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ライト

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ーーもし、私が記憶を取り戻さなかったら
ーーもし、おにぎり屋をひらかなかったら
ーーもし、アナタにもっと早く出会えていたなら




明るい光に目が覚める
自分の部屋のベッドから起き上がり、カーテンを開ける

いい天気だな、けれど、何だかもやがかかってるみたい

コンコンってドアがノックされて
「おはようリズちゃん!」

「~っ、おはよう。母さん・・・」
すごい勢いで抱きつかれる

「なんなの、朝から」

「だって嬉しいじゃない。ああ~大好きー」
なんなんだ、この人は!

「今日はリズの誕生日だから嬉しいんだよ」
いつのまにか、部屋の前にやってきた父さんに言われて気づく

あ、そうか、私の“10歳”の誕生日だ。

身支度を整えてリビングへ降りると、野菜の端切れを煮込んだスープと硬いパン。いつもの朝食が用意してある。パンが硬いからスープに浸して食べるんだけれど、いつも何だか物足りない気がする。

フワっと、足元を暖かなものが触れた気がした。

何だろうと見てみるけれど、何も見えない。

「お父さん、今日は早く帰ってくる?」

「そうだなぁ」
お父さんは私の頭を撫でながら曖昧に笑う

「あなた、リズちゃんとあなたの好きなもの、沢山用意して待ってるわね」

「そりゃあ楽しみだ」
母さんがいつものように、お父さんにお弁当を渡しながら玄関へ向かう。
「リズちゃん、今日はお昼には帰ってくるから、いっしょにお買い物行きましょうね」

「やったぁ!嬉しい」
思わず母さんに抱きつくと、お父さんに抱き上げられる

「父さんも、早く帰れるように、一生懸命働いてくるな!!」

「うん。気をつけてね」

2人が出かけて、部屋が静かになる。少し寂しいけれど、いつものことである。気を取り直して、食器を洗う。
ふと、さっきの暖かな感覚がてのひらを覆う。

ーー何だろ?

不思議に思いながらも、食器を片付けて部屋を軽く掃除する。

ーーあれ?何だかキラキラ光る何かがみえる。今日は何だか不思議な事がおこるなぁ。

街に出て、いつもの大通りに差し掛かった時、キラキラ眩しい人とすれ違う。何だか気になって振り返った時 

「ワンっっ」
真っ白い仔犬が足元に擦りよってきていた

「えっっいつの間に?」
仔犬の頭をひと撫でして、顔を上げてさっきの眩しい人を探すけれど見当たらない。

ーー誰だったんだろう?光に反射して眩しかったのかな??

クゥーン、と仔犬がなくからしゃがんで体を撫でる。
「父さんが犬、苦手なんだよね・・・」
ふわふわの毛並みとつぶらな青い瞳が、珍しくて、可愛らしい。
ーーどうしよう。

ふと、影が落ちて、顔を上げると、さっきすれ違った眩しい人が立っていた。逆光で顔は見えないけれど、服装と髪色から、そう判断する。

「可愛いね、君の仔犬?」

「違うよ、今、出会ったの」

眩しい人は、私と同じように屈んで、仔犬の頭を撫でようとする

ガブっっ

「「あっ」」

何故か仔犬が噛み付いて、思わず、驚いた声が被る。

ふふっ

その人は柔らかく笑って、時が止まるように、私はその笑顔にみとれてしまった。

「私はアレク、君は?」

「私はリズ、貴方は犬が好き?」

「うん、この子、私が探していた子に似ていたから、もしかして、と思ったんだ」

「飼っていた子が迷子?」

「違うよ、飼っていない。友達だったんだ・・・」

「だった?」

ぐぅぅぅ
タイミング良くお腹が鳴る

「あははっ恥ずかしい、さっきご飯食べたんだけどなぁ」
私は誤魔化すように、仔犬の頭をなでた。

「もうすぐお昼だね、この子よかったら連れて行ってもいいかな?」

「連れてって、どうするの?」

「一緒に暮らして、時々、この子と一緒にリズに会いに行くよ。一緒に、遊ぼう?」

「いいよ!あなたは新しいお友達ね!」
そして仔犬をハグしながら頬擦りする
「優しそうな人に出会えてよかったね、また会おうね」

名残おしいように、仔犬とアレクは何度も振り返りながら去っていった。

家に帰り、玄関を開けると、お客様が来ていた。
「ただいまー」

「お帰り。待っていたのよ。」

「なぁに?母さん、えっと・・・」
エメラルド色の髪のお客様に軽く会釈をしながら問いかける。

「この方は、王都からリズに会いに来てくれた人よ、あなたを学校へ招待したいって。」

「がっこう?」

エメラルド色の髪の人は、質の良い服を着て、ロープをまとっている。
「初めまして、私はエメロスといいます、お嬢さん」
爽やかに微笑んで、目線も私に合うように屈んで話かけてくれる。

「実は、今朝、君に魔力の兆しが視えたからたずねてきたんだよ」

「まりょく?」

「そう、これがわかるかい?」
エメロスは右手を私の前に差し出すと、暖かな光の玉を何個か掌に浮遊させる。カラフルな綿毛を連想させるその物体は、可愛くて、つい触ってみたくなる。
そんな衝動を抑えながら私は答えた。

「わからないよ?でも可愛くて、綺麗!」

「これは、光と風の精霊の子供だよ」

「この、まんまるのが?」

「そうだよ、そして、これが視えるのが、魔力がある衝撃なんだ」

「????どういうこと?」
お母さんの方をみると、嬉しそうでも、寂しそうな顔で私をみていた。

「私には、何も見えないのよ、リズちゃん」

エメロスは、私の頭を軽くなでて、お母さんと話していた。
私は魔力の事は初めて知ったし、じゃあ、今朝から感じる不思議な感覚は精霊さん?

しばらくして、エメロスが帰って、父さんが帰宅してきた。
質素だけれど、私の好きなものを沢山作ってくれて、とても幸せなひとときだった。

ーーーーー

酷い雨の日は、頭が痛い。
何故なら、いつも隠れているところが屋外だから。
校内は、至る所に貴族の派閥で溢れていて、庶民の私のいる場所なんて無いに等しかった。それでも、この場所に踏みとどまれているのは、魔法の勉強が楽しい事と、両親の期待に添える為だった。
授業をさぼって、広い図書室のさらに奥。滅多に人が来ないだろう場所で教科書を見ながら過ごしていた。

ふと、暖かくて、ふわふわな感触が足を撫でた

「また、来たの?」

足元から顔を覗かせたのは、昔出会った白い犬。しかし、この子が実は犬ではなくて、光の精霊の化身だったらしくって。

「こんにちは、リズ」
誰も来ないはずなのに、登場したのはアレク。この人がまさか王子様だったなんて・・・

「こんにちは。また逃げてきたの?」

「そう、君に会いに。」

はぁ、とため息をつきながら。教科書へ意識を戻す。そう、あの日彼らに出会ったから私はここにいる・・・

ん?でも何か引っかかるんだよなぁ。今の私は14歳。あれから4年過ぎた、学校の寮で、過ごしているん、だよね?

記憶や景色が曖昧な時がときどきある。

アレクの犬が猫に見える時があるように、知らない誰かが、私を呼んでいる気がする時がある。

「ねえ、リズ」

「なぁに?“先輩”」

「寂しいなぁ、昔みたいに気軽に呼んでよ」

「“アレク様”って呼ぶべき?“第一王子様”とか?」

「冗談だよね?」

お互いに静かに笑いながら会話する。

「お願いがあって」

「嫌だ」

「早いなぁ、まだ何も言ってないよ?」

教科書から顔を上げると、いつもより真剣な顔をした、彼がいた。

「・・・何?」

ただ事ではない雰囲気に呑まれそうになりながらも、何故か目をそらせない。

ーーーーーーーーーー

豪華なシャンデリアに高い天井
ダンスホールの隅には数カ所に分かれて豪華な料理が並んでいた

「ーー嫌だなぁ。」
ため息しか出ないのは、ご機嫌で隣にいるアレクに、半強制的にドレスを着せられてこの会場にいるからである。

「リズ、とても綺麗だよ」

「・・・ぁりがとう」
普段言われない言葉に、甘く胸が締め付けられる。それと同時に、痛い視線を感じるのは、気のせいでは無いきがする。

それは、そうだろう。
彼。つい先日まで“婚約者”居ましたし。貴族ばかりの学校で、庶民出の人が彼の隣に居ましたらそうなりますよね・・・

普通ならば、自分を選んでくれて嬉しい令嬢なのでしょうが。
平凡に生きたい自分からすれば、かなりの迷惑なのである。

思い出すのは、先日の図書室でのやりとり。


「パートナー?ですか???」

「そぅ、卒業生を集めた学園のパーティがあることは知ってる?」

「えぇ・・・毎年恒例のですよね?」

「私のパートナーになって欲しいんだ」
にっこりと笑う爽やかな笑顔には黒いものを感じます。

「おことわっ、っ」
人差し指を私の口に当てて、言葉を封じられて、一枚の書類をみせられた。それは、アレクの婚約解消の正式な書類で。私は驚きのあまり言葉を無くす。だって、婚約者のご令嬢は、アレクのことが好きで私に嫌がらせをしてくるくらい好きで仕方がないくらいの方で、私のクラスメイトである。

「これを理由に、以前断られたから、ちゃんと、今度は順番を守ったんだ。」

~いやいやいやいや、爽やかな笑顔で告げられも。困ります。だって

「この誘いを受けましたら、私、間違いなくアレクの新恋人に見られてしまいますよね?嫌ですよ?」これ以上嫌がらせが酷くなるの。

「もう、ドレスも用意したんだ。リズに合いそうな淡い青に私のカラーをたした美しい一点ものでね」

うっわー人の話聞く気なしのパターン!なんて押し問答している間に今に至ります。王家の権力って恐ろしい。

きらびやかな世界とは対照的に、何て黒い世界なんだろう。って感じるのは、私の魔力が人の雰囲気を色で感じることが出来るから。
ふと、会場の片隅に、綺麗な淡い光をみつける。
色々な感情が渦巻く会場で、それだけが美しくみえて、つい目で追いかけてしまう。

「アレク」誰にも聞こえないように小さな声で呼ぶと、彼は耳を傾けてくれる。
「疲れたから、外の空気を吸ってきたいな」

「いいよ、一緒にーー」

「1人で行きたいの。」
彼の言葉と腕を解いて、光を感じた方へ足を向ける。

人目につかない静かな場所に、ソレは佇んでいた。

白い髪の毛の、ダイヤモンドの瞳の青年。
その姿は朧げで。人にも、犬にもみえる。それに、何だか懐かしい感じがして、気づいたら手を伸ばしていた。

「・・・ライト?」

パリンっと耳元で大きな何かが割れる音がした。


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