極めて幸せになった日本

笹田 真

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新しい日本

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始まりは7年前だった。
西暦2030年。
彼は当時の首相指名選挙で圧倒的支持を集めた。
彼は首相に就任してからの最初の二年間、彼の前任者達が成し遂げられなかった数々の偉業を果たした。

国会議員時代から彼のマニフェストは魅力的なものばかりだった。
もちろん当時の国民は全てを信じて託したわけではなかったが、彼の真摯な選挙活動や彼の言葉と底知れぬ力強さに胸をうたれた。
全て、でなくてもいい
せめて、どれか一つでも実現してくれたら、、
そんな思いが日本全体に広まった頃に行われた選挙だった。
しかし、国民の期待は予想だにしない方向に裏切られた。

公共福祉は充実した。
誰にでも平等に教育を受ける機会を与えた。
貿易摩擦も緩和したし、数多の先進国と利害の一致、互いを尊重した上での絶妙な関係を築き上げた。 

二年で

自らの掲げたマニフェストを忠実に実現し、日本中のあらゆる物事を向上させた。

国民は皆思った。

こんな時代を待っていた
彼こそは真の政治家だ
彼こそは日本を変えてくれる
彼のおかげで日本は世界一幸せな国になった。

国民は口を揃えてこういった。

「あの方にならついていける。彼の政策は日本をどんどんよくしてくれる」

そんな、世論ばかりが出回りつつあった。

彼が首相に就任してから三年目の春
彼はマスメディアの前でこう言った。

「来年の春に、新しく発表したい政策がある」

「実はそれは、僕が国会議員になる前から、ずっと考え続けていた政策である」

時期が来たら発表されるであろうその政策について、興味が最高潮に達したのか挙手もせずに、一人の若い記者の男が唾を飛ばしながら尋ねた。

「 それは、一体全体どんな政策なんでしょうかっ」

首相は苦笑いしながらこう答えた。
「今はまだはっきりとは言えないが、日本をこれまでになく良い国にしてくれるに違いはない」

日本全体が沸いた。もはや新しい政策が楽しみでしかたがなかった。
それはさながら、人生で初めて身籠った第一子が生まれてくるのをいまかいまかと待ち焦がれているような、それくらい待ちきれない思いで来年の春を待った。

彼が首相に就任してから四年目の春。
国民にとって待ちに待った春だった。
革新的な政策の存在を聞かされてからの一年間、国民の間では、様々な議論が交わされた。
各々が自分が思う、新しい政策を語り合い夢を馳せた。

一年前の記者会見で身を乗り出して質問をしたあの若い記者もその例外ではなく。

今日という日も、会見場の入り口の前に2日前から泊まり込み、会場の最前列に張り込んでカメラ位置取りなどを念入りに確認していた。

国民の多くは、自宅のテレビで生中継されている会見場の様子を見たり、外へ出て高層ビルの大型ディスプレイなどで生中継されている映像を眺めていた。
大勢のガードマンとマスコミを引っ張りながら、彼が会見場にやって来た。会場が沸いた。

マスコミが、会見場にところ狭しとカメラを置き始め、ガードマンもそれぞれ会場を見渡せる所定の位置につきはじめた。

数分経ち会場にやっと静寂が訪れた頃、首相がついにその政策の名を口にした。

「本日より日本は全ての刑務所を廃止する。そして、全ての罪状における刑罰を極刑とする。」

ー全罪刑極刑政策ー

それが新しい政策の名だった。
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