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おにぎりが好き。
炊きたてご飯に、塩を軽くまぶして和える。てのひらに少しあまるくらいの大きなおにぎりに、パリパリの海苔を巻いて。

ぱくっと頬張る!なんて幸せ!

「おまちどうさま!おにぎりの追加できました!」

お昼前、いつものようにお店を開けると、すっかり常連になったおじさまやお姉さまたちでお店が賑わう。
この店の看板メニュー、おにぎりと味噌汁を味わう為に、笑

いやぁ、一般家庭の普通のご飯が、こんなに、大ヒットするなんて、誰が思い浮かぶんでしょうね。

お伽話の世界をひっくり返したようなこの街は、アクアマリン。宝石の名前が付くこの街に、私は産まれて、〝リズ〟として生活していた。16歳になる私は、ひと月まえに、念願の小さなおにぎり食堂を作った。

価格もリーズナブルで、おにぎりが珍しい食べものになるこの街は、街の至る所に、不思議な生き物がいる。精霊のカケラと呼ばれる小さな妖精さんたちの中で、火を操る妖精さんと、植物の妖精さんが、おにぎりを、大変好物にしてくれて、お店のお手伝いをしてくれる。

お昼時が過ぎてひと段落し、妖精さんたちとおにぎりを頬張る。

「今日もありがとう、いただきまーす」

私の不思議な記憶が出てきて、約6年。10歳の誕生日に朝起きると前世?の記憶、それも食事に関するものが蘇り、今までの食事が、なかなか喉を通らなくなるなんて、なんか理不尽。な経験をしながら今に至る。まあ、ごはんが無いからね。お米はお酒の材料であり、家畜の飼料だし。。。そのお米すら、ニホンの物と違うから、妖精さんたちと品種改良して、やっとたどり着いたんだから。

私の住む国はダイヤを模る国旗で、王族がいる。
国に仕える貴族のうち、名乗る氏で位が決まっているらしいが、一般人の私には関係がないので、詳しくは知らない。

ただ、この国の王族の特徴は、知っている。
各ファッション紙や、有名ブランドのモデルをするくらい、人気で有名な、この国の王様は、さすがに興味がなくとも、目に入る。

今日も、いつの間にか、私たちの賄いタイムに紛れ込んで、おにぎりを頬張る人物に、私は疑いの目を向ける。

「ライト・・また来たの」

金髪でダイヤモンドの色をした瞳なんて、王族以外居ないと思うんだよね。本人は否定するのだけれど。

「うん、やはりリズのおにぎりは美味しいね」

なんて、天使スマイルで微笑まれてしまったら、お姉さんは負けてしまいますよ。

13歳のライトは、気づいたらいつも賄いの時間にひょっこり現れる、不思議な少年だ。そして、今日も、たらふく食べた後に、ちゃっかりお持ち帰り用のおにぎりを支度しはじめて、お金を置いていこうとする。

「あ。待って!」
私は、手のひら程の、小さな包みを彼に手渡す。

「今日はおまけに、厚焼き卵あげる。ライトが好きな味無しバージョンね」

ライトの目がキラキラする。そう、彼は、出汁を入れたり、砂糖や塩をいれるのではなく、玉子だけで作った厚焼き卵が好物だ。

「ありがとう!また来るね!!」

そう言って、かけていく姿は、可愛い。
弟がいないから、まるで食べ盛りの弟が出来たみたいで、彼がひょっこり現れるのが、実は嬉しかったりする。

この国の首都がダイヤモンドだから、確かに、王族が、田舎のアクアマリンに居るのは不思議だけれど、あの容姿で王族じゃないってのもひっかかる。

まあ、関係ないか。

気持ちを切り替えて、妖精さんたちとおにぎり会議をする。
次はどんなおにぎりを作ろうか!
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