抱かれたいアルファの憂鬱なる辞令

七天八狂

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第一章 憂鬱なる辞令

3.一夜限りの情事②

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「俺なんかじゃ、満足できないと思うけど」

 苦しげな声が聞こえてきて、俺はふるふると首を振った。

「しないわけない……初めてなんだし」

 早く味わわせてくれとの思いで、俺は自分から腰を沈めた。えっ?と驚く声がして、次に苦痛を感じたようなうめき声が聞こえてくる。声は男ではなく、俺が発したのかもしれない。解したのにきつくて痛くて、初めて味わう感触は、違和感しか感じられない。
 これ以上は無理。ビビって途中で腰を止めると、男はぐいと性器を突き立ててきた。

「あっ、ちょっ」

 止めたのに、ずるずると入ってくる。圧迫感がひどくて、苦しい。

「ごめん……痛い?」

 痛い。けど、言ったら終わりな気がした。せっかく応えてくれたのに、あんな真似までしたのに、念願成就まであと少しなのに。
 男の肩に額をつけて痛みを逃がしていると、いきなり性器に刺激が襲ってきた。

「なに……あっ、なにやってん……んっ」

 先走りの出ていた性器を優しく上下されて、ぞわぞわとした快感が貫く。萎えかけていたのに硬く膨らみ、身体の力が抜けていく。
 なぜともわからぬまま気持ちよさに身を委ねていると、こころなしか痛みや圧迫感が薄れてきた気がした。男は俺の首筋に吸い付き、指で背中をなぞり始め、性器への刺激もあって、触れられるだけで身体がひくついてしまう。男の唇は鎖骨から胸へと向かい、抱きかかえられた状態で舌が身体を這っていく。

「んっ、そんなことしなくていいって……」

 びくりと身体を動かすたびに中の性器が擦れて、奥が疼いたようにじんとする。まるで痛みなどなく、むしろ律動を期待しているみたいに熱い。
 
「…………したいから」

 ぼそりと言われて身体がぼっと燃えたように熱くなった。

「ごめん、もう動いていい?」

 悟られたかのように聞かれ、答える代わりに自ら腰を動かした。ふいな刺激だったのか、男は小さくうめき声をあげ、ぎゅっと俺を抱き締めてきた。

「はあっ、待っ、あっ」

 抱き締められ、堪えてきた反動とばかりに揺すぶってきた。俺が始めたことなのに、主導権が反転したみたいに激しく、荒々しい。ごりごりと内側をえぐる男の性器は、狙いをすませたかのように俺の好きなところを擦り、動くたびに身体がびくと痙攣してしまう。

「やめ、そこは……あっ、あっ」

 反応してしまうせいか、執拗にそこばかりを擦られる。何度も刺激されるせいで、口から勝手に甘ったるい声が出て止まらない。

「……俺が初めてなの?」
「んっ、あっ……だから頼んだんだって……そこばっか、やめ……」
「だったら、……気持ちよくなってもらいたい」
「んっ、んっ、気持ちい、から……そこはやめてくれ」
「なんで?」

 ぴたりと動きをとめ、息を乱しながら覗き込まれた。

「……最初で最後だから……まだ終わりたくな──」

 言いかけた途中で口を塞がれた。性急にも入ってきた舌は俺のを探し当てると追い詰めるように絡み、息ができないほど蹂躙してくる。

「んっ、んん」

 後頭部を支えられ、男は俺をベッドのうえへと寝かせてきた。入ったまま態勢が変わったせいで、刺激を受けてびくびくと腰が震える。そのまま男は俺の両足を持って深く押し入ってきた。
 息ができない。腰を揺さぶりながらもキスは止まらず、激しく舌を絡められ、どちらのともわからない唾液が頬をつたっていく。

「んっ、はあっ、あっ、んん」

 肌の当たる音が響くほど打ち付けられ、声を抑えられない。繋がったところは焼けるように熱く、奥まで穿たれて、足の先まで痺れるような快感が貫く。
 苦しくも甘い。蕩けるような快楽に、高まる射精感を抑えられなくない。もうだめだ。あっという間に高みにまで上らされ、俺は触れてもいないのに性器から白濁を飛び散らせた。

「も、やめ、……いったから」

 射精しているのにお構いなしに腰を揺さぶられ、さすがにと胸を押し返した。

「ごめん、ちょっと、やめられない」

 しかし男は興奮を押し殺した声で言うと、もう少しとばかりに深く突き上げてきた。俺ばかり満足してはだめだと堪え、快楽に殺される思いで身体をひくつかせながらそれに耐えた。

「あっ、やっ、やばいそれ……あっ、はあっ」

 間断なく襲う快楽に抗うには、声を出すしか逃げようがない。

「……っ、無理……もう、いく」

 男は苦しげに言うと、ずるりと性器を抜き、俺の腹のうえへどくどくと熱いものを滴らせた。

「ごめ……えっと……」

 慌てた様子でティッシュを探して、まず先にと俺の腹を拭いてくれた。俺もおまえのほうに飛ばしてしまっているというのに。言おうか迷ったが、喋る気力がないくらいに疲れていて無理だった。息もなかなか整わない。動いていたのはほとんど向こうのほうなのに、普通入れる場所じゃないところにあんなでかいものを入れられたからだろうか。騎士団長になろうという俺が情けない。
 しかしとなんとか息を整え、これだけは伝えねばならないと、無理やり半身を起こした。

「……ありがとう」

 丁寧に拭き取ってくれていた男の頭に向かって言うと、びっくりしたように顔をあげた。男も肩で息をして、身体中汗ばんでいる。
 
「こちらこそ……」

 照れた笑みを見て、なんともいえぬ感情がせりあがってくる。抱いてくれただけでなく事後にも気遣ってくれるとは、こいつがいいと感じた俺の直感は、間違っていなかったらしい。

「気持ちよかったし、かなり満足できた……本当にありがとう」

 こみ上げてくる感情をそのまま顔に出すと、きょとんとしていた男は、突然茹で上がったように顔を赤くした。

「あの……」
「なに?」
「……疲れた?」
「疲れた……けど、なに?」
「あの……もう一回、しない?」
「は?」
「……俺、まだいけると思うから……」

 恥ずかしげに言う男を見て、俺のほうもつられて赤くなってしまう。いけると言われても、朝になる前に済ませると言って時間を気にしていたはずだ。

「もっと……そっちが満足するまで付き合うよ」

 どうしようと迷っていたところに続けて言われ、俺が最初で最後と言ったことを気にしてくれているらしいと気がついた。

「や、もう十分満足したからいい。付き合わせてわるかった」
 
 優しい男というのはわかった。ならばはっきりと拒否すべきだ。態度でも示すべく顔を背けて告げ、バスローブを肩にひっかけてシャワールームへと向かった。
 なにかを言いたげな気配を背後に感じつつドアを閉め、ささっと浴びて出てきたあとは、男のほうを見ずに淡々と服を着た。
 
「じゃ、次借りるわ」

 男はため息混じりにつぶやき、シャワールームへと消えていった。
 俺は何も答えず見送り、着替え終えたあと金だけ置いて一人で先に出た。
 行きずりの、一度だけの関係であるために。
 もう一度抱かれたり会話をしてしまえば、期待が芽生えてしまいそうで怖かった。
 人生で初めて抱いてくれた男に優しくしてもらったことは、抱いてくれたそれ自体より俺の心を満たし、同時にかき乱した。今夜だけでなく、またいつか、と願ってしまいそうだった。執着は別の感情を刺激する。独占欲だけならアルファとしてベータを縛れるかもしれない。可能性があるだけだが、俺の不安はそこじゃなかった。
 愛だの恋という感情が芽生えたら。
 まさかのことだが、まさかと思えないくらいに満たされてしまい、逃げ出すしか気持ちのやりようがなかった。
 俺は男のことを忘れようと努めながら宿を出て、足早にエアカーに乗り込み、自宅へと帰った。
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