抱かれたいアルファの憂鬱なる辞令

七天八狂

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第一章 憂鬱なる辞令

2.一夜限りの情事①

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 散々歩き回った裏通りだ。連れ込み宿がどこにあるかはちゃんと確認している。おそらくベータであろう男同士でこそこそと入っていたのを見かけた宿を選び、些末な入り口で金を払って入場した。入り口ドアの機械に金を入れれば、目当ての部屋へ行く道順にランプが灯る。進んだ先に部屋のドアがあり、中はベッドと椅子くらいしかなかったが、古めかしく簡素なつくりながらも、思ったより清潔なようでほっとした。

「まじで、やるの?」

 無言でここまでついてきた男は、ベッドをまえに呆然とした様子でつぶやいた。

「嫌なら、無理にとは言わないけど……」
「……嫌っていうか……恥ずかしくなってきた。酔いも冷めちゃったし」
「じゃあ、なにか飲む?」

 かくいう誘った俺も緊張しまくっている。慣れていないから好感を抱いたのに、互いにぎくしゃくとなってしまうと、今さらながらに悔やむ思いがもたげてくる。しかし、あんな真似は二度とできない。この男から抱いてもらう以外にない。

「いや、飲むと影響あるかもしれないし……」

 ちらと俺を見上げてきた男は、俺よりよほどに抱かれる側に見える。真っ白な肌に頬がほんのりと赤く染まり、背丈はあまり変わりないが猫背なのか上目で見てくるから可愛らしい印象すら抱く。青年というより少年にも見える若々しさで、身体つきも華奢だ。髪も目も黒い。

「じろじろ見るなよ。えっと……シャワー浴びてくるわ」

 居た堪れないといった様子で顔を背けた男は、備え付けられていた簡易シャワールームへと去っていった。
 見送りながら、まさかと頭に浮かんだ考えを振り払う。
 ──半魔なんじゃないか。
 細身で肌が白く、目や髪が闇夜のように黒い。半魔の特徴だが、人間でもごく普通にいる。アルファは金の髪と青い目を持っている者が多く、俺もそうだ。変装しているのでベータに多い茶色い髪のカツラを被っている。第二の性で髪や目の色に特徴は出ないが、比率的に偏る傾向にはあるからだ。
 半魔であるはずがない。人口比率的に希少な半魔は、そもそもが道端でばったり遭遇することはない。アルファが裏通りにいるよりあり得ないことだ。

「……早いな」

 考えに耽っていたところ、思ったよりも早く男はバスローブ姿で戻ってきた。

「夜が明けるまえには出ていったほうがいいだろ」

 それもそうだと頷き、俺もシャワールームへ向かった。男同士のやり方は調べてある。自分で何度か自慰をしたこともあるので、その要領で準備を進めた。ここに初めて指以外のものを迎え入れるのかと思うと緊張と興奮で震えてしまう。
 自慰のための道具はあるが、当然ながら無料なものはなく金を出さねばならず、記録に残るので入手できない。せめて闇市で入手することができれば、こんな惨めな真似をしなくてもよかったのでは……バカなことを思いついたが、道具と人じゃ違うだろうと自虐的に苦笑する。
 
「待たせたな」

 戻ってくると、男は椅子に座ってグラスを手に持っていた。思い直して酒を飲んでいたっぽい。

「ん……やあ、なんていうか……初めてだから」

 気まずそうにコップを置いた男は、うなじを掻きながら立ち上がり、俺のほうへ向かってきた。

「初めて?」
「そう……だから、下手でも勘弁して欲しいっていうか」

 男は俺の両腕を掴み、恥ずかしげに染めた顔を近づけてきた。必死な様子でキスを迫る様子を見て、なにやらどきどきとしてしまう。

「……そういうのはいいって」

 これは愛とか恋だの感情があっての行為ではない。キスなんて必要ないとの思いで口を塞ぎ、きょとんとした顔の男の手を引いてベッドへと誘った。
 座らせ、俺も隣に腰を下ろす。高鳴る鼓動に任せて首筋に吸い付き、バスローブを乱しながら押し倒した。 

「え……あ……いきなり?」

 驚く声を耳にしながら、男の肌に吸い付いていく。首から腕、胸へと舌も使って愛撫し、これから抱いてもらうのだという感慨に耽りながら、衝動に身を委ねる。

「はあっ、あっ、これ、なんか……逆じゃない?」

 手を這わせ、下半身へと進める。
 ここには、女にはないものがついている。性急なほどに乱しながら下半身をまさぐると、バスローブ一枚の身体は、すぐに全てがあらわとなった。見た目にそぐわないほどの大きさの雄が見え、かーっと頭が熱くなる。
 しゃぶりつきたい。

「待っ……嘘? ちょっと……」

 欲に抗えず、愛撫もそこそこにかぶりついた。華奢な身体から、期待はしていなかった。抱いてくれるなら大きさなど構わないと思っていたのに、こんな立派なものを持っていたとは嬉しい誤算だ。
 舌を竿に絡め、亀頭を吸い、先端をぐりぐりと刺激した。すぐに張り詰めてきた性器は口に入りきれないほどの大きさとなり、ぎょっとしつつも手を使って満遍なく味わう。

「はあっ、はあっ、だめだって。飲んでるんだし、……出したら使えなくなるかも……」

 それは嫌だ。味の変わってきたそれに名残惜しさはあるが、口だけで終わらせたらもったいない。

「じゃあ、もう入れていい?」

 息を喘がせながら聞くと、同じく呼吸を乱していた男は潤んだ目で俺を見上げ、真っ赤に染めた顔を背けた。唇なんて噛んでいる様子を見ると、どちらが入れられる側なのかわからなくなりそうだ。
 なんにせよここまできて否はあるまい。俺はベッド脇のサイドテーブルに用意しておいた潤滑剤を取り、自分で塗りたくった。

「……っ、んっ……ふっ」

 奥まで届くように指を入れると、興奮しているせいで声が漏れてしまう。まるで自慰のようで恥ずかしいが、あのサイズが入るとなれば、シャワールームで解した分では足りない。もう少し広げなければと指を動かす。

「お、俺がやろうか?」

 俺の下で困惑していた様子の男が、おずおずと訊いてきた。男どころか女すらも抱いたことのないやつに、面倒なことをしてもらうわけにはいかない。
 
「……いいって。頼んでるのはこっちだし……んっ、もう少し……だから」

 恥ずかしさが快感を煽る。尻をいじっている姿を見られているというのも興奮するらしい。などとバカなことを考えていたら、男はなぜか上半身を起こし、俺の腰を抱いてきた。

「なん……おい……」

 伸びてきた手は腰のところで止まらず、俺の手へと重なり、なぜか強引にも退かされてしまう。

「……やらせて……」

 熱っぽい目で見つめられて、どきりとした。同時に指がぐぷりと入ってきて鼓動がさらに跳ね上がる。

「いいって……あっ……っ……いいって……」

 自分のものではない指にかき回される。ぐちゅぐちゅと音を立てて、恥ずかしさと興奮で身体は火がついたように熱くなった。

「あっ、んっ、やあっ、……んんっ」

 声が出てしまう。恥ずかしくも、気持ちがいい。男の肩に顔をうずめて唇を噛みながら、声を殺そうと耐えた。

「……見てたらちょっとやばくなってきた……そろそろ入れていい?」

 耳元で囁かれて期待に指を締め付けてしまう。ひっくり返った声しか出せない気がして、無言でこくりと頷いた。
 すると尻から指が抜かれ、腰を掴まれた。はっと身構えたときには狭間にぬるついた熱いものがあたり、ぐぐとめり込む感触があった。
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