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第4話 私は聖女ではありません
しおりを挟むそれからというもの傷を癒やしてもらった騎士の青年は熱心に聖女神殿に通うようになった。
朝昼夜、聖女が祈りを捧げる時間に毎日祈りを捧げに来ている。
「ねえ、あの騎士様、また祈りに来てらっしゃったわね」
「ええ。本当に格好良くて、祈りに集中出来ないわぁ」
「私も。こういうのを目の保養というのよねぇ」
侍女達は金髪に深い緑色の瞳をした端正な顔立ちの騎士に夢中になっていた。
「ねえ!アメリア様もそう思いますでしょう?」
侍女の一人に問いかけられてアメリアは騎士の青年の顔を思い浮かべる。
確かに目を引く綺麗な顔立ち。それに加えて騎士だなんてさぞモテる事でしょう。
「ええ、整った綺麗なお顔立ちをしている方よね。毎日、祈りに来ている所を見ると大怪我を癒やしてもらって、聖女への信仰心が増したのでしょうね」
とアメリアはその騎士の行動についてあまり真剣に考えてはいなかった――
◇◆◇
それから数日後、今日も聖女の仕事である祈りを終えていつものようにこっそりと神殿に来る民を癒やしていると
「お姉さんは聖女様に仕えているの?」
と女の子に聞かれた。祈りを終えたアメリアは聖堂の侍女と同じ聖堂服を着ているので、こうしてたまに子供から話しかけられたりもする。
「ええ、そうよ。あなたも聖女様と一緒にお祈りをしてえらいわね」
「うん!だって一緒にお祈りをすると聖女様の助けになるんでしょう?」
「そうよ。聖女様もきっと喜んでいるわ」
そう言って頭を撫でてあげると、女の子は嬉しそうに笑って一緒に来ていた母親の元へ走っていった。
フフッ。かわいいわ……
アメリアが女の子を見送った後、神殿の奥へ戻ろうとした時だった。
「あの!」
とあの騎士の青年に話しかけられた。
「少しいいですか?」
「なんでしょう?」
「あなたは以前、私の世話をしてくれた方ですよね?」
アメリアは一瞬自分が癒やした事がバレたかとドキリとしたが
「あなたの世話をしたのは、あちらにいるシルフという侍女ですよ」
とアメリアが騎士を癒やす前に騎士の傷口を綺麗にし包帯を巻いた侍女を教えた。
すると、騎士は首を横に振って言った。
「いいえ、そうではなく……、私が眠っている間に手を握っていてくれたのはあなたでしょう?」
今度は私の瞳を深い緑の瞳が真っ直ぐに見つめた。
「そ、それは私ではありませんわ。きっとあなたの手を握ったのもシルフですわ」
「そんなはずありません!だってあなたのその声は、私を癒やしてくれた時に聞いたあの優しい声と一緒ですから!あなたは……あなた様は聖女様なのですよね!?」
な、なんて事……あの時、意識があったの!?いいえ、眠り薬を使っていてそんなはずは……。しかし、意識の底では覚えていたのかもしれない。
ここは、全力で誤魔化します!!
「私は聖女様ではありません。これ以上そのような戯言を言うのであれば、聖女様への侮辱とみなします」
そう言うと、彼はギュッと唇を結んで悲しそうに顔を歪めた。
うっ、そんな傷付いたみたいな顔しないでよ。いや、実際私は本物の聖女ではないわけだし、聖女の代わりに祈りを捧げてるなんて事がバレればそれこそ一大事なのよ!
「アメリア様、どうされました?」
シルフが心配そうに私のそばへやって来た。
「いいえ、何でもないわ。行きましょう」
アメリアはシルフと共に神殿へと戻っていった。
「アメリア様……」
騎士は去って行くアメリアの背中にそう呟いて、頬を赤く染めたのだった――
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