなときにきれいみずがだせるようになるよ」
 きれい水……あのなんか泡立つ水のことかな。
「……ってことは俺が初めからスイッチ押して入ればよかったんじゃん」
「うん」
 あっさり言うけどこいつも浴室の前で待たなきゃならないし損しかなかったぞ。
「で、扉が開かなかったのは?」
「あたしががんばった!」
 ドヤ顔でふんぞり返る。
「ララ、お前だったのか。ずっと扉を押さえてたのは」
「うんっ!」
 ララは嬉しそうに返事をする。
「せめて説明くらいしろっての!こっちはなぁ、きれい水の使い方も知らないから浴室に入れられたルヴのように為す術なかったんだっつの!」
 文句を言いながらララの髪をわしゃわしゃとかき混ぜる。
「きゃはぁー!」
 むしろそのイジりを待ってたように嬉しそうに抵抗してくる……。
「まぁいいや。じゃあひとりで入れるんだな?」
「はいれるよ!」
 そう言ってララはすぽーんと着ていたローブを脱ぐ。
「……ばか、隠せっつの」
 ローブの下にはまだ服を着ているから良いものの、恥じらいも無い幼児の脱衣でさえ危うい昨今だ。軽はずみな行動に出ないで欲しい。
「おにいちゃんがねっ!!」
 ララが至極真っ当な正論を返す。
 それは、まぁ、確かに……。
 言われてみると俺は風呂に入ってたわけで、つまり全裸だった。
「いっけねぇ~☆」
 そう言いながら拳を頭に添えて軽く舌を出す。
 古来より伝わる伝統的な華麗で隙のない誤魔化しにより有耶無耶にしようかと思ったが、ララはズルいと言わんばかりの視線を向けていた。
 俺の完璧な誤魔化しが……通じないとは……。
「わ、悪い。……着替えるから」
 ひとまずララが着替え始める前にすぐに服を着て脱衣所から退散した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界でカイゼン

soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)  この物語は、よくある「異世界転生」ものです。  ただ ・転生時にチート能力はもらえません ・魔物退治用アイテムももらえません ・そもそも魔物退治はしません ・農業もしません ・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます  そこで主人公はなにをするのか。  改善手法を使った問題解決です。  主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。  そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。 「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」 ということになります。

異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆

八神 凪
ファンタジー
   日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。    そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。  しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。  高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。    確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。  だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。  まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。  ――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。  先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。    そして女性は信じられないことを口にする。  ここはあなたの居た世界ではない、と――  かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。  そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...