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前編
後悔
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他のアルバイトに春ちゃんのことをきくと、大抵同じ答えが返ってくる。
「うちの華だよな」
その言葉は確かな事だしそれにしても本人には全く鼻につくところがないわけだから、いつの間にか男女ともに春ちゃんは認められた存在になっていた。
「今度は私と一緒がいい」
「いいや、俺だ」
引っ張りだこの人気者。その光景にはやはり少し違和感を抱かざるを得ないとも言えた。
彼女は気に入られるための努力を怠らない。僕に対しても、同じ境遇であるような共感を見せた。本当はあのプロフィールが示すとおりの人物なのだ。部活に関しては嘘を吐けば矛盾が目立ちそうだから文芸部だということは真実に違いないが、しかしやはり文芸部にしてはアクティブな人間だろう。
彼女が人と関わるための些細な自分作りをしていることを指摘するべきかと言われたらそうではない。人によって態度を変えるのは大なり小なり誰だってやることだ。要するに、その人に溶け込む能力の高さに僕は嫉妬しているに違いないのだった。
そうであるからわざわざ彼女の矛盾や落ち度を探そうとしている。他の者たちは素直に彼女を評価しているというのに…。
おそらくだが文芸部に所属する彼女は想像力をもってそれをなしているに違いない。それが僕にできていたのならば…ついそう考えてしまう。
しかしそれはあからさまに不可能なことであり、羨むのも馬鹿げたことなのである。年齢も、性別も、性格も、境遇も、何もかもが違う。ないものねだりもここまでくると自分が情けなくなってくる。
……わかってるよ。わかってる。
僕がまだ学校に通っていた頃は、早く大人になりたかった。いつまでも続くように思えた学生生活は、終わってから振り返るとあまりにやり残したことばかりだった。
全てが終わってからでは二度と取り戻せない。
もっと勉強しておけばアルバイトではなく会社に勤められたかもしれない。
もっと自分を磨いていれば隣には僕を支えてくれるカノジョがいたかもしれない。
しかしどれだけ悔やんだところで時が巻きもどることはない。
僕にはもう戻れない場所にいる。
それだけでもあの子に憧れる理由としては十分だった。
別にあの子に色を見ているわけではない。ただ、純粋にその青春の面影の眩しさについ引き寄せられてしまうのだった。
「先輩、お疲れ様です!」
シフトの交代際春ちゃんに声をかけられた。次の時間帯の担当が春ちゃんだった。
「お疲れ。頑張ってね」
「はい!」
挨拶を終えると春ちゃんはすっと視線を流すと真っ直ぐにバックヤードへ向かった。
……意識しているのは、きっと僕だけだ。あの子にとってはただのバイト先の機嫌を取らなければならないオトナの一人。まわりの人たちからの評判がいいのもきっと僕のように舞い上がってしまうような愛想の良さを振り撒いているからに違いない。
「そりゃそうか……」
僕はもう立っている場所が違う。この子の明るさに励まされていたはずが、僕はどうにもひねくれているらしい。いつの間にかこの眩しさに刺すような痛みを感じ始めてしまっていた。
「じゃ…またね」
帰り際少し肩を落としながら挨拶をして店を去った。
その夜、春ちゃんからメールが届いた。
『先輩、今日は疲れていましたか?体調を崩さないように気をつけてください!』
……気がつく子だ。多分この子は誰に対しても愛想で同じ言葉をかけているんじゃなくて、ひとりひとりとしっかり向き合っているから愛されるんだろうな…。
僕がこの子に抱いた嫉妬や憧れは、根底から見当違いだったろう。こうしていれば…という次元ではない。益々僕は自己嫌悪に苛まれることになった。
『わかってるよそんなこと』
そんなイジワルなことを送りかけて、はっとした。八つ当たりなんて、もっと最低なことじゃないか。
『ありがとう』
全部をひっくるめてこの言葉を送った。
「うちの華だよな」
その言葉は確かな事だしそれにしても本人には全く鼻につくところがないわけだから、いつの間にか男女ともに春ちゃんは認められた存在になっていた。
「今度は私と一緒がいい」
「いいや、俺だ」
引っ張りだこの人気者。その光景にはやはり少し違和感を抱かざるを得ないとも言えた。
彼女は気に入られるための努力を怠らない。僕に対しても、同じ境遇であるような共感を見せた。本当はあのプロフィールが示すとおりの人物なのだ。部活に関しては嘘を吐けば矛盾が目立ちそうだから文芸部だということは真実に違いないが、しかしやはり文芸部にしてはアクティブな人間だろう。
彼女が人と関わるための些細な自分作りをしていることを指摘するべきかと言われたらそうではない。人によって態度を変えるのは大なり小なり誰だってやることだ。要するに、その人に溶け込む能力の高さに僕は嫉妬しているに違いないのだった。
そうであるからわざわざ彼女の矛盾や落ち度を探そうとしている。他の者たちは素直に彼女を評価しているというのに…。
おそらくだが文芸部に所属する彼女は想像力をもってそれをなしているに違いない。それが僕にできていたのならば…ついそう考えてしまう。
しかしそれはあからさまに不可能なことであり、羨むのも馬鹿げたことなのである。年齢も、性別も、性格も、境遇も、何もかもが違う。ないものねだりもここまでくると自分が情けなくなってくる。
……わかってるよ。わかってる。
僕がまだ学校に通っていた頃は、早く大人になりたかった。いつまでも続くように思えた学生生活は、終わってから振り返るとあまりにやり残したことばかりだった。
全てが終わってからでは二度と取り戻せない。
もっと勉強しておけばアルバイトではなく会社に勤められたかもしれない。
もっと自分を磨いていれば隣には僕を支えてくれるカノジョがいたかもしれない。
しかしどれだけ悔やんだところで時が巻きもどることはない。
僕にはもう戻れない場所にいる。
それだけでもあの子に憧れる理由としては十分だった。
別にあの子に色を見ているわけではない。ただ、純粋にその青春の面影の眩しさについ引き寄せられてしまうのだった。
「先輩、お疲れ様です!」
シフトの交代際春ちゃんに声をかけられた。次の時間帯の担当が春ちゃんだった。
「お疲れ。頑張ってね」
「はい!」
挨拶を終えると春ちゃんはすっと視線を流すと真っ直ぐにバックヤードへ向かった。
……意識しているのは、きっと僕だけだ。あの子にとってはただのバイト先の機嫌を取らなければならないオトナの一人。まわりの人たちからの評判がいいのもきっと僕のように舞い上がってしまうような愛想の良さを振り撒いているからに違いない。
「そりゃそうか……」
僕はもう立っている場所が違う。この子の明るさに励まされていたはずが、僕はどうにもひねくれているらしい。いつの間にかこの眩しさに刺すような痛みを感じ始めてしまっていた。
「じゃ…またね」
帰り際少し肩を落としながら挨拶をして店を去った。
その夜、春ちゃんからメールが届いた。
『先輩、今日は疲れていましたか?体調を崩さないように気をつけてください!』
……気がつく子だ。多分この子は誰に対しても愛想で同じ言葉をかけているんじゃなくて、ひとりひとりとしっかり向き合っているから愛されるんだろうな…。
僕がこの子に抱いた嫉妬や憧れは、根底から見当違いだったろう。こうしていれば…という次元ではない。益々僕は自己嫌悪に苛まれることになった。
『わかってるよそんなこと』
そんなイジワルなことを送りかけて、はっとした。八つ当たりなんて、もっと最低なことじゃないか。
『ありがとう』
全部をひっくるめてこの言葉を送った。
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