最恐の相棒とのんびり異世界渡り〜嫌われ者同士が面白おかしく世界を引っ掻き回す〜

氷雨

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1章「はじめまして、相棒」

4「手ぶらで引っ越しは遠慮したい」

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 名前を呼びあった瞬間、何かが繋がったような感覚。
 体の奥底、魂がしっくりと噛み合ったような感覚。


 この感覚を何と呼べばいいのか。
 例え世界の全てが自分を迫害しようとも、この感覚だけは裏切らない。
 そう理解してしまった。

 
  この美しく恐ろしい獣ーしろがねーと永遠の果てまで共にいる。
  そうわかってしまった。

 
 今更ながらとんでもないことになったと嫌な汗をかく一方で、不思議と笑みがこぼれる。
 嫌な感覚ではないのだ。むしろ心地よさがある。
 
 


 「・・・何を呆けている」
  少しだけ、機嫌がよさそうに声をかけられる。



 「ううん・・・ねえ、家に帰りたいんだけれど、しろがねはご飯食べるの?」
 夢を見ているような気持ちであったけれど。
 
 現実に帰らねばならない。
 一つ目の化け物もどこかに行ったであろうし、明日も学校がある。
 
 早めに帰りたい。
 ため息をつきながら目の前のことを考える。




 「美味いのであれば喰ってやる」
 相変わらず偉そうな返事。
 小夜も慣れてきたため適当にあしらえるようになった。

 しろがねの発言は、よく聞いていてもわからないことが多いのだ。
 あまり気にせず流していても問題はない。
 


 「うーん、うん。・・・何があったかな・・・」
 苦笑しながら冷蔵庫の中身を思い出す。
 巨大な体躯のしろがね。どれだけ食べるのだろう。
 食費で破産は笑えない。
 
 じっとしろがねを見据えていると、鼻先から尾まで、何10mはあろうかというしろがねの体が
 するすると子猫サイズに小さくなった。

 
 「え・・・小型化・・できるの」
 目を見開く小夜。
 あまりの変貌ぶりを信じることができず、しろがねを抱え上げた。 


 「我に出来ないことなどない。ほら、行くのだろう」
 あまり触るな、と体をよじらせつつも小夜に身を任せるしろがね。
 

 もふもふと撫でくりまわしながら、アパートに向かう。
 帰り道は不思議と人にも人でない者にも会わなかった。
 


 
 歩きながら献立に頭を悩ませる小夜の耳に、しろがねの呆れた声が届く。
 「・・・今日の晩には渡るのだ。腹が満ちればなんでもよかろう」



 「え?今日?渡る?」
 早々に移動とは言っていたものの。まさかまさかこんなにすぐとは思わないだろう。
 展開が速すぎる。
 

 本当に自分はこの生まれ育った世界から出ていくのか?
 しろがねと話していることも、ただの夢ではないか?

 目が覚めたら、狭くて暗いアパートに一人で寝ているんじゃないだろうか。
 本当に、私は独りから抜け出すことが出来たのだろうか。



 
 ぎゅっとしろがねを抱える力を強くした小夜を見上げながら、しろがねは説明にならない説明を続ける。
 「お主を依り代としたことで想定よりも状態が安定したのでな。」
 
 「我のみであればただ渡るだけであるが、お主も共にであるからな・・・。お主自身は、力はあるものの脆弱。転生という形になるかもしれぬ。」
 
 「どうなろうと変わらぬ。渡る先も渡った後の状態もわからぬ故、用意なんぞ不要だ」

 「時を待つ。それのみ」

 

 そんなに一気に言わないでほしい。
 聞きたいことが溢れてくる。


 「もう全然理解が追いつかないけれど、転生って・・・生まれ変わるってこと?しろがねは?」
 一人にされるのは嫌だ。
 自分が自分でなくなることよりも嫌だ。




 「我とお主は繋がっている。渡った時点では、依り代であり器たるお主の肉体が乳児となる可能性はあるものの、肉体の状態には依存しない関係である。何ら問題はない」
 
 「渡ればわかる。」
 説明は終わりだという空気を醸し出すしろがね。



 問題しかないのではないのだろうか。
 渡った瞬間、溶岩にぼちゃんと沈む可能性はないのだろうか。


 不安は尽きない。
 しろがねに質問を続けようと思うも、丁度家に着く。


 とりあえず落ち着こうとお茶を入れる小夜。


 「しろがね、おやつ食べる?」
 この前セールの時にまとめて買ったスナック菓子を出す。
 本当に今夜他の世界に行くのであれば、家事も課題も放棄してのんびりしろがねと話すことを決めた。
 


 「ほう・・・。この世界の甘味か。」
 目を光らせながらバリバリと食べだす。
 口元を汚しながら食べるその姿は、ただの子猫。


 
 見かけは可愛いのになあと思いながら、しろがねの機嫌を損ねないように確認する。
 「ねえ、渡った瞬間に死んじゃうこととかないの?崖に落ちちゃうとかさ・・・」
 
 転生というのも驚きだが、このままの状態でどこかの世界の山頂に放り出されても困る。
 サバイバルなんてできない。



 「ないことはないが、我がいる。・・・お主、脆弱なのは仕方ないとしても、飛べるにこしたことはないぞ」
 口の中にポテチを詰め込みながらしろがねは眉を寄せる。



 「と、飛ぶ?え・・しろがね飛べるの・・・。いや、私は飛べないよ?」
 ないことはないんだ、と思いつつ。
 そんな簡単に飛べ、なんて言わないでほしい。
 ただの人間を神様と同レベルに扱わないでほしいものだ。



 「そのうちどうにかなる。おい、これは何だ!美味い!」
 生チョコをうっとり見つめる子猫。
 気に入ったのかちびちびと齧っている。



 「(どうにかなるって・・・・)生チョコだよ。」
 もう1箱あったかなと棚を探す。


 不安な様子の欠片もないしろがねを見ていると、気にしている自分が馬鹿らしくなる。

 
 「しろがね、でも私は飛べないから。私だけ死んでしまったら、その、どうなるの?」
 私が死ぬことでこの美麗な獣には影響があるのだろうか。
 正直、すぐに死んでしまいそうな気がするのだが。



 「我とお主は繋がっていると言ったであろう。肉体の損傷など些細な話よ。」

 「我の魂を、我の存在を無にする程の者がいたらわからんが、ただ肉体が動かなくなっただけであれば他の世界に渡るだけのこと。そのままその世界にいて回復を待ってもよいが、退屈である」
 我に敵う存在など思い浮かばんがな、とチョコを食べながら高笑いする白猫。
 


 シュールな光景だが、小夜はしろがねの発言を噛み砕いて理解することに精一杯であった。
 「(精神的に死ななければってこと?この尊大ポジティブにゃんこが精神的に死ぬって・・・・)」


 そして、肉体の損傷は話にならないということは。
 「(あれ?これって、簡単に死ねなくなった?)」


 自分、いつの間に人間やめたのかな・・・・と若干放心しながらクッキーをつまむ。
 まあいいか、と思い始めている小夜は、自身でも気づかないうちにしろがねに毒されていた。
 
 
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