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小さな1Kのマンションのベッドの上。

今はまっているのは、転生もの。牽制逆転ものの、ハッピーエンド小説を基にした漫画。何度読み返したかわからない。
主人公は、平民で田舎町に住んでいる。国の王様と、王様の腹違いの弟が、主人公と恋に落ちて、いわれもない罪に問われる主人公を助けて幸せに暮らす物語。
悪役令嬢として出てくる女の子も可愛くて、何だか憎めない設定に、作者の愛を感じる。
主人公の前世は、私のように、よくある婚機を逃した女。何だかんだ共感できるんだよね。

私も。もしこういう物語の主人公で、好みの人に好意を寄せられたならば、きっと今ある知識をフル活用しながら、チートな能力で穏やかに過ごしたいな。

少なくとも、今のように、嫌な職場に、嫌な人に、すり減らされることは、避けて、、、


アレクと色違いのバンダナにエプロン、ポニーテールに結び直した髪のライトは、天使すぎる。

昼下がり。

何だかんだで、お手伝いをしてくれるようになった彼は、裏方で、食器を洗ってくれている。時折、今日のおやつメニューのオムライスおにぎり用の玉子も焼いてくれて、

いやぁ、ほんとにこの2人は要領が、恐ろしいほどいいわぁ。

有難いことに、お客様は、入れ替わり立ち替わりの満席状態で。
いつもは見ない女の子が多いから、お昼にアレクの噂を聞いた学生あたりが来てるのかな?という感じである。
街の子たちに混ざって、身なりの良い女性も混ざっている。お忍びの御令嬢もいるかもしれない。
イケメン強し。だね。

足りなくなった、スープを補充しつつ、ホールをアレクに任せて明日のメニューを考える。

今まで王道メニューだったから、明日は趣向を変えて、病みつき混ぜご飯系のをひとつ入れようかな?
そう、いわゆる汁ご飯シリーズ(私の中で)です。とんこつラーメン、醤油ラーメン、蕎麦出汁、すき焼き・・・
ラーメン系は、スープを作るのに日数がかかるから、和物系で。

揚げ玉とつゆとあおのりの混ぜご飯に、すき焼き風のタレに炒り卵の混ぜご飯。

「ライト、手が空いたら試食をお願いしたいです」

「いいよ」

食器洗いの手を止めて、こちらへ来てくれる。
すると、ちょうど食器を下げにきたアレクもやってきた。

「変わったおにぎりだね」

「うん、今までのもいいけれど、ジャンキーな感じのもたまにはって思って!」

「じゃんきー?」

「いいから味見してみて?」

促すと、2人はぱくっと食べてくれた。

「!不思議な味だね」

「ライトのはすき焼き風の方だね」

「こちらは、何だ?妙にサクサクしたものがあって・・ハマりそうだな」

「それは“天かす”と言うもので、今回は海老と蟹の甲羅の粉末をまぜてつくったの」

「あっ本当だ、こちらのはサクサクしてて、美味しい・・」
ライトが手を伸ばして頬張る。

「よかったぁ、2人の反応を見るに、いけそうだね。有難う」

あとは、どちらを明日のお昼にするか、だね。
あっという間に閉店時間になり、片付けをする。

「それにしても、これをひとりでこなしていたなんて、リズは働き者だね」
掃除用モップを手に、アレクがいう。

「1人だけど、ひとりじゃなかったし」

「というと?」

「妖精さんたちが、遊びに来てくれてね。掃除や食器洗いとか、手伝ってくれてたから」

ふーん、という顔でアレクげ周りを見渡すも、妖精さんの姿は見当たらない。

「今日は、来なかったの。こんなのは初めてだよ。だから、2人が居てくれて助かりました。ありがとう。」

改めてお礼をいいつつ、そろそろ、両親か帰ってくる時間なので夕飯作りにとりかかる。みんなで食事をして、賑やかな食卓を後にし、ライトを部屋へ案内しようとした時だった。

「私は、屋敷へ戻るから、部屋は必要ないよ」

私たち以外、誰もいない廊下は、月明かりでようやく周りが見える程度の明かりだった。

「もう、遅いし、危なくない?」

「転移魔法で飛ぶから大丈夫。」

「そっかぁ、実は家も広くないから、私と同じ部屋でって思ってたんだよね」

ぼっと音がするように、ライトの顔が赤くなる。

「っ何考えてるの。そんなの出来ないに決まってるでしょう?」

「そうかな?ライトとだったら、別に一緒に寝れると思うよ?」
ベッドは明日買いに行くとして、小柄で身長も私より少し低いし。同じベッドでも、狭くないはず。
何て説明をしているうちに、ライトは両手を壁について、私を閉じ込める形になっている。

はぁって小さなため息が耳元できこえる。

「僕も“男”だよ?」

いつもより近い距離にあるライトの瞳は、何だか知らない男の人のようで、何故か、いつもより自分の心臓の音が、煩く感じる。

「“好き”は敬愛もあるけれど」

自然と重なる唇に、身体が熱くなっていくのを感じる。

「貴女が愛おしいのに」

受け入れてしまうのは、私の心が“大人の女”だからなのか、それとも、ライトを恋人として好きなのか。深くなる口づけに、頭がぼうっとなるのを感じる。
私の足の間に、ライトの脚が滑り込む。彼の太ももが、敏感になっているところを押し上げるから、思わず彼の肩にすがる。

「・・んっ」
吐息が漏れたところで、温もりが離れていく。

「可愛いぃ。今日はここまで。ね。」
私の頬に手を当てながら。光の粒に包まれて、ライトの姿が消える。

私はその場へへたり込みそうなのを堪えて、自分のベッドへ倒れ込む。ーーあれは。反則だよ。明日から、どんな顔で会えばいいのやら・・・
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