生真面目彼女は異世界で自立を目指す

氷雨

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1章

13「よく息切れしませんね」

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 「(お仕事中だろうに申し訳ないな・・・)」
 朔夜は自室として与えられた部屋で椅子に座りながらぼんやりとリースを待つ。
 広々とした部屋は高級ホテルのスイートルームかのよう。
 ベッドルームにリビングルーム、客間も用意がある。
 飾られている調度品も派手過ぎずセンスも良い。

 お偉い三人衆の態度や部屋の様子からも、非常に丁寧な対応をされていることは実感できる。
 何かしらの価値を提供出来る限りは悪いようにはされないのだろう。
 好きなように、気楽に、と言われることで多少はリラックス出来たが、使えない人間と認定されたらどうなるのだろうか。


 考えなくてはいけない。
 そのために、異邦人に詳しいというリースと話をしたいのだ。



 「(ちょっと勢いがあり過ぎて怖いけど、うん・・・)」
 しかし、彼が自分を異邦人認定してくれなければあの場で副団長に切り捨てられていたかもしれない。
 改めて考えると、命の恩人では?
 「(・・・うん、本当に命があって良かった)」


 「サクヤ様、騎士の皆様がお越しです」
 微笑みながらメディアが声をかけてくれる。


 「あっ、はい!どうぞ!」

 サクヤが声をかけた瞬間、待ち侘びたリースが飛び出してきた。
 あまりの勢いに侍女も含めて呆然としてしまう。



 「失礼いたします!リオネルド王国近衛騎士団第4番隊隊長 リース ・ウィルキンソン 参りました!!!あああサクヤ様!私めをご指名くださり誠にありがとう存じます!!!!このような機会を与えて頂けるとは光栄の至り!我が誉れ!どうぞこの私めになんでもお申しつ・・・」

 「うっさいわ、このバカ!黙りなさい!あっサクヤちゃん、失礼するわ~」
 後ろからリースに続いて入室したレイモンドは、リースの頭を掴んで押さえつけ、サクヤには笑顔を向ける。

 「なななな、な、バカとは、レイモンド!離せ!!!それに!お前こそなんだその言葉遣い!不遜だぞ!」

 「ふんっ!別に良いわよねえ、サクヤちゃん?」


 「えっ、うんうん。リース様もレイも、ありがとうございます。来てくれて」
 
 「そんな!サクヤ様!どうぞこのリースも呼び捨てて下さい!」
 親しそうなレイモンドとサクヤのやり取りに、ショックという表情を浮かべるリース

 
 余りのテンションに接し方が難しい。
 とりあえず様は付けない方が良さそうだ。


 「は、はい。では、リース、さん。どうぞ、お掛け下さい。レイも!」


 「何をおっしゃいますか!同席させて頂くような立場ではありませぬ故、ここでお伺いいたします」
 リースはキリッとした顔で宣言をし、朔夜の足下で跪く。


 唖然と固まる朔夜を見兼ねてレイモンドが口を出す。

 「あ~も~サクヤちゃんが困ってるでしょ!?サクヤちゃんの言うこと聞きなさいよ!アンタの方が不遜よ!ほら、座る!!」

 鬱陶しそうにリースを蹴り飛ばしながら無理矢理椅子に誘導する。
 言葉遣いからは想定できないがレイモンドは身長が2m近い。175㎝ほどのリースなんて軽々扱えてしまうのだ。


 「(レイ、ありがとう!!!!)」
 レイモンドのファインプレーに感動が止まらない。
 リースさんとまともに話すのは無理なのか??と後悔の念がわく。
 


 「ぐぅ、レイモンド!いや、しかし、サクヤ様の命令・・・」
 痛みに呻きながらも異邦人である朔夜の意に添えないことは出来ないとリースは渋々椅子に座る

 

 笑顔で固まっていたメディアやライラも漸く自分達の仕事だとお茶の用意を始めた。



 「レ、レイとリースさんは仲良いんだね~」
 タメ口で話しているのは意外だった。騎士団とか規律が厳しそうなのに。
 お茶を飲みつつ雑談から始めるが、朔夜の言葉に2人は嫌そうな顔をする。

 「サクヤちゃん、冗談きついわぁ。」

 「レイモンドと意見が合うのは残念ですが、私としても遺憾です・・・。同期で同じ隊長職に就いているだけです!!!!」


 嫌そうに言うところもシンクロしてるし仲良さそうだけど。
 口に出したらまた煩くなりそうなので咲夜はお茶を飲みつつ頷くことにした。
 
 
 「・・・って隊長って、レイも偉い人なんだね」
 良くも悪くも二人から威厳が感じられないのでよくわからない。


 「実はね。まあ、隊長と言っても何人もいるしねえ。副団長や団長とは比べ物にならないのよん」
 パチっとウインクを飛ばしながらあっさりとレイモンドは説明をする。


 「なんか、近衛騎士団?ってその、王様とかの近くにいるものじゃないの?違うのかな?」
 エリートっぽい響きがする。
 ずっとお城にいそうなのになんで国境沿いにいたんだろうか。


 朔夜の疑問を感じ取ったのか、レイモンドは説明を続ける。
 「サクヤちゃんの言う通りよ。基本的には王都にいるわ。ただ、王族が国内外を巡幸される際にも同行したりするから、ずっと王都にしかいないわけじゃないのよ」
 詳しくは機密事項になっちゃうから言えないけど、と苦笑するレイモンドの様子をみるに、傍迷惑なタイミングで自分は現れてしまったのではなかろうか。
 団長さんごめんなさい。でも私だって来たくて来てないです。
 

 「サクヤ様!その、私めにご質問ということで!」
 レイモンドと朔夜の話がひと段落つき、そわそわした表情でリースは朔夜を見つめる。


 「そう、です!その、『異邦人』について詳しく教えて欲しくて。どんな人がいたとか、どこで、どんなことをしたとか。・・・・元の、世界に、帰れたのか、とか。」
 朔夜の最後の発言を聞き、苦しそうにレイモンドは顔を歪める。
 一方リースは水を得た魚のように話し始めた。


 「そうですね、有名な『異邦人』と言えばまずはイチロー様でしょう!歴史書に残されている限りでは最古の『異邦人』様です。『最強』という言葉はこの男のためにあると数多の書物にて礼賛されておりますね。・・・来訪は3000年前とも4000年前とも言われており、昔すぎて歴史書の信憑性も薄くはあります。ただ、イチロー様が来訪したアッティア国、現在はロメルダ公国ですが、イチロー様お一人の軍事的な影響力を盾に西方の雄、強大な国と成長しました。現在もロメルダ公国の国力は西方諸国の中でも随一です」


 イチロー?野球、じゃないよね?一郎?
 いや、しかし3000年前って・・・・。突っ込みどころが多い。

 眉をしかめる朔夜はさておき、リースの勢いは止まらない。
 「イチロー様はその武勇で名を馳せた『異邦人』様ですが、ニコラ=ヴェドルフ様は『天才軍師』と名高い『異邦人』様です。550年前、周囲の強国に挟まれた「弱小ロワルド国」に来訪し、10年ほどで周辺国家を全て飲み込みました。現在は「ロワルド連合」が北をまとめあげていますね。ヴェドルフ様の当時斬新な戦略は、現代では各国の騎士教本に必ず掲載されております」

 うーん、すごいな。絶対マネ出来ない。


 「今のお二人は逸話が非常に有名で誰でも名前を知っている方々ですが、農業分野に優れた『異邦人』様、印刷・出版の歴史を変えた『異邦人』様など、各分野で著名な方も多くございますよ。また、1つの国に留まるのではなく、各国を巡り地域の歴史や自然、動物の様子について詳細な記述を残した『異邦人』様もいらっしゃいました」


 「本を書いて、その、喜ばれたのでしょうか?王様とかは・・・」
 結構自由なのかな、『異邦人』。
 お金になるのかわからない活動だし。



 「そうですね、流離の『異邦人』と呼ばれたナハトマ様の活動は当初戸惑いを生んだと記載する歴史書はありますね。しかし、誰も当時「自分たちの歴史をしっかりと残す」という意識がなく、他国への興味も少なかったのです。相互理解が乏しいことで簡単に紛争になっていた時代でした。1000年ほど前ですね。そのため、ナハトマ様の書物が広まることで、争っていた国々が多少は冷静になるという効果がありました。あんなに資源がある国を敵にしていてはバカらしい、と」


 「後の歴史書はナハトマ様の活動を絶賛していますね。軍事畑の者どもも情報の重要性を実感したことでしょう。どの『異邦人』様もご自身が得意な分野、といいますか、自分の心の赴くままに活動し、生涯を終えられたという印象がございますね」

 「・・・しかし、ナハトマ様は例外的な逸話が多い方です。なにせ内戦も紛争も多い時代に数多の国を巡幸されたのですから!異邦の地に戻られたという『異邦人』様は歴史書には記載がなく、最初に来訪された国を生涯の地と定められた『異邦人』様が大半です。ナハトマ様はよくご無事にいたものだと思いますね・・・」



 「異邦の地に戻られたという『異邦人』様は歴史書には記載がなく」
 その発言以降のことはあまり耳に入らなかった。
 リースの話してくれるこの世界の歴史(世界史)は面白く、途中までは興味深かった。
 ・・・戻れないのだと改めて実感するまでは。


 
 「リース!サクヤちゃん、謁見もあって疲れているし、また今度にしたら?」
 ぼんやりとリースの話に頷くだけとなった朔夜の様子をみて、レイモンドはリースに退室を促す。
 流石のリースも朔夜のぼぅっとした表情を見てあっさりと退室をした。



 
 「帰れない・・・のかぁ・・・・」
 ポツンと溢された朔夜の言葉は室内に響いた。
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