大厄災である魔神の王は、問答無用で無双しまくる

小幸ユウギリ

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03,開戦

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 しばらくの時間が経った、その間。
 サハクィエルは、『泡沫うたかたの館』という宿に引っ張られるように入り、大広間でこんこんと説明されていた。
 曰く、アイラは元々アルミダ公爵家というグランディウス帝国で唯一『聖女』の一族として讃えられる名門貴族の、アイリス・リューラ・アルミダと言う名を持っていた公爵令嬢だったこと。
 曰く、十五歳になると必ず受けなければならなくなる魔力査定を受けたアイラは、“魔力が一切感知できない”『0』という結果を叩き出してしまい、親兄弟から『魔力を持たない能無し』だの『恥さらし』だのとののしられ、ある程度の資金を持たされて追い出されたこと。
 曰く、シュペルオーパーツに入り冒険者としてほのぼのと過ごしていたものの、どういうわけか追い出された経緯を知っていたサーシェル公爵家の長男であるグレイに目を付けられて、事あるごとに嫌味を言われ場合によっては暴行を加えられそうになりまくっていること。
 曰く、グレイに虐められていた人物ばかりが何の痕跡も残さないまま音信不通になっており――グレイに関わると国から追放されることとなる――という噂が絶えず、下手に手を出してしまったら関係のない人達を巻き込んでしまうこと、などなど……
 そこまでの経緯を聞き、理解したサハクィエルの答えは。

「結局、あそこにいたアレもアイラの血族者も、見た目と機械が導き出した数字に踊らされ、本来の実力を測れぬ真の無能どもと言うことではないか」
「「「お前話聞いてた⁉︎」」」
「ん?」

 まさかの侮辱発言で、当然アイラ以外の三人にツッコまれることとなった。
 肝心の、話の中心であるアイラは照れ臭そうに「いや~それほどでも~」なんて言っている始末で、大広間の雰囲気はめちゃくちゃになっていた。
 周りにいた人々も、やや引いて立ち去ってしまっていて、誰もいなくなっていた。

「聞いてはいるぞ? 何か問題でもあるのかね?」
「大ありだわアホ悪魔‼︎ なんで侮辱してんだよ⁉︎ 俺らは『波風立てないように過ごせ』って言ってんの‼︎ 危なっかしいだろうが‼︎」

 ゲルマのその言葉に、サハクィエルは当然だと言わんばかりに答えた。

「断る」
「は⁉︎」
「マジか貴方」
「イカれているぞ……」
「お~」

 四人でそれぞれの反応を見せる中、サハクィエルはつまらなそうに続ける。

「はぁ……私が“イカれている”と正気ではないように言われているが、そもそも『人間』でない私にとって報復を恐れて手を出すななど、弱者の戯言ざれごとのようにしか聞こえんよ」
「あ……」

 指摘されて、ゲルマ達は口籠った。
 いろいろと展開が凄まじすぎてつい人間としての感性で言ってしまっていたが、サハクィエルは『人間』ではなく『悪魔』。魔族のような人外者だ。
 人間からの報復など彼から見れば可愛いもので、ゲルマ達人間のように恐れたりしない。
 現にグレイの悪行の中には、魔族の悪口は言ったりしているものの、魔族に対してアイラが受けているような悪行は全くしていない。
 流石のグレイでも魔族に手を出すという馬鹿な真似をしていないのがうかがえていた。

(“何の痕跡もなく消える”ところは、気になってはいるがな)

 心中はそんなことを思ったが、すぐに切り替える。

「まぁ、アレが本当に危険極まりないことをやっていれば話は別だが、そうでなければ警戒する必要はない。それより、明日のことを考えるべきだろう」

 自分にしてはとてもマトモすぎることを言っていて妙な気分になってはいるが、それも面白い、と密かにサハクィエルは思いながら各面々の様子を見る。
 不満や疑問がありそうな顔だが、一応は納得しているようだ。
 何故か、アイラだけは笑顔を絶やさずにじっとこちらを見ていた。

(結局何なんだろうか。あの娘は……)

 こうして、この日の説明会(?)はお開きになった。







 一方。
 まるで王宮のような造りをしたそのやしきの最奥には、ある男が目の前の――人の形をした異形に佇んでいた。

「信用、していいんだな?」

 異形がそう問うと、男は自信ありげに笑った。

「ああ、明日行われる『模擬戦テスト』の対戦相手を俺にするように差し向けている。その裏でお前は『アイリス・リューラ・アルミダ』を殺せ。そうすれば、お前の望みは叶えられよう」
「ならばいい。だが、邪魔立てはするなよ?」

 殺意が込められた目で異形は男を睨む。

「そんなバカな真似をするわけないだろ? お前が舞台に上がりアレの首を披露してくれれば、俺を見下していたあの魔族を後悔させ、跪かせることもできるからな」

 それを意に介さないように振る舞いながら男――グレイはそう宣言した。
 その目には傲慢と野心しかない。
 今まで彼が魔族に手を出していなかったのは、まだ魔族を上回る力を持っていなかったからだ。例え『SS』ランクの力を持つ冒険者でも、魔族は恐ろしいものがある。
 だが今は違う。
 気に入らなくて虐めていた者たちや魔物たちを言葉巧みに誘導してここに閉じ込め、それらを生贄にして呼び出した目の前の異形がグレイの野望を成し遂げることができるのだ。

(待っていろ。すぐさま俺が全ての頂点に立ってやる。魔王さえも上回って、勇者になってやる。この“力”で!)

 冷めやらぬ野心を胸に、グレイは異形がいる部屋から立ち去った。
 その姿が見えなくなるまで見送った異形は、砕けた口調で浮かれるように言い放った。

「くははは! 楽しみだなぁ~。何億年、何兆年もの間が待ち遠したかったよ。伝説でしか聞いたことのない『魔神王陛下』に会えるなんて!」



     ◇ ◇ ◇



 模擬戦テスト、当日。
 その日の早朝、帝国の中心近くに位置する闘技場は、いつにも増して厳重な警備が敷かれていた。
 この闘技場にて、有名なシュペルオーパーツに入る新人冒険者を決める『模擬戦テスト』が行われるからだ。
 本来なら、『模擬戦テスト』に出る相手はギルド希望の志願者と『A』ランク冒険者のガチバトル。殺すこと以外なら何でもありで、志願者が勝った――つまり対戦相手が負けを認めるか戦闘不能にすることができた場合、そして志願者が負けてもどこかにいる審査員がその実力を認めれば、晴れて冒険者になれる。
 しかし今回の『模擬戦テスト』は異例なことが起こっている。
 新人冒険者と思わしき魔族の男と『SS』のベテラン冒険者とで、テストを行うというのだからあっという間に有名になるのは必然。
 魔族の男にいたっては、このグランディウス帝国に来る前に『四天王』の一人を倒した、という噂までもが広がっており、混乱を防ぐためにギルドは国に申請して警備を今まで以上に強化していた。
 その控え室にて。

「……あの、そのボケた顔どうしたんですん?」

 見にきたアイラがサハクィエルにそう問うた。
 昨晩と比べれば、明らかにサハクィエルは眠たそうな半目になっており、艶やかな黒い長髪には多少の寝癖が付いていた。

「久方ぶりに眠ったら、起床する時がしんどかった」
「低血圧かい! とりあえず、せっかくのテストなんだから気合を入れて! はい! シャキッと!」
「叩くな」

 かなり平凡な答えに、アイラが大きな声でツッコミを入れつつサハクィエルの両頬を思いっきり叩く。
 頭を冴えさせる為かもしれないが、かなり鬱陶しいので途中で辞めさせた。

「それより、私の他に志願者はいないのか?」

 寝惚けた頭が覚醒して、ようやくサハクィエルが周囲に目を向けた。
 この控え室にはサハクィエルとアイラしかおらず、同じような人間や魔族がいなかった。

「本格的に志願者を集める時期は春先なんだよね。今は少しズレてるからほとんどいないの」
「なるほど、だから静かなのか」
「そりゃ貴方『四天王』をぶっ飛ばしてるし、余計な混乱を招く前に警備ガッチガチになったのよ~。凄いでしょ?」
「……」

 何が凄いのか分からないが、とりあえず凄いと言うことにしておこう。
 そんなことを考えたサハクィエルは、それを心の奥底に沈めて忘れた。
 その直後、控え室のドアにノックが入り係の人間が声をかけた。

「試合が始まります。志願者は会場へ」
「ああ」
「頑張ってねー」

 サハクィエルが係に連れられ、会場へ向かっていった。
 それを見送ったアイラがぽっつりと、誰にも聞こえないように呟いた。

「ま、サハルんなら余裕で合格でしょ。終わったらあの翼もふもふしたいな~」

 と。
 その直後。

「“サハルん”だと? ……陛下の侮辱は許さんぞ」
「ほえ?」

 そう声を上げて、アイラが振り向いた先に――白い悪魔がいた。







 会場に出たと同時に、凄まじい気配を感じた。

(なんだ?)

 まだ対戦相手は出てきていない。
 しかし肌を突き刺すのは濁ったような、それでいて神々しさを有した、強烈な気配はダダ漏れだ。
 神に最も近く、最も遠い魔力。
 一般の誰かがここにいれば確実に背筋が凍り、最悪発狂するかもしれないだろう。

「……さーて、相手は一体どんな力を得たのやら」

 初めてこの世界に降り立った時と同じように、サハクィエルは笑みを浮かべた。
 昨日からいろいろ起こりすぎていたが、本格的に『遊べ』そうでようやく本調子になる。
 戦いの舞台の中心に立つと、後からその対戦相手……グレイが出てきた。

「ああ、お前か。この場で相見あいまみえるなど、そんな偶然はない……“こね”とやらでも使ったな」

 その顔を見て、納得するように言う。
 ちょっとの暴言でもプライドの高いこの男にとっては酷く傷ついたらしい。いや違う。それ以前に……甘く匂っている、唆るような野心のせいか。
 サハクィエルのその言葉に、グレイは不敵に笑って言った。

「お前のような無能でも、それだけ見抜く頭脳はあるらしいな。しかし、そんな減らず口が出るのも今のうちだぞ」
「ほう、それは楽しみだ」

 互いに笑みを浮かべている。グレイの魔力が高まり、その衝撃が舞台の床にヒビが入った。
 今回の模擬戦の審判を務める受付嬢――カラは自分の背中に冷や汗が流れるのを感じていた。

(ちょ、なにこの魔力……グレイは彼を殺す気なの……?)

 ひしひしと伝わる魔力から、明確な殺意が溢れている。本当ならあってはならない。いや、これは規定違反だ。
 『殺す』ことそのものが、ルール上禁止されている。殺気を溢れさせることも厳罰対象だ。そのための査定者もいる。
 チラリと、カラは査定者がいるところを見る。が、これと言った反応を見せず、あろうことか『このまま続行』という合図さえも出していた。

(……仕方がない。こうなったら意地でも私が止めよう)

 査定者が使い物にならないと悟ったカラはそう心中で決心をつけ、叫ぶように声を上げた。

「それでは、模擬戦テストを始めます! 始め!」

 刹那。
 ――ガキィィィンッ!
 甲高い金属音が響いた。
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