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第7話 距離が近い

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 宿屋で目覚めたカレンは、ヘイリーと共に食堂へ行くと、朝から町の人に囲まれているエリックを見つけた。

 身近で気さくな王子エリックはもちろん町の民にも大人気で、彼がこの宿に泊まっていると聞きつけた町民が朝からお仕掛けてきたらしい。

 ああ、みんなあの王子の本性をしらないから……

 と憐れむように見ていた。そんなカレンに気が付くとエリックはカレンの側にやって来て肩を抱いて密着してきた。

「おはよう。よく眠れたか?」

「え、ええ。お陰様で」

 と肩を抱くエリックに引くついた笑みを向けながら、密着している部分をさり気なく腕で押しやる。

 結婚した王子と聖女が魔王討伐に向かうのに、仲が悪いと民に思われたら、無駄に不安を煽ってしまうから、本当は思いっきり腕で押しやりたいのをカレンは我慢した。

「さあ、カレン、朝食を頂こうか。皆には、また後で出発する時に見送ってもらえると嬉しいよ」

 エリックは集まっていた民に笑顔でそう言うと、民も新婚夫婦の食事を邪魔してはならないと帰っていった。


 2人になるとエリックは先程の清廉な王子の顔からいつもの意地悪な顔付きに戻って言った。

「いやぁ、助かったよ。朝から囲まれてしまって身動きが取れなかったんだ」

「相変わらず、外面が良いんですね。そんなに大変なら、良い顔するの辞めたらいいのに」

「これも王族の務めというやつだよ。傲慢な王子では信頼も得られないだろう?それに、こうやって民の声を直接聞けるのは貴重な機会だからな」

 まあ、確かに傲慢などっかの貴族よりも本性はどうあれ国民を大事にしているように見えるエリック王子は、多少好感は持てる。

 まあ、多少だけど!

「それからカレン。馬車での移動は今日までになるからな。明日からは馬で行く事になる」

「え!?どうして、ですか!?」

 今回乗ってきた馬車は、ジョアンナ王妃が用意してくれたというとても豪華な馬車で乗り心地も良かった。

「あんな大きな馬車のままでは、魔界の谷間に行くまでに時間がかかり過ぎるからな。各地で魔獣の被害が出ているのに悠長に馬車に乗って魔王の所に行っている場合でもないだろう?」

「そ、そうですよね。……でも私まだ馬にうまく乗れなくて、一人では不安が……」

 ヘイリーか、もしくはデヴォンの馬に一緒に乗せて貰えるのかしら?

「ああ、それなら心配ない。カレンは俺の馬に乗ればいい」

 エリックはさも当然だというように言った。

「え!?」

「なんだ。嫌なのか?」

 カレンが驚いた事にエリックは少し不機嫌に言った。

「いや、そんな事、は、ないですけど……」

 てっきりデヴォンかヘイリーの馬に乗るのかと思ったので、王子の馬に乗るという事に驚いてしまったのだ。

「心配するな。俺は乗馬も得意だ」

 とエリックは得意気な顔をした。

 いや、それは一緒に乗馬の練習に付き合って貰った時に知っているけれど、あの時とは気持ちの持ちようが違うというか……。移動の間、ずっとエリック王子と密着していなければいけない事に、カレンは言いようの無いモヤモヤとした気持ちになったのだった――

    
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