最恐の相棒とのんびり異世界渡り〜嫌われ者同士が面白おかしく世界を引っ掻き回す〜

氷雨

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1章「はじめまして、相棒」

3「契約書はきちんと読みましょう」

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 「・・・・へぇ」
 口から出た言葉はそれだけであった。とんでもなくヤバそうな発言を聞いた気もするが、意味もわからないしなかったことにしたい。
 とりあえず食べられないようではありそうだ。


 
 「お主、聞いておきながらそれだけか」
 ぼんやりとした態度の小夜に呆れる獣。
 

 「いや、意味もわからないし・・・驚いては、いるけれど・・・」
 魂まで獣の物って言われても。そもそも魂とかあるんだ。
 取り出せるものなのか・・・・。取り出されたらどうなるんだ?
 ・・・・・考えるのをやめよう。



 「我は、この世界に来たばかりだ。少しばかり不安定な状態なので、お主を使ってやるだけのことよ」
 ふんっと鼻をならしながら偉そうな獣。
 傍若無人な態度に思えるも、いくばくか気まさもあるのか目を若干逸らしている。


 「来たばかり?他の世界から来た?日本以外のってこと?」
 獣の態度よりも発言が気になった。パラレルワールドとかそういう話なのか。
 体や態度だけではなく話のスケールも大きいなと感心する。


 「異世界から来たとでも言えばお前如きの頭でも理解できるか?」
 物わかりの悪い子供に言い聞かせるように獣は説明を付け足す。


 「・・・そんなことあるんだ。どうして来たの、旅行とか?」
 信じられるような信じられないような。
 しかし、小夜にとっては人でない者達の事情などわからない。
 正直獣の話が真実であろうか嘘であろうがどうでもよかった。



 「たわけ、旅行なんてふざけたことをぬかしおって。」
 口の端を歪めながら憤りを浮かべる獣。
 「・・・・神たる我への敬いが足らない世界に用はなかった。それだけのことだ」
 苦々しげに低く獣が呟く。目線がそれていたので表情はわからなかった。
 


 「うん?・・・神様なの?」
 なんか今日は数年分驚いているかもしれない。
 流石の小夜も、今までに『神』という存在と関わったことはなかった。

 確かに、すごい力はありそうな獣。
 神様と言われればそう思えてくる。

 

 ぽかんと口を開けて驚いている小夜を獣はおちょくる。
 「我の高貴さを感じられんとは。残念な人間だ」
 

 「人間だし、そっちの事情なんてわかんないよ。よくわかんないけれど、しばらくこの世界にいるってこと?」
 人間でない者達の上下関係なんてこちとらさっぱりだ。
 スクールカーストだって理解できないんだから。自分が最下層にいることだけは実感しているけれど。



 「いや・・・この世界は我には合わぬ。状態が安定したら早々に移動する」
 空気が合わんのだ・・・と忌々しそうに呟く獣の姿を見て、小夜は寂しさを覚えた。
 
 寂しさを覚えた自分に驚く。

 別れには慣れているはずなのに。これまで人とも人でない者とも、幾度となく別れてきた。
 寂しいなんて思わないようになっていた。

 でも。
 久しぶりだったのだ。こんなに話が長く続いたのも。名前を呼ばれたのも。
 いつぶりだろう。驚いたり呆れたり楽しさを感じたのは。 



 まあ、そんなものだ。僅かに感じた寂しさを仕舞い込み、獣を見つめ返す。
 「またどっか行くんだ。忙しいね・・・気を付けて」




 
 「―間抜け。お主は我の依り代なのだ。お主は我の物。この世界でも、数多の世界でも、永劫我の物よ」
 どこまでも尊大な発言。獣は小夜をさらに驚愕させる。


 「うぇ?え・・・うん?」
 なんだ、なんでこんな話になっているんだ。
 他の世界でも獣の物?なんだ、その言い方は。まるで小夜も他の世界に行くみたいだ。


 混乱している小夜に対して、獣は説明にならない説明を重ねる。
 「名付けただろう、我をしろがねと。」
 あっ気に入ったんだその名前、小夜は思考停止する。
 

 他の選択肢など与えない。獣の醸し出す空気に小夜はのまれていた。
 「・・・・未練などないのだろう。お主は我の物だ――小夜。」
 ・・・・そう。未練などない。それは事実。
 失いたくない物も、大事な人もいない。
 


 「他の世界で、何をするの?私は何もできないよ・・・」
 ただ人でない者達が視えるだけだ。壮大なことなんてできない。
 ちっぽけな私に何を求めているのだろうか。この大きな獣は。



 怯えたように問う小夜。
 「何をする?阿呆。思うがままに、在るがままに。高貴な我が訪れる、その世界の喜びよ」
 心底愉快そうに愉しそうに笑みを浮かべる獣。


 さっき、前の世界では敬われなかったとか言ってなかったっけ。
 小夜はその言葉を飲み込んだ。

 結局よくわからないけれど、面白おかしく好きなことをするだけって言っているのかな。
 
 面白く生きる。楽しく生きる。自分の思うがままに。
 そんな考えはなかった。
 それは、なんて、なんて―――。



 どう返事をして良いかわからなかった。
 だから、名を呼ぶ。
 「しろがね」



 「小夜」
 覚悟を決めた(諦めた)であろう小夜を、にやぁっと笑いながらしろがねも呼び返した。

 その笑みは、嬉しそうであった。
 まるで、幾星霜探し続けた存在をようやく自分の物にしたような笑みであった。
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