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心地よい交流
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それから、手紙でやりとりをして、クラウディアと王都で会うことにした。
マダム・ローズにいる時は、令嬢らしい完璧な振る舞いで、「こちらのレースの方が貴方に似合うと思いますわ」などと話しかけてくれるが、料理店の貴族室に入ると、彼女の態度は一変する。
なんというか、立ち振る舞いや物言いに、逞しさを感じるのだ。けれど、愚痴を吐き出されまくったあの日と違い、会話はずっと穏やかである。
「ずっと気になっていたのだけれど、『もでるさん』ってどういう意味なのかしら?」
「あぁ~……ええと、身長が高くて、体型が整っていて、美しいなぁ……みたいな意味です」
「あら、ありがとう。ところで貴方のお菓子、とても美味しかったわ。あれは、どうやって作るのかしら?」
「ありがとうございます! あれはメレンゲと言って卵白を高速で泡立て——」
早口で説明を続けるが、明らかに理解していない様子なので、きりが良いところで会話を止めた。この世界ではお菓子作りの知識がないことが前提なので、軽くでも理解してもらうためには、実際に見てもらいながらでなければ難しい。
「……クラウディア様は、本当は、どんなことに興味がおありなんですか?」
「そうね。政治や経済なんかに関心があるわね。社会がどうやって成り立っているか、良い治世とは何か。どうすれば商売が儲かるのか……そんなことを考えるのが好きよ」
「すごいですね……」
「そうでもないわよ。なんの意味もないもの」
どこか遠くを見つめる、寂しげな瞳をクラウディアは浮かべた。
「……そんなこと、ないと思いますけど」
私の弱々しい言葉に、クラウディアはそっと首を振った。それから、どこか申し訳なさそうに、私を見つめた。
「それより、今日は貴方の話を聞かせて頂戴。……風の噂で聞いたのだけれど、バートン家をでた後、一時期勘当されていたのでしょう? そこから、どうやって公爵家の方と知り合ったのかしら?」
「……まあ確かに、気になりますよね……」
リゼル村に行ってからの流れをかいつまみ、クラウディアに伝える。なるべく彼女が申し訳なく思わない様に、楽しかったこと、嬉しかったことを中心に伝えた。
もっとも、村にいる時も本当に楽しく、穏やかで幸せな日々だったのだけれど。
「貴方、すごいのね」
一通り話し終えると、クラウディアは感嘆した様子で深く長いため息をついた。
「不謹慎かもしれないけれど、わたくしも、貴方の様に自由に生きてみたいわ」
「…………クラウディア様」
また、彼女と自分を重ねてしまった。
日々のタスクをこなすだけで必死で、ここ以外に、自分の居場所はないと思っていたあの頃。
そこから、異世界に転生するなんていう、とんでもない方法で抜け出した今だから、分かる。
「出来ますよ、きっと」
その時は、この場所しかない、この生き方しかないと思っている。
でも、広い視野をもって見渡せば、その場所はとても小さくて、いくらでも出口や抜け道があるものだ。
「クラウディア様が本当に望めば、出来ないことなんて何もないんです。たまたまですけど、私にだってどうにかなったんです。クラウディア様に、出来ないわけがありません」
私の言葉に、クラウディアは形の良い眉をよせ、思案する様な表情を浮かべた。
そして、何か一つ、決意した様な表情で顔を上げた。
「クラウディア。次からは、わたくしをそう呼んでくださいませんか?」
「…………! で、では、私もセレスティアで」
そう言うと、クラウディアはにっこりと微笑んだ。
その後も、クラウディアと何度かマダム・ローズで待ち合わせて食事をした。
マリーは、まだクラウディアのことを疑っている様だけれど、彼女の本性や言動をそのまま伝えるわけにはいかないので、納得してもらうのに酷く苦心した。
曰く、「セレスティア様はお優しすぎます。もっと人を疑った方が良いと思います」とのことだ。
それでも、「セレスティア」「クラウディア」とお互いを呼びながら、仲良くドレスを見ている私たちに混ざるうちに、眉をしかめながらも彼女のことを認めてくれた。
「クラウディア様は、本当に、どんなドレスでも似合いますよね!」
「…………」
「あ。その、セレスティア様に似合うドレスをお選びするのは、やり甲斐がとてもあります!」
私とマリーのそんなやりとりを、クラウディアはくすくすと上品に笑いながら見つめていた。
そんな日々が過ぎて、クラウディアからある日、1通の招待状が届いた。
マダム・ローズにいる時は、令嬢らしい完璧な振る舞いで、「こちらのレースの方が貴方に似合うと思いますわ」などと話しかけてくれるが、料理店の貴族室に入ると、彼女の態度は一変する。
なんというか、立ち振る舞いや物言いに、逞しさを感じるのだ。けれど、愚痴を吐き出されまくったあの日と違い、会話はずっと穏やかである。
「ずっと気になっていたのだけれど、『もでるさん』ってどういう意味なのかしら?」
「あぁ~……ええと、身長が高くて、体型が整っていて、美しいなぁ……みたいな意味です」
「あら、ありがとう。ところで貴方のお菓子、とても美味しかったわ。あれは、どうやって作るのかしら?」
「ありがとうございます! あれはメレンゲと言って卵白を高速で泡立て——」
早口で説明を続けるが、明らかに理解していない様子なので、きりが良いところで会話を止めた。この世界ではお菓子作りの知識がないことが前提なので、軽くでも理解してもらうためには、実際に見てもらいながらでなければ難しい。
「……クラウディア様は、本当は、どんなことに興味がおありなんですか?」
「そうね。政治や経済なんかに関心があるわね。社会がどうやって成り立っているか、良い治世とは何か。どうすれば商売が儲かるのか……そんなことを考えるのが好きよ」
「すごいですね……」
「そうでもないわよ。なんの意味もないもの」
どこか遠くを見つめる、寂しげな瞳をクラウディアは浮かべた。
「……そんなこと、ないと思いますけど」
私の弱々しい言葉に、クラウディアはそっと首を振った。それから、どこか申し訳なさそうに、私を見つめた。
「それより、今日は貴方の話を聞かせて頂戴。……風の噂で聞いたのだけれど、バートン家をでた後、一時期勘当されていたのでしょう? そこから、どうやって公爵家の方と知り合ったのかしら?」
「……まあ確かに、気になりますよね……」
リゼル村に行ってからの流れをかいつまみ、クラウディアに伝える。なるべく彼女が申し訳なく思わない様に、楽しかったこと、嬉しかったことを中心に伝えた。
もっとも、村にいる時も本当に楽しく、穏やかで幸せな日々だったのだけれど。
「貴方、すごいのね」
一通り話し終えると、クラウディアは感嘆した様子で深く長いため息をついた。
「不謹慎かもしれないけれど、わたくしも、貴方の様に自由に生きてみたいわ」
「…………クラウディア様」
また、彼女と自分を重ねてしまった。
日々のタスクをこなすだけで必死で、ここ以外に、自分の居場所はないと思っていたあの頃。
そこから、異世界に転生するなんていう、とんでもない方法で抜け出した今だから、分かる。
「出来ますよ、きっと」
その時は、この場所しかない、この生き方しかないと思っている。
でも、広い視野をもって見渡せば、その場所はとても小さくて、いくらでも出口や抜け道があるものだ。
「クラウディア様が本当に望めば、出来ないことなんて何もないんです。たまたまですけど、私にだってどうにかなったんです。クラウディア様に、出来ないわけがありません」
私の言葉に、クラウディアは形の良い眉をよせ、思案する様な表情を浮かべた。
そして、何か一つ、決意した様な表情で顔を上げた。
「クラウディア。次からは、わたくしをそう呼んでくださいませんか?」
「…………! で、では、私もセレスティアで」
そう言うと、クラウディアはにっこりと微笑んだ。
その後も、クラウディアと何度かマダム・ローズで待ち合わせて食事をした。
マリーは、まだクラウディアのことを疑っている様だけれど、彼女の本性や言動をそのまま伝えるわけにはいかないので、納得してもらうのに酷く苦心した。
曰く、「セレスティア様はお優しすぎます。もっと人を疑った方が良いと思います」とのことだ。
それでも、「セレスティア」「クラウディア」とお互いを呼びながら、仲良くドレスを見ている私たちに混ざるうちに、眉をしかめながらも彼女のことを認めてくれた。
「クラウディア様は、本当に、どんなドレスでも似合いますよね!」
「…………」
「あ。その、セレスティア様に似合うドレスをお選びするのは、やり甲斐がとてもあります!」
私とマリーのそんなやりとりを、クラウディアはくすくすと上品に笑いながら見つめていた。
そんな日々が過ぎて、クラウディアからある日、1通の招待状が届いた。
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