幸運の人 ヴァレルディン・ハロットは如何にして狂ったのか

文字の大きさ
1 / 1

幸運の人 ヴァレルディン・ハロットは如何にして狂ったのか

しおりを挟む
 北に暫く送ります。

 拘留された部屋に夜中にやってきた王女殿下は、目を片手で覆い隠しながらそう言った。ともに来ていた友人は後ろ手に手を組み、はあとため息を吐いた。

「いいですか。こちらで目途が立つまで、決して王都に足を踏み入れてはなりません。貴方がどれだけ図太く生命力が強かろうと、今回は…生き残れるかもしれませんが、難しいでしょう。」
「まるで俺が怪物かなにかのように仰る。」
「名高い騎士様が何を言ってんだ。」

 はー、ともう一度吐き出すと、友人は部屋に置かれた水を煽り置くと、窓の外を見た。

「お前の兄はどうなっているんだ本当に。片腹の妹をたぶらかしたと思ったら妹を使って他国の王子を暗殺させようとするわ、それを全部お前のせいにするわ、やたら説得力のある供述をするわ。」
「俺が聞きたい。昔からああだ。」
「なんてこと、返しに切れがないわ。しっかりなさい、今から極寒の地へ赴かねばならないのですよ。」

 ヴァレルディン・ハロットは生まれたときから運が悪かった。貴族の家の第3夫人の元に生まれた彼には、腹違いの兄がいた。兄からそれはそれは煙たがれ、正妻はヴァレルディンを殺そうとし、実の母はヴァレルディンを庇って毒死した。

 家で後ろ盾のなくなったヴァレルディンと妹を、家の者はぞんざいに扱った。せめて残された実の妹を守ろうと、ヴァレルディンは彼なりに妹を大切に守ってきた。幸いにも学園で友人もでき、後ろ盾の出来たヴァレルディン相手に、ここ最近は兄も大人しくしていたのだ。

 思い違いだったのだ、それは。剣に伝う血を眺めながら、ヴァレルディンは亡羊に思い返した。あの、どうしようもない兄は、あろうことか腹違いの妹をたぶらかし、恋仲になったのだと言った。

 恋仲…恋仲!?ふざけるのも大概にしてほしかった。嘘だと言ってほしくて妹を見ると、そこには兄にしなだれかかる、守っていたはずの少女だった女がいた。

「ヴァレルディン様、ご無事で。」
「ああ。…進もう、北へ向かわねば。」

 剣の血を払い、馬車に乗り込む。北へ向かうまでの道での、2回目の襲撃だった。

 王女殿下によると、自分は容疑者のていで北へ送られるらしい。北の地へ拘留し、親交のある殿下や騎士団と連絡を取れない状態にする、と見せかける算段とのこと。

 もうどうでもよかった。ヴァレルディンは通された屋敷の外を見た。殿下や友人達には悪いが、ヴァレルディンは正直もうなにもかもにやる気がなくなっていた。やる気はないが死にたいわけではないので、ただただ大人しく流れに身を任せながら身を守っていた。

 ヴァレルディンは親しいものから図太いと言われていた。それは彼の性格によるもので、つまり、あの生育環境でよくこの性格に仕上がったな、という意味合いのものであった。

 しかし今回ばかりはさしものヴァレルディンでも目が虚ろになっていた。何せ一番信頼していたはずの肉親の裏切りだ、いくらヴァレルディンが図太かろうと今回ばかりは傷が深かった。

 ノックをされ、入室を伺われる。許可を出すと、先ほど案内をしてきた男と、それとは別の男が入って来た。

「この者が身の回りの世話を承ります。」
「ああ。」
「ヴァレルディン・ハロット卿におかれましては、ご足労をおかけしますが、これより別邸へとご移動を―」

 言い慣れていなさそうな敬称を聞き流し、そり型の車に乗り込む。後ろからは別のそりがついてきた。

 連れていかれた「別邸」とやらは、本当に別邸か疑わしいものだった。

 恐らく兄か、兄に連なる者に金を掴まされているな。先ほどからソワソワと落ち着かない者たちの様子を見て、ヴァレルディンはなんとなく感じ取った。容疑者ではあるが貴族であるヴァレルディンを丁重に扱わないよう、遠回しに言い含められているのだろう。

 彼らはヴァレルディンが何も言わないことをいいことに、数日分の食料を置くと、さっさと引き上げていった。残されたのは自分の世話を押し付けられたであろう男だけ。

「おい。名前は何という。」

 ヴァレルディンは自分と同じく哀れな男の名前を聞くことにした。この男がどこまで知っていて、あの男たちと同じような金を掴まされているかどうかは知らないが、しっぽ切りのような扱いであることに変わりはない。

 容疑のかかった貴族の世話をしなければならない、下手をすればその貴族に殺されるかもしれない、使い捨ての人間。そういう扱いの男だった。

 それを気付いているのかいないのか、雪焼けをした男がこちらを見上げてきた。男はヴァレルディンの顎くらいまで身長のある男だった。

「は、ええと、カラカテといいます。」
「普段は何を。」
「猟やら、たまに薬草を集めたり…。」
「この屋敷には人がいるのか。」
「長いことこの近くで暮らしていますけど、人が来たのを見たのは今日が初めてですね。」

 ここら辺?ヴァレルディンは道中を思い返した。そり型の車で村から森の入り口まで来て、森の入り口からも距離があった、ここら辺に?ヴァレルディンは訝しんだ。屋敷があるとはいえこの有様、人もいないようで、とても人間が住めるような場所とは思えなかった。

 黙り込んだヴァレルディンに何を思ったのか、男は焦りだした。疑われていると思って焦っているのだろうかと様子を伺っていると、男が雪の上の布に置かれた食料をてきぱきとまとめ始めた。何をしているのだろうか。

「と、とりあえず、お貴族様、こんなところでじっとしてちゃ2人とも死んじまいます。うちに行きましょう。」
「お前の家?ここではなく?」
「こんなところ住めるわけねえです。」

 男はいくつかの食料を選別し、いくつかを雪の中に埋めると、突然長く指笛を鳴らした。思わず剣を持つ力を強めると、遠くからサクサクと大きな牡鹿がやってきた。

 やって来た牡鹿の首を、男がポンポンと叩く。食料を括り付けられても大人しくしている大きな鹿に、ヴァレルディンは驚いた。この男は鹿を飼っているのか。思った疑問をそのまま口にすると、男はこちらを向いて驚いたように首を振った。

「飼う?とんでもない。このひとは友人ですよ。たまに荷を運ぶのを手伝ってもらっています。」
「猟をしているのに鹿が友人なのか。」
「こちらが勝手にそう思っているだけです。ホラ、行きますよ。日が暮れたら本当に死んじまう。」

 後ろから着いていくと、住めるわけがないと思った森が開けた先に、小屋がぽつんと立っていた。

 男が食料を置き扉を開け指し示すようにこちらをみたので、ヴァレルディンは警戒しながら中に入った。

 奥に暖炉のある、小さな椅子と机が置かれた、簡素な家だった。奥にも部屋があるらしいが、広さは感じない。

 男が暖炉とランプに火をつけ、奥の部屋へ入っていく。戻ってくると服が変わっていて、先ほど見た服よりも厚みのある、繕いの跡がいくつもある服だ。

 この男は魔法が使えないのか。ヴァレルディンは絶句した。なぜ魔法を使えない者が、集団から離れてこんなところで一人で暮らしているのか。王都では信じられない光景だった。

「お貴族様、そのまんまじゃ風邪を引いちまいます。僕は魔法が使えないんで、乾かすならご自分でお願いします。それから暖炉に寄ってください。寒いでしょう。」
「…その、お貴族様というのはやめてくれないか。」
「はい?」

 ヴァレルディンはそう言いながら、男が差し出してきた椅子に座る。男の方はもっと小型の椅子を取り出して座ると、火の番をし始める。火を見ていると、なんと呼べばいいか問いかけられた。

「ヴァレルディンでいい。」
「ヴァレ、ル、でぃン様。ヴぁレゥディン様。…慣れますんで、噛んだときは見逃してください。」
「ああ。」

 火の粉が小さくはぜる音が響く。火がよく焚かれたのを見て、男が隅に避けていた焚き火台を火かき棒で手繰り寄せ、鍋を置いて席を立った。牛乳瓶をいくつか持ってきて、蓋を開けて牛乳を鍋に入れると、ゆっくりとかき混ぜている。

「カラカテは一人でここに住んでいるのか。」
「はい、僕一人です。」
「魔法が使えないのに?」
「魔法が使えないからですよ。村じゃあ役に立たない。」
「そういうものなのか。」

 砂糖を入れたいときは教えてくださいと言われながらカップを渡される。小さく礼を言い受け取りはしたが、ヴァレルディンはすぐには手を付けず、男が口をつけるのを待つ。

 男が自分の分に口をつけ、飲み込んだのを確認してから自分の分を飲み始める。どうやら毒は入っていないようだった。

 男は温まったミルクを飲みながら、鍋に固形状のスープと飲み水を加えていく。これが食事らしく、そのまま温まるのを2人して無言で待った。

 これからどうしようか。体の温まったヴァレルディンは、そんなことを考えることが出来るようになっていた。やる気は相変わらずなかったが、先を憂う気持ちが蘇ってきていた。

 パチパチと揺れる火を眺めていると、男から声がかかった。気まずさを紛らわせるような声音だった。

「ヴァ…ルディン様、本当に身一つでここに来たんですか。その剣だけじゃあ冬は越せませんよ。」
「荷物は屋敷に送ると言っていたから、おそらく先ほどの屋敷にある。」
「それじゃあ明日はあの屋敷をしっかり見ないといけませんねえ。とはいえ、あんなとこに1年も住めませんよ。バ、レルディン様は魔法で直せますか?」
「少しなら出来るが、ああいうのには繊細な操作が要る。それにあの屋敷自体から魔力を感じた。素人が下手に手を出したら酷いことになりそうだ。」
「ええ?そんなとこに貴方を置いていったんですかあの爺さんたちは。」

 鍋に野菜と肉を入れながら、男は本当に信じられないと言った風に言う。それから恐る恐る尋ねられることを答えていく。内容はそこらの人間でも知っているようなもので、そこにヴァレルディン側の主張も混ぜて教えてやった。

 妹の裏切りにあい、腹違いの兄に無実の罪を着せられ、友人たちに匿われる形でここに来たこと。容疑者のていで送られたので、碌な用意もないこと。容疑が晴れるまで王都に帰ることはできないこと、等々。

 これまでの経緯を話していると、またあの時の吐き戻しそうな気持ち悪さが蘇ってきた。あの時の兄の顔、妹の姿!

「あの兄め…大人しくしていると思ったら余計なことを。」
「ヴァレウディン様、それ酒入っていませんよ。」
「もうヴァンでいい。笑いそうになる。とにかく、そういうわけで俺は今友人の吉報待ちの崖っぷち貴族というわけだ。」
「にしてもご友人方もこんなところに匿うとは。最悪死にますよ。」
「街のほうが危険なんだ。この領に来るまでもう2回殺されかけ済みだ。」
「はあ、それはまた、運がいいですね。」
「運がいい?どこが。」

 この男は何を言っているのか。馬鹿にするように笑い、カップの中身を飲み干す。こんな男に何を自分は言っているのか。言ったところで何も変わらないだろうに。

 投げやりな気持ちになっていると、白く少し深い丸皿がズイと差し出された。受け取れと言うことらしい。不敬な態度に不愉快になったが、もう一度押し出されたので、渋々受け取った。

 こちらも男が口を付けるまで待ってからノロノロと食べ始める。スープは暖かく、簡素で適当な調理のはずなのに絶品のように感じられた。そこでようやく、ヴァレルディンは自分が腹が減って気が滅入っていたことに気が付いた。

「俺のどこが、運がいいと思う。」

 人の意見を頭ごなしに否定するとは。反省しながらそっと問いかけると、男は―カラカテは全く気にしていないようで、少し考えるとこういった。

「ええと…まずは2回生き残っているところですかね。あとは雪の浅い時期にここに来たところも。」
「これで浅いのか。」
「はい。普段は腰まで積もります。」
「そうなのか。…そうなのか?」

 その程度のことで運がいいのだろうか。そうなのだろうか。ヴァレルディンはちょっと疑問に思った。

 食器を受け取り、片付け戻って来たカラカテに、ヴァレルディンは独り言のように話しかけた。

「俺は、自分は運がいいと思ったことはない。」
「はあ。」
「母は死に、兄弟は人の心がない。信用していた妹に裏切られ、今もこんな場所にいる。」
「はあ。」
「しかし君の言う通り、見方を変えれば運がいいのかもしれない。頼りになる友人がいるし、今も親切な君に助けられている。」
「親切ではありませんよ。」
「君にとってはそうでも、俺にとってはありがたいことだ。だから俺にとって君は『親切な人』だ。」
「はあ。」

 そんなことは全てどうでもいいかのように返事をされ、ヴァレルディンはようやく、カラカテを疑う気が削がれた。

 無防備すぎるのだ。帯剣している魔法が使える貴族に対してという意味でもあるが、「あの」ヴァレルディンに対して無防備が過ぎる。しっぽ切りのような扱いも知らないのだろう。知っていたらもっと悲壮な雰囲気の一つでも漂わせているはずだ。

 ここにいる間は、カラカテを頼ってみよう。そう悪くは扱われないだろう。

「改めて、これからよろしく頼むよカラカテ。暫く暇な身の上だ、必要があれば何でも手伝わせてくれ。」


 最初の1カ月、カラカテはヴァレルディンの身の回りを整えようと色々と動いてくれた。まず例の屋敷を検分し始めた。外から見た通りひどいありさまで、カラカテが扉を押した瞬間こちら側に上から倒れてきた。魔法で止めなければ二人とも下敷きだっただろう。

 荷物は入ってすぐの壁際に一まとめにされていて、さっさと逃げろと言わんばかりの有様だった。どうやら気の良い御者だったらしい。

 その後一応確認しようと、カラカテが階段前まで足を進める。そのまま床が抜けてくせ毛がヒュンと上に浮き上がるのを見て肝が冷えた。床の底を見ると、凍った石がいくつも置いてあった。

 住めない。顔を見合わせてそう判断すると、荷物をまとめて屋敷を後にした。

 いくつかの防寒着は持ってきていたので足りるかと思っていたが、カラカテからすれば全く足りないらしい。翌日防寒着を買いに村まで行こうと言われた。

 またあの村まで向かわせるのは悪いと、魔法を使うからと軽く断ると、使えなくなったら死ぬと言われた。それもその通りだったので、カラカテに従って村へ向かった。

 カラカテは恐らく村で一番大きな店に来ると、ヴァレルディンを何人かの老婦人たちに任せて隅の方に寄っていく。餅は餅屋でと言った風で、口出しをする気はないらしい。

 はしゃいだ様子の婦人たちに防寒着を見繕ってもらい着替えると、元の服より動きにくかったが、確かにこれなら冬を越せそうな暖かさをしていた。

 剣を下げる紐がなかったので選んでいると、カラカテはどうしているのか気になって奥を見る。彼はいくつかの本を見ていて、その様子を見た婦人達は、少し悲し気にこう言った。

「あの子はねえ…かわいそうな子でね。」
「母親が魔法を使えなかったんだけど、それがあの子にも移ったみたいでねえ。あの娘もかわいそうだったよ…追い出されて…。」
「あそこでどうにか生きているんだけど、私たちもどうしていいか分からなくてねえ…」

 そうなのか、勿体ない。ヴァレルディンはただそう思った。王都では魔法が使えないものなど、財務や秘匿に関する業務に引っ張りだこだと言うのに。

 選んでもらった紐に剣を繋げながら、ヴァレルディンはカルチャーショックを受けていた。

 週に1度届く食料の送り先を小屋に変えて欲しいと言われ、ヴァレルディンは鳥型の配達魔法を使って手紙を飛ばした。恐らく届く食料には足がつかないよう、毒は入っていないだろう。昨日の固形のスープなど最たるものだった。

 とはいえ日を置いて毒を入れてくるとも限らない。先日は疑いじまいでろくに見せることもなかった毒の検分魔法をカラカテの前でする。はー、そういうのもあるんですねえと呑気にカラカテが言っていて、少し笑ってしまった。

 小屋での生活は楽しいものだった。王都では全くしなかった黙々とした軽作業はヴァレルディンの悩みを頭の隅に弾き飛ばし、教えてもらった薬草の選定も黙々とこなすもので、これも覚えると面白かった。

 覚えたことを魔法の呪文に組み替えて見せると、カラカテは凄い凄いとはしゃいでいた。

「ヴァン様、なんでもできて凄いですね。」
「魔法なしでこれを全部こなしているカラカテの方が凄いよ。」

 実際カラカテは凄かった。これら全ての雑事をこなすこともそうだが、この男の凄い部分は「頭」だった。

 薬草の選定方法を教えられた時、ヴァレルディンは内心舌を巻いた。カラカテは教本の一つも持たず、かわいらしい絵の描かれた紙をもって、しかしそれを一切見ずに諳んじるようにいくつもの薬草の特徴を述べていった。

 その紙が何なのか問いかけると、父母が置いていってくれた薬草の絵で、読めはしないが記憶の整理に役立てていると言った。

 カラカテが言うにはしなくても問題ないと言う森の管理についていくと、地図の一つも持たずに出発しようとするので、ヴァレルディンは行きがけに地図はないのか問いかけた。

 ない。カラカテは首を振った。要らない、と言ったのだ。無くてもすべて覚えていると。実際カラカテはすべて覚えていた。ここは2年前に雪崩があって少し雪が崩れていて危ないだとか、この木は半年前にようやっと大木になった木だとか、ここは7年前に洞窟になっていった岩だとか。ひとつひとつをのんびりと答えるカラカテは、特に印のようなものはつけていなかった。

 勿体ない。ヴァレルディンは唸った。これはなぜこんなところに一人で置かれているのか。

 そうこうしながら森の中にも慣れて暫く、カラカテから本を3冊差し出された。薬草の絵が表紙に書かれたその本は、薬草学初級の本だった。

 これを教えて欲しいと言ってきた。自分は文字が読めないから、ヴァレルディンが読んで教えて欲しいと。

 勿体ない。本当に。ヴァレルディンは思ったまま本を読み進め、カラカテに内容を聞かせていった。このとんでもなく勿体ない男に、早く教えてやろう。そうしたらすぐに覚えるはずだ。ヴァレルディンはひょいひょいとなんでも覚えるカラカテを、この時ちょっと面白がっていた。

「ヴァン様、すみません、教えて欲しいとは言ったんですが、多いし早いです。」
「早い?そうか…すまないカラカテ。どうも手持ち無沙汰で、今できることに全力を出してしまうようだ。」
「お気持ちはとても嬉しいです。来年からとれる薬草の種類が増えそうだ。」

 勢いそのままに教えていると、カラカテから待ったがかかった。早いとは言ったが、カラカテはそれなりに内容を理解していて、途中までの内容をふんわりとこちらに聞き返していた。

 文字を教えよう。ヴァレルディンは名案だと思った。この賢い男に文字を教えたら、良い宿代になるはずだ。


 そうやって4カ月。ヴァレルディンは最初のなにもかもがどうでもいい状態から完全復活していた。主にカラカテと森が面白すぎてそれどころではなくなったのだ。探れば探るほどおかしなものが出て来るし、カラカテはカラカテで物を教えれば教えた分以上に吸収していく。

 探って出てきたものをそのまま形にしてカラカテの家においても、カラカテは特に何も言わなかったし、嫌がっているわけでもなさそうだった。これ幸いとちょっとずつ家を改造していく。

 椅子を増やしてカラカテが小さい椅子に座らなくてもいいようにした。薬草の採集標本やレポートは、本の虫になりそうなカラカテの暇つぶし用に用意した。前より机を大きくすると、カラカテが勉強しやすそうになった。チェス盤を見せて説明するとルールを覚えたので、一緒にやるために駒を増やすことにした。

 カラカテはそれら全てをのんびりと見ていた。ヴァレルディンは忘れかけていた妹と殿下と友人たちの存在が脳裏に浮かび、そういえば俺は人の世話をするのが好きだったな、と思い出した。

「カラカテ~。森に行ったら大きな蝶がいたんだが、どうも精霊みたいでなあ!」
「わかりました。わかりましたからその手に持っている謎の石は元居た場所において来てください。過ぎたるは身を滅ぼします。」
「ええ?これでキングを掘り出そうと思ったんだが…家主が言うなら仕方がないか。行くぞパラディン!」

 今日も面白すぎる森に一人足を運び、拾ってきたものを持ち帰りカラカテに見せてやる。さすがにそれはだめだと首を振られ、仕方なしに森に戻る。

 とても充実していた。いつの間にか寄って来た銀狼のパラディンと魔法を使いながら森を駆け抜ける。

 森は面白い。カラカテは世話のし甲斐がある。王都と違って魔法も使い放題。ウキウキなヴァレルディンは、すっかり自分が貴族であることと、ここが村から離れた危険な場所なことを忘れていた。


 森の奥で石を元の場所に戻していると、突然後ろを何か硬いもので小突かれた。振り返ると、カラカテの友人がそこにいた。

 珍しい、カラカテがいないのに。どうした、というと、急にパラディンが森の入り口の方向を見た。

 何かあるのだろうか。同じ方向を見ると、カラカテの友人が後ろに回り込んできて、ぐいぐいと角で押し出してきた。

 カラカテに何かあったんだろうか。この不思議な牡鹿はこういうことを時々してきた。パラディンを一撫でし、上に飛ぶ。木の上あたりまで来たあたりで、入り口の方に気配を走らせて。

 そのままカラカテが引きずられているところまで急降下した。

「村で待ってるやつらも呼んでやるよ。嬉しいだろ?いろんな奴の役に立てて!」
「ああ嬉しいな。わざわざ呼んでくれて。」

 カラカテを引き摺っていた男の周りの空気を薄くし、もう一人の男を適当に吹き飛ばして気絶させる。この男にはやってもらうことがあるため、気絶させないよう空気は保った。

 倒れこみそうになったカラカテを掬い上げる。見ると裸足で、足を雪から離すようにして体を持ち上げた。

「カッ…ヒ…」
「俺の言うことに『はい』か『いいえ』で答えろ。仲間はもう呼んだか?」
「イッ…ゥエ」
「聞こえん。」
「ガァッ、イ、エ、イイェ!!!」
「そうか、呼べ。今すぐ。」

 男が魔法で仲間を呼んだのを確認すると、用がなくなったのでそのまま落とす。

 耳をふさいでおいてやりたかった。カラカテを支える腕に少し力を入れて緩める。殴られた痕が痛々しい。

「カラカテ、すまない。怖い思いをさせた。」
「…。」
「口も利けなくしたのか。なんてことを…。」

 早く家に帰してやらねば。いつの間にか傍にいたカラカテの友人にカラカテを任せて見送る。

 さっさと片付けて帰ろう。ヴァレルディンはノコノコとやってくる予定の簒奪者共を待ち構え、剣を抜いた。


 カラカテのために整えてやっていた部屋はひどいありさまで、ヴァレルディンは眉を顰めた。そのカラカテは上半身の服を剥いて背中に軟膏を塗っていて、頬はまだ冷やされていなかった。ヴァレルディンはバンと扉を閉めてカラカテの元にすっ飛んでいった。

「何故顔を冷やしていない!いや、そうだな、背中の方が先か。いやそれでも冷やさないのはだめだ、腫れが酷くなる。軟膏だって塗るのもきついだろう、貸してくれ。そして早急に服を着てくれ。風邪をひいてしまう。」

 ヴァレルディンは深く後悔した。何を自分は浮かれていたのか。そういえば自分は貴族で容疑者ではなかったか。こうなることだって予測できたはずだ。

 カラカテの背中に軟膏を塗りつけ包帯を巻き、服を着こませ頬に魔法で作った氷を巻いた布をあて、枕を背に挟んで椅子に座らせる。

 ここ最近調子のいい魔法を全力で使うことにし、部屋中に魔力を巡らせる。

 暖炉を魔法で綺麗にし、火をつけ鍋をかける。中に牛乳を入れ、魔法をかけた匙を放り入れ、別の場所へ移っていく。

 ぐしゃぐしゃにされたカラカテの文字の練習帳を整えていき、自分が作ったどうでもいいものを適当に隅にやっていく。時たま何かを訴えるようにカラカテに見られて、申し訳ない気持ちになった。

 本当に、俺がここにいなければ、カラカテはもっと穏やかな冬を過ごしていたかもしれないのに。ため息をつき、椅子に座った。懺悔にも似た気分で言葉を吐き出した。とてもじゃないがカラカテの顔を見られなかった。

「俺のせいだ。」
「…」
「俺のせいでこうなった。いつもこうだ。俺が大事にしようと思った人はいつも酷い目に合う。母上は殺され、妹は狂って、友人達だって俺のせいで無駄な苦労を強いている。すまない、カラカテ…。俺がここに来なければ、君はこんな目に合わなかった。」
「……」
「やはり俺はあの屋敷に行こう。ここにいてはいけない。君は許してくれていたが、よく考えれば人の家に我が物顔で物を増やすのもおかしかったんだ。ここに流れてきたことは、君には何ら関係ないはずのことなのに。…明日には、ここを出ていく。すまなかった、カラカテ。」
「何言ってんですか貴方は。行かせませんよ。」

 思ったよりも元気そうな声が聞こえて、顔を上げた。ア、アと声の調整をすると、カラカテは鍋の方を指した。牛乳が沸騰しかけていた。慌てて魔法でカップに注ぎ始める。カラカテはこちらが作業をしている間に、まくしたてるように言いつのってきた。

「まず、貴方のせいじゃないです。今回はあの盗賊みたいなやつらが悪いし、貴方の母上が何で亡くなったかは知りやしませんが、貴方が故意に殺したわけじゃないでしょう。妹さんのことだって何があったかは知りませんが…ああもう多いな!何でもかんでも責任を感じすぎです。」
「しかし、今回は明らかに俺がいたから…」
「だからなんです。別に僕一人でも盗賊が来る可能性なんていくらでもあります。こんな森に一人ですよ。格好の的です。」
「それをわかっているなら引っ越せ!」
「そんな簡単に引っ越せたら苦労しません!魔法が使えない能無しなんです僕は!」
「だからなんだ!君は自分の頭がいいことに気づけ!普通人は昔教えられたからって薬草を諳んじたり出来ないし、森の中を寸分変わりなく覚えることもできないんだ!」
「今はそんな話してないでしょう!いいですか、つまり、貴方のせいじゃないです!」
「この…君は本当に聞き分けがいいのか悪いのかどっちかにしろ!」

 お願いだから聞き分けて欲しかった。この男に幸せになってほしかったのだ。

 カップをグッと渡す。カラカテはこちらをムッと睨むと受け取らなかった。もう一度押し出すとしぶしぶ受けとり、一気に煽ってガンとカップを置いた。元気だ、凄く。

 ヴァレルディンは呆気にとられた。カラカテが自分が思っていたよりも100倍強い男だったからだ。

 当たり前である。この男はそもそも、ヴァレルディンがここに来なくともこの危険な森で生き抜いてきた猛者だった。世話を焼きすぎたのと、カラカテがあまりにおっとりしていて忘れていた事実だった。

「聞き分けが悪いのは貴方でしょう。いい加減あの屋敷には住めないってわかっているはずです。床が抜ける家にどうやって物を増やす気ですか。冗談じゃない!凝り性のあなたが耐えられるわけないでしょう!」
「何の話だ!?」
「いいから、ここにいろって言っているんです!レポートでも、標本でも、チェス盤でも、いくらでも物を増やせばいい!今更僕を置いてどこに行くつもりだ!」

 そんな男にここにいろと言われた。もう返す言葉もなかった。見惚れるとはまさにこのことで、ぜえ、はあ、と息を切らし、深い青色の目をギラギラと光らせ、目を見て睨みつけてくる男は格好良かった。

 顔が赤くなっていくのが分かって、目をそらした。気を紛らわせようとカップに口を付けてみたが、慰めにもならなかった。

「何赤くなってるんですか。」
「いや…その…」
「とにかく、貴方のせいじゃありません。それでも気が済まないなら、傷が治るまで責任もって傍にいてください。」
「ああ…うん…」
「あとなんで褒めてくれなかったんですか。貴方を頼りに必死に走ったんですよあそこまで。僕にしては良い判断だったんです、褒めてください。」
「カラカテ…あの…すこし、休憩させてくれ。」


 翌日、ヴァレルディンは碌に眠れず朝を迎えた。隣でとんでも告白をしてきた男が寝こけていたからだ。起きた気配がしたと思ったらこちらを見てホッとしていて、やけくそのようにおはようと絞り出した。

 この男、どうしてくれよう。もうヴァレルディンの頭はぐちゃぐちゃだった。僕を置いてどこに行くつもりだって。責任もって傍にいろって。褒めてくださいって。

 ヴァレルディンはおかしくなった自覚があった。それもこれもカラカテがいじらしいのが悪くないか?と責任を押し付けようとして踏みとどまり、チェス盤や標本、レポートを大事なものだから直せと頼み込まれ、やっぱりカラカテのせいじゃないかと責任を押し付けた。

 もう持って帰ろう。2通目の手紙をもみ消しながらヴァレルディンは勝手にそう決めた。だって、あんなに賢いのに誰も欲しがっていないし、カラカテだってヴァレルディンを憎からず思っているだろうし、いいだろ。

 一応、本当に憎からず思われていそうかどうか、少し過度なスキンシップをしてみて確かめてみた。頭や頬に触れても、嫌がっている風でもない。傷の様子を見ていると、逆にこちらを労わるような眼を向けてきた。

 うん、いいだろ、持って帰って。ヴァレルディンは勝手に決めた。決めはしたが、まだギリギリ理性が残っていて、カラカテが連れて行ってと言わない限りは待とうと思った。

 限界まで粘って、それでも言い出さなそうなら、ヴァレルディンから付いてくるか聞いてみればいい。できれば本人から言って欲しいが、きっと頷いてくれるはずだ。
 とんだロマンチストである。貴族だから仕方ないだろと言い訳にもならない言い訳をした。

 ヴァレルディンはカラカテを王都に持って帰ることにすると、せっせとまた家を整え始めた。

 カラカテが好きだろうし、あの鹿は心霊の御霊かなにかだろう。入れ物に出来るように鹿の切彫りを作った。あの友人が頷けばこれに入って一緒に王都にいけるだろう。連れていけなくとも、この切彫りを思い出に持たせてやればいい。

 森の調査書は通算5回目の手紙をもみ消した際に、殿下と友人への機嫌とり用に作った。これで10回目までは見逃してくれるはず。ヴァレルディンはもうちょっとカラカテと二人でいたかったし、まだカラカテから言い出してくれるのを粘りたかった。

 チェス盤の駒もカラカテが喜ぶから増やしていった。カラカテは増やされた駒を眺めては、ちょっと触ってきれいに並べていく。

 カラカテ曰く謎の石は、加工して指輪にしてしれっとカラカテの右手の人差し指にはめた。防御と探知機能付きの指輪が嵌っているのを見るのはとても気分が良かった。


 そうやって楽しく過ごしていたある日、家に戻るとカラカテの元気がなかった。どうしたのだろうか。この虹色に光る薬草をみてはしゃいで欲しかった。話しかけると薬草を瓶に詰めるように言われ、次いで手紙が来ていると言われた。

 手紙?珍しい。ヴァレルディン宛の手紙は大体ヴァレルディンがいるところに届いて、それは大体森の中だった。催促以外の何か別件だろうか。

 机の隅に置かれた手紙を拾い上げる。面倒な宛名を読み上げるほど文字の読みが上達したカラカテに満足していると、封が開いていることに気が付いた。

 その封は金の蝋で、紙は面倒な魔法細工が施された封筒と便せん。いつもの、帰ってくるように催促してくる手紙だった。

 やられた。通算8回目にして殿下と友人は手法を変えたらしい。本人が聞かないなら、家にいる人間に聞かせればいい。封には、見たものに開けるように小さな催眠を施す魔法が掛けられていた。

 そうか、この中身をみて、読めと言ったのか。事情を聞くでも、悲しむでも、追いすがるでもなく、大人しくヴァレルディンを王都に差し出すのか。

 ヴァレルディンの、密閉空間でギリギリ保たれていた理性が消えた。

「カラカテ。」
「はい。」
「読んだか?」
「一部しか読めませんでしたが、はい。」
「そうか。」

 そうか。呟き、手紙を暖炉に投げ入れる。青い煙が出てきて、「さっさと帰って来い!!!!」という文字に変わって掻き消えていった。うるさいと思った。

 そのまま固まっているカラカテの腕をとり寝室へと引っ張る。寝台へ投げ入れ馬乗りになると、カラカテが本当におかしなものを見るようにこちらを見上げた。

「なんですかこれ。」
「カラカテ、なんであれを大人しく見せた。」
「見せないと駄目なものじゃないですか。あなたの大切なご友人方からの手紙でしょう。」
「見てしまったら俺は帰らないといけないじゃないか。」
「帰らないといけないはずでは!?」

 お前が連れて行ってと言わないか待っていたと言ったら、引かれるだろうなあ。そう思いつつ服の裾から手を入れていくと、ガッと両手で掴まれた。

「なんで止める。」
「当たり前では?あなたなら男も女も入れ食いでしょう、長い間我慢していたんでしょうが、街に戻ったらいくらでもできますからゲテモノ食いはやめましょう。」
「ゲテモノじゃない、カラカテだ。長い間我慢していたのはそうだが意味が違う。」
「何をわけのわからないことをっ、ちょっ、乳首を触るな!」

 無防備な上に冷静じゃない。非常に手籠めにしやすそうでありがたかった。これでは妹を篭絡した兄を笑えない。同じ男の血が流れているからか、それとも同じく狂った男だからだろうか。

 快感に耐えようと歯を食いしばっている様子が不満で、口を食んでやろうと顔を近づけると、迂闊な男がわざわざ両手を自分の口元に持っていった。

 最後通達をするために微笑むと、さらに睨んできて、熱が上がった。

「自分で手を外してくれたら、優しくするよ。」
「…いやでふ」
「ああそうか。ほんとわからず屋。」
「ァア゛ッ!?ンー!」

 服をまくり上げて乳首を舐めしゃぶってやると、カラカテは面白いくらい跳ねた。警告はしてやったのだ、いいだろこのくらい。ヴァレルディンはそう言い訳すると、混乱するカラカテに言いつのった。

「カ~ラ~カ~テ~、俺は今とても悲しいんだ。なんでかわかるか?」
「わがる゛わげないぃぁ、あ、あ!ちんこを擦るな!!」
「いいやわかるはずだ。あの煙を見ただろう?あの程度の文字はもう読めるはずだし、察せないはずもない。俺が帰るように催促を受けていたことくらい。」
「待て、話がすべ、すべぅ、あぁ、そこほじらないでくれ!」
「先をひどくされるのが好き?いくらでもやってあげるよ。だからその間に考えろよ。」

 できないだろうが、という言葉は飲み込みつつ、カラカテの陰茎に舌を這わせる。上からヒィッと声が聞こえて楽しくなる。いたぶればいたぶるほどおかしくなっていくカラカテは愉快だった。

「出る、出す、離せ、ヴァン様!」
「いひゃだ」
「グッ…ン、ぁ、あ。本当に、やめ、ア!」

 口の中に吐き出された白濁を手に出し、そのまま魔法で消し去る。もっとおかしくなって欲しかった。自分と同じところまで堕ちてこい。カラカテのお陰でこちらはもはや正常な判断が出来ないのだ。めちゃくちゃな責任転嫁だった。

 恨みがましくこちらを見てくるカラカテは、吐き出した虚脱感でぐったりしている。いい気分だ。

「手、やっと離したな。」
「離されたの…間違いでしょう。」
「口が自由になったな。次はどこを守る?俺は今からお前の尻にこれをぶち込もうと思っているんだが。」

 投げ出された足にぐっと硬いものを押し付けると、カラカテが起き上がり尻を隠そうとする。予想通りの動きに笑いそうになりながら足を引きずり引き倒し、尻の穴に指を入れてやった。
 両腕がヴァレルディンの二の腕を掴んでくる。猟をして、森を見て、薬草をとり、冷たい水を触る。ちっとも整っていない武骨で力の強い手が、ギリギリと遠慮なく力を入れてくる。

 そのまま離すなと思った。ヴァレルディンを諦めず、あの夜のように言いすがって来い。

「う、ぐ、ヴァン様、正気に、正気に戻りましょう!」
「まだ言うか。俺がこれまで帰らなかった理由も、お前の右手に魔法石の指輪を嵌めた意味も思いついたのか?」
「あれっ、ぁっぱりぃ、魔法石じゃないですか!ぁはッ、ただの石だって、」
「やっぱりってことは薄々気付いていたんだろ。指増やすぞ。」
「増やすな!ぁあ増やすなってば…!」

 魔法で尻の穴に潤滑剤を足していくと、カラカテが気がついたようで、まるで裏切られたかのようにこちらを見てきた。この男の魔法に夢見ている柔な部分を踏み荒らしている。口角が上がった。

「うぅぅうう変なことに魔法使うなあ!」
「勘がいいなあ、勿論使うが。なあカラカテ、魔法なんてこんなものなんだ。君が高く見積もっている魔法なんてものは、街じゃしょうもない使われ方ばかりしている。むしろ使わないやつの方が多い。妙な事をするとすぐ疑われるし、使わなくても必要ならそこら辺で買えるからな。」
「ぁ、あ、そこへん、変、変だ!ヴァン様やめて、ぁあ、ィイ。」
「君は俺が魔法を使えて、しかも貴族だからって、たまに俺をとんでもない聖人君子みたいに見てくる。だからこんな隙が出来るんだ。」
「貴族だからじゃなぃ優しいからだ!!!あ、もう増やさないでくれ!」
「律儀で可愛いね。今襲われているってわかっているか?」

 ジュボッと淫靡な音を立てて指を引き抜く。二の腕から手がだらだらと離れていって、寝台にぺたりとおちた。
 落ちた右手をとって、指を絡める。隙間と隙間を埋めるようにして這って、指輪の感触を楽しみ、そのまま強く握りしめた。
 碌な抵抗もできずにいるカラカテに顔が近づける。鼻先がこちらの鼻に擦れ、ボーっとした目の中を覗き込んだ。

「正気になんてもう戻れないんだ。君もそうだろ、カラカテ。」
「あ、ヴぁ、ん、様。」
「今更君を置いてどこかへ行けるはずもない。君が連れて行ってと言わないなら、俺が無理やり連れていく。」

 もういいか、と思った。この男が諦めているなら、勝手に持って帰ってしまおう。幸い、ヴァレルディンにはそれをやっても問題ない地位がある。

 左手で腰を掴んでやると少し揺れた。ぬかるんだ穴に陰茎を収まっていくと、カラカテは声も出せないようで、目をかっぴらいている。
 しこりを擦り上げ、腰が止まりなじませるようにゆるく回す。そろそろ声が聞きたかったので、今度こそ口を食んで開けさせた。

「うん、馴染んだな。動くぞ。」
「待ってくださ、あ、あ、あ!」
「よくも俺を送り出そうとしたな。」
「ちがぁ、もや、燃やそうと、燃やそうとはした!」
「そのまま燃やしてしまえばよかったんだ。」
「そこ、待って、押すな、突き上げるな!良すぎるんだ!」
「いいことを聞いた。」

 正直な男の申告通りの場所を延々と擦ってやると、馬鹿みたいによく鳴いた。別にいじめたいわけではないので、詫びのように頬や目じりに口を寄せ、右手をサリサリと撫でてやった。カラカテは順調に狂っているようで、目を回していた。

「い、く、いきます。ヴァン様、ヴァン様!!」
「いくらでもどうぞ。カラカテ、頭が空っぽになれば、お前もあの時みたいに多少は素直になるかな。」
「あ、あー、あ、あ…あっ!?」

 後ろでイったカラカテを抱きしめながら、こちらも限界が来ていたのでガンガンと突き上げる。カラカテはもう意味のある言葉を発していなかった。

 それでもヴァレルディンはロマンチストだったので、やっぱり許可は欲しかった。今更になって、カラカテに一緒に来て欲しいと乞うことにした。イきかけの男のドーパミンがドバドバにあふれたアホな判断だったが、聞かないよりはましだった。

「カラカテ、カラカテ!親切で、聡くて、強い人。」
「う、あ、う、ん゛、あ゛、あ!…ッア!グ…アア!」
「一緒に来るって、頷いてくれ。頷け、カラカテ。」

 うんと頷かれるのを確認すると、もうヴァレルディンはどうしようもなくなった。決定的に狂った瞬間だった。尻の中に精液を吐き出し、カラカテの隣に寝転ぶ。

 ノロノロと抱き着いてきたカラカテに腕を回し、本当に俺は運がいいと、特に良い拾い物を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...