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第5話 皆さん恋話がお好きなようです

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 神殿に戻るとアメリアは焦った顔でシルフを見た。

「大変よ!あの騎士、私の声を覚えていたの!!しかも私の事を聖女ではないかと言ったのよ!!」

「まあ!」

 シルフも驚きの声を上げたがそれを聞いていた周りの侍女達が一気に騒ぎ始める。

「きゃあ!そうなんですか!!」

「眠っていてもアメリア様の声を覚えているなんて、素敵ですわね!」

「もしかして騎士様はアメリア様を探す為に熱心に神殿に通っていたのでは?」

「そうに違いないわ!きっとアメリア様に恋してしまったのよ!」

 この一大事に焦っているのはアメリアだけで、侍女達は、恋話に盛り上がり始めてしまった。

「ちょ、ちょっと……、だから聖女だって……」

「ここは治療したのはアメリア様だってお教えしてあげましょうよ!」

 アメリアの声は盛り上がる侍女達の声にかき消される。

「でも、治癒の力の事は秘密にしないといけないんでしょう?へレーナ様がそう決めたじゃない」

「そうだけど、そもそもへレーナ様がいないんだし、騎士様には言っちゃても良いんじゃない?言いふらすような方ではないと思いわ」

「そうね。好きな人にだけ秘密を教えるだなんて、二人の気持ちも盛り上がるわ!」

 ん?好きな人!?

「ちょっと待って!!私がいつあの騎士の青年を好きだと言ったの!?」

 アメリアは聞き捨てならないとばかりに話に割り込んだ。

「え!?違うのですか!?格好良いと言ってましたよね?」

 侍女達は一斉にアメリアに期待の眼差しを向ける。

「い、いやそれは……そうだけど」

 確かに格好良いけれども……

「だったら問題ありませんわ!」

 侍女達の顔は一斉に笑顔になり、また恋話に花を咲かせる。

 い、いや……だからって、別に好きってわけではないんだけれど……。

 と思いながらも、そんな事を言える雰囲気でもなく盛り上がる侍女達の話を聞くしかなかった。

「それにしても、へレーナ様は一体何処に行ってしまったのから?」

「そうよね。アメリア様が騎士様と結ばれる為には、まずは聖女の仕事から開放されなければどうしようもありませんわ!」


 ◇◆◇


 その頃へレーナは――


「はあ!お酒って美味しい!!自由って最高!!」

 と神殿から程近い酒場に入り浸っていた。

「おいおい、あの女また飲んだくれてるぞ」

「酔うと自分は聖女だって言って絡んでくるらしい。だが、金払いはいいからってマスターが言ってたぞ。どっかの世間知らずなご令嬢だろうって」

「ハハッ、聖女様は今も神殿で祈りを捧げてこの国を護ってらっしゃるってのにいい気なもんだな」

「さあ、今日もこの酒場はこの聖女様の奢りよー!みんな好きなだけ飲んでいいわよー!」

 へレーナが言うと周りの客達が「おおー!!さすが聖女様ー!!」とへレーナを持ち上げるのでへレーナは上機嫌で酒を煽るのだった――



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