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いつものように、お米をといで。火にかける。
鍋に火をつけて、出汁をとっているときに、声をかけられた。

「おはよう、リズ」

とても自然に髪をすくいとられてキスをされた。
普通の人ならば、うっとりするんだろうな。キザな仕草も自然だからこの人凄いなぁって、単純に思う。
うん、だいぶ慣れた自分が怖いよ?そして、そんな扱いをしてくれることに喜んでいる自分かいるのも事実だ。何せ。前世では性別でバカにされるのが嫌で、ガムシャラに強がっていたのだから。

「おはようございます。陛下。」

「今は、ただのアレクだよ。敬語もいらない。君の部下だから、ね」

首をかしげて片目を閉じる彼は、なんというか。可愛い。と、感じてしまった。
陛下に指示を出すなんて・・と、思いつつ。
「じゃあ・・そこにある卵を割って、ボールへ入れて欲しいの」

テーブルに用意してある卵の籠と、ボールを見て伝えてみる。

「わかった。全部割ってかまわないかい?」

「はい、お願いします」

コンコン、パカッとリズム良く音が響く。

「ーー普通に割ってるし」
様子を見ていたミラが、呟いた。

「うん。」
私も思わず見てしまう。

「君たちは、私を何だと?」

呆れ顔のアレクは、コンッとボールの端に殻を上手く、要領が良いのか一度ボールに当てただけで、綺麗に割っている。しかも片手で。

「王様とか貴族って、お家に料理人や給事の方がいて、そういうのする機会なさそうだから、難しいのでは。と、思ってて。」

「確かに、卵を割るのは、今が初めてだよ」

!!!

「だが、本とかで、知識はあったからね」

話している途中も、卵を割り続けている。器用だ。なんてもんじゃない。陛下は、万能チートタイプなの?
籠に沢山あった卵はいつの間にか無くなっている。

私の方も、出汁を取り終えて、軽く冷まし、分量を見ながら、アレクが割ってくれた卵入りボールへと、加えていく。

「何をつくるの?」

「出汁巻きよ」

「だしまき?」

「そ。出汁巻きたまご焼き」

ボールの中を混ぜ合わせたら、たまご焼き用のフライパンを温めて、油を薄く敷く。混ぜ合わせた卵を流し入れて、少しづつ巻いていく。するとーー

ほかほかのたまご焼きが出来上がる。
器にのせて、フライパンに油を敷いてーー、と繰り返す。
アレクが、興味深々だったので、巻くのを途中で交代する。と。

「上手だねぇ」

関心するどころではない。私より、上手かも・・ってくらいうまい。
彼に卵を任せて鰹節もどきを粉にして、塩に砂糖で味を調整しつつ。ゴマも混ぜてふりかけをつくり。
シーチキンにマヨネーズという、王道の組み合わせ。

余った出汁を、もう一度温めて、季節の根野菜を細かく刻んで投入し、最後に味噌で味を整えて。
朝ご飯アンド。本日のお昼の仕込みが出来上がり。

ご飯が、甘い香りを店内に漂わしはじめたら、両親が起きてくる。軽く、朝食を済ませたら、2人とも仕事へ出かけるから、その後は、玄関を掃除して、いよいよ開店。お昼の時間です!

髪にはバンダナ。エプロンをつけてもらって、アレクも準備ばんたんです。

「いらっしゃいませ」

オープンと同時に店内はいつも通り賑わっている。

「リズちゃん、新しい子が入ったんだねえ!」
「1人じゃあ、心配だったからよかったよ」
「きゃあぁぁ!イケメン!!」

何て声が、時折わいて、いつもにも増して賑やかな店内でございます。アレクも、笑顔で常連さんと談笑したり、テキパキと動いてくれていて、、うん。適応能力高い!やっぱりチートくんかしら?

昼の営業が無事終わり、食器を片付けていると、妖精さんたちが集まって・・・

「来ないわねぇ・・・」

いつもなら、ひょっこり現れてくれる子たち。
そういえば、朝の支度の時も、居なかった。ふと、作業をしているアレクをみる。

ーー彼が居たから?

いつもと違うことは、彼が居るからだ。
私の視線に気づいた彼がこちらを向き微笑んでくれる。

ーー何故かしら・・

考えながら、おやつ時の準備をする。
玉ねぎ、人参、ピーマンに少しの生姜を細かく刻んで・・・

ーーライトも来ないのよね。

ちょこん。とミラさんが頭に乗ってくる。

「片付け、終わったよ」
アレクの声に。はっとする。

ーーイツモノヨウナ、オダヤカナトキガ、ズットツヅケバイイノニ

「リズ?」
アレクがリズの異変に気づき、手を伸ばす。

リズの足元から、光の粒が現れて、身体を包み込むように這い上がる。リズの頭に居たミラも、驚いているようだった。

「っ主?」
ミラが、人の姿になり、リズから離れる。
いつの間にか、ライトが私を抱きしめるようにして現れていた。
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