大厄災である魔神の王は、問答無用で無双しまくる

小幸ユウギリ

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 古い昔に起こった創生前夜の大戦争。
 それは最初の神である『始祖神』が率いる神々の連合軍と、『魔神王』と呼ばれる異形の悪魔が率いる悪魔軍の衝突だ。
 戦争の激しさは後に起こるものとは比べ物にならず、悪魔も神も等しく殺し殺されていった――『始祖神』と『魔神王』を除いて。
 双方それぞれに僅かながら生き残りはいたのだが、それらが介入する余地はなかった。
 何故ならその二柱の神の戦いは――先ほど行った軍同士のそれが“前座”と言わんばかりの苛烈さを持った、〝死闘〟そのものだったのだから。
 殺し殺されを繰り返して、“死んで生き返りを繰り返して”、どちらかの勝敗が決まらず泥沼化して那由多なゆたの年月が経った時――突然その死闘の終止符が打たれた。
 結果、連合軍が勝利し世界創生が約束され、敗北した悪魔軍は〝外れた世界〟という幽閉世界に閉じ込められ、永劫の平和が訪れた。
 しかし、『魔神王』はそれきり行方が分からなくなった。
 故にその痕跡さえも消されて、『魔神王』を知る者は『始祖神』と同族である最古の悪魔達を除いて、もういない。



     ◆



 コツ、コツ、と。靴音が響く。

「こんばんは、我が父上……いや、母上でしたかな。何をしておいでで?」

 低く、美しく透き通った男の声が空間をこだまする。
 その声を聞いて、『父上』『母上』と呼ばれた白い、傾国の美女の姿をした神が見ていた映像から振り向く。
 振り向いた先には、一匹の悪魔がいた。
 白のメッシュが入った、宵闇を溶かしたかのような艶やかな黒く長い髪、雪白の肌、瞼の淵の長い睫が下りた目元と透き通った鼻梁、薄く色づいた形のいい唇。その顔の造りは彫刻のように整っていて、黒い眼球の中で輝く赤い瞳は、宝石のように綺麗だった。
 髪と似た色合いの、ところどころ金色こんじきの刺繍が施された、どこかの貴族服の下には人体の黄金律ともいえる完璧な肉体美が隠されている。
 だが、まるで飾りのような形をした赤黒い角と、陽炎のように揺れる、長くゆったりと伸びた尻尾と三対六つの黒い翼を生やしていた。
 白い女がその悪魔を見て、真名を口にする。

「……サハクィエル」

 サハクィエルと呼ばれたその悪魔は、淡々とした足取りで白い女に近づく。しかし、白い女のその表情はやや呆れていた。
 ――本来、『悪魔』のような悪しき存在はこの『始祖神』が暮らす世界『神天地』に足を踏み入れることは出来ない。不可能だ。入った瞬間、あっという間に浄化されて消えてしまうために、誰も好き好んで入ろうとしない。
 白い女――『始祖神』の目の前にいる、サハクィエルを除いて。むしろここから出さないようにしている。

「その取り繕ったような喋りは辞めて貰いたい。それは其方そなたの性分ではないでしょうに」
「いえ、尊敬する貴方に対してそのような不躾ぶしつけなことは出来ませんよ。それに、ね」
「……そうか」

 それは悪魔の本能なのか、本心からなのか。少なくともその言葉に嘘はなかった。
 チラッとサハクィエルが目の前に投影された映像を見ていて、始祖神は先ほどの問いに対して答えた。

「ああ、こちらにこの女の子の面倒を見て欲しいと言われたのだよ。なんでも魔族から全てを奪われ、自国から永久追放にされたらしくてな」

 そう言った始祖神の顔と映像の内容を見て、サハクィエルは嘲笑った。

「く、はは! やはり人間はとても脆く愚かで、あっさり欲に溺れ騙されやすい種族ですな。よくそんなモノに構ってられる……」
「口を慎め。全く、其方は相変わらず暴言を吐きおる」

 サハクィエルの表情は未だ笑みを浮かべたままだった。
 彼の人間に対する差別的な言葉を言うその姿を咎めながら始祖神は言葉を紡ごうとしたが、それは次の言葉で遮られた。

「まぁ、しかし……
 良い。実に、良いよなぁ」

 小さく呟いたその声に――黒い邪気を感じて――始祖神は反応した。

「其方、今……」
「で、その子の処遇は決まっておいでで?」
「! いや、まだ決めかねてはいるが……其方」

 何かしでかすのではないか。
 その思いとは裏腹に、サハクィエルは屈託のない笑みを浮かべて言った。

「いいえ、別に。何も考えてはおりませんよ?」

 始祖神はその笑顔を見て……一旦考え込むように黙り、念を押すように言う。

「軟禁は解けておらん。『魔神王』である其方がここから出ることは出来んからな?」
「……ふふ」

 分かっているのか、いないのか。神話の怪物、その象徴――『魔神王』を冠する悪魔の神、サハクィエルはただ笑って、この場から離れて元の軟禁部屋に戻っていった。
 その後ろ姿を見た始祖神は、とても嫌な予感がした。

「……念には念を、か」

 呟いて、もしものことが起きた場合を考えて作業を始めた。



 そしてしばらくして、始祖神の予感は的中することとなった。

「なんとも……いやはや、これは……」

 と、脱力する羽目になると同時に。
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