生真面目彼女は異世界で自立を目指す

氷雨

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1章

7「異世界へ行く際は酔い止めを忘れずに」

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 「・・・・・・・・・ぅぅぅう・・・・」
 荷台の上でまるまっている朔夜。
 外聞も恥じらいもなくうめき声をあげている彼女を、周囲を警護する騎士達が心配そうに見つめる。
 



 「(やばい・・・・吐きたいけれど吐けないくらいの乗り物酔い・・・・しんどい・・・)」
 舗装もされておらず、アップダウンもある道をまあまあなスピードで揺られながら進む。
 朔夜の想定を遥かに超えていた。


 「(お尻が痛いくらいかと・・・思っていた・・のに・・・)」
  朔夜を気にかけてか、短い休憩が度々とられる。
 朔夜のために毛布を置いたり、野イチゴの果実水を差し入れたりと代わる代わるに騎士がやってくる。


 起き上がる余裕もないため荷台で横になりながら、かろうじてお礼を伝える。
 いっそのこと胃の中の物を全て出したい。
 


 「サクヤ殿?あ~・・・・体調はどうかな?」
 やっぱり、という表情が現われているニール。


 「・・・・ごめん、なさい・・・。大丈夫・・・です」
 全く大丈夫ではないものの、とりあえずそう答えてしまう。
 悲しい日本人の性質だ。
 自分が原因で行程を遅くしていることはわかるため、大丈夫と答えるしかない。
 流石に団長が来たため無理矢理体を起こす。



 「・・・・サクヤ殿。少し馬を急がせてしまって悪かった。この後だが、とにかく王都へ急ぐか、3日ほどかかるがゆっくり進むか、どちらが良いか?」
 3日と言ったが5日ほどかかってしまうか、と思案するニール。


 朔夜の返答はニールにとっては驚く返事であった。
 「いえ・・・。とにかく急いでもらって、平気です・・・。大丈夫です。」
 この辛さを一刻も早く終わらせたい。
 

 目が座っているサクヤの顔をみて、ニールは少し笑ってしまった。
 「・・・っくく。いや、すまない。承知した。サクヤ殿、覚悟してくれ」

 「はい」
 お互い真剣な目つきをしているが、話している内容としてはたいしたことではない。
 もちろん、朔夜にとっては一大事であるが。



 立ち去るニールの後ろ姿を見つめながら、騎士が差し入れてくれた果実水を口に含む。
 「すっぱい・・・」
 甘酸っぱさどころか完全に酸っぱいだけの代物だが、胃のムカムカが多少落ち着いた。
 これからの荒い道のりを考え、荷台での態勢を整える。




 「サクヤ殿」
 涼やかな声が耳に入り、びくりと肩を揺らしてしまう。


 「あ、あ、ふ、ふ、ふくだんちょうさん・・・」
 完全に油断をしていたため、どもってしまった。
 最初の印象が根付いているためどうしても苦手意識がある。


 
 焦燥した朔夜の顔を眺め、ため息をつきながら白い錠剤を差し出すアデルバート。
 「気分が楽になる薬です。水はまだ残っていますか?」
 
 「(まままままるで危ない薬みたいに聞こえる!!!!!)ののの残ってます。ありがとうございます!!」
 こ、殺される?飲んで平気なの??
 口元が引き攣りながら錠剤をまじまじと眺めている朔夜。


 薬を見つめているだけの朔夜を見たアデルバートは声をかける。
 「サクヤ殿、速やかに服用してください」
 口調は穏やかであるものの、逆らえない雰囲気を感じる。
 

 「のみます!のみます!」
 慌てて口に放り込み水で流し込む。
 気分が楽になる薬。なんて怖いフレーズだ。
 しかし、秀麗な副団長にじっと見つめられるのも怖い。
 
 「(顔立ちが整いすぎて緊張しちゃうんだよね・・・)」
 いかんせん生きるギリシャ彫刻だ。
 一般人の朔夜からは近づき難い。


 「・・・・宜しいでしょう。ごゆっくりお休みください」
 薬を飲み込んだ朔夜を確認し、目元を和らげるアデルバート。
 

 「本日中には王都へ到着するように進みます。では」
 一礼をして立ち去る。



 立ち去る後ろ姿は映画のワンシーンのようだ。
 「(かっこいいんだけれど・・・・なんだろ・・・。発言が、魔王様みたいなんだよね・・・)」
 美貌の副団長には頭が切れる悪役なんて似合うのではないだろうか。


 荷台に転がりながら副団長に似合う映画を思い浮かべていると、唐突に眠気が襲ってきた。
 「(あんまり、夜寝れなかった、からかな・・・)」
 あくびをし、そのまま寝入る朔夜。
 




 「・・・・異邦人にも問題なく薬は効くようですね・・・」
 荷台ですぅすぅと寝息を立てる朔夜を観察するアデルバート。
 朔夜には睡眠薬を渡したのであった。



 『異邦人』なんて正直おとぎ話だと思っていた。
 異邦人は訪れた国に富をもたらすといわれる存在。実際に、異邦人が訪れた記録のある国々は現在も大国として認められている。


 しかし、目の前の華奢な少女はたいそうな人物には見えなかった。
 怯え震えて縮こまる少女。
 リースが騒ぎ立てていることが鬱陶しく、少々脅しすぎてしまったことは反省している。

 「せめて良い夢を」
 王都に到着したとしても政情に巻き込まれるであろう朔夜を哀れに思いつつ、毛布をかけなおす。

 アデルバートの表情は、本人が思っているよりも優しげな表情であった。
 
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