双子の弟の代わりに男装して王子の護衛騎士になりました

花見 有

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第16話

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「なに!?また、あいつ来たのか!?」

 ガバス食堂でボッカさんと落ち合うと、トウダさんはさっきの出来事を早速話した。

「そうなんすよ!正午過ぎてるから荷物は没収だー!っていう言い出して。でも頭、こいつ凄えんですよ!時間が読めるんだって!それで、マルケルが部下の男に、まだ正午じゃねえ!ってビシッと言ったら、男が真っ赤になって!俺たちゃその間に荷物を全部移動させ立ってわけですよ!」

 そんな、乱暴な言い方はしてないけど……。とマルケルはトウダを見て苦い顔をする。

「マルケル凄いな!時計が読めるのか!?え?もしかして、文字も読めるのか?計算は?」

「まあ、それなりに……」

「本当か!やっぱり俺の勘は冴えてるな!マルケルがいれば、ホスタイ伯爵の所の奴に言い負かされなくなるぞ!あいつら、俺らに制限かけて、自分等は他の時間に大量に仕入れてるらしいからな」

 とボッカは眉根を寄せると店主のガバスを見て、何かを視線でやり取りしていた。
 その様子にマルケルは、少し引っかかりながらもロッキン商会の役に立てた事に安心した後、神妙な顔付きになってボソリと呟いた。

「それにしても、ここの港町がこんなに厳しく制限されて、ホスタイ伯爵が好き勝手やってるって、ヴァロワ侯爵は知ってるのかなぁ」

 するとその時、ガシャーンとレイラが持っていたトレーが落ちた。

「あ、も、申し訳ございません」

 焦ってレイラは、トレーを拾うとマルケルの方を何か言いたげに見ていた。

「あの……、なにか?」

「な、何でもありませんわ!」

 そう言って、レイラは厨房へ戻っていった。

 なんだろう?何か言いたそうに見えたけど……。それに彼女ってもしかして貴族?染み付いた言葉や動作はなかなか取れないもんな。
 彼女はどうしてここで働いてるんだろう。たまに聞くのは、政略結婚が嫌で娘が家出するとかあるけど……、彼女もそれなのか?一般人として生活するのは大変じゃないのか?

 マルケルは、同じ貴族であろうレイラの事が気になっていた。


 ◇

一方、王宮では――


「アンドレス王子、こちらの書類に目を通して頂いてよろしいですか?」

「ああ」

 ブラスに渡された書類にアンドレスは眉を寄せた。

「東部は輸入量が大幅に増えているな。なぜだ?」

「ええ。東部は昨今の干ばつ被害で作物の不作が続いているのです。他国からの輸入に頼るのは必然かと……」

「そうか……んん」

 少し、唸った後アンドレスはマリベルを見た。

「マルケル、ウリオス領の最近の収穫量はどうだ?」

「ウリオス領では、特に被害もなく作物の収穫も盛んに行われています。収穫量にも余裕がありますよ」

「だったら、輸入ではなく国内で賄ったらどうだ?」

 アンドレスはブラスに厳しい視線を向けた。

「……ええ。そうですね。検討致します」

 ブラスは曖昧な笑みを浮かべると王子の執務室から出ていった。

 検討ねぇ……。そもそも今年って干ばつ酷かったなんて話、お父様してたかしら?まあ、ヴァロワ家の領土の事は、私が口出し出来る事でもないけど。それよりも……今はこの状況の方が不味いわ。

 アンドレス王子と二人になった執務室で、マリベルは気恥ずかしくて視線を彷徨わせていた。

 ああ、誰かいれば大丈夫だけれど、二人になるとどうしてもアンドレス王子を意識しちゃう。

 この間の事が脳裏を過る。
 アンドレス王子に抱きしめられた感覚が、近付く唇がマリベルの頭を一杯にして頬を赤くさせた。

 駄目よ!私はアンドレス王子を守るって決めたんだから!マリベルとしての気持ちなんて消し去るのよ!

 気持ちを整え、キリッとしてアンドレス王子を見た。
 すると、アンドレス王子は机に頬杖をついて、こちらを射抜くように見つめていた。
 その視線に整えた気持ちは一瞬で崩れ去り、マリベルは再度、顔を赤らめてしまう。

 な、なんて視線で見てるのよ!

「お前さ、二人になった途端にそういう顔するなよ」

「そ、そういう顔ってなんですか!元々こういう顔ですけど!?」

 すると、カタンと王子がイスから立ち上がり、マリベルの方へと近付いてくる。

「なるほど。ではお前は、元から俺を見て顔を赤くするという事だな?」

「あ……の、そ、それは……」

 ジリジリと迫ってくるアンドレスに、マリベルは身動きが取れなくなる。
 すると、アンドレスの指がマリベルの頬に触れた。

「こんなに頬を染めて……。マリベル、お前本当は俺の事……」

 アンドレスの言葉にマリベルがギュッと瞳を閉じた時だった――

 ――コンコン

 扉がノックされてサッとアンドレスの手がマリベルから離れる。

「誰だ?」

 アンドレスが不機嫌そうな声で返事をすると扉が開いた。

「私よ」

 執務室にやって来たのは王妃様であった。そして、王妃様は続けて言った。

「ねえ、アンドレス。今度の舞踏会、マリベルちゃんも出席するって本当なの?貴方がそう言ったって聞いたんだけど」

「え!?」

 思わず私が驚きの声を出してしまったのは仕方がない。

「あら、マルケルも知らなかったの?」

「あ……、えーと」

 マリベルが王妃様に問われて答えに詰まっていると、アンドレスはクスリと笑って言った。

「ああ。マリベルは参加する」

 アンドレスは言い切るとマリベルを見てニヤリとした。

 アンドレス王子、一体どういうつもりなの!?

 マリベルが焦るのを見て、アンドレスは一人笑いを堪えるのだった――
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