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「アルフォンス様って、クレアさんに優しすぎません?」
エイダが興味津々に覗き込んできたのは、お昼休みの中庭。わたくしとエイダは昼食をとりながら、たまたま目に入ったアルフォンス様とクレアさんの様子を眺めていました。
「そうですわね。でも、あの二人が親しくすること自体、不自然ではないと思いますよ。クレアさんの資質は素晴らしいと聞きますし」
「そうなんだ。魔力の才能もあるし、みんなに優しくしてくれるし……。それに、アルフォンス様からしても、きっと話しやすい相手なんだと思う」
わたくしはクレアさんを遠目に見つめます。確かに、儚げで純粋そうな雰囲気ですし、どこか周囲を惹きつける魅力がある。その在り方は、王子にとって心和む存在なのかもしれません。
「噂では、クレアさんに恋しているんだって言われてますけど」
「恋、ですか……。そうでしょうね。周囲から見てもお似合いと評判のようですし」
「ローズさんは、悔しくないの?」
エイダの問いに、わたくしは少しだけ笑みをこぼしました。まるで子どものように素直に疑問をぶつけてくるところが、彼女の良いところですね。
「いいえ。そんなつもりはありません。むしろ、アルフォンス様が誰と結ばれようと、わたくしはそれを受け入れる気持ちでおります」
「本当? でも、“婚約者候補”なんでしょう? もっとこう、王子様を想っても……」
「……もちろん、昔から憧れはありましたわ。けれど、今は噂もありますし、無理にかき乱すのは得策ではないでしょう。それに、わたくし自身が望まない婚約なら、なおさら」
わたくしが穏やかに答えると、エイダは妙に感心したように「ふうん」とつぶやきました。その顔からは、どうやらわたくしの見解が彼女の想像と違っていたような驚きがうかがえます。
「……でもね、ローズさん。思いはちゃんと伝えないと、相手には届かないよ?」
「思い、ですか」
「うん。奪いたいとか、壊したいとかじゃなくて、本当の気持ち。ローズさんがどうしたいのかを、アルフォンス様はきっと知りたいんじゃないかな」
わたくしはエイダの言葉に言葉を失いました。確かに、アルフォンス様も「君は本当はどうしたい?」と尋ねてこられたことがあったはず。ですが、わたくしはいつも曖昧に、やり過ごしてしまっていた。
「……そう、ですわね。けれど、今さら何を伝えればいいのか、わたくし自身にもわかりませんわ」
わたくしが視線を下に落とすと、エイダは励ますように肩をポンと叩いてくれました。その優しさに心がほっとします。
昼休みが終わる頃、わたくしたちが教室に戻ろうと歩き始めると、アルフォンス様が向こうからやって来ました。
「ローズ、少しいいか?」
「はい。何でしょう、アルフォンス様」
「クレアが……その、君ともっとお話ししたいって言ってて。気まずいかもしれないが、学園行事の準備で一緒に作業してほしいらしい」
わたくしは意外な申し出に、目を見開きます。クレアさんがわたくしを避けているわけではないと思っていましたが、まさか自ら一緒に作業したいと言ってくださるなんて。しかもアルフォンス様の口から直接頼まれるのは、なかなかに複雑な気分です。
「……わかりました。クレアさんがそう仰るなら、もちろん協力いたしましょう」
「ありがとう。来週の学園祭準備、頼むよ」
アルフォンス様はわずかに笑みを浮かべると、去り際に何か言いかけて躊躇し、そのまま背を向けました。わたくしは彼の後ろ姿を見送って、小さなため息をつきます。
「ローズさん、アルフォンス様、まだ何か言いたそうだったね」
「……ええ、そうかもしれませんね。けれど、わたくしも彼に対して何を言えばいいのか、思い浮かびませんわ」
そうやって胸にわだかまる気持ちを、わたくしはごまかすように笑みで包み隠します。ヒロインであるクレアさんが希望しているのに、わたくしから遠ざかる理由などない。わたくしはわたくしの責務を果たして、学園での日々を滞りなく過ごすまで。
――わたくしには、王子を奪いたい気持ちなどない。けれど、わたくしが本当に望んでいることを、わたくし自身でまだ見つけられずにいるのです。
エイダが興味津々に覗き込んできたのは、お昼休みの中庭。わたくしとエイダは昼食をとりながら、たまたま目に入ったアルフォンス様とクレアさんの様子を眺めていました。
「そうですわね。でも、あの二人が親しくすること自体、不自然ではないと思いますよ。クレアさんの資質は素晴らしいと聞きますし」
「そうなんだ。魔力の才能もあるし、みんなに優しくしてくれるし……。それに、アルフォンス様からしても、きっと話しやすい相手なんだと思う」
わたくしはクレアさんを遠目に見つめます。確かに、儚げで純粋そうな雰囲気ですし、どこか周囲を惹きつける魅力がある。その在り方は、王子にとって心和む存在なのかもしれません。
「噂では、クレアさんに恋しているんだって言われてますけど」
「恋、ですか……。そうでしょうね。周囲から見てもお似合いと評判のようですし」
「ローズさんは、悔しくないの?」
エイダの問いに、わたくしは少しだけ笑みをこぼしました。まるで子どものように素直に疑問をぶつけてくるところが、彼女の良いところですね。
「いいえ。そんなつもりはありません。むしろ、アルフォンス様が誰と結ばれようと、わたくしはそれを受け入れる気持ちでおります」
「本当? でも、“婚約者候補”なんでしょう? もっとこう、王子様を想っても……」
「……もちろん、昔から憧れはありましたわ。けれど、今は噂もありますし、無理にかき乱すのは得策ではないでしょう。それに、わたくし自身が望まない婚約なら、なおさら」
わたくしが穏やかに答えると、エイダは妙に感心したように「ふうん」とつぶやきました。その顔からは、どうやらわたくしの見解が彼女の想像と違っていたような驚きがうかがえます。
「……でもね、ローズさん。思いはちゃんと伝えないと、相手には届かないよ?」
「思い、ですか」
「うん。奪いたいとか、壊したいとかじゃなくて、本当の気持ち。ローズさんがどうしたいのかを、アルフォンス様はきっと知りたいんじゃないかな」
わたくしはエイダの言葉に言葉を失いました。確かに、アルフォンス様も「君は本当はどうしたい?」と尋ねてこられたことがあったはず。ですが、わたくしはいつも曖昧に、やり過ごしてしまっていた。
「……そう、ですわね。けれど、今さら何を伝えればいいのか、わたくし自身にもわかりませんわ」
わたくしが視線を下に落とすと、エイダは励ますように肩をポンと叩いてくれました。その優しさに心がほっとします。
昼休みが終わる頃、わたくしたちが教室に戻ろうと歩き始めると、アルフォンス様が向こうからやって来ました。
「ローズ、少しいいか?」
「はい。何でしょう、アルフォンス様」
「クレアが……その、君ともっとお話ししたいって言ってて。気まずいかもしれないが、学園行事の準備で一緒に作業してほしいらしい」
わたくしは意外な申し出に、目を見開きます。クレアさんがわたくしを避けているわけではないと思っていましたが、まさか自ら一緒に作業したいと言ってくださるなんて。しかもアルフォンス様の口から直接頼まれるのは、なかなかに複雑な気分です。
「……わかりました。クレアさんがそう仰るなら、もちろん協力いたしましょう」
「ありがとう。来週の学園祭準備、頼むよ」
アルフォンス様はわずかに笑みを浮かべると、去り際に何か言いかけて躊躇し、そのまま背を向けました。わたくしは彼の後ろ姿を見送って、小さなため息をつきます。
「ローズさん、アルフォンス様、まだ何か言いたそうだったね」
「……ええ、そうかもしれませんね。けれど、わたくしも彼に対して何を言えばいいのか、思い浮かびませんわ」
そうやって胸にわだかまる気持ちを、わたくしはごまかすように笑みで包み隠します。ヒロインであるクレアさんが希望しているのに、わたくしから遠ざかる理由などない。わたくしはわたくしの責務を果たして、学園での日々を滞りなく過ごすまで。
――わたくしには、王子を奪いたい気持ちなどない。けれど、わたくしが本当に望んでいることを、わたくし自身でまだ見つけられずにいるのです。
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