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02,災難
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この世界、セフィラスアースのオルフェルト大陸には様々な国が存在しているが、大国としてあげられるのは五つだ。
クラウディウス帝国。
サルザリアン公国。
ファールデリン王国。
リングル共和国。
そして、かつて魔王〝クロムエル〟が統べていた魔国ベルツヘイム。
統べていた、という表現なのはとうにクロムエルは、二百年前に現れた勇者によって倒されているからだ。
今は別の魔族がベルツヘイムを統一しているらしいが、それ以上の詳細は伝わっていない。
その五大国の一つであるクラウディウス帝国は一番領地が広く、資源が豊富で物流も確立しており、街は常に人間と人畜無害な魔族で溢れ返りとても栄えている。
王立ギルドとして名を馳せている『シュペルオーパーツ』というギルドがあり、立派な宮殿のような作りがとても美しく、堂々としている。いくつかのギルドもあるが、シュペルオーパーツが群を抜いて人気がある。
何人もの、最高ランクである『SX』ランカーを輩出した名門ギルドとしても有名で、日々このギルドに入る若者は増している。
四人の人間(内、一人の半ば暴走した行動)によって連行されて、サハクィエルがたどり着いたのがこの国だった。彼らがギルドに所属している冒険者と言う話も、道中聞いてもいないのに聞かされた。
ちなみに、道中嫌気がさして飛んで逃げたこともあったが、アイラの空間移動魔法や転移魔法によって地面に頭から突き刺さるという事故が起こったりしている。
もちろんサハクィエル自身、人に化ける暇がなければする事自体、面倒くさがる。普通に角と翼と尻尾、その他もろもろが剥き出しの状態でクラウディウス帝国に入国した。
他の魔族と比べてかなり異彩を放っていたらしく、魔族を目にして慣れているはずの住民にかなり痛い目で見られた。
だが当人であるサハクィエルと、この現状を作り出した張本人のアイラはそれに対して別に気にも留めず、ゲルマとセリアルは人の目を気にして俯いていた。
アシュフォルトは元々見栄っ張りなところがあるのか、ドヤ顔を決めながら意外にも堂々としていた。
「こっちです~」
「いい加減離せ。自分で歩ける」
言っても聞く耳持たずで、ぐいっと引っ張られる。
未だ手を離してくれないアイラに、サハクィエルはシュペルオーパーツの入口前まで連れられる。
ちょうど冒険者達が出入りして、面と向かう形となった。
「おい、あの能天気なアイラじゃねぇか! 連れてる男は……悪魔でも召喚したのか?」
「へぇ~。無能な変人だなら、それなりの者を呼ぶんだね~全く。手を繋いでるなんていろいろと可笑しな子」
すれ違った冒険者が、そんな言葉を交えながら去って行く。
聞く限り、アイラの評判は悪いようだ。
チラリとサハクィエルは彼女に顔を向ける。
「おい。言われているぞ?」
「いーんですよー。悪い評判が絶えないだけなので」
少しも笑顔を崩さずにアイラはそう言った。“匂いからしても”、全くと言っていいほど気にしていない。
「入りますねー」と、そのままのペースでドアに手をかけたところでゲルマが止めに入る。
「ちょおいアイラ! お前から入ると色々面倒だから、俺が先に入る」
彼の気遣うような姿勢に、アイラは不満そうに頬を膨らませたが、それは見かけだけであっさり引いた。
ガチャッ。
扉が開いて中に入る。内装も同じような白で、統一性があった。
一瞬、始祖がいた『神天地』を彷彿とさせたが、それと違う事は中の賑わいで再確認した。
彼らと同じ冒険者と思わしき男女達が、掲示板に貼られた依頼書を読んでいたり、奥にあるいくつかのテーブルを囲んで話し合ったりしている。そこらは食堂のような場所でもあるらしい。
「で、俺とアシュフォルトは受付嬢にギルドマスターと会えるように話しておくから、お前らはあそこで待っててくれ」
「は? 何故私がお前なんかと」
「お前のコネをフルに使ってくれや」
「し、失敬な⁉︎」
なんて会話を交えながら、ゲルマはアシュフォルトを引きずるような形で受付に連れて行った。
「じゃあ、私たちは何か軽い食事でも取りましょうか」
「わーいご飯ー! ……って、何か食べます? えーっと」
アイラが問いかけてくる。
……ここまで、本当に問答無用で連れてこられた挙句、人間のように接しられて『ご飯食べる?』なんて聞かれ。
長く生きてきた中で初めての体験をしまくっていたサハクィエルは、こう脱力気味に答えるしかなかった。
「……口に含むモノなら何でもいいわ。それと、〝サハクィエル〟。『サハル』で構わん」
と。そういえば名乗っていなかったなと思い、隠さずに『真名』を口にする。
そもそも自分の痕跡が徹底的に消されている世界だ。名乗ったところで気付く者がいなければ、変わった名前ですね、と流されるだけで済む。
「もういいだろう」と言って、なんとか手を離させてもらったのはもう少し後。
◇ ◇ ◇
仏頂面でサンドウィッチを食べるサハクィエルの姿は、見る者が見れば恐怖したり爆笑することだろう。
だがそれ以上に見入ってしまう光景があった。
「ちょ! アイラ食べ過ぎじゃ」
「これくらい食べないとやってけないんですよ~!」
ばくばく、もぐもぐ、むしゃむしゃむしゃ。
そんな咀嚼音が響いて、アイラは周りの冒険者から注目されていた。
肉類から魚介類、野菜、珍味類などなど……いろんな料理に口をつけて見事完食している。
本来、空腹とかそういった感覚を持たない『悪魔』であるサハクィエルでも、この大食いの現状を見て食欲が失せるような感覚に陥ってしまう。なるべくよそを見て、セリアルと一緒に軽食系の野菜サンドウィッチを一口、二口で食べ切るようにしていた。
ただ、全ての歯が鋭く尖っていてまるで獣のようになっているので、サンドウィッチに残る歯形に怯む人もしばしばいたりする。
すると、ギルドホールに声が響いた。
「おーおー、落ちこぼれのアイラではないか。遂にろくでもない『悪魔』でも捕まえたのか?」
声はアイラとセリアルの背後から聞こえた。二人してギョッとし、振り返る。
細身の体躯をした、サハクィエルのより淡い黒色の服を着た青年がいた。
その青年を見て、アイラは笑顔で言った。
「あ、グレイさん。お久しぶりです~」
「お久しぶりです……」
立ち上がってお辞儀をする二人……サハクィエルは座ったままグレイを見るだけで、アイラは相変わらずだが、セリアルはどこか気まずそうにしている。
そんなセリアルを無視して、グレイと呼ばれたその青年はアイラを軽蔑するような目で見ていた。
「相変わらず、能天気な笑顔を向ける大食い女だなぁ。こんなに食い散らかせているせいでいつまでも『F』なのではないか? だったら田舎の豚小屋に異動すれば良いだろうよ」
「それは単純に、昇進に興味がないから『F』なので大丈夫ですよ~。趣味と仕事、そこらへんの区別はついていますので」
グレイの嫌味に、アイラは笑顔で言う。
“豚小屋”なんていうワードは無視して、得意げに話すアイラにグレイの表情に笑みが加わった。
「はっ、実力のない者がほざく妄言のようにしか聞こえないな。本当につまらん女だ」
「もういいですか? 食べ終わって片付けないといけないので」
アイラがそう言って、ガチャガチャと食器を片そうとする。
しかしその前に、グレイが強引にアイラの腕を掴み引っ張った。
「悪いが、“今回は”そういうわけには行かんぞ? 付いて来てもらうぞ」
「ちょ、痛い‼︎」
反射的にアイラがグレイの手を振り払う。
しかも強めに、バキッとテーブルに叩きつけた。
「貴様ッ……無能の分際で俺に逆らうな!」
強めに払われたことによって激昂したグレイは、そう喚き手を上げ、アイラを叩こうとする。
だが、グレイは目を見開くこととなった。
ほとんど蚊帳の外だったサハクィエルがいつの間にか席から立ち、その手を掴んで止めていたからだ。
「……」
無言でサハクィエルはグレイを見下ろす。
そんな異様な光景に、今までうすら笑いながら傍観していたグレイの仲間たちが、声を上げ始めた。
「なんだテメェ⁉︎」
「おい、部外者が勝手に入ってくるな!」
「その手を離せよ悪魔めが。貴様もただではすまんぞ?」
最後に発言したグレイが、対抗するように睨み上げる。
サハクィエルはそれを一瞥すると、グレイの手を離す。
「くだらん戯言を言いふらしたいのなら勝手にしていろ。私にとってどうでも良いことだが、近くで聞くと流石に鬱陶しい」
「そーよっもご⁉︎」
「お前は少し黙れ」
便乗するように言うアイラに、サハクィエルは鼻もろとも口を手で押さえて何も言えないようにする。
そんな二人の様子を見て、グレイ側の仲間の一人が鼻で笑った。
「仲睦まじそうに……まぁ、アイラのような惨めな人間なら悪魔を連れて来て当然だなぁ。あの『アルミダ家』を追い出された落ちこぼれの、名門貴族の恥さらしなんだからよぉ」
「そうだな……だがそれより、詫びを入れてもらいたいところだ。グレイ様を侮辱した罪は重い。誠心誠意を込めて謝罪すれば許してやらんこともない。でしょう? グレイ様」
その二人の言葉に威勢を取り戻したのか、グレイはサハクィエルを見上げて、余裕の笑みを浮かべて言う。
「ああ、そうだ。泣いて命を乞うように土下座して、あの時俺を馬鹿にした事を訂正して……」
そこで、受付の方から声がした。
「いい加減にしろグレイ‼︎」
ゲルマだ。割って入ってアイラ達を守るように立つ。
遅れてアシュフォルトも追いつきグレイを一度見て、罰が悪そうにサハクィエルに近付く。
それに気づき、耳打ちしてきた。
「おい、相手にしない方がいいぞ。グレイは私よりも上位の貴族から出て来た『SS』ランクの冒険者だ。それに、お前のことを包み隠さず話したら……ギルドマスターからの伝言で『念のため、模擬戦テストをさせろ。相手は『S』ランク以上の冒険者で』と」
「……何故だ?」
サハクィエルは疑問を口にした。
その表情を見て、アシュフォルトが慌てて言い繕う。
「わ、私だって分からんのだ! 模擬戦テストはランク決めだ。それ自体どこのギルドでもやっているのは分かるが、対戦相手を国の英雄クラスの『S』ランク以上に指定するなんて聞いたこともない! ギルドマスターも、何を考えているのやら……後、アイラが苦しそうだぞ……?」
「……」
そういうことを聞きたいのではないのだが。サハクィエルは言葉で出すのが面倒になって目でそう訴えるも……剣を折られた時のことを思い出してしまったのか、ビクビクするだけでアシュフォルトは何も答えない。
短めにため息をついて、ジタバタ暴れるアイラを放したあたりで、グレイがサハクィエルを見てニヤリと笑った。
「アシュフォルトとの話が少し聞こえたぞ? 貴様、このギルドに入るのか?」
「らしいな」
「ならば、対戦相手としてこの俺と戦え。ちょうど『SS』ランクだ。ギルマスからの指定ならこれで良いだろ?」
どこからと言うか、ほとんどのことを聞いていたグレイはそう得意げに言う。
アシュフォルトはそれに反対する。
「おいグレイ! それは……」
「別に構わんだろうが、後で報告すればいいだけだ」
「いやそう言うことでは……」
流石のアシュフォルトでも、グレイに強く出れないのかここで口籠ってしまう。
そこで、ゲルマが強く出る。
「ギルマスが直々に指名してくるそうだ。だからコイツの対戦相手はお前じゃねぇぞ、グレイ」
「……チッ、平民風情が」
その言葉でグレイは不機嫌そうに呟く。
そしてサハクィエルとアイラを見て、言った。
「今回は許してやる。だが、次に無礼なことをすれば容赦はしないぞ」
そうして、仲間を引き連れて帰っていってしまった。
完全に帰ったことを確認して、サハクィエルとアイラ以外の全員がほっと一息ついていた。
「ごめんなさい。何もできなくて……」
「いいよ、気にしないで」
「構わねぇよ。相手がグレイじゃ誰だってそうなる」
「全くだ……流石の私でも、あの傍若無人っぷりは無理だ」
謝るセリアルに、ゲルマ達がそれぞれの言葉で慰める。
そんな光景を見ていたサハクィエルはポツリと言った。
「いい加減、教えてくれないか? あの“弱者”とアイラ、一体どんな関係だ?」
その言葉に、この場にいた全員が凍り付いたのは言うまでもなかった。
クラウディウス帝国。
サルザリアン公国。
ファールデリン王国。
リングル共和国。
そして、かつて魔王〝クロムエル〟が統べていた魔国ベルツヘイム。
統べていた、という表現なのはとうにクロムエルは、二百年前に現れた勇者によって倒されているからだ。
今は別の魔族がベルツヘイムを統一しているらしいが、それ以上の詳細は伝わっていない。
その五大国の一つであるクラウディウス帝国は一番領地が広く、資源が豊富で物流も確立しており、街は常に人間と人畜無害な魔族で溢れ返りとても栄えている。
王立ギルドとして名を馳せている『シュペルオーパーツ』というギルドがあり、立派な宮殿のような作りがとても美しく、堂々としている。いくつかのギルドもあるが、シュペルオーパーツが群を抜いて人気がある。
何人もの、最高ランクである『SX』ランカーを輩出した名門ギルドとしても有名で、日々このギルドに入る若者は増している。
四人の人間(内、一人の半ば暴走した行動)によって連行されて、サハクィエルがたどり着いたのがこの国だった。彼らがギルドに所属している冒険者と言う話も、道中聞いてもいないのに聞かされた。
ちなみに、道中嫌気がさして飛んで逃げたこともあったが、アイラの空間移動魔法や転移魔法によって地面に頭から突き刺さるという事故が起こったりしている。
もちろんサハクィエル自身、人に化ける暇がなければする事自体、面倒くさがる。普通に角と翼と尻尾、その他もろもろが剥き出しの状態でクラウディウス帝国に入国した。
他の魔族と比べてかなり異彩を放っていたらしく、魔族を目にして慣れているはずの住民にかなり痛い目で見られた。
だが当人であるサハクィエルと、この現状を作り出した張本人のアイラはそれに対して別に気にも留めず、ゲルマとセリアルは人の目を気にして俯いていた。
アシュフォルトは元々見栄っ張りなところがあるのか、ドヤ顔を決めながら意外にも堂々としていた。
「こっちです~」
「いい加減離せ。自分で歩ける」
言っても聞く耳持たずで、ぐいっと引っ張られる。
未だ手を離してくれないアイラに、サハクィエルはシュペルオーパーツの入口前まで連れられる。
ちょうど冒険者達が出入りして、面と向かう形となった。
「おい、あの能天気なアイラじゃねぇか! 連れてる男は……悪魔でも召喚したのか?」
「へぇ~。無能な変人だなら、それなりの者を呼ぶんだね~全く。手を繋いでるなんていろいろと可笑しな子」
すれ違った冒険者が、そんな言葉を交えながら去って行く。
聞く限り、アイラの評判は悪いようだ。
チラリとサハクィエルは彼女に顔を向ける。
「おい。言われているぞ?」
「いーんですよー。悪い評判が絶えないだけなので」
少しも笑顔を崩さずにアイラはそう言った。“匂いからしても”、全くと言っていいほど気にしていない。
「入りますねー」と、そのままのペースでドアに手をかけたところでゲルマが止めに入る。
「ちょおいアイラ! お前から入ると色々面倒だから、俺が先に入る」
彼の気遣うような姿勢に、アイラは不満そうに頬を膨らませたが、それは見かけだけであっさり引いた。
ガチャッ。
扉が開いて中に入る。内装も同じような白で、統一性があった。
一瞬、始祖がいた『神天地』を彷彿とさせたが、それと違う事は中の賑わいで再確認した。
彼らと同じ冒険者と思わしき男女達が、掲示板に貼られた依頼書を読んでいたり、奥にあるいくつかのテーブルを囲んで話し合ったりしている。そこらは食堂のような場所でもあるらしい。
「で、俺とアシュフォルトは受付嬢にギルドマスターと会えるように話しておくから、お前らはあそこで待っててくれ」
「は? 何故私がお前なんかと」
「お前のコネをフルに使ってくれや」
「し、失敬な⁉︎」
なんて会話を交えながら、ゲルマはアシュフォルトを引きずるような形で受付に連れて行った。
「じゃあ、私たちは何か軽い食事でも取りましょうか」
「わーいご飯ー! ……って、何か食べます? えーっと」
アイラが問いかけてくる。
……ここまで、本当に問答無用で連れてこられた挙句、人間のように接しられて『ご飯食べる?』なんて聞かれ。
長く生きてきた中で初めての体験をしまくっていたサハクィエルは、こう脱力気味に答えるしかなかった。
「……口に含むモノなら何でもいいわ。それと、〝サハクィエル〟。『サハル』で構わん」
と。そういえば名乗っていなかったなと思い、隠さずに『真名』を口にする。
そもそも自分の痕跡が徹底的に消されている世界だ。名乗ったところで気付く者がいなければ、変わった名前ですね、と流されるだけで済む。
「もういいだろう」と言って、なんとか手を離させてもらったのはもう少し後。
◇ ◇ ◇
仏頂面でサンドウィッチを食べるサハクィエルの姿は、見る者が見れば恐怖したり爆笑することだろう。
だがそれ以上に見入ってしまう光景があった。
「ちょ! アイラ食べ過ぎじゃ」
「これくらい食べないとやってけないんですよ~!」
ばくばく、もぐもぐ、むしゃむしゃむしゃ。
そんな咀嚼音が響いて、アイラは周りの冒険者から注目されていた。
肉類から魚介類、野菜、珍味類などなど……いろんな料理に口をつけて見事完食している。
本来、空腹とかそういった感覚を持たない『悪魔』であるサハクィエルでも、この大食いの現状を見て食欲が失せるような感覚に陥ってしまう。なるべくよそを見て、セリアルと一緒に軽食系の野菜サンドウィッチを一口、二口で食べ切るようにしていた。
ただ、全ての歯が鋭く尖っていてまるで獣のようになっているので、サンドウィッチに残る歯形に怯む人もしばしばいたりする。
すると、ギルドホールに声が響いた。
「おーおー、落ちこぼれのアイラではないか。遂にろくでもない『悪魔』でも捕まえたのか?」
声はアイラとセリアルの背後から聞こえた。二人してギョッとし、振り返る。
細身の体躯をした、サハクィエルのより淡い黒色の服を着た青年がいた。
その青年を見て、アイラは笑顔で言った。
「あ、グレイさん。お久しぶりです~」
「お久しぶりです……」
立ち上がってお辞儀をする二人……サハクィエルは座ったままグレイを見るだけで、アイラは相変わらずだが、セリアルはどこか気まずそうにしている。
そんなセリアルを無視して、グレイと呼ばれたその青年はアイラを軽蔑するような目で見ていた。
「相変わらず、能天気な笑顔を向ける大食い女だなぁ。こんなに食い散らかせているせいでいつまでも『F』なのではないか? だったら田舎の豚小屋に異動すれば良いだろうよ」
「それは単純に、昇進に興味がないから『F』なので大丈夫ですよ~。趣味と仕事、そこらへんの区別はついていますので」
グレイの嫌味に、アイラは笑顔で言う。
“豚小屋”なんていうワードは無視して、得意げに話すアイラにグレイの表情に笑みが加わった。
「はっ、実力のない者がほざく妄言のようにしか聞こえないな。本当につまらん女だ」
「もういいですか? 食べ終わって片付けないといけないので」
アイラがそう言って、ガチャガチャと食器を片そうとする。
しかしその前に、グレイが強引にアイラの腕を掴み引っ張った。
「悪いが、“今回は”そういうわけには行かんぞ? 付いて来てもらうぞ」
「ちょ、痛い‼︎」
反射的にアイラがグレイの手を振り払う。
しかも強めに、バキッとテーブルに叩きつけた。
「貴様ッ……無能の分際で俺に逆らうな!」
強めに払われたことによって激昂したグレイは、そう喚き手を上げ、アイラを叩こうとする。
だが、グレイは目を見開くこととなった。
ほとんど蚊帳の外だったサハクィエルがいつの間にか席から立ち、その手を掴んで止めていたからだ。
「……」
無言でサハクィエルはグレイを見下ろす。
そんな異様な光景に、今までうすら笑いながら傍観していたグレイの仲間たちが、声を上げ始めた。
「なんだテメェ⁉︎」
「おい、部外者が勝手に入ってくるな!」
「その手を離せよ悪魔めが。貴様もただではすまんぞ?」
最後に発言したグレイが、対抗するように睨み上げる。
サハクィエルはそれを一瞥すると、グレイの手を離す。
「くだらん戯言を言いふらしたいのなら勝手にしていろ。私にとってどうでも良いことだが、近くで聞くと流石に鬱陶しい」
「そーよっもご⁉︎」
「お前は少し黙れ」
便乗するように言うアイラに、サハクィエルは鼻もろとも口を手で押さえて何も言えないようにする。
そんな二人の様子を見て、グレイ側の仲間の一人が鼻で笑った。
「仲睦まじそうに……まぁ、アイラのような惨めな人間なら悪魔を連れて来て当然だなぁ。あの『アルミダ家』を追い出された落ちこぼれの、名門貴族の恥さらしなんだからよぉ」
「そうだな……だがそれより、詫びを入れてもらいたいところだ。グレイ様を侮辱した罪は重い。誠心誠意を込めて謝罪すれば許してやらんこともない。でしょう? グレイ様」
その二人の言葉に威勢を取り戻したのか、グレイはサハクィエルを見上げて、余裕の笑みを浮かべて言う。
「ああ、そうだ。泣いて命を乞うように土下座して、あの時俺を馬鹿にした事を訂正して……」
そこで、受付の方から声がした。
「いい加減にしろグレイ‼︎」
ゲルマだ。割って入ってアイラ達を守るように立つ。
遅れてアシュフォルトも追いつきグレイを一度見て、罰が悪そうにサハクィエルに近付く。
それに気づき、耳打ちしてきた。
「おい、相手にしない方がいいぞ。グレイは私よりも上位の貴族から出て来た『SS』ランクの冒険者だ。それに、お前のことを包み隠さず話したら……ギルドマスターからの伝言で『念のため、模擬戦テストをさせろ。相手は『S』ランク以上の冒険者で』と」
「……何故だ?」
サハクィエルは疑問を口にした。
その表情を見て、アシュフォルトが慌てて言い繕う。
「わ、私だって分からんのだ! 模擬戦テストはランク決めだ。それ自体どこのギルドでもやっているのは分かるが、対戦相手を国の英雄クラスの『S』ランク以上に指定するなんて聞いたこともない! ギルドマスターも、何を考えているのやら……後、アイラが苦しそうだぞ……?」
「……」
そういうことを聞きたいのではないのだが。サハクィエルは言葉で出すのが面倒になって目でそう訴えるも……剣を折られた時のことを思い出してしまったのか、ビクビクするだけでアシュフォルトは何も答えない。
短めにため息をついて、ジタバタ暴れるアイラを放したあたりで、グレイがサハクィエルを見てニヤリと笑った。
「アシュフォルトとの話が少し聞こえたぞ? 貴様、このギルドに入るのか?」
「らしいな」
「ならば、対戦相手としてこの俺と戦え。ちょうど『SS』ランクだ。ギルマスからの指定ならこれで良いだろ?」
どこからと言うか、ほとんどのことを聞いていたグレイはそう得意げに言う。
アシュフォルトはそれに反対する。
「おいグレイ! それは……」
「別に構わんだろうが、後で報告すればいいだけだ」
「いやそう言うことでは……」
流石のアシュフォルトでも、グレイに強く出れないのかここで口籠ってしまう。
そこで、ゲルマが強く出る。
「ギルマスが直々に指名してくるそうだ。だからコイツの対戦相手はお前じゃねぇぞ、グレイ」
「……チッ、平民風情が」
その言葉でグレイは不機嫌そうに呟く。
そしてサハクィエルとアイラを見て、言った。
「今回は許してやる。だが、次に無礼なことをすれば容赦はしないぞ」
そうして、仲間を引き連れて帰っていってしまった。
完全に帰ったことを確認して、サハクィエルとアイラ以外の全員がほっと一息ついていた。
「ごめんなさい。何もできなくて……」
「いいよ、気にしないで」
「構わねぇよ。相手がグレイじゃ誰だってそうなる」
「全くだ……流石の私でも、あの傍若無人っぷりは無理だ」
謝るセリアルに、ゲルマ達がそれぞれの言葉で慰める。
そんな光景を見ていたサハクィエルはポツリと言った。
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私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
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