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01,邂逅
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「フリーダム‼︎」
魔物が蔓延る森の中で、脱走したサハクィエルはそんな歓喜の声を上げた。
この世界、セフィラスアース。その中で一番大きな大陸、オルフェルトの森林地帯に出てきたのだ。
久方ぶりに見る緑。久方ぶりに吸う空気。
それは彼にとって至上の至福だ。
戦争時と比べて短い期間。あの『神天地』に閉じ込められた軟禁生活を送っていて、あまりにも退屈過ぎていた。そろそろ脱走しようかと考えてもいた。
正直、父でもあり母でもある『親』と思っている始祖から離れるのはどうかと密かに悩んではいたが、外から出たい思いの方が優っていたのでそんなに深く悩むことはなかった。
脱出する際に、そんな大したこともなく――防衛措置として、首がモギモギされて分断された程度で――すんなり出れたのでなんともなかったりする。
「さぁーて、どこから行けば良いか……」
型の良い顎に手を添えて考え込む。
ただ勘違いしていけないのが、この森そのものが魔物という生き物が有象無象に動く魔性の地帯だということ。
その証拠に――サハクィエルは今その魔物の巣、通称『ジュライアの領地』と呼ばれる石造の建造物のど真ん中に現れて囲まれている状態だ。
「とりあえず、空から見るか」
魔物たちの存在を無視するようにそう呟いて、背に生やしているその翼全てをゆっくり広げる。光に反射して、翼は黒く光った。
しかし、魔物たちがそれを呑気に見逃すはずもなく、羽ばたかせないために一斉に襲いかかった。
「ココカラ逃スカ‼︎」
人語を話せる一匹の魔物が叫ぶ。
太陽を一瞬でも覆い隠すほどの魔物たちが迫る中、サハクィエルは翼を広げたまま、凄まじい勢いで回転した。
――ズドドドドドドドド‼︎
そんな音を出しながら、翼から離れた“羽根”の一つ一つが槍のように鋭く飛び、全ての魔物に命中した。
ある程度まで回転して、サハクィエルはふとそれを止める。
もうその頃にはほとんどの魔物は頭を吹き飛ばされたり、ボロ雑巾のようになったりといろいろとグロい光景が広がっていた。
「ふむ、随分下手になってしまったな。肉塊が残りすぎた」
しかしサハクィエルはそれを見て動じず、むしろ『下手』と言ってのけていた。
「さて、気を取り直して……全員土に埋めるか、燃やすか」
「まだ生きているわ悪魔め‼︎」
唐突に上がった声を聞いて、内心うんざりしたまま振り返る。
目の前には、サハクィエルと似たような黒い服と翼を生やし、ヤギのように捻れた角を持っている“魔族”がいた。
肉体の損壊を軽く済ませたらしいが、呼吸を荒げて怒鳴っていた。
「まあ、魔物どもがいきなり襲い掛かれば……大概、正当防衛で攻撃するだろう?」
「度が過ぎるわ阿呆‼︎ そもそも、我らが何者なのか分かってて攻撃したのか⁉︎」
いきなりの問いに、サハクィエルは表情を変えずに答える。
「……畜生ども?」
「我らは魔王軍だ‼︎ そして我はその『四天王』の一人、ジュライアだぞ⁉︎ 貴様らのような人間に寄生しなければ生きていけん半端者などとは違うのだ‼︎」
さりげに『悪魔』がディスられたな。しかもそれは“現代”の悪魔の方だろう。
そんなことを思いつつ、サハクィエルは笑みを浮かべて言う。
「その半端者にボロボロにされた上、預かった軍を全滅させてしまうとは憐れだなぁ♪ 今の私はとても気分が良い。命あるうちに立ち去ることを推奨するぞ?」
上機嫌で、見下しているような眼差しで、軽蔑な発言をした。端正な顔立ちな分、余計にその冷徹さ、軽蔑さが表情に浮き出ている。
ではまた、とサハクィエルは『四天王』のジュライアに背を向けて再度飛ぼうとした。
が、ゴシャッ‼︎ と背中から何かが当たったらしき音がした。
「……」
「……」
少し、静寂が場を支配した。
それを破るように声を上げたのは、サハクィエルの無防備な背中に攻撃を仕掛けたジュライアだった。
「なん、え? なぜ、わがてがこわれる……?」
自分の目に見える状況が理解できているのかいないのか、間抜けたことを言っている。
先程の音はサハクィエルが壊れた音ではなく、手刀で翼があるその形の整った背中を貫こうとしたジュライアの手が壊れた音だった。
その手は原型を留めておらず、手の骨が砕け散って血まみれになって、ぐちゃぐちゃになっていた。そして、サハクィエルの背にはかすり傷どころか衣服も無傷だった。
ジュライアが激痛と目の前の光景に混乱している中、ゆっくりとサハクィエルは振り返った。
「下位の神以下でしかない獣どもが、何調子こいている? 悪いがお前などには興味がない……」
地獄の底から聞こえてきそうな低い声に怯え出したジュライアの襟をサハクィエルは容赦なく掴む。
「だがお前が『喧嘩』をしたいのなら遠慮なく殴ってやろうか」
そう言ったサハクィエルとジュライアの姿が掻き消えた途端。
――ズドンッッッ‼︎
隕石が落ちたような凄まじい音と共に、魔族を地面に向けて思いっきり殴り付けていた。おまけにその衝撃によって、『ジュライアの領地』はひび割れあっという間に崩れていった。
ぽきゅっ、と。
奇怪な音……か声かが聞こえたが、それなんなのか確認する事はない。むしろ、出来ないだろう。
何故ならジュライアだったそれは、ただの粉になってしまい、風に乗って飛んでいってしまったのだから。
「久方ぶりに殴ったわ。この星が壊れないよう調節するのは面倒だったが……うまく壊れずに済んで何よりだ」
殴った当人のサハクィエルは、そう呑気なことを言いつつ、手の関節や首をコキコキ鳴らす。
辺り一帯ぐるりと瓦礫の山。しかも先程の衝撃で、周りに散らばっていたはずの魔物の死体が、全て指先サイズの肉の欠片になっていた。
「とりあえずここから出ようか。全く、余計なことをやらされたな……」
せっかく気分が高揚していたのに、もう飛ぶのも面倒だ……とぶつくさ言いながら、軽い砂を退かすように腕を振るって瓦礫を吹き飛ばす。
砂埃が舞う中、道が開かれて前へ進んで行った。
サハクィエルが、『ジュライアの領地』に現れてから崩落させるまでの、一部始終を見ていた者たちの気配を感じながら。
◇ ◇ ◇
「さて、どこから仕掛けてくるのかね」
そんなことを言いながら、サハクィエルは森の中を歩いていた。
あの領地から離れて数十分ほど経っているが、未だ『向こう』から攻撃はない。無闇に攻撃しない分、『向こう』も馬鹿ではないのだろう。ある特定と場所まで来れば、何かしらのアクションを起こすつもりらしい。
「まあ、それまで散歩を楽しむとするか」
襲いかかる魔物を一体一体、一撃で狩りながら呑気に言った。
しばらく歩くと、いきなり鋭いナイフがその目に向けて飛んできた……難なく二本の指で受け止めたが。
その直後、今度は金色に輝く刃が飛んできた。
(面倒くさそうな奴が出てきたなぁ)
かなり適当に思いつつ、サハクィエルは平然と利き手である左手で受け止めた。
その反動で剣を握力で砕き破片を捨てて、ニコッと笑って言った。
「悪い事は言わんからさっさと失せてくれんか?」
「そ、そんな⁉︎ 我が『金色宝剣』がぁあああああ‼︎」
「聞けよ」
現れたのは二人の人間だった。
目を見開いて口をパクパクさせているのは黒い短髪の大柄な男で、『金色宝剣』とか言う剣を砕かれた事で、悲痛な声を上げているのは金髪碧眼の男。ちなみにその男は、サハクィエルの足元でうずくまって砕けた剣を持ってガタガタ震えている。
と思ったら、いきなり起き上がって男は叫んだ。
「そもそも何なんだ貴様‼︎ 魔王直属の部下を一撃で倒すなんて何者だっ‼︎ せっかくこの私が討伐してやろうと思って受けたのに……」
くだらない戯言を無視して、サハクィエルはそれに答える。
「マオウだかモコウだか知らんが、アレはただ『クソ雑魚』だろう? あと通りすがりの悪魔だ人間」
「く、くそざこぉ⁉︎ って“通りすがりの悪魔”って何だ⁉︎ 言い訳はそれくらいにしろ‼︎」
「もう止めろアシュフォルト‼︎ 刺激させるようなこと言うな‼︎」
すると、絶句していた大柄な男が声を上げて、アシュフォルトと呼ばれた金髪碧眼の男を羽交い締めにしてこれ以上の発言を止めた。
……実のところ、サハクィエルは密かに苛立っていたので、命拾いしていたことを彼は知らない。
「はぁ……おーいセリアル、アイラ、来い。どうせバレてんだから」
大柄の男がそう背後に声をかけると、木々の間から大人の色気が醸し出した女と、銀の長髪と白い瞳を持った少女が出て来た。
女が男に確認するように言う。
「ねえゲルマ……ホントにこの悪魔が『四天王』倒したの……?」
「驚くのも無理はねぇが確かだぜ、セリアル。城も倒壊していたし、あの禍々しい気配も何もなくなってた」
ゲルマという男がそう言うと、セリアルの顔が真っ青になって口元を押さえる。信じられないようなモノを見るような目でサハクィエルを見ていた。
(そんなに青くなる程か⁇)
元々、仲間二人が隠れていた事は知っていたのだが、こうもあからさまな態度になると無知だと言われているようで余計うんざりする。その上、あのような雑魚程度で狼狽えている時点で終わっているも同然だろう。
サハクィエルは、ただポツンと立っていながらそう思う。
そして、
「……」
出てきてからそうだが、少女――アイラが呆けたような表情でずっとサハクィエルを直視している。
むしろ見過ぎ。それもうんざりさせている要因の一つだ。
なので仕方なく、サハクィエルは声をかけた。
「何私を見ているんだ、気持ち悪い」
と。
その言葉に反応したのか声をかけたからなのか分からないが、アイラがびっくりしたように肩を震わせて言った。
「え、あ、はい! ゲルマさんこれからどうしますか彼」
「それを私に言うのか⁇」
そう指摘すると混乱していたようで、「あ、すいません!」とだけ言ってせっせとアイラは、ゲルマのところに駆け寄って話していた。
すると、アシュフォルトを羽交い締めから離したゲルマはアイラと何回か会話をすると、サハクィエルの元に来て言った。
「悪いが、『四天王』ジュライアを倒したあんたを野放しにすることは出来ない。大人しく付いてきてもらえないか?」
「……」
どうしようかと、サハクィエルは考える。
ここで全員、あの魔物と同じような目に合わせても良いだろう――と、悪魔の思考が働く。
嬲り殺すのも良し。気付かせずに殺すのも良し。疼いているせいでそう考えるが、『殺す』こと自体が面倒……と、様々な事が浮かんでは消えている。
そう黙っていると、
「はいはーい! 問答無用で連行ですねー!」
アイラがいきなり楽しそうな声を上げて、サハクィエルの手を掴んだ。
「「「「⁉︎」」」」
唐突な行動にアイラ以外の全員が驚いた。
それを気にせずに、アイラはサハクィエルの手を引いて連れて行く。
全員が一旦呆れたような表情になったのだが、「ほら! 早く行きましょうよー!」というアイラの声と笑顔で脱力し、後に続いた。
(おいおい……良いのかこれで……)
アイラに引っ張られているサハクィエルだけが、珍しく不安になった。
魔物が蔓延る森の中で、脱走したサハクィエルはそんな歓喜の声を上げた。
この世界、セフィラスアース。その中で一番大きな大陸、オルフェルトの森林地帯に出てきたのだ。
久方ぶりに見る緑。久方ぶりに吸う空気。
それは彼にとって至上の至福だ。
戦争時と比べて短い期間。あの『神天地』に閉じ込められた軟禁生活を送っていて、あまりにも退屈過ぎていた。そろそろ脱走しようかと考えてもいた。
正直、父でもあり母でもある『親』と思っている始祖から離れるのはどうかと密かに悩んではいたが、外から出たい思いの方が優っていたのでそんなに深く悩むことはなかった。
脱出する際に、そんな大したこともなく――防衛措置として、首がモギモギされて分断された程度で――すんなり出れたのでなんともなかったりする。
「さぁーて、どこから行けば良いか……」
型の良い顎に手を添えて考え込む。
ただ勘違いしていけないのが、この森そのものが魔物という生き物が有象無象に動く魔性の地帯だということ。
その証拠に――サハクィエルは今その魔物の巣、通称『ジュライアの領地』と呼ばれる石造の建造物のど真ん中に現れて囲まれている状態だ。
「とりあえず、空から見るか」
魔物たちの存在を無視するようにそう呟いて、背に生やしているその翼全てをゆっくり広げる。光に反射して、翼は黒く光った。
しかし、魔物たちがそれを呑気に見逃すはずもなく、羽ばたかせないために一斉に襲いかかった。
「ココカラ逃スカ‼︎」
人語を話せる一匹の魔物が叫ぶ。
太陽を一瞬でも覆い隠すほどの魔物たちが迫る中、サハクィエルは翼を広げたまま、凄まじい勢いで回転した。
――ズドドドドドドドド‼︎
そんな音を出しながら、翼から離れた“羽根”の一つ一つが槍のように鋭く飛び、全ての魔物に命中した。
ある程度まで回転して、サハクィエルはふとそれを止める。
もうその頃にはほとんどの魔物は頭を吹き飛ばされたり、ボロ雑巾のようになったりといろいろとグロい光景が広がっていた。
「ふむ、随分下手になってしまったな。肉塊が残りすぎた」
しかしサハクィエルはそれを見て動じず、むしろ『下手』と言ってのけていた。
「さて、気を取り直して……全員土に埋めるか、燃やすか」
「まだ生きているわ悪魔め‼︎」
唐突に上がった声を聞いて、内心うんざりしたまま振り返る。
目の前には、サハクィエルと似たような黒い服と翼を生やし、ヤギのように捻れた角を持っている“魔族”がいた。
肉体の損壊を軽く済ませたらしいが、呼吸を荒げて怒鳴っていた。
「まあ、魔物どもがいきなり襲い掛かれば……大概、正当防衛で攻撃するだろう?」
「度が過ぎるわ阿呆‼︎ そもそも、我らが何者なのか分かってて攻撃したのか⁉︎」
いきなりの問いに、サハクィエルは表情を変えずに答える。
「……畜生ども?」
「我らは魔王軍だ‼︎ そして我はその『四天王』の一人、ジュライアだぞ⁉︎ 貴様らのような人間に寄生しなければ生きていけん半端者などとは違うのだ‼︎」
さりげに『悪魔』がディスられたな。しかもそれは“現代”の悪魔の方だろう。
そんなことを思いつつ、サハクィエルは笑みを浮かべて言う。
「その半端者にボロボロにされた上、預かった軍を全滅させてしまうとは憐れだなぁ♪ 今の私はとても気分が良い。命あるうちに立ち去ることを推奨するぞ?」
上機嫌で、見下しているような眼差しで、軽蔑な発言をした。端正な顔立ちな分、余計にその冷徹さ、軽蔑さが表情に浮き出ている。
ではまた、とサハクィエルは『四天王』のジュライアに背を向けて再度飛ぼうとした。
が、ゴシャッ‼︎ と背中から何かが当たったらしき音がした。
「……」
「……」
少し、静寂が場を支配した。
それを破るように声を上げたのは、サハクィエルの無防備な背中に攻撃を仕掛けたジュライアだった。
「なん、え? なぜ、わがてがこわれる……?」
自分の目に見える状況が理解できているのかいないのか、間抜けたことを言っている。
先程の音はサハクィエルが壊れた音ではなく、手刀で翼があるその形の整った背中を貫こうとしたジュライアの手が壊れた音だった。
その手は原型を留めておらず、手の骨が砕け散って血まみれになって、ぐちゃぐちゃになっていた。そして、サハクィエルの背にはかすり傷どころか衣服も無傷だった。
ジュライアが激痛と目の前の光景に混乱している中、ゆっくりとサハクィエルは振り返った。
「下位の神以下でしかない獣どもが、何調子こいている? 悪いがお前などには興味がない……」
地獄の底から聞こえてきそうな低い声に怯え出したジュライアの襟をサハクィエルは容赦なく掴む。
「だがお前が『喧嘩』をしたいのなら遠慮なく殴ってやろうか」
そう言ったサハクィエルとジュライアの姿が掻き消えた途端。
――ズドンッッッ‼︎
隕石が落ちたような凄まじい音と共に、魔族を地面に向けて思いっきり殴り付けていた。おまけにその衝撃によって、『ジュライアの領地』はひび割れあっという間に崩れていった。
ぽきゅっ、と。
奇怪な音……か声かが聞こえたが、それなんなのか確認する事はない。むしろ、出来ないだろう。
何故ならジュライアだったそれは、ただの粉になってしまい、風に乗って飛んでいってしまったのだから。
「久方ぶりに殴ったわ。この星が壊れないよう調節するのは面倒だったが……うまく壊れずに済んで何よりだ」
殴った当人のサハクィエルは、そう呑気なことを言いつつ、手の関節や首をコキコキ鳴らす。
辺り一帯ぐるりと瓦礫の山。しかも先程の衝撃で、周りに散らばっていたはずの魔物の死体が、全て指先サイズの肉の欠片になっていた。
「とりあえずここから出ようか。全く、余計なことをやらされたな……」
せっかく気分が高揚していたのに、もう飛ぶのも面倒だ……とぶつくさ言いながら、軽い砂を退かすように腕を振るって瓦礫を吹き飛ばす。
砂埃が舞う中、道が開かれて前へ進んで行った。
サハクィエルが、『ジュライアの領地』に現れてから崩落させるまでの、一部始終を見ていた者たちの気配を感じながら。
◇ ◇ ◇
「さて、どこから仕掛けてくるのかね」
そんなことを言いながら、サハクィエルは森の中を歩いていた。
あの領地から離れて数十分ほど経っているが、未だ『向こう』から攻撃はない。無闇に攻撃しない分、『向こう』も馬鹿ではないのだろう。ある特定と場所まで来れば、何かしらのアクションを起こすつもりらしい。
「まあ、それまで散歩を楽しむとするか」
襲いかかる魔物を一体一体、一撃で狩りながら呑気に言った。
しばらく歩くと、いきなり鋭いナイフがその目に向けて飛んできた……難なく二本の指で受け止めたが。
その直後、今度は金色に輝く刃が飛んできた。
(面倒くさそうな奴が出てきたなぁ)
かなり適当に思いつつ、サハクィエルは平然と利き手である左手で受け止めた。
その反動で剣を握力で砕き破片を捨てて、ニコッと笑って言った。
「悪い事は言わんからさっさと失せてくれんか?」
「そ、そんな⁉︎ 我が『金色宝剣』がぁあああああ‼︎」
「聞けよ」
現れたのは二人の人間だった。
目を見開いて口をパクパクさせているのは黒い短髪の大柄な男で、『金色宝剣』とか言う剣を砕かれた事で、悲痛な声を上げているのは金髪碧眼の男。ちなみにその男は、サハクィエルの足元でうずくまって砕けた剣を持ってガタガタ震えている。
と思ったら、いきなり起き上がって男は叫んだ。
「そもそも何なんだ貴様‼︎ 魔王直属の部下を一撃で倒すなんて何者だっ‼︎ せっかくこの私が討伐してやろうと思って受けたのに……」
くだらない戯言を無視して、サハクィエルはそれに答える。
「マオウだかモコウだか知らんが、アレはただ『クソ雑魚』だろう? あと通りすがりの悪魔だ人間」
「く、くそざこぉ⁉︎ って“通りすがりの悪魔”って何だ⁉︎ 言い訳はそれくらいにしろ‼︎」
「もう止めろアシュフォルト‼︎ 刺激させるようなこと言うな‼︎」
すると、絶句していた大柄な男が声を上げて、アシュフォルトと呼ばれた金髪碧眼の男を羽交い締めにしてこれ以上の発言を止めた。
……実のところ、サハクィエルは密かに苛立っていたので、命拾いしていたことを彼は知らない。
「はぁ……おーいセリアル、アイラ、来い。どうせバレてんだから」
大柄の男がそう背後に声をかけると、木々の間から大人の色気が醸し出した女と、銀の長髪と白い瞳を持った少女が出て来た。
女が男に確認するように言う。
「ねえゲルマ……ホントにこの悪魔が『四天王』倒したの……?」
「驚くのも無理はねぇが確かだぜ、セリアル。城も倒壊していたし、あの禍々しい気配も何もなくなってた」
ゲルマという男がそう言うと、セリアルの顔が真っ青になって口元を押さえる。信じられないようなモノを見るような目でサハクィエルを見ていた。
(そんなに青くなる程か⁇)
元々、仲間二人が隠れていた事は知っていたのだが、こうもあからさまな態度になると無知だと言われているようで余計うんざりする。その上、あのような雑魚程度で狼狽えている時点で終わっているも同然だろう。
サハクィエルは、ただポツンと立っていながらそう思う。
そして、
「……」
出てきてからそうだが、少女――アイラが呆けたような表情でずっとサハクィエルを直視している。
むしろ見過ぎ。それもうんざりさせている要因の一つだ。
なので仕方なく、サハクィエルは声をかけた。
「何私を見ているんだ、気持ち悪い」
と。
その言葉に反応したのか声をかけたからなのか分からないが、アイラがびっくりしたように肩を震わせて言った。
「え、あ、はい! ゲルマさんこれからどうしますか彼」
「それを私に言うのか⁇」
そう指摘すると混乱していたようで、「あ、すいません!」とだけ言ってせっせとアイラは、ゲルマのところに駆け寄って話していた。
すると、アシュフォルトを羽交い締めから離したゲルマはアイラと何回か会話をすると、サハクィエルの元に来て言った。
「悪いが、『四天王』ジュライアを倒したあんたを野放しにすることは出来ない。大人しく付いてきてもらえないか?」
「……」
どうしようかと、サハクィエルは考える。
ここで全員、あの魔物と同じような目に合わせても良いだろう――と、悪魔の思考が働く。
嬲り殺すのも良し。気付かせずに殺すのも良し。疼いているせいでそう考えるが、『殺す』こと自体が面倒……と、様々な事が浮かんでは消えている。
そう黙っていると、
「はいはーい! 問答無用で連行ですねー!」
アイラがいきなり楽しそうな声を上げて、サハクィエルの手を掴んだ。
「「「「⁉︎」」」」
唐突な行動にアイラ以外の全員が驚いた。
それを気にせずに、アイラはサハクィエルの手を引いて連れて行く。
全員が一旦呆れたような表情になったのだが、「ほら! 早く行きましょうよー!」というアイラの声と笑顔で脱力し、後に続いた。
(おいおい……良いのかこれで……)
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