悩める大羊

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ユーミンがまだ荒井由実だった頃

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海を見ていた午後
「あなたを思い出す この店に来るたび
坂を登って今日もひとり来てしまった
山手のドルフィンは静かなレストラン
晴れた午後には遠く三浦岬も見える
ソーダ水の中を貨物船が通る
小さな泡も恋のように消えていった」

ユーミンは横浜のレストランだけど、私は神戸にいたから、ドルフィンではなく、喫茶スイスだった。
私達はソーダ水ではなく、コーヒーだった。ハムサンドが並ぶこともあった。
坂を登って行く途中に振り返ると、淡路島が見えた。
船が浮かんでいたり、たまにボーっという汽笛が聞こえた。
何を話したかは、もう覚えていない。
見つめあったことは無い。
目が合いそうになると、目を伏せた。
いつも、カップの底には、冷えたコーヒーが少し残り、ハムサンドの最後の一切れはパンがパサパサに乾いていた。
何ということも無いことを二言三言話し、同じ場所で同じ時間を過ごしているうれしさに浸っていたんだと思う。
あまりたくさん話さない私達だったけど、私達は確実にお互いに好きだった。
あの頃、私は、ユーミンばかり聞いていた。
あの人は拓郎だった。
たまに、ギターを持ってきて、弾きがたりもしてくれた。

坂を登ったスイスではなく、海の近くの喫茶店にも何度か行った。
もう名前も忘れた喫茶店で、いきなり「将来どうするんや?」と聞かれ、「ん、、、就職する。」と答えた私。
翌年、オイルショックが来て、前年まで200%だった就職率は、20%に下がり、私は親のコネで何とかオムロンに入った。
優秀だったあの人は、正攻法で、関西電力に入った。
配属先は敦賀原発。
その頃は、連絡先も教えてもらっていなかった。
「あのとき目の前で思い切り泣けたら
 今頃二人ここで海を見ていたはず
 窓に頬を寄せてカモメを追いかける
 そんなあなたが見える 
 今もテーブル越しに 
 紙ナプキンにはインクがにじむから
 忘れないでって  
 やっと書いた遠いあの日」
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