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第一章 憂鬱なる辞令
13.覚悟の結果
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どうなったのだろう。
ジーナは店内で会ったときとは別人のように着飾り、ベータとは思えないくらいに綺麗だった。
ロジオンは俺のほうが喜ぶはずだなどとのたまっていたが、ジーナはロジオンのことを見て嬉しげに頬を染め、俺のことなどろくに眼中に入っていない様子だった。
つまり、ロジオンさえその気なら上手くまとまるのではという、クジマの期待どおりの展開になりそうだった。ロジオンの不安などまったくの杞憂で、俺のほうの不安が的中したというほどに、いい雰囲気のまま二人は部屋へと入っていった。
俺の仕事は見張りである。ドアの前にいなければならず、ジーナのあられもない嬌声を耳に悶々としなければならない。
俺の身体しか知らなかったはずの男が、初めて女を抱き、喜ばせて聞こえてくる声を耐えねばならない。
男と違って柔らかいとか、ほぐす必要もなければ濡れてエロいとか考えて、あの見た目にそぐわぬ大きな物で何度も突き上げるのだ。
どちらが抱かれる側なのかわからないあどけない顔で恥じらいながらキスをして、興奮が高まれば途端に雄々しく変貌し、終えたあとは自分より相手を気遣う優しさを見せる。ジーナはそんな紳士と野獣を併せ持ったロジオンに、参ってしまうに違いない。
考えるほどに狂おしい。
いまかいまかと耳を澄ませてしまう自分がなんとも憐れだ。
しかし、一時間は経っているはずが、一向になにも聞こえてこない。最初に聞こえていた話し声もここ数分はぴたりと止んでいる。
シャワーでも浴びて、いまは序盤なのだろうか。
覗き見たい気持ちを必死に抑えて、悶々としていたときだった。
なにかがおかしい、と気がついた。
宿は静まり返っている。音がしたわけでもなく、言うならば騎士としての第六感というやつだった。
ぴんときて、俺は剣を引き抜いた。抜いておかねばならない気がした。
ゆっくりと足を忍ばせて、こちらだと感じるほうへ歩みを進めた。
二階建ての宿の、ここは二階部分である。階段へ行くと、上下二方向へ続いている。屋上があるらしい。俺はその上階のほう、屋上へと至る階段へ足をかけた。
そのとき上方にちらと影が見え、捉えた瞬間に飛び掛ってきたそれに、剣を掲げて攻撃を受けた。
あたりが赤く染まり、ぼんっという爆発音とともに剣が弾かれた。火魔法だったようだ。負けじと振りかぶった俺の太刀は、相手が次の手を撃つ前に懐へと入り、なんてこともなく倒すことができた。
打ち倒した敵は小柄な体躯に黒い髪をたたえていた。鋼鉄を織り込んだ独特な生地の戦闘服、その隙間に見えるは褐色の肌。
魔族だ。
確認するまでもなく魔法を使われた時点でわかったことだったが、信じがたかった。
なぜこんなところに?
全身真っ黒の衣服からは所属部隊を確認するための識別章は見当たらない。どこかに、と衣服に手をかけようとしたとき、微風が顔をかすめた。
以前にも感じたことのある気配で、まずいと思って後ろへ飛び退いた。
俺が寸前にまでいたところに雷が落ちる。バリバリと髪が逆立つのを感じながら、攻撃をしかけた相手を目視しようとあたりを見渡した。
が、確認する前に次の攻撃がきた。
避けたところに雷撃が届き、これはまずい、と唾を飲み込み駆け出した。
魔族と戦って厄介なのは、姿が見えないときだ。一対一でも中隊長程度なら負けない自信はある。しかし、面と向かっている場合でのことに加え、おびき寄せることのできる装備を携帯していなかった。しかも遠隔攻撃をするための装備も外してしまっている。
護衛の任務は名目上のことであり、ロジオンという強大な力を持つ存在がいた。
たかがと今は言えるが、俺はそれらを理由に油断してしまっていた。なんとも迂闊で、己の浅薄さに腹が立つ。
ぎり、と歯噛みをしたものの、なんの意味もない。
ロジオンの存在はバレているのだろうか?
駆けつけたいが、行動を起こして居場所を悟られては元も子もない。
迷ったあげくに屋上へ向かうことにした。宿の受付からなんの連絡もないことから、隠密の侵入であると判断した。連絡する間もなく意識を奪われた可能性は、今の時点では加味しない。したところで一人しかいない現状、最も可能性のあるほうへ行くしかないからだ。
見えない敵の攻撃はいまだ続いていて、あたりは雷撃によって光が放射し、あちこち焦げ付いている。火が付いたら惨事だが、上等な宿なので自動鎮火装置は備えてあるだろう。
廊下の角をまがった瞬間、どうっという轟音とともに俺は吹き飛ばされた。続いてあたりが真っ赤に染まり、風と火の魔法を立て続けに食らわされたと気づく。
「……くそ」
咄嗟に頭を護るために出した腕に火がついてしまった。鎮火させる暇もなく攻撃が続き、剣をないで風圧を起こすしかできない。
何人いるのかもわからないというのに、俺は相手に目視されている。
不利だが百も承知だ。だからと怯んでいる場合じゃない。
攻撃の方向がわかったことで相手の居場所も同時に把握し、俺は火のくり出てくる方向へ思いっきり剣を投げつけた。もう一太刀鞘から引き抜き、すぐさまそこへ突進する。手応えがあり、刃が肉を斬る独特の感触が手に伝わってきた。
よし。血しぶきがかかるのを感じながらお次はと倒れた身体をまたぎ超えて階段を駆け上がる。ドアを蹴り開けて真横へ移動する。俺のいた場所に雷撃が落ち、やはりと得心を得て、雷撃の直後に屋上へと飛び出した。
「見つけた」
姿が見えたらこっちのもんだ。手の動きで魔法攻撃を放つタイミングもわかる。届く直前に避けながら相手に近づき、喉元をかき斬った。
これは自慢だが、俺の足についてこれる騎士は一人もいない。敵にとっては目にも留まらぬ速さだっただろう。
などとまたも俺は油断してしまった。
はっと気づいたときには時すでに遅しで、視界は真っ赤なうえに、聞こえるは轟音というか耳鳴りのような音だけだった。
俺は一瞬の隙に、特大の火魔法を食らって全身を炎に包まれてしまっていた。
どうやら死ぬらしい。
こんな炎の渦中にいたら、もし今すぐに火が消えても手遅れだ。
「大丈夫。先に防御魔法を発動させたから」
死を覚悟したとき、驚くことにロジオンの声が聞こえてきた。轟音はまだ続いていて目の前も真っ赤なのに、すぐ近くにロジオンの姿があり、声もはっきりと認識できた。
なにがなにやらわからない。
びっくりしていたところ、ロジオンは俺を地面に下ろしてくれた。気づかぬうちに抱き上げてくれていたらしい。
「手当たり次第に燃やしてみたんだけど……もう十分だよな?」
言い終えぬうちに煌々と燃える火は掻き消えて、あたりは元の暗闇に戻った。遠くに街明かりが夜景となっている、何の変哲もない景色だ。
汗もかいておらず、身体に痛みもない。死が迫ったことによるパニックで頭になかったが、そういえばと思い出すと熱さを感じた覚えもない。
ぷすぷすと火のくすぶる音と、肉の焼けた匂いが鼻につくことから、現実だったことはわかるが、夢を見ているみたいだった。
「五人いたみたい」
ロジオンが指をさした方向には、丸焦げとなった死体が転がっている。
「えっと……ジーナ嬢はどちらに?」
「無事だよ。遅くなったのは彼女を先に避難させてたからなんだ。加減できるか心配だったんで」
「加減?」
「できたほうだろ?」
なんのことやらと思いきや、ロジオンの攻撃についてだったらしい。
屋上は物置として使われていたようで、人間の他に物置や家具などの丸焦げた姿がある。ロジオンと俺の立つ場所以外はすべて黒ずみとなっているのだが、これほどの威力の魔法を軽々と使っているのは初めて見たので、加減ができた結果なのかは判断がつかない。
「魔法は間に合わなかった? どこか怪我してる?」
俺が唖然としていたからか、ロジオンは不安げな様子で俺の身体を見渡してきた。
「大丈夫です。あれは魔法だったんですか?」
「うん。敵の火魔法が見えたから防御魔法を発動させたんだけど……って火傷してんじゃん!」
心配してくれているのは、廊下で負った腕のところだ。確かに焦げているが、屋上ではロジオンのお陰でなんの痛みもなかったばかりか、怪我一つ負わなかった。
「これは階下で負ったものですし、大したことはなさそうです」
平気だと示すために袖をまくり、患部を確認すると肌のほうに傷はなかった。騎士の制服は特殊な繊維を織り込まれてある。あの程度の攻撃ならなんてこともない。
「よかった。おまえの綺麗な肌に傷なんてつけたら大変だもんな」
え……と、ロジオンを見ると、心底安堵した顔でにこにこと笑っていた。しかし、俺がきょとんとしてしまったせいか、途端にやばいと言った様子で青ざめ、今度は頬を朱に染めた。
「あ、えっと……俺のこと一晩中見張らなきゃならないんだろ? ……部屋に戻らないと」
「……いえ、こんなことがあったのですから部下たちを呼び出して、別の場所へ移動すべきと存じます」
「え……そうなの?」
「はい。残党もいるかもしれませんし。ですが、なんにせよここにいても仕方がありません。下へ降りましょう」
とりあえずとロジオンを促して階段へ向かった。ドアを通ったあと駆け上がってくる音が聞こえてきて、やはり残党がいたかと剣を引き抜いた。
「アラムは下がってて」
しかし、敵の姿が見える前にのんきな声が聞こえてきて、眩いほどの閃光が迸った。視界が暗転し、同時に耳をつんざくほどの轟音も聞こえて全身がぴりぴりと痺れる。
「大丈夫。今も防御魔法をかけてるから」
ロジオンは硬直していた俺の腕を掴んで歩いていく。見える景色は無惨なほどに木くずと成り果てている廊下だ。壁はなくなり、部屋の中が丸見えになっている。
加減がどうのというレベルじゃない。これまでに見てきた魔法攻撃とは桁違いの凄さだ。
抉られた天井からは鉄骨が見え、半分ほどに減った照明は残りもバチバチと点滅している。
まるで竜巻でも通り過ぎたような廊下の中を、俺はロジオンから腕を引かれてひた走った。
ジーナは店内で会ったときとは別人のように着飾り、ベータとは思えないくらいに綺麗だった。
ロジオンは俺のほうが喜ぶはずだなどとのたまっていたが、ジーナはロジオンのことを見て嬉しげに頬を染め、俺のことなどろくに眼中に入っていない様子だった。
つまり、ロジオンさえその気なら上手くまとまるのではという、クジマの期待どおりの展開になりそうだった。ロジオンの不安などまったくの杞憂で、俺のほうの不安が的中したというほどに、いい雰囲気のまま二人は部屋へと入っていった。
俺の仕事は見張りである。ドアの前にいなければならず、ジーナのあられもない嬌声を耳に悶々としなければならない。
俺の身体しか知らなかったはずの男が、初めて女を抱き、喜ばせて聞こえてくる声を耐えねばならない。
男と違って柔らかいとか、ほぐす必要もなければ濡れてエロいとか考えて、あの見た目にそぐわぬ大きな物で何度も突き上げるのだ。
どちらが抱かれる側なのかわからないあどけない顔で恥じらいながらキスをして、興奮が高まれば途端に雄々しく変貌し、終えたあとは自分より相手を気遣う優しさを見せる。ジーナはそんな紳士と野獣を併せ持ったロジオンに、参ってしまうに違いない。
考えるほどに狂おしい。
いまかいまかと耳を澄ませてしまう自分がなんとも憐れだ。
しかし、一時間は経っているはずが、一向になにも聞こえてこない。最初に聞こえていた話し声もここ数分はぴたりと止んでいる。
シャワーでも浴びて、いまは序盤なのだろうか。
覗き見たい気持ちを必死に抑えて、悶々としていたときだった。
なにかがおかしい、と気がついた。
宿は静まり返っている。音がしたわけでもなく、言うならば騎士としての第六感というやつだった。
ぴんときて、俺は剣を引き抜いた。抜いておかねばならない気がした。
ゆっくりと足を忍ばせて、こちらだと感じるほうへ歩みを進めた。
二階建ての宿の、ここは二階部分である。階段へ行くと、上下二方向へ続いている。屋上があるらしい。俺はその上階のほう、屋上へと至る階段へ足をかけた。
そのとき上方にちらと影が見え、捉えた瞬間に飛び掛ってきたそれに、剣を掲げて攻撃を受けた。
あたりが赤く染まり、ぼんっという爆発音とともに剣が弾かれた。火魔法だったようだ。負けじと振りかぶった俺の太刀は、相手が次の手を撃つ前に懐へと入り、なんてこともなく倒すことができた。
打ち倒した敵は小柄な体躯に黒い髪をたたえていた。鋼鉄を織り込んだ独特な生地の戦闘服、その隙間に見えるは褐色の肌。
魔族だ。
確認するまでもなく魔法を使われた時点でわかったことだったが、信じがたかった。
なぜこんなところに?
全身真っ黒の衣服からは所属部隊を確認するための識別章は見当たらない。どこかに、と衣服に手をかけようとしたとき、微風が顔をかすめた。
以前にも感じたことのある気配で、まずいと思って後ろへ飛び退いた。
俺が寸前にまでいたところに雷が落ちる。バリバリと髪が逆立つのを感じながら、攻撃をしかけた相手を目視しようとあたりを見渡した。
が、確認する前に次の攻撃がきた。
避けたところに雷撃が届き、これはまずい、と唾を飲み込み駆け出した。
魔族と戦って厄介なのは、姿が見えないときだ。一対一でも中隊長程度なら負けない自信はある。しかし、面と向かっている場合でのことに加え、おびき寄せることのできる装備を携帯していなかった。しかも遠隔攻撃をするための装備も外してしまっている。
護衛の任務は名目上のことであり、ロジオンという強大な力を持つ存在がいた。
たかがと今は言えるが、俺はそれらを理由に油断してしまっていた。なんとも迂闊で、己の浅薄さに腹が立つ。
ぎり、と歯噛みをしたものの、なんの意味もない。
ロジオンの存在はバレているのだろうか?
駆けつけたいが、行動を起こして居場所を悟られては元も子もない。
迷ったあげくに屋上へ向かうことにした。宿の受付からなんの連絡もないことから、隠密の侵入であると判断した。連絡する間もなく意識を奪われた可能性は、今の時点では加味しない。したところで一人しかいない現状、最も可能性のあるほうへ行くしかないからだ。
見えない敵の攻撃はいまだ続いていて、あたりは雷撃によって光が放射し、あちこち焦げ付いている。火が付いたら惨事だが、上等な宿なので自動鎮火装置は備えてあるだろう。
廊下の角をまがった瞬間、どうっという轟音とともに俺は吹き飛ばされた。続いてあたりが真っ赤に染まり、風と火の魔法を立て続けに食らわされたと気づく。
「……くそ」
咄嗟に頭を護るために出した腕に火がついてしまった。鎮火させる暇もなく攻撃が続き、剣をないで風圧を起こすしかできない。
何人いるのかもわからないというのに、俺は相手に目視されている。
不利だが百も承知だ。だからと怯んでいる場合じゃない。
攻撃の方向がわかったことで相手の居場所も同時に把握し、俺は火のくり出てくる方向へ思いっきり剣を投げつけた。もう一太刀鞘から引き抜き、すぐさまそこへ突進する。手応えがあり、刃が肉を斬る独特の感触が手に伝わってきた。
よし。血しぶきがかかるのを感じながらお次はと倒れた身体をまたぎ超えて階段を駆け上がる。ドアを蹴り開けて真横へ移動する。俺のいた場所に雷撃が落ち、やはりと得心を得て、雷撃の直後に屋上へと飛び出した。
「見つけた」
姿が見えたらこっちのもんだ。手の動きで魔法攻撃を放つタイミングもわかる。届く直前に避けながら相手に近づき、喉元をかき斬った。
これは自慢だが、俺の足についてこれる騎士は一人もいない。敵にとっては目にも留まらぬ速さだっただろう。
などとまたも俺は油断してしまった。
はっと気づいたときには時すでに遅しで、視界は真っ赤なうえに、聞こえるは轟音というか耳鳴りのような音だけだった。
俺は一瞬の隙に、特大の火魔法を食らって全身を炎に包まれてしまっていた。
どうやら死ぬらしい。
こんな炎の渦中にいたら、もし今すぐに火が消えても手遅れだ。
「大丈夫。先に防御魔法を発動させたから」
死を覚悟したとき、驚くことにロジオンの声が聞こえてきた。轟音はまだ続いていて目の前も真っ赤なのに、すぐ近くにロジオンの姿があり、声もはっきりと認識できた。
なにがなにやらわからない。
びっくりしていたところ、ロジオンは俺を地面に下ろしてくれた。気づかぬうちに抱き上げてくれていたらしい。
「手当たり次第に燃やしてみたんだけど……もう十分だよな?」
言い終えぬうちに煌々と燃える火は掻き消えて、あたりは元の暗闇に戻った。遠くに街明かりが夜景となっている、何の変哲もない景色だ。
汗もかいておらず、身体に痛みもない。死が迫ったことによるパニックで頭になかったが、そういえばと思い出すと熱さを感じた覚えもない。
ぷすぷすと火のくすぶる音と、肉の焼けた匂いが鼻につくことから、現実だったことはわかるが、夢を見ているみたいだった。
「五人いたみたい」
ロジオンが指をさした方向には、丸焦げとなった死体が転がっている。
「えっと……ジーナ嬢はどちらに?」
「無事だよ。遅くなったのは彼女を先に避難させてたからなんだ。加減できるか心配だったんで」
「加減?」
「できたほうだろ?」
なんのことやらと思いきや、ロジオンの攻撃についてだったらしい。
屋上は物置として使われていたようで、人間の他に物置や家具などの丸焦げた姿がある。ロジオンと俺の立つ場所以外はすべて黒ずみとなっているのだが、これほどの威力の魔法を軽々と使っているのは初めて見たので、加減ができた結果なのかは判断がつかない。
「魔法は間に合わなかった? どこか怪我してる?」
俺が唖然としていたからか、ロジオンは不安げな様子で俺の身体を見渡してきた。
「大丈夫です。あれは魔法だったんですか?」
「うん。敵の火魔法が見えたから防御魔法を発動させたんだけど……って火傷してんじゃん!」
心配してくれているのは、廊下で負った腕のところだ。確かに焦げているが、屋上ではロジオンのお陰でなんの痛みもなかったばかりか、怪我一つ負わなかった。
「これは階下で負ったものですし、大したことはなさそうです」
平気だと示すために袖をまくり、患部を確認すると肌のほうに傷はなかった。騎士の制服は特殊な繊維を織り込まれてある。あの程度の攻撃ならなんてこともない。
「よかった。おまえの綺麗な肌に傷なんてつけたら大変だもんな」
え……と、ロジオンを見ると、心底安堵した顔でにこにこと笑っていた。しかし、俺がきょとんとしてしまったせいか、途端にやばいと言った様子で青ざめ、今度は頬を朱に染めた。
「あ、えっと……俺のこと一晩中見張らなきゃならないんだろ? ……部屋に戻らないと」
「……いえ、こんなことがあったのですから部下たちを呼び出して、別の場所へ移動すべきと存じます」
「え……そうなの?」
「はい。残党もいるかもしれませんし。ですが、なんにせよここにいても仕方がありません。下へ降りましょう」
とりあえずとロジオンを促して階段へ向かった。ドアを通ったあと駆け上がってくる音が聞こえてきて、やはり残党がいたかと剣を引き抜いた。
「アラムは下がってて」
しかし、敵の姿が見える前にのんきな声が聞こえてきて、眩いほどの閃光が迸った。視界が暗転し、同時に耳をつんざくほどの轟音も聞こえて全身がぴりぴりと痺れる。
「大丈夫。今も防御魔法をかけてるから」
ロジオンは硬直していた俺の腕を掴んで歩いていく。見える景色は無惨なほどに木くずと成り果てている廊下だ。壁はなくなり、部屋の中が丸見えになっている。
加減がどうのというレベルじゃない。これまでに見てきた魔法攻撃とは桁違いの凄さだ。
抉られた天井からは鉄骨が見え、半分ほどに減った照明は残りもバチバチと点滅している。
まるで竜巻でも通り過ぎたような廊下の中を、俺はロジオンから腕を引かれてひた走った。
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