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1章

先輩

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熱い熱い夏。
蝉の音は止まることなく鳴き続けている。
窓を開けても無風の六畳一間の部屋の中央に俺はパンツ一枚で座っている。
目の前にはTVがあって、俺は黙々とサッカーゲームをしていた。
俺は 太田 健介  今年から大学生の19歳で、家元を離れて今は一人暮らしをしていた。
夏休みということもあって友達は帰省をしており最近一人で過ごすことが多い。
エアコンは勿論節電のため使わない。
そんな等身大の大学生がここにいる。

「雨降んないかなぁ?でも、降ったところでジメジメして余計うっとおしいだけか。」 

「くそ!メッシ、ゲームで強すぎだろ!いやゲームじゃなくても強いか。」

なんだか、一人暮らしを始めてから独り言が増えた気がする。

「ん?やべっ!もう時間じゃん!」
ゲーム脇の時計をチラリと見ると2時20分。
3時から予定していたバイトの面接に向かうため俺は急いで用意をして家を飛び出た。
これが5件目。
俺は全くバイトに受からない。
何がダメなのやら…。

そう思いながら、駅までの道を汗をかきたくないのでゆっくりと体が熱くならないように歩いていると、向こうから知った顔の人がこちらを見て手を振っていた。
「健介く~ん!何してるの~?」
背もスタイルも平均的で、若干茶色く染めたショートヘアがよく似合っている女性
そう、俺の部活の先輩である 一条 とも花さん だ。
「先輩こそ!自分は今からバイトの面接です!」
「ん~?夏休み前もそんなこと言ってなかったっけ?」
「あー、言いづらいんですがあれから落ちまくってるんです。」
「ははははは!バイトって落ちるもんなの!?」
太陽を背に笑う先輩はとても夏が似合う。太陽が似合う。本当に麦藁ぼうしを被ってひまわり畑を歩いて欲しいものだ。すごく絵になると思う。

「ま、まあ。これからですよ…。あっ、もう時間やばいんで!お疲れ様です。」とトホホ顔で俺は別れを告げた。
「頑張ってねー!」と能天気な声を上げて先輩はマンションへと向かっていった。

幸せなことに、あの可愛いらしい先輩も夏は帰省せず俺と同じ一人暮らしのマンションに住んでいるため
よく二人で宅飲みなんかしたりして、それはもう大学生らしいことをしている。
しかし、先輩はとても酒豪で大学生らしいワンチャンもないわけで。

そんなやましいことを考えながら、俺は駅へとゆっくりゆっくり歩いて行った。
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