2 / 4
2.目的と行く末
しおりを挟む
遼太郎は目覚めた。
はっと起きると、目の前には見慣れた自宅の壁でも、見慣れたくもなかった会社のごったな部屋でもなく、まるで牢獄のような石の壁があり、思わず「おあっ」と野太い声を出した。
寸前まで見ていた夢に、紙くずのように崩れ落ちた老人が、くしゃくしゃの顔でにやけた笑みを向けていた。暗闇のなか、目と歯だけが浮かび上がり、遼太郎に「なぜ男なんだ」と繰り返し責めていた。何度も何度も。
「なぜこっちを選んだんだ?」「なぜミスしたんだ?」「なぜ地元を出て東京の大学へ行ったの?」
なぜなぜなぜ。責めるときによく使われる言葉である。
理由を説明させるという陰険な責め句は、毎日聞くというより浴びるというレベルで耳にした。「すみません」「申し訳ありません」それしか言えない、いや返してはいけないのである。説明とはつまり言い訳であり、責める方はそんなものを期待していない。ただ「無能」「死ね」の言い換えとして疑問文にしているだけでしかないのだから。
「名前は?」
背後から声が聞こえて、はっとした。
遼太郎はベッドから起き上がり、声のする方を見た。カイルが木製の椅子に座ってじっとこちらを見ている。
そしてその背後に部屋の全貌がよく見えた。昨夜は真っ暗なうえに、眠気で観察するどころではなかったから、興味津々に見渡した。が、じっくり観察するほどのものは何も見当たらず、ベッドとカイルの座る椅子、そして身長より高いチェストがあるだけだった。
「……名前は?」
「藤堂遼太郎です」
「トードー?」
「三十二歳、HCソフトのシステムエンジニア、独身です」
質問はされるより、させて欲しい。遼太郎は先手を取って情報を伝えてしまい、自分のペースへ持っていこうとした。
「……何を言ってるんだ?」
「聞きたいのはこちらです。ここはどこで、俺はなぜここにいるんです……か」
しかし、遼太郎の先手はくじかれた。静かな部屋には、声よりも大きくぐうぐうと腹の虫が鳴り響いた。それは恥ずかしいことに、遼太郎の腹から発せられていた。
「……説明は、食事をとりながらにしよう」
カイルは言うと立ち上がり、ダイニングへと案内してくれた。
テーブルには既に朝食が並べてあり、それは、黒パンとお茶、そして水っ気の欠片もないチーズだった。衣服は貴族のそれなのに、大層貧弱な料理である。
「遠慮せず食べろ」
「……ありがとうございます」
およそ食欲をそそるとは言えない代物だったが、空腹は生きたネズミでも食いたいほどだったため、遼太郎はがつがつと腹に詰め込んだ。
量はたっぷりとある。たらふく食えるが、バターもなく、もそもそと堅い黒パンに、飲み込みづらいチーズと味気ない紅茶は、腹をふくらませるより先に舌を飽きさせた。
「もういいのか?」
「ええ」
遼太郎が答えた瞬間、腹がぐうと鳴った。ぎくりとし、この音は食料が胃に運ばれて、活動を開始したがゆえだと示すべく「あー、お腹いっぱい」と空ごとを言いながら、お茶に口をつけた。
「であれば、事情を説明させてもらう」
口元をナフキンで拭ったカイルが、神妙な顔つきで姿勢を正した。
「トードーを召喚した目的なんだが……弟を誘惑してもらうことだった」
「……誘惑?」
冗談だろう、そう思った。弟と言うからには男である。それでなぜ同性を召喚するのか意味がわからない。
昨夜もそのようなことを言っていた覚えはあるが、他に目的があるはずだ。そうに違いないと期待をし、カイルが続けてくれるのを待った。
「そうだ。傾国するほど弟を溺れさせる者を、と依頼した……しかし、召喚魔法の使えるアルデーヌは死んでしまった」
遼太郎の脳裏に、紙くずとなった老人が頭に浮かび、そして死体がどうなったのかがふと気になった。
「この国で召喚魔法を使える者は限られている。俺が依頼できる魔道士は、アルデーヌしかいなかった」
カイルが一人で処理したのだろうか。処理って言い方はないよな。埋葬と言うんだ。などと、余所事を考えつつ、ぞっとすることを耳に入れないようにした。
「……他に呼び出すことはできない。だから、おまえにその任を負って欲しい」
いやいや何でだよ。
召喚だの魔道士だのとまるでファンタジーの世界である。
中世のような身なりと、欧州的相貌のカイル、そして怪しげな、いや古ぼけた邸を見るに、アニメや漫画でよくある異世界へ召喚されたのではと、否が応にも考えさせられる。
まさか自分の身にもそんな夢のような出来事が起きるなんてと驚くものの、そんな感慨にふけっている場合ではない。
異世界へ来たとして、いきなり召喚されたうえに、知らぬ男を誘惑しろと言われて、はあそうですかと納得し、じゃあやりますだなどと承諾するやつがいるか?
遼太郎は冗談じゃないと憤慨し、「ごちそうさまでした」と言って立ち上がり、「帰ります」とつぶやきながら部屋のドアへと向かった。
「そう、帰りたいなら、俺の要望どおりにするしかない」
ドアノブに手をかけて、遼太郎は足を止めた。振り向き、窓の光を背にしたカイルの、その冗談ではなさそうな顔を見て、その場にへたり込みそうになった。
「……それは、つまり、……」
「召喚された者が元の世界へ戻るためには、召喚の目的を果たすことが条件となる」
いや、横暴過ぎるだろ。上司のパワハラなんて幼児のデコピンほどのレベルだと言えるくらいの無理強いだ。
「……めちゃくちゃじゃん」
「ああ。アルデーヌは老衰で死んだようだった。もう意識も魔力も薄れていたのだろう」
「そんやつに召喚させんなよ」
「……それは、確かに俺が悪い。申し訳なかった」
心からの謝罪を見せるカイルの様子から、無理強いをするつもりはないらしいと見て取り、ほっとした。が、それもつかの間、遼太郎は青ざめた。
「待て。そうなると、もしかして、俺は一生この世界にいなきゃならないとか、そういう……」
「……そうだ。しかも俺は追放された身だから、金はまったくない。しばらくしたのちに収入のあてを探らねばならない」
「収入のあてって、仕事ってこと?」
「……俺一人なら、このおんぼろ邸でこの程度の食事をとるくらいの金はある。しかし、男二人となると、十分ではない」
「え、てことは俺は追い出されるわけ?」
「そんなことはしない。おまえを召喚した責任はとる」
「え……じゃあ働くってカイルも? どんな仕事をするんだ?」
「……農地へ行くか、狩りでもして売るか……追放されているため王都へは入れないし、役所なんかの仕事は不可能だ。それに元王太子を使用人として雇う者もいないだろう」
「え、カイルって王太子なのか?」
「そうだ。弟が謀反を起こし、まったく身に覚えのない咎で有罪判決を受け、そして追放の身となった」
「……まじかよ」
王太子であったことを聞いて、遼太郎はまじまじとカイルを見た。
端正な顔立ちは、確かに凛々しくも見えるし、豪奢な衣服を違和感もなく着こなし、カップを手に取る所作も気品に溢れている。
国を背負う立場だったと知り、なんだか急に無礼な態度を取りづらくなり、遼太郎は居住まいを正した。
すると、ふっと笑みをこぼしたカイルは「おいおい」と呆れ声をあげた。
「元だと言っただろう。つまり今は王太子でもなんでもない」
元王太子。それでも十分というか、血と育ちが違うのだから、こんなボロ家にいる人間ではないことには変わりない。
「その、身に覚えのない咎って何なんだ?」
「ああ。……国庫の横領と私的な役職の人選、並びに弟の命を狙った咎だ」
「それ以上ないってくらい揃ってるな」
「ああ。弟は生まれつき魔術の才があったのだが、魔術は魔道士として身を捧げない限り極めることは難しいものでな。わずかな訓練時間を幻惑という術一点に絞って鍛えあげたらしい」
「幻術……」
「家臣連中は証拠もないのに弟の言い分を頭から信じきり、俺に対してはいっさいの聞く耳を持ってくれなかった」
幻術って、つまりは詐術と変わらない。そんなことで兄を追い落として満足なのだろうか。そんな人間が国王となるこの国は大丈夫なのか?と、本日何度目かの怖気を走らせながら遼太郎は思った。
「それに誘惑とやらがどう関わってくるんだ?」
「精を放出すると魔力は奪われる。幻術をかけ続けているだけでもかなりの無理をしているはずだから、精力を使わせれば解けると考えた」
「……なるほど」
「幻術にかからぬ状態であいつを国王と認めるならば聞き届けるべきだが……そうではないのだから、納得ができない」
「だったら、王妃とか妾とか、よく知らないけど、いずれ精力旺盛になる時がくるんじゃないか?」
「ああ。しかし、王位を継ぐその日まではどんな誘惑もはねのけると思う」
カイルの言い分に納得はした。納得はしたが、だとしてやはり承諾はできない。となると、遼太郎はこの世界からは出られず、働かざるは生きていけないことになる。
元の世界に対する未練はそんなになかった。戻れないと聞いても「ああ、そうか」程度で、意外にもすんなりと飲み込むことができた。
しかし、見知らぬ異世界で、また社畜のごとく働かなければならないというのは、ちょっと嫌だった。
「あのさ……」
なので、遼太郎はカイルに聞いてみることにした。
召喚の目的はどこまでの範囲を指し示すのか。誘惑せずとも、もし王位をカイルに戻せたら、元の世界へ帰れるのか。もしだめでも、謝礼くらいはいただけるのかと。
「元の世界へ帰れるかどうかは、そのときにならなければわからない。しかし、もし俺が王位に就いたら、いや王都へ戻ることができたならば、その場合でも、おまえの生活に関しては生涯補償しよう」
召喚なんて振る舞いは横暴でも、責任感はあるらしい。
しかして約束してくれるというなら、やってみる価値はある。
そう考えた遼太郎は、覚悟を決め、カイルに提案してみることにした。
「だったらさ、俺ら二人で謀反返しってものをやってみないか?」
はっと起きると、目の前には見慣れた自宅の壁でも、見慣れたくもなかった会社のごったな部屋でもなく、まるで牢獄のような石の壁があり、思わず「おあっ」と野太い声を出した。
寸前まで見ていた夢に、紙くずのように崩れ落ちた老人が、くしゃくしゃの顔でにやけた笑みを向けていた。暗闇のなか、目と歯だけが浮かび上がり、遼太郎に「なぜ男なんだ」と繰り返し責めていた。何度も何度も。
「なぜこっちを選んだんだ?」「なぜミスしたんだ?」「なぜ地元を出て東京の大学へ行ったの?」
なぜなぜなぜ。責めるときによく使われる言葉である。
理由を説明させるという陰険な責め句は、毎日聞くというより浴びるというレベルで耳にした。「すみません」「申し訳ありません」それしか言えない、いや返してはいけないのである。説明とはつまり言い訳であり、責める方はそんなものを期待していない。ただ「無能」「死ね」の言い換えとして疑問文にしているだけでしかないのだから。
「名前は?」
背後から声が聞こえて、はっとした。
遼太郎はベッドから起き上がり、声のする方を見た。カイルが木製の椅子に座ってじっとこちらを見ている。
そしてその背後に部屋の全貌がよく見えた。昨夜は真っ暗なうえに、眠気で観察するどころではなかったから、興味津々に見渡した。が、じっくり観察するほどのものは何も見当たらず、ベッドとカイルの座る椅子、そして身長より高いチェストがあるだけだった。
「……名前は?」
「藤堂遼太郎です」
「トードー?」
「三十二歳、HCソフトのシステムエンジニア、独身です」
質問はされるより、させて欲しい。遼太郎は先手を取って情報を伝えてしまい、自分のペースへ持っていこうとした。
「……何を言ってるんだ?」
「聞きたいのはこちらです。ここはどこで、俺はなぜここにいるんです……か」
しかし、遼太郎の先手はくじかれた。静かな部屋には、声よりも大きくぐうぐうと腹の虫が鳴り響いた。それは恥ずかしいことに、遼太郎の腹から発せられていた。
「……説明は、食事をとりながらにしよう」
カイルは言うと立ち上がり、ダイニングへと案内してくれた。
テーブルには既に朝食が並べてあり、それは、黒パンとお茶、そして水っ気の欠片もないチーズだった。衣服は貴族のそれなのに、大層貧弱な料理である。
「遠慮せず食べろ」
「……ありがとうございます」
およそ食欲をそそるとは言えない代物だったが、空腹は生きたネズミでも食いたいほどだったため、遼太郎はがつがつと腹に詰め込んだ。
量はたっぷりとある。たらふく食えるが、バターもなく、もそもそと堅い黒パンに、飲み込みづらいチーズと味気ない紅茶は、腹をふくらませるより先に舌を飽きさせた。
「もういいのか?」
「ええ」
遼太郎が答えた瞬間、腹がぐうと鳴った。ぎくりとし、この音は食料が胃に運ばれて、活動を開始したがゆえだと示すべく「あー、お腹いっぱい」と空ごとを言いながら、お茶に口をつけた。
「であれば、事情を説明させてもらう」
口元をナフキンで拭ったカイルが、神妙な顔つきで姿勢を正した。
「トードーを召喚した目的なんだが……弟を誘惑してもらうことだった」
「……誘惑?」
冗談だろう、そう思った。弟と言うからには男である。それでなぜ同性を召喚するのか意味がわからない。
昨夜もそのようなことを言っていた覚えはあるが、他に目的があるはずだ。そうに違いないと期待をし、カイルが続けてくれるのを待った。
「そうだ。傾国するほど弟を溺れさせる者を、と依頼した……しかし、召喚魔法の使えるアルデーヌは死んでしまった」
遼太郎の脳裏に、紙くずとなった老人が頭に浮かび、そして死体がどうなったのかがふと気になった。
「この国で召喚魔法を使える者は限られている。俺が依頼できる魔道士は、アルデーヌしかいなかった」
カイルが一人で処理したのだろうか。処理って言い方はないよな。埋葬と言うんだ。などと、余所事を考えつつ、ぞっとすることを耳に入れないようにした。
「……他に呼び出すことはできない。だから、おまえにその任を負って欲しい」
いやいや何でだよ。
召喚だの魔道士だのとまるでファンタジーの世界である。
中世のような身なりと、欧州的相貌のカイル、そして怪しげな、いや古ぼけた邸を見るに、アニメや漫画でよくある異世界へ召喚されたのではと、否が応にも考えさせられる。
まさか自分の身にもそんな夢のような出来事が起きるなんてと驚くものの、そんな感慨にふけっている場合ではない。
異世界へ来たとして、いきなり召喚されたうえに、知らぬ男を誘惑しろと言われて、はあそうですかと納得し、じゃあやりますだなどと承諾するやつがいるか?
遼太郎は冗談じゃないと憤慨し、「ごちそうさまでした」と言って立ち上がり、「帰ります」とつぶやきながら部屋のドアへと向かった。
「そう、帰りたいなら、俺の要望どおりにするしかない」
ドアノブに手をかけて、遼太郎は足を止めた。振り向き、窓の光を背にしたカイルの、その冗談ではなさそうな顔を見て、その場にへたり込みそうになった。
「……それは、つまり、……」
「召喚された者が元の世界へ戻るためには、召喚の目的を果たすことが条件となる」
いや、横暴過ぎるだろ。上司のパワハラなんて幼児のデコピンほどのレベルだと言えるくらいの無理強いだ。
「……めちゃくちゃじゃん」
「ああ。アルデーヌは老衰で死んだようだった。もう意識も魔力も薄れていたのだろう」
「そんやつに召喚させんなよ」
「……それは、確かに俺が悪い。申し訳なかった」
心からの謝罪を見せるカイルの様子から、無理強いをするつもりはないらしいと見て取り、ほっとした。が、それもつかの間、遼太郎は青ざめた。
「待て。そうなると、もしかして、俺は一生この世界にいなきゃならないとか、そういう……」
「……そうだ。しかも俺は追放された身だから、金はまったくない。しばらくしたのちに収入のあてを探らねばならない」
「収入のあてって、仕事ってこと?」
「……俺一人なら、このおんぼろ邸でこの程度の食事をとるくらいの金はある。しかし、男二人となると、十分ではない」
「え、てことは俺は追い出されるわけ?」
「そんなことはしない。おまえを召喚した責任はとる」
「え……じゃあ働くってカイルも? どんな仕事をするんだ?」
「……農地へ行くか、狩りでもして売るか……追放されているため王都へは入れないし、役所なんかの仕事は不可能だ。それに元王太子を使用人として雇う者もいないだろう」
「え、カイルって王太子なのか?」
「そうだ。弟が謀反を起こし、まったく身に覚えのない咎で有罪判決を受け、そして追放の身となった」
「……まじかよ」
王太子であったことを聞いて、遼太郎はまじまじとカイルを見た。
端正な顔立ちは、確かに凛々しくも見えるし、豪奢な衣服を違和感もなく着こなし、カップを手に取る所作も気品に溢れている。
国を背負う立場だったと知り、なんだか急に無礼な態度を取りづらくなり、遼太郎は居住まいを正した。
すると、ふっと笑みをこぼしたカイルは「おいおい」と呆れ声をあげた。
「元だと言っただろう。つまり今は王太子でもなんでもない」
元王太子。それでも十分というか、血と育ちが違うのだから、こんなボロ家にいる人間ではないことには変わりない。
「その、身に覚えのない咎って何なんだ?」
「ああ。……国庫の横領と私的な役職の人選、並びに弟の命を狙った咎だ」
「それ以上ないってくらい揃ってるな」
「ああ。弟は生まれつき魔術の才があったのだが、魔術は魔道士として身を捧げない限り極めることは難しいものでな。わずかな訓練時間を幻惑という術一点に絞って鍛えあげたらしい」
「幻術……」
「家臣連中は証拠もないのに弟の言い分を頭から信じきり、俺に対してはいっさいの聞く耳を持ってくれなかった」
幻術って、つまりは詐術と変わらない。そんなことで兄を追い落として満足なのだろうか。そんな人間が国王となるこの国は大丈夫なのか?と、本日何度目かの怖気を走らせながら遼太郎は思った。
「それに誘惑とやらがどう関わってくるんだ?」
「精を放出すると魔力は奪われる。幻術をかけ続けているだけでもかなりの無理をしているはずだから、精力を使わせれば解けると考えた」
「……なるほど」
「幻術にかからぬ状態であいつを国王と認めるならば聞き届けるべきだが……そうではないのだから、納得ができない」
「だったら、王妃とか妾とか、よく知らないけど、いずれ精力旺盛になる時がくるんじゃないか?」
「ああ。しかし、王位を継ぐその日まではどんな誘惑もはねのけると思う」
カイルの言い分に納得はした。納得はしたが、だとしてやはり承諾はできない。となると、遼太郎はこの世界からは出られず、働かざるは生きていけないことになる。
元の世界に対する未練はそんなになかった。戻れないと聞いても「ああ、そうか」程度で、意外にもすんなりと飲み込むことができた。
しかし、見知らぬ異世界で、また社畜のごとく働かなければならないというのは、ちょっと嫌だった。
「あのさ……」
なので、遼太郎はカイルに聞いてみることにした。
召喚の目的はどこまでの範囲を指し示すのか。誘惑せずとも、もし王位をカイルに戻せたら、元の世界へ帰れるのか。もしだめでも、謝礼くらいはいただけるのかと。
「元の世界へ帰れるかどうかは、そのときにならなければわからない。しかし、もし俺が王位に就いたら、いや王都へ戻ることができたならば、その場合でも、おまえの生活に関しては生涯補償しよう」
召喚なんて振る舞いは横暴でも、責任感はあるらしい。
しかして約束してくれるというなら、やってみる価値はある。
そう考えた遼太郎は、覚悟を決め、カイルに提案してみることにした。
「だったらさ、俺ら二人で謀反返しってものをやってみないか?」
31
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。
鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。
死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。
君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる