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第6話
しおりを挟むマルケルは、父の話を聞きて護衛騎士としてアンドレス王子を守る決意を新たにし、訓練場へと戻ってきた。
ダビファンとマークは地べたに腰を下ろしており、イーバンが素振りをしているのを見ながら何か話していた。しかし、声を掛けようとしたマルケルは、その話の内容に咄嗟に隠れた――
「はあ、あんなに弱いくせにウリオス家の嫡男だからって王子の護衛騎士になれるなんて良いよなぁ」
とマークが言うと
「そうそう。俺らがいつも手加減してやってんのに、強くなった気になってさ。あんなんで護衛騎士が務まるかよ!本当憐れ」
とダビファンが鼻で笑った。
え……?
「おいおい、お前ら。あれでもマルケル様なりに頑張ってるんだから、そう言うなよ」
イーバンは、素振りをやめると二人を諌めるように言う。
「なんだよイーバン。お前なんてあのじゃじゃ馬お嬢様のご機嫌とって、婿になる気満々だろ?」
とマークが言って嘲笑う。
「まあな。本当はエリーク様に実力を買ってもらって養子になって王子の護衛騎士になろうかと思ったが、あの人も大概親バカだよな。あんなんが護衛じゃあ、アンドレス王子の命も危ないだろうな。まあ、俺がマリベルお嬢様と結婚して、王子の護衛騎士に取り立てて貰えば、流石にアンドレス王子が、俺とマルケル様どっちが上か判断するだろ?アンドレス王子は顔も頭も出来が良いって話だからな。そうすれば、俺が将来の護衛騎士団長だよ」
「ほんっと、お前って悪いやつだなー。無垢なお嬢様たぶらかして!」
「はあ?何言ってんだよ。あんなじゃじゃ馬お嬢様、それぐらいしか利用価値ないだろ?」
な、なんだって!?
マルケルは、今すぐにでも文句を言ってやろうとしたが、更に続く言葉に足を止めた。
「今すぐにマルケル様がいなくなれば、わざわざマリベルお嬢様なんかと結婚する必要もなく、NO.1の実力がある俺に王子の護衛騎士って役目が回ってくるのにさ。ていっても、そんな突然居なくなるわけないしなぁ」
俺が……居なくなれば……?
マルケルは、生気を失ったようにトボトボとその場を後にした……
そして――
「い、居なくなっただと!?」
息を切らしたマリベルが、早朝両親の寝室に駆け込んだ。
「はぁ……はぁ……。昨夜、マルケル、夕食も食べずに部屋に籠もっちゃったから、気になって様子を見に行ったの。そうしたらこの手紙が……」
俺には、やはり王子の護衛騎士など務まりません。無理です!無理なのです!だから、誰か……兵士の者でも養子にして下さい!
と書かれていた。
すぐに、私とニナベアお姉様とお父様で手分けして探した。結婚して、既に家を出ていたスサーナお姉様とマカレアお姉様も呼び寄せて探したが、マルケルの所在は不明であった。
こんなことがバレれば、今までの王族との信頼関係も揺るぎかねない。
「馬鹿息子があ!!!」
お父様は物凄い怒りに震えていた。
「無理させすぎたのかしら。私がもっと男の子を産んであげられていたら……、ゴホ、ゴホッ」
お母様は、涙を浮かべて自身を責めた。
「私が……訓練させすぎたのかな……」
でも、昨日まではアンドレス王子の護衛騎士になる事に凄く意気込んでいたのにどうして……
マリベルは、昨日マルケルが訓練所へと向かう姿を思い出して顔を歪めた。
こんな事をしたなんて公になったら、マルケルはもう一生この家にも帰ってこられないし、ウリオス家と王族との信頼関係も、侯爵家としての立場もなくなってしまうかもしれない。
マリベルは、顔を覆った。すると、お父様の手が肩を優しく叩く。
「いや、マリベルは一緒によくやってくれたよ。お前がいなければマルケルはここまで強くなんてなれなかった。俺がもっとマルケルの気持ちにも寄り添ってやれば、良かったんだ。正直に国王にお話しして、私も責任をとって護衛騎士を辞めるしか……いや、駄目だ。今、私が国王のお側を離れる事は、国王をより危険に晒す事になる。それだけは避けなければ……」
ここで、一番の側近のお父様が護衛騎士を辞めるなんて事になれば国王が……いいえ、この国が大変な事になりかねない……。
「ねえ、お父様が護衛騎士を辞めたら家はどうなってしまうの?今までの暮らしが出来なくなったら、お母様の薬代は?」
スサーナお姉様は、咳き込むお母様の背を擦りながら言った。
そうよ。私達を産んでからすっかり身体を悪くしてしまったお母様は、お医者様にかかっているんだもの。今の状態なら金銭的な心配はないけれど、もし屋敷を追われるようなことになれば……
「誰か家の兵士を代わりに出来ないの!?」
マカレアお姉様が、お父様を見ると、皆がお父様に注目した。
「そ、それは……いくら家の兵士とはいえ……ウリオス家の嫡男でない者を王族の側近の護衛騎士とするのは……」
と言い淀む父にニナベアお姉様が
「じゃあ、どうするのよ!そうだ!イーバンは?マルケルに背格好が似てるし何とか誤魔化せるんじゃない!?」
と言い出した。
「い、いや。いくら何でも背格好が似てたって無理だ」
「じゃあ、どうするの!?うちにこれ以上マルケルに似てる人なん、て……」
と言いながら、ニナベアお姉様が私をゆっくりと見ると、皆の顔が私の方を向いた。
皆の間に沈黙が生まれる……
「い、いや駄目だ!マリベルは女だ!いくらマルケルに似てるからって流石にそれは無理だ!」
その沈黙をかき消すようにお父様が言った。
「そうよね。いくら似てて、剣の腕も立つからって、マリベルは女なんだから、流石に無理よね」
とニナベアお姉様が取り繕うように笑うと、皆も一斉に取り繕うように笑った。しかし、マリベルだけは、真面目な顔のまま視線を下ろすと、次には鋭い視線に変わり顔を上げた。
「私が……騎士になる」
「いや、しかし!お前は女だ。騎士にはなれない!」
そう言われるのは分かっていた。
「分かってる。だから――」
私は手近にあったお父様の短剣を掴むと、ザクッと自分の髪を切った。そして――
「マルケルとしてアンドレス王子の護衛騎士になる」
私が……マルケルの居場所もこのウリオス家も守ってみせる!!
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