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2章

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バイトの面接を終えた俺は最寄りのスーパーが特売を始めている時間と気付き駅を降りた後マンションに向かわずスーパーへと向かった。

「お!肉が半額じゃーん!」
ここのスーパーは、肉が半額になる時がある。
他のスーパーでもあるのかは知らないがとにかくありがたい。
しかし普段はこの半額肉を狙って多くの人が来るので少し時間がずれた今はもう肉の数は少ない。
これと定めた肉に手を伸ばしたら、誰かと手が当たった。
「あっ、すいません。」
消え入りそうな声で謝罪をする。
こういう急なアクシデントは苦手だ。
「んん?健介じゃーん!」
聞き覚えのある声だった。
「先輩!なにしてんすか」
「いや、買い物だよ。」
「まあ、確かに。」
笑顔を先輩に向けながら、俺の手はしっかり肉へと向かっていく。
「ふん!」
先輩はそんな俺の差し手を掴む。
「先輩。大人気ないですよ。」
「後輩は先輩を立てるって知らない?」
「いやいや、先輩バイトしてますよね?俺してないんですよ。」
「こういう所が落ちる原因じゃない?」
「なんですと?」
「なによ!」

俺たちはそれから5分ほど格闘をしたのち、結局先輩に肉を取られた。





「にしても、先輩。珍しいですね。」
「んー、何が?」
二人肩を並べてマンションへと向かう帰路、俺はふと思いついたこという。
「いつもこの時間バイトじゃないですか?」
「へへへ、バイトクビになっちゃった。」
「えっ?バイトクビって?」
「クビというか、バイト先は潰れちゃったの」
先輩はそういって顔をうつむけた。


俺は知っている。この人がバイトをやめる意味の重さを。

先輩は家元を飛び出てきた人だ。
もちろん学費は奨学金、しかも特待制度を使っている。
家賃 食費 全部この人の働いたお金だ。

しかも、中高時代陸上部で将来期待の選手だったらしい。
俺とは違う。
この人は才能も努力もできるのに、環境が先輩の羽根を折った。


「先輩、今日飲みませんか?」
「家?」
「はい。」
「変なことしない?」
「えぇ。」

本当に純な気持ちでこの人の今抱えているものを吐き出させたかった。
もし俺に何かできるなら手を差し伸べたかった。
勉強も運動も何もできない。
並ですらないこのポンコツの俺でも、スーパーエリートさんの手助けになるなら。
この人生に箔ぐらいは付くんじゃないだろうか?

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