ゲームの犯人に転生したらサイコパス化した王子に溺愛された

七天八狂

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10.逃げられない理由

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 異世界転生万歳。
 チートってつまりこういうことなんだ。
 俺は命からがら殺意を回避し、見知った世界への転生というあり得ない状況を有効活用していた。

「へえ。おまえの言うようにゴムを車輪に巻き付けるだけで、振動が軽減されるな」

 ゴムの話から派生してタイヤの概念を伝えたところ、イリスは大層お気に召した様子だった。

「他にも用途があります。ボールのように空気を入れると水に浮かびますから、人を支えることもできます」

 今度は紙に浮き輪の絵を描いて見せると、イリスは感心した様子でため息をついた。

「おまえは本当に面白いやつだな……殺さなくてよかったよ。後悔することなんて滅多にないけど、今回ばかりはあのまま殺してたら後悔することになってたかも」

 スリルのある遊びと考えて思いつく限りをまくし立てたあと、俺はあらゆるアイデアや概念をイリスに伝えた。
 前世は研究者だった、ってわけじゃない。推理オタクってだけのサラリーマンでしかなく、大学ものんべんだらりと過ごして卒業しただけで、知識なんてろくにない。
 ただ、イリスは違う。さすが次期国王であり、国最高の頭脳を持っているだけある。思っていた以上に頭の回転の早い男だった。構造やらの詳細を話さずとも、アイデアだけで勝手に理解を広げてくれるのだ。むしろ思考に耽ることが面白いとばかりに、俺の話を聞いてあれこれ想像していくのを楽しんでいた。
 こうなったら命の保証はされたも同然だ。
 イリスに殺意なんてすでにない……いまのところはだが、いつ逃げてもいいような状況だ。逃げたとしても、暗殺未遂など証拠もなければ誰も知らないうえに、俺のような従者に危害を加えようとする者は、イリス以外にいない。
 知識が有用ということもわかった。国内随一の頭脳を唸らせているのだから、裕福な貴族のもとへでも行って雇ってもらえれば、自活の道くらい十分に立つだろう。
 それなのに、俺はいまだにここにいる。なぜかイリスのそばから離れず、相変わらず従者の仕事を続けながら、四六時中そばに居続けている。
 なぜ逃げないのか。
 このサイコパスから──

「……おいで、クリステル」
 
 大臣たちが執務室を出ていった途端にイリスから抱き寄せられ、熱烈に口づけられた。
 
「ん……イリス様、レンネゴード宰相と会食されるはずでは……」

 イリスは飽くことなく毎晩のように俺を抱く。ナイフはなしで、初めてのときのようにただ快楽だけを与えてくれる。
 
「予定は俺が決める……はあっ、クリステル……」

 キスが深くなり、腰に回った手がシャツの中に入ってくる。肌をなぞられて乳首をつままれると、俺のスイッチも入ってしまう。

「……イリス様」

 夜のベッドのうえ以外に、真っ昼間の執務室という状況も少ないながらある。数分前まで大臣たちが座っていたソファに押し倒され、服を乱されながら香油を垂らされると、バブロフの犬みたいに俺の性器は芯を持ってくる。
 
「気持ちいい? 解さなくてもいけるよね?」

 後ろに手が回ると、それだけでイリスの熱くて硬いものを迎え入れようとひくついてしまう。俺の身体はイリスによって、すっかり淫乱仕様になってしまった。

「はあっ、あっ」

 最後に迎え入れたのは目覚めたときだ。つまりまだ半日も経っていないわけで、イリスの言うように準備など不要とばかりに蕩けてしまっている。イリスのほうもいつの間に濡れていたのか、すでにそそり立ち、ずぶずぶと簡単に俺の中へと入ってきた。

「ん……締まる……たまらないな。……いつやっても初めてのときみたい」

 苦悶の顔で俺のうえに被さってきたイリスは、奥までいれると抱きしめてきた。キスをして、露出した肌をさわさわとなぞる。馴染むまで待ってくれている優しさからは、あの猟奇的な殺意など欠片も感じられない。

「入れてるだけでも気持ちいいね」

 ちゅっと鼻頭に口づけられ、目の前にある興奮した笑みを見て、かーっと顔が熱くなる。

「気持ち、いい……です」

 素直に答えると、イリスはにっこりと笑みを浮かべ、ゆっくりと動き出した。
 繋がったところから卑猥な音が響き始め、肌のあたる感触にぞくぞくとする。イリスから与えられる快楽に慣れきった身体は、すぐにでも火がついて、全身でイリスを求め始めてしまう。

「……はあっ、あっ、あっ」
「いい声……好きだよクリステル……もっと鳴いて」
「はい……はあっ、イリス様、気持ちい……」
「気持ちいいね。かわいいよクリステル……」

 興奮した声で揺すぶられて、俺も甘い声を止められない。イリスの太くて大きな性器が奥を突き、かりがこすれると甘い痺れが全身を襲う。貪るようなキスに応えて俺のほうもイリスにしがみつき、吸い付き返すとバカみたいに気持ちがいい。
 気持ちよすぎて死にそうなほど、溺れていく。

「はあっ、……はあっ、いきそう」
「……もう? クリステルは感じやすいね」
「あっ、あっ、申し訳ございません……」
「いいんだよ。嬉しい」

 ぎゅーっと抱きしめられ、突き上げる動きが増していく。声が止められず、快楽にむせぶあまり目からは涙が出てくる。

「あっ、あっ、イリス様……だめ、……やあっ、も、いく……」

 強く打ち付けられて、耐えきれなくなった俺はイリスのものを締め付けながら快楽の海に沈んだ。白濁が飛び散り、イリスはびくっと身体を震わせて動きをとめた。

「ああ、もう……」

 うめくような声とともに中でイリスの性器が膨らみ、どろっとしたものが注がれた。

「あっ、熱い……んんっ……動かないで」

 残滓を搾り取るよう動かれて、いった直後の身体はびくびくと快楽の名残を拾ってしまう。

「はあっ、こんなに早く出させるなんて、悪い子だな」

 荒く呼吸をするイリスは、微笑みながら俺を甘く睨みつけ、まだも腰を揺さぶってきた。

「あっ、だめです……あっ、んっ」
「だめなのはクリステルだよ……こんなんじゃ足りない……おまえの身体は抱くほど欲しくなるんだから……はあっ」
 
 敏感になっているというのに二回戦目に突入されては、頭がもっとバカになる。バカになるくらい感じてやばい。

「あっ、あっ、だめっ、イリス様……」
「はあっ、かわいい……もっと呼んで。その声好き……かわいいクリステル……」
  
 なぜイリスから逃げないのか。
 簡単に言えば、イリスとのセックスに溺れてしまっているのが理由だった。
 思春期の猿みたいに抱かれて、抱かれまくって、満たされてしまっているからだ。ナイフを持ち出すこともなく、ただただ愛おしむように抱かれて、殺意を向けられたことを忘れかけているせいもある。イリスは俺を殺すには惜しいと言っていたように、単に快楽だけを与えてくれているのだ。
 俺はただ気持ちいいだけの日々に溺れ、手放すのが惜しくなってしまった。
 クリステルのときは性欲なんて概念すらなかった。機械のように従順に日々過ごしていただけだった。前世でも童貞で、確か三十過ぎまで生きていたのだが、生まれて初めて与えられた快楽に、夢中になってしまった。
 離れたら失ってしまう。
 その恐れから、相手がサイコパスだと理解しながらも、離れられなくなってしまった。

「イリス様……」
「なに?」
「……好きです……抱いていただくのが」
「うん。俺も好きだよ。おまえは他と違ってまったく飽きない。一人で十分なことに自分で驚いてるよ。いつでも好きなときに抱けるし、嫌がらないし、面倒もないから楽でいい」

 要は雛鳥みたいなものなんだと思う。生まれたときに初めて見た相手を親と思い込むように、懐いてしまったのだ。
 現にイリスのことしか考えられなくなっている。
 以前のクリステルとしての俺も、イリスのことだけを見続けていた。ウルヤナとは、記憶を取り戻したあと一度も会っておらず、イリスのいないときに他の誰かと会う機会はまったくない。寝るときもイリスと一緒で、四六時中離れないからだが、現状俺の世界にはイリスしかいないのだ。
 まるで、イリスに閉じ込められてしまったかのように、このサイコパスだけの世界に囚われている。

「どこ行くの?」

 二回戦目を終えたあと、のんびりと会議室へ向かったイリスは、レンネゴード宰相とかち合って面食らった顔をした。
 
「申し訳ございません。イリス殿下をお待ちしておりましたが、陛下とのお約束の時間になってしまいまして」
「父上との約束?」
「……ええ。イリス様のご提案から様々な製品を試作させておりますが、その現状を陛下がお耳に入れられたようで、ご説明するよう申し付けられたのであります」
「ああ……」
「イリス様にもご同行をお願いするつもりでいたのですが、ご説明を差し上げる前に時間が来てまいりまして……」
「そうか。……わかった、行くよ」

 ご機嫌な様子のイリスは鷹揚に了承し、レンネゴード宰相と国王の執務室へ向かい出した。
 二人は真剣な顔つきで話しながら遠ざかっていく。背中を見ながら、俺はそわそわとして不安に駆られていた。
 俺はどうすればいいのだろう。普段は従者としてイリスの後ろにくっついているが、国王のもとへ行くとなると話は別だ。危機管理上、息子の従者といえど入室は許されない。
 雛鳥のごとくとなった俺は、どうやらイリスと離れることに不安を覚えるようになったらしい。
 なんてことだ。自活すべくと考えていたのに、こんな状態じゃ城を出ることすらままならない。裕福な貴族に知識を売るといっても、イリス以外の人間と会わないでいるんじゃ、情報すら得られない。

「あ、クリステルは俺の部屋にいて。好きに過ごしていていいよ」

 後ろ手にひらひらと振られながら言われて、はっと意識を戻した。

「承知いたしました」

 背中に向かって頭を下げ、イリスたちとは逆方向へとぎくしゃく歩き出した。
 このままじゃやばい。なんとかしなければ。誰か、イリス以外なら誰でもいい。他の人間と接触して、世界を広げていかなければまずいことになる。現状はただの性奴隷だ。いつか殺されるストックとして、日々の性欲を満たすだけの存在。
 考えると最悪過ぎないか? やばいっつーか、尊厳がまるでない。
 青ざめつつイリスの部屋まで戻ってきた俺は、ドアの前に立つ陰を見て、足を止めた。

「イリス様でしたら、国王陛下の執務室へ行かれました」

 アウレリウスとバルテルスという揃い踏みに、聞かれる前にと声をかけた。

「ああ、そうか。わかった」

 がっかりと言った様子もなく肩をすくめただけで、二人は踵を返した。

「お待ち下さい」

 あいつらは攻略対象者だ。思い出した瞬間、考えなしに俺は呼び止めていた。振り返ったアウレリウスたちは、不快がるでもなく「なに?」と言うような目を向けてきた。イリスに対して苛立ちを向けていた彼らだが、基本は違う。普通にいい人、というか乙女ゲームの相手なので、普通以上に好ましい人物なのだ。

「イリス様は、どなたかがいらっしゃたら部屋でお待ちいただくようにとわたしに申し付けられました」
「国王陛下とご一緒されているんじゃないのか?」
「ええ。ですが、すぐに戻られるから、お待ちいただくようにと」

 ふうんと言いながら、アウレリウスとバルテルスは戻ってきた。

「じゃ、また来るのも面倒だから待たせてもらおうかな」
 
 よっしゃあ!と心の中でガッツポーズをし、鍵を開けて招き入れた。
 勝手すぎる振る舞いだが、知ったことか。
 この世界でイリス以外に知った人物はいた。忘れていたが、思い出した。攻略対象者である彼らのことは、よくよく知っている。ゲーム冒頭で殺されるイリスよりも多くのことを。そして、サイコパスとは対局にある人物であるということも間違いなく断言できる。
 命はイリスの手に握られている現状かもしれないが、人生は別だ。イリスといても拓けない人生は、彼らのほうに道がある。
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