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ライト

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ーー暗い感情が押し寄せる。

寂しい。憎い。切ない。うらやましい。恨めしい。

ーーどうして、あなたの隣は私じゃないの?

幼い頃、街で出会った少年は王様だった。平民が王様に見染められて幸せになるシンデレラストーリー。ただ、王様に“婚約者”がいる場合。王様が“愛している”場合。その限りではない。

頭の中に、目の前に現れる景色が、何枚ものフィルターがかかっているように感じる。
思ってもいない言葉が勝手に紡がれて、したくもない行動を取ってしまう。まるで、私が私ではないみたいに。

ーーしゃらん

綺麗な音が聞こえる。

ーーしゃらん。。

誰かが呼んでいるような気がする。

豪華な会場に、王様と、美しい婚約者が見えて、私は頭を垂れている。最敬礼のお辞儀をした状態で、悲しい、やるせない感情だけが胸を支配しているのがわかる。
誰かを陥れてたいわけじゃない、なのに口が勝手に弁明する。

ーー違う。これは・・・ワタシジャナイ






ーーしゃらん。

誰?

小さな手がドレスの裾を掴んでいる。不安そうにみてくる瞳は、確かに心配してくれてて、あたたかい。

他愛無く笑う少年、いつも気がついたら側にいてくれた。弟みたいに可愛くて頼りないところがあるのに、いつも必死で私のことを追いかけてくれてた。

淡い虹色にキラキラ光る髪の毛がみえる、優しい風に揺れていて、とても綺麗で、私もきっと・・・

ーーしゃらん。

身体が軽くなる感覚と、足が冷たい床に着く感覚が同時にあった。
目を開けて、薄暗い場所だから目を凝らして周りを見る。
段々と景色が認識出来るようになって、目の前の光景に言葉を失う。友人がいたから。黒いクリスタルに包まれて、眠るように。

「・・・アレク?」
彼の名前を呼んで、はっとする。自分の思うように言葉がでるし、身体が動く。

ーーしゃらん

怖い夢の中でもらったお守り。優しい鈴の音は、今回も私を守ってくれたらしい。私はリズ。おにぎりが好きで、学園には通っていない。けれど、さっきまで居た場所には私がいた。乙女ゲームの中の話だろうか。でも、どのルートにも存在しない内容だった。
って冷静に分析している場合じゃなくて!ここはどこで、何でアレクは大変そうになってるのかな。

バンッ
と大きな音がして後を振り返ると、大きな扉から貴族の男性が何人も押し寄せてくる。みんなアレクの側により何やら話しているのをみて、ここがお城の玉座だと認識する。

「あれは誰だ?」
男性が私を指差していう。
「まさか、国王をこのようにしたのは」

いやいや、まあ、そうなるの?私もどういう状況か知りたいんですけど

「拘束せよ!」

まあ、大抵はそうなりますよね?苦笑いしかできないわよ。
逃げ切れるかな。ぉ、鬼ごっこは好きですけれどもっっ

ーーしゃらん。
ブレスレットが淡い光を放つ

「捕まえたっ」
取り押さえられそうだった私の手首を掴んで背中にかばってくれた少年は、何だか懐かしい雰囲気で、なぜかほっとする。

「この人は、犯人ではありません。なぜあなた達はこちらへいらっしゃるのかな」

少年と一緒に現れた青年が一瞥すると、貴族たちは一斉にひいていった。

この少年たちを、私は知っている。さっきの景色でもみた。

ーーしゃらん。
誰も居なくなった広い場所に、ポッと青白い光の玉が現れる。

ーーしゃらん。
バサっと大きな音と共に、現れた球体が眩しく光って、目を瞑る。

「リズ」
名前を呼ばれると共に、少年に抱きしめて庇われる。光が落ち着き目を開けると、漆黒の羽が辺りに敷き詰められていて、光のあった場所に誰かがいる。
この少年は誰だろう?なぜ守ってくれて、なぜ私はとても安心しているの?
敷き詰められた羽の上に見たことのない、不思議な模様が現れて怪しく光りだす。

青年が何かに気が付き風の精霊を召喚するのと、漆黒の羽が舞い上がるのはほぼ同時だった。

「「時ハ来タ」」

よく見ると、人の形にみえる何かは、ひどく鋭い目つきで私に話しかけていた

「「選べ」」

何を選ぶの?

そう思うのと同時に、今までの記憶が鮮明に浮かんでくる。
前世の記憶。
リズとしておにぎり屋をして、ライトやアレクに出会った記憶。
誰かの記憶。

訳がわからなくて、何も考えられなくなる。

「ライト?」
私を守ってくれている少年の名前。
大切な名前だったのに、なぜ忘れてたの?
そして、目の前に現れた何かが、カミサマだと気づく。

「「時ノ大樹ハ終リト再生ヲ繰リ返ス、私ハモウ直グ闇ニ還ル。ダカラ選ベ、私ガ召喚シタ最初ノ乙女。彼ヲ幸セへト導ク乙女。」」

「私が貴女を助けるわ」
私の替わりに、いつの間にか側にいたアイラが答える。

「大好きな世界に。ヒロインとして来られて幸せだと思った。けれど、ここはゲームの世界でゲームではなくて・・・」
アイラが祈るように両手を組むと、暖かな光が集まってくる。



自然と出てきた言葉は、誰に届くわけもなく消えていく。

ライトの私の肩を抱く力が強くなるのが感じる。


そっとライトから離れて、カミサマへ近づく。

私に出来ることって何だろう。魔法は使えない。精霊の友達がいることくらいしか・・・
両手が熱く、何か力を感じる。
いつも手伝ってくれていた、植物と火の妖精たちの力を感じた。
そうだ、きっとみんなもカミサマを助けたい。だから祈ろう。

ーーしゃらん。

悲しい思いで繋がれた誰か。
時の乙女と繋がれた誰か。

それは、もしかしたら
前世の私だったのかも知れない

死は別れだけじゃない
新しい生へ産まれる導にもなるから

ーーしゃらん。

時の乙女の祝福を・・・・



ーーーーーーーーーー


アレクの父、先代の王は、息子の危篤を聞いて放心していた。
愛する妻が寄り添っていても、先に亡くなった側室の元聖女へ思いを馳せた。大切な人が失われそうになって、はじめて大切なことに気がついたのだった。

時がゆっくり遡る

あの日感じた愛は確かに存在していたのだと

ーーしゃらん。

ライトが目を閉じて祈ると、温かな光が溢れ出す。
その光は、まるで私を包むように、優しく背中を押してくれている気がするから。

「「貴女ハアノ人ヲ選バナイ失敗作」」

確かに前世で、プレイしていたゲームの推しキャラはアレクだった。グッズも同人誌だってたくさん愛でた。

よくわからない人型は、前世の自分の姿にはっきりみえた。

ーーしゃらん。
静かな鈴の清らかな音が響く。

こういう時、私は何をすればいいか知っている。
いつも自然と集まってくれる妖精さんたちが集まってきてくれているのがわかる。私は魔法は使えない、けれど。

「私は貴女を忘れない。そして、きっと、アレクも。貴女が望んでも、貴女のことは忘れないし、想いは消えない!」

ーーーパリンッ!!!

大きな、何かが割れる音が響いて、ブレスレットの鈴が弾けた。
それと同時に、前世の私の姿のモノが目を見開く。

コツン。

靴の音に振り返ると、結晶化していたアレクが元に戻っていた。

「心配をかけた」
柔らかく微笑んで、神様を優しく包む。
漆黒の羽が薄い青色へと変わり、それを見たエメロスが、玉座の間に結界を張る。

ーータダ愛シテイタ、愛オシイ貴方トコノ国ヲ

“神様”から透明な涙が流れる。

ーー貴方ト一緒二居タカッタ



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