大厄災である魔神の王は、問答無用で無双しまくる

小幸ユウギリ

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05,合格

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 アイラが、白い悪魔と共に現れるその少し前。

「サーシェルの馬鹿息子が……仲間同然の存在であるギルドメンバーを虐めるに飽き足らず、彼らを使って禁忌魔法を使うなど……とんだ恥知らずの大罪人だ‼︎ 死刑など生ぬるい……‼︎」
「抑えてくださいギルマス。ここで貴方が出てしまえばテストどころではなくなります。ここはどうか」

 怒りに震える、逞しい体つきをした初老の男――ギルドマスター・ハイアスを宥める様に声をかける白い燕尾服を着た秘書も、内心穏やかなはずがなかった。
 彼らがいるのは、この闘技場を見渡せることができる、本来上位貴族が座る貴賓席きひんせき
 その中央に座り模擬戦テストを観戦し、新人冒険者の能力を確認していたのだ。
 もちろん、ただ見るだけではないのは確か。普段から多忙でギルドにいないことが多いハイアスがここにいることがバレれば大ごとになる。
 なので、ハイアスは隠密の魔法を駆使して身を隠して審査しなければならない。怒りに任せて怒鳴り出てしまえば元も子もない。

「そんなことは分かっている‼︎ だが……」
「お気持ちは分かります。私も、彼の行動には理解に苦しみます……ですけれども」

 必死に言葉を紡ぐ秘書を尻目に、試合はいきなり急展開を迎えた。
 サハクィエルが、三本の黒槍でグレイを戦闘不能にしたからだ。

「「⁉︎」」

 一瞬の間だった。
 いつその槍を形成して、狙いを定めて、片翼と尻尾と双剣を砕いたのか……その一部始終がまるで見えなかった。
 ――英雄と呼ばれるギルド最高位ランク『SX』の、ハイアスでさえも。

「ギルマス……今のは」
「ああ、とんだ大物だな……」

 先程までの怒りを忘れて、それを凝視してしまう。
 その直後。
 貴賓席きひんせきの入口から爆発音がした。

「な⁉︎」
「何事だ‼︎」

 二人は咄嗟に入口の方を見る。
 扉が原型を留められないほど派手に破壊された入口から転がってきたのは、白い短髪に、白いローブの様な服を着た、白い尻尾を生やした少年だった。一目でそれが、グレイが呼び出した『悪魔』だと言うことが分かった。
 しかし、どういうわけかその衣服はところどころ焦げており、元々白かったであろう肌は焼けただれていた。

「あぁああああ‼︎ いだいぃいいいい‼︎ 全然強いじゃああああああんんんん‼︎」

 悲鳴を上げて、のたうち回る。
 その光景に二人して固まり、唖然としていた。
 そして後から入ってきた人物に、さらに驚きを隠せなくなった。

「ってあ、ギルマス! こんにちはです!」

 少年とは質感がまるで違う白い髪を持った少女の軽い口調が響いた。
 そう、アイリス・リューラ・アルミダことアイラという、令嬢とは思えないほどの天然で元気がいい娘が入ってきたからだ。しかも少年とは対照的に、無傷の状態で。
 しかも逃げようとした少年を、杖で思いっきり殴って気絶ノックアウトさせていた。

「こ、こんにちはですじゃないですよ⁉︎ どうしたんですかあなた⁉︎」

 秘書がアイラの発言に咄嗟にツッコむものの、当のアイラは冷静に状況を報告し始めた。

「えー、私が推薦したサハルん見送った後にいきなり襲われたので、フルボッコにしました! 悪魔だったので、聖魔法を駆使して」
「そんな簡単に退治できるんですか⁉︎」

 秘書が思わず驚きの声を上げた。
 悪魔は人型であればあるほど、高位の存在だという。中には厄災級の力を持つ個体もいる。
 おそらく、この少年の姿をした悪魔はそれ相応の実力者であるはずのだが、そんな悪魔をなんのダメージも負わずに退治できるなんて……最高で『SSS』ランク以上の実力がないと出来ない。『F』ランクなんて、どう考えても当てはまらない。
 二人してあらゆる意味で唖然するのも無理はなかった。
 アイラが舞台の方を一瞥して言った。

「もういっそ、舞台に出たほうがいいと思いますよハイアスさん。たまたま時間が空いたからここへ来たとか、そういうこと言って。でないと、グレイまた余計なことしそうですよ? 私、先に行きますね」

 それだけ言って、アイラは器用に白い悪魔を杖で捕まえてあっという間に舞台へと向かってしまった。
 その後、二人で戦いの舞台に突撃したのは言うまでもない。



     ◆



 模擬戦テストから数日の間、ギルド内では少しばかり暫く混乱に陥っていた。
 シュペルオーパーツの『SS』ランクの貴族冒険者兼、名門家と謳われるサーシェル公爵家の長男、グレイ・サーシェルがいきなり拘束され、王宮に連行されたからだ。
 そのせいでギルド中が騒ぎ立てて、やはり行方不明になった冒険者に関係しているのではないかと話題になっていた。
 だが、表向きはそうなってはいるが、実際は禁忌魔法である『悪魔召喚』を駆使したことで具体的な判決が決まるまで一時投獄されたのが真相。
 巧妙に隠していたとはいえ、よくここまでの悪事を働くことが出来ていたことに驚きを隠せない。
 あの『悪魔』も封印を施されて同じように投獄されることになったらしく、しばらくは安全だった。

「……で、私はいつまでここにいるのやら……」
「そりゃギルマスからの指示だからね~。ここで待つしかないのよ」
「思っていたのだが、急にタメ口になるな」

 そんなことを言い合いつつ、どこかの公爵家か王宮内にいるのではないのかと錯覚するほどの宿の一室で、サハクィエルとアイラは優雅に紅茶でも飲みながら、模擬戦テストの結果を待っていた。
 何故こんなところにいるのかというと、あの模擬戦テストが無事に……というより、たまたま居合わせたギルドマスターがグレイを引きずる様に連れて行ったせいで強引に終了した後、秘書と言う男が代わりに説明したのだ。

『お疲れ様です。結果は後日伝えますので、こちらでお待ちになってください。ここの方には話は通しております。後始末はこちらでやりますのでごゆっくりしてください』

 かなり切羽詰まっていたらしく、半ば投げやりなやり方でそれだけ言うと場所が書かれた小さな紙のような物をサハクィエルとアイラに渡して、せっせとギルドマスターの後を追ってしまった。
 なんとか調子を取り戻したカラに闘技場の出口へ案内されている中で、その紙を見せたら「ここギルド直属の宿屋ですよ‼︎ しかも『SX』専用の‼︎」と酷く驚いていた。
 ということがあって数日間、この部屋で寝泊まりしながら待っていた。

「にしても凄いわ~。こんな部屋久しぶりすぎてなんだか緊張しちゃう」

 なんて言いながらアイラは紅茶を飲み干してベッドの上で横になっている。
 毎日、同じ感想を言っているような気がするのは置いておこう。

「……鬱陶しい」

 呆れるように言うと、サハクィエルは背もたれに体を預ける。紅茶は飲みかけだが、これ以上飲む気になれなかった。毎日飲みすぎて単純に飽きていた。ちなみにくつろぐのに邪魔だったので翼と角は消している。尻尾は残したままだが。
 ただ待たされているだけではない。軟禁状態になっていると言ってもおかしくなく、とても退屈していた。
 この部屋自体に、『簡単に入ることができても出ることはできない』という簡単な魔法が施されている。必需品や食事など生活に必要な物は、定期的にギルドスタッフが届けてくれているのだが、アイラが外に出ようとして扉を開けようとしたがびくともしなかった。
 蹴り破れるほど弱い魔法なので出ようと思えば出れるのだが、出る気にもなれない。はぁ、と。短めにため息をつく。
 その時、ノックが扉から聞こえた。

「大変お待たせしました」

 受付嬢のカラだ。声かけと同時に入ってきた。

「お! 来ました~!」

 アイラがその声に反応して、ベッドから飛び起きた。
 やかましい。本当に聖女の末裔なのか疑いたくなるほどに。

「えーっと、サハクィエル」
「ん? ああ」

 カラに呼ばれて、サハクィエルは遅れて返事をする。
 その顔を見るとなんだか気まずそうにしていた。

「あの、先に断っておきますけど……驚かないでくださいね。これは、ギルドマスター・ハイアスさんや、この国の大臣の方々、そして国王であるナイル・グランディウス陛下の決定ですので……」
勿体もったいぶらずに言え」
「いやちょい。ナイル陛下が関わってるところをツッコんで」

 間髪入れずに言葉に力を入れてそう言うと、カラは意を決したように言って、手に持っていた木箱を開けた。……アイラのツッコミは無視して。

「おめでとうございます! テストは合格です。そしてこれが身分証明書代わりのネームタグカードです」

 真新しいカードを手渡しされた。
 自分の名前とギルド番号、そしてランクが刻まれている。

「おーすご…………いや凄くない⁉︎ え‼︎ マジでか‼︎ うわうわうわうわ‼︎」

 覗き込んで見たアイラが、声を上げてのたうち回るように部屋の中を右往左往し始める。

「ちょ、アイラさん落ち着いて! あなたにも話があるから席に座って!」

 咄嗟にカラが暴れ出したアイラを止めるために急いで飛び込むが、まるで収まる気配がせずに巻き込まれてもみくちゃにされる。一体あの小さな身体にどれだけの力が内包しているのやら。
 一方サハクィエルはこれといった反応を見せずに、カードの刻印を見ていた。

 Name:サハクィエル
 Number:672…

 ここまでは普通なのだが、問題なのは最後のランク。

 Rank:SX

 とあった。
 そう、『SX』。
 確かこのシュペルオーパーツの冒険者として最高ランクは、『SX』。
 このランクの冒険者は、この国の英雄や『勇者』として讃えられるほどの実力者であり、あのハイアスも『SX』。
 それに、模擬戦テストで決められる最高ランクは『A』だったはず。
 ようはつまり、

「新人SXランカー爆誕、ということかな?」

 かなり楽しそうに、サハクィエルはそう言った。
 瞬時に、暴れていたアイラを締め上げて。

「も、もゔむり……首じまっでる、ギブギブギブ」
「あ、ありがとうございます……でも、離してあげて……」



 そうして。

「え、私が……サハクィエルの『相棒パートナー』?」
「そうです。これもギルマスとかナイル陛下がテスト時に悪魔の襲撃を退けた実力を見て、導き出した判断です」
「ようはアイラは、私の“監視役”兼“ストッパー役”ということかね?」
「そういうことみたいです……」
「ふ、不吉な予感しかしない……でもします! 望します! むしろ大歓迎!」
「「え」」

 アイラが進んで『相棒パートナー』を請け負ったことには、サハクィエルもカラも驚きを隠せなかった。
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